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大企業に勤める30代40代は、不都合な真実と向き合うべきだ
経営のプロフェッショナル岡島悦子氏の警鐘(前編)

2018年01月16日

 年間200人ほどの経営者の「経営×人のかかりつけ医」として、経営者のリーダーシップ開発、経営チーム強化、次世代経営者登用・育成等のコンサルティング業務に従事し、支援する岡島悦子氏。アステラス製薬、丸井グループ、セプテーニ・ホールディングス、ランサーズ、リンクアンドモチベーションの社外取締役も務める経営のプロで『40歳が社長になる日』の著者でもある岡島氏に、日本企業が成長を持続するために必要な人材について聴いた。

──ご著書である『40歳が社長になる日』のなかで、サクセッション・プランニング(後継者育成計画)の重要性を強く主張されました。

岡島氏:
 今回の本は、立場の違う、2種類の読者を想定して書きました。
一方は経営者。もう一方は、30代、40代のビジネスリーダーです。

 私は大変僭越ながら経営者のリーダーシップ開発を生業とさせていただいているのですが、そのなかで年間200人ぐらいの経営者のご相談にのっています。経営とは不思議なもので、時代が同じだと経営課題も似通ってきます。

 少し前はやはりリーマンショックがありましたので、そこからの再生が大きなテーマだったのですが、最近その局面を終え、次の非連続の成長をどうリードしていくかという話題で持ちきりです。今までの成功モデルに基づいて次の収益の柱を立てるということは少なくなり、たとえばビジネスモデルや産業構造モデルの変革をお手伝いする機会が増えました。

株式会社プロノバ 代表取締役CEO
岡島 悦子(おかじま えつこ)氏

 なかでもすごく増えているのが、サクセッション・プランニングのお手伝いです。これまでも、階層別研修で役員候補を支援するということはたくさんやってきたのですが、それとはまったく違う枠組み–指名委員会や社長と二人三脚で–「次の社長」をつくるプロジェクトを数万人規模の大企業のなかで実施しています。もちろん、私が取締役をやっている丸井グループ、アステラス製薬でもそうです。

 今はまだ、危機感を持った先進的な経営者だけがこのことに気づき、実践している段階ですが、まだまだ認知が足りません。こういう取り組みがはじまり、成功しはじめていることをひとりでも多くの経営者の方に知っていただきたいとおもっています。

──ビジネスリーダーの方々に伝えたいことはなんでしょうか。

岡島氏:
 ビジネスリーダーと言われるような30代、40代の方々と経営大学院や企業研修などで接する機会も多いのですが、この人たちが完全にリーダーとしての当事者感を失ってしまっています。

 10年、20年と勤めてきて、組織に最適化されすぎているのですよね。優等生すぎます。これまでのように、成功モデルを踏襲していればOKだった時代ならそれでかまいませんが、次の破壊的イノベーションをリードする素地はどんどん失われていっています。

 新卒入社時にはすごく優秀で成長余力も高かったのに、会社に最適化し、部門に最適化し、ついには上司にまで最適化してしまっている。組織に求められる課題解決マシーンとしての効率向上に邁進しているうちに、課題抽出については思考停止するようになり、課題抽出すらできなくなってしまっているのです。しかも、自覚がない。これは極めて危険なことなので、現状に危機感を持つひとが少しでも増えればと思い、『40歳が社長になる日』を書きました。

──なぜいま、10年単位のサクセッション・プランニングが必要なのでしょうか?

岡島氏:
 これまでとまったく違うパラダイムがやってくるからです。2025年〜2027年に社長になる素養のある人がいま社内でどんな評価を受けているかというと、おそらく「変人」です。「あいつは何考えているかわからん」と言われるタイプ。既存の成功モデルに疑問や違和感を持てる人。この人たちが現状の組織に最適化する前に拾い上げ、手遅れになる前に、社長として促成栽培するルートにのせないといけません。時間は不可逆ですので。これが10年を見据えた配置中心の「サクセッション・プランニング」です。

──経験豊富な40代後半〜50代の人ではダメなのでしょうか?

