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経営のプロ岡島悦子の警笛。「運が悪い」とぼやく暇があるなら打席に立て

 年間200人ほどの経営者の「経営×人のかかりつけ医」として、経営者のリーダーシップ開発、経営チーム強化、次世代経営者登用・育成等のコンサルティング業務に従事し、支援する岡島悦子氏。アステラス製薬、丸井グループ、セプテーニ・ホールディングス、ランサーズ、リンクアンドモチベーションの社外取締役も務める経営のプロで『40歳が社長になる日』の著者でもある岡島氏に、日本企業が成長を持続するために必要な人材について聴く。
前編はこちら

株式会社プロノバ 代表取締役CEO 岡島 悦子(おかじま えつこ) 氏

 前編では日本の企業が抱える後継者育成の問題とその解決策についてうかがった。後編は、大企業において若手が「抜擢」される具体的プロセスに迫る。

──サクセッションプ・ランニングや幹部研修のお手伝いを通して、今の30代、40代のビジネスリーダー候補にどんな課題を感じられますか?

岡島氏:ひとことで言うと、インプット過多だと思います。知識優先で、実践のないまま能力開発をするばかり。野球で言えば、ずっと素振りばかりしているような状態ですね。打席に入ってバットを振ればポテンヒットが打てるかもしれないのに、一流のスイングを見ては「自分の理想のスイングがまだできない」と言って試合に出ようとしない。これは大きな問題です。

 wisdomのようなメディアをご覧になる、コメントする、あるいは経済新聞の記事を読む、ビジネススクールに行く、講演に行く……。すべて素晴らしい自己啓発だと思いますが、問題はバランスなんです。インプットとアウトプットのバランスがおかしいと思っています。

 講演会をさせていただくと大企業勤務の若手の方が来てくださいますが、正解を求めるものや承認欲求を満たしたいがための質問が多い。

 「教えてください」「どうしたらいいでしょう」というものばかりです。つまりはこれも、インプットですね。自分の意見があったうえで、同じ疑問についてこの人はどう考えているだろうといった、アウトプットありきの質問にはなっていない。

 インプット過多になる気持ちはわからなくもないんです。これだけ情報が溢れていますから、自分が知らなかった物事に出会う機会も多くなるわけです。そうすると、自分だけが知らなかったのではないかと不安になるし、取りっぱぐれている情報が他にもあるのではないかと思うのもわかります。しかしそれでも、アウトプットなくして身に着くことなどないと思います。

──具体的には、どんな方法でアウトプットすればいいのでしょうか?

岡島氏:まさにそんな質問を、セミナーでもよくいただきます(笑)。アウトプットする場が与えられない、というお悩みです。このあたりは過去に書かせていただいた『抜擢される人の人脈力』に詳しいですが、自分に#タグを付ける意識で情報発信していくことが大事です。「マーケティング」といったスキル領域ではなく、自分の強みを表す「キャリアのタグ®」です。カテゴリーはひとつですが、タグはいくつも設定できます。たとえば私のインタビューには[大企業][次の社長育成][30代][アウトプット]といったタグが付けられるでしょう。

 タグ付けは、情報発信を続けることで成立していきます。自分の強みを言語化し把握したうえで、社内横断プロジェクトの際に特定の話題について話したり、社内報でインタビューを受けたときに最近の関心事として触れたり、Twitterで日々つぶやいたりですね。

──自分へのタグ付けに成功すると、どんないいことがあるのでしょうか?

岡島氏:自分にタグを付けることによって、色んな人の脳内検索に引っかかるようになります。たとえばAIについての社内横断プロジェクトがはじまるのでメンバーを選抜しないといけないと。その責任者の人に「そういえばAはいつも人工知能の話ばかりしているな」と思われればしめたものですよね。

 これからは部署を越えた、企業を越えた、オープンイノベーションの時代がやってきます。オープンイノベーションは時間との戦いで、時間と戦うためには必要なスキルを身に付けるのではなく、いかにうまく「借り物競走」できるかが重要です。借り物競走のお題に「データサイエンス」と書かれていたとき、社内で、業界内で、何番目に想起されるか。これを意識していくべきだと思います。

──そうして想起されるためには、「顔を売っておく」ということも重要そうです。

岡島氏:名刺交換だけのものは不要ですが、目的を明確にしたうえでのネットワーキングならやるべきだと思います。たとえば私は、スポーツ選手のセカンドキャリアをお手伝いしたり、芸能人の方々といろんなビジネスの新しい枠組みつくったり、学者の方々といろんな研究やったりといった、全然違う領域の人たちと仕事をするようにしています。ご承知の通りイノベーションは離れたものをくっつけた時に起きやすいものなので、そこは意識的にやるようにしていますね。これもまた、タグになります。

 ネットワーキングに大切なのは、ここでもやはり、当事者意識です。ギブ&テイクの「テイク」ばかりの人が多いこと……。講演会のあと名刺交換に来て「メンターになってください」なんて言う人が多いですが、「いや私、あなたのこと知らないし」と(笑)。まず自分は何が強みで、それがどう相手の役に立つのかを話すべきでしょう。タグは、ネットワーキングの場でも有効なツールになるのです。

──「テイク」ばかりを求める姿勢は、会社に対してもありそうです。

岡島氏:自分がやりたいことができないのを、環境のせいにしてしまう人は多いですね。私はよく「ホームでできないことがアウェイでできるわけがない」という言い方をするのですが、転職によって状況が大きく改善することは多くないと思っています。

 10年近く勤めて、経営陣の思惑がわかっていて、決裁ルートを把握していてという状況で結果が出せないのに、なぜ他の場所に行ったらできると思えるのか不思議なくらいです。結果を出す人は、自分が中心になって遠心力を発揮して、会社ごとぶん回します。社会課題を解決するために会社のプラットフォームをつかわせてくれみたいな、そういうワケのわからないことを言い出す人の突破力というのは、見ていて気持ちのいいものがありますね。

──岡島さんのお話は、すべて期待するがゆえのものであるように感じます。

岡島氏:それはその通りです。色々申し上げましたが、大企業の経営者の方にも若手の方にも、いま大きな変革のチャンスがきています。ぜひ双方にがんばっていただきたいですね。こんなに課題もやることも明確なのに、「どうしてすぐやらないのー?」という感じです(笑)。

 30代、40代の人には、とにかくガンガン打席に立って、たくさん失敗して、たくさん意思決定して、力をつけていって欲しいなと思います。

──ありがとうございました。

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本記事「経営のプロフェッショナル岡島悦子氏の警鐘」でインタビューをお受けいただいた株式会社プロノバ代表取締役CEO・岡島悦子氏の著書『40歳が社長になる日』(幻冬舎刊 NewsPicks Book)を抽選で10名様にプレゼントいたします。以下の応募フォームから奮ってご応募ください。なお、当選は発表をもってかえさせていただきます。
【2018年2月28日(水)締切り】

書籍プレゼントの受付は終了いたしました。
たくさんのご応募、ありがとうございました。