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2019年03月28日

”愛してくれる人”に企業は学べ
~さとなお氏に聞く、これから必須の「ファンベース」とは?

 世の中では、モノが売れない、売上が伸びないという声が囁かれる。人口減少や超高齢化によるマーケットの縮小、情報の過密化により、企業と生活者あるいは企業間の関係構築の難しさに直面しているビジネスパーソンも多い。

 コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏は著書『ファンベース』で、このような時代に必要なのは、企業やその製品の価値を熱狂的に支持してくれている「ファン」との関係性を「ベース」とした中長期的な施策だと説く。その意図と取り入れ方について聞いた。

今後ますます難しくなる新規顧客の獲得

──自社製品やサービスが長く売れ続けるためには、まだそれらを使っていない新規顧客の獲得こそ重要だという考えも根強いと思いますが。

 今、日本はいろいろなことが難しい時代です。人口は毎年100万人都市が1つ消滅する勢いで減っていき、高齢化も進み、単身者も増加する。リッチだと言われているシニア世代も「人生100年時代」といわれて急に不安になりお金を使わなくなる。マーケット自体が縮小していくのは明らかです。そんな中、新規顧客を奪い合うのは修羅の道です。情報も多すぎるので、テレビコマーシャルやネット広告などの単発のキャンペーンを世に出しても、一時的に売上は伸びるかもしれませんが、持続はしないでしょう。それでは予算も勿体ない。

コミュニケーション・ディレクター
株式会社ツナグ代表
佐藤 尚之氏

1961年東京生まれ。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・プランナーを経て、現在はコミュニケーション・ディレクターとして活躍。代表作は「スラムダンク1億冊感謝キャンペーン」「星野 仙一優勝感謝新聞広告」「NECショートフィルム『it』」など。1995年より個人サイト「www.さとなお.com」(http://www.satonao.com/)を運営。

──そこで既存の顧客に目を向けるのでしょうか。

 パレートの法則というのをご存じでしょうか? 経済活動において「全体の2割を占める優良顧客が売上の8割を支えている」といわれています。実際の数字は必ずしも20:80になるとは限りませんが、多くの業界で少数の顧客が売上の大半を占めているのは事実です。つまり、優良顧客が大事だということ。その中でも、企業のビジョンに共感し、その価値を認め、商品やサービスを使い続けていることに誇りと喜びを感じる人、それが真のファンです。

 新規顧客の奪い合いに消耗するくらいなら、すでにこちらを見てくれて愛してくれてもいるファンの信頼を強固にすることに意味があるし、売上的にも効果的だというのがファンベースの考え方の起点です。しかもこのファンたちは売上の大部分を支えてくれているだけでなく、自分たちの家族や友人知人に商品をおすすめして、新規の顧客をも連れてきてくれます。

 つまり、ファンを大切にし、ファンとの関係性を揺るぎないものにすることで中長期的に売上や価値を上げていく考え方がファンベースです。単にファンから儲けようという「ファン・ビジネス」「ファン・マーケティング」とは根本的に考え方が違いますし、従来のマス・マーケティングの手法を否定するものでもありません。

 また、ファンを「ベース