岡島氏:
 難しいですね。なぜかというと、デジタル・テクノロジーのことを肌感覚でわかっていないからです。これはもう、世代の問題なので仕方ありません。私も取締役会で痛感しますが、デジタル・テクノロジーのことを理解していないとできない意思決定がどんどん増えています。ちなみに、ここでいうデジタル・テクノロジーというのは「手段」としてのものです。IT系企業を中心に、テクノロジーそのものが目的となる意思決定はもちろんありますが、それとはまた違うお話しです。

 たとえば製薬会社。創薬開発やM&Aの意思決定をするとき、化合物のこと・臨床のことがわかればそれでOKではありません。テクノロジーでできること、データサイエンスでできることを正しく理解していないと、意思決定にブレが出ます。過大評価か、過小評価をしてしまうことになります。

 こうした場で陳腐化した成功モデルを覆し、時代の潮流に対応した意思決定がなされるためには、デジタル・ネイティブ世代の適格者を一刻も早く鍛え上げて経営の意思決定機関である取締役会に送り込む必要があります。

 聡明な方はもうお分かりかと思いますが、こういった状況を鑑みるといま、大企業にいるデジタル・ネイティブ世代である30代にとって大きなチャンスであるといえます。顧客のため、会社の将来のために、組織内の下克上は起きるはずだし、そうすべきです。なのに、リーダーとなる当事者感が無い。なぜかと言えば、まだ自分たちが意思決定する順番だと思っていない。年功序列が本質的には溶けていない。これは、社内反発覚悟で年功序列を本気で溶かしに行っていない経営者の責任です。

──サクセッション・プランニングを実践している企業では、実際にどんなことが起きているのでしょうか。

岡島氏:
 徹底的な「えこひいき」ですね。とはいっても、収入が突出して高いとか、飛び級で出世しているとか、そういったことではありません。意思決定の経験数と、失敗の数を最大化するためのえこひいきです。いきなり海外転勤させられて現地法人の立ち上げを任されたり、M&Aした会社のPMIを任されたり。厳しい環境で、胆力を鍛えてもらっています。

 本人もまわりもそれが「えこひいき」だとは全然思っていなくて、むしろ「島流し」だと思っていたりします。このやり方は意思決定数の最大化以外にもメリットがあって、嫉妬をされないのです。「法人第一営業部」といった、社内で花形と言われる部署だとこうはいきません。

 また「社長」という役職自体、誰もがなりたいものではなくなり、真の意味で「役割」に過ぎなくなるでしょう。だって考えてみてください。グローバルでやっていくなら年の3分の1は飛行機に乗らないといけないですし、降りて誰と会うかと言えばイーロン・マスクのようなそれこそ大変人なわけです。公人としてコンプライアンスにも相当留意し、プライベートでも自らを律する必要がある。多くの人が、「とても割に合わない」と思うのではないでしょうか。

 お客様への新しい価値創出が大好きで大好きで、突破力があって意思決定が得意。そういう人が「社長」という役割をやる。意思決定後の実行については、ベテランも含め、強みを結集してやり切る。役職はあくまでも「偉さ」ではなく、「役割」です。そこに、これまでのようなヒエラルキーはないという組織になれば、理想的だと思います。

──そういった人材は、どういう基準で選抜されるのでしょうか?

岡島氏:
 10年後に、しかもその時点から10年〜15年に渡り社長をやる、という意味で見ているのは、成長余力、いわゆる「伸びしろ」です。候補者の母集団形成の方法としては、階層別研修などをやった際に見極めることもあれば、社内ビジネスプランコンテストや部署横断のプロジェクトの際に光るものを感じて、というパターンも多いです。採用時に判断することも少なくないですね。

 面白い取り組みをしているのが、私も取締役を務めているセプテーニです。「AI人事」が配置や採用の機能を補完しています。10年分のデータと機械学習のおかげで、最近は配置転換を判断し、配属を決めるというところまで来ていて、この精度が非常に高まっています。私の判断と大差なかったりするので、いよいよ人の目利きまでAIに取って代わられてしまうのかと戦々恐々です(笑)。

 後編では、どのようなプロセスで「抜擢」がなされるのかを聴いていく。

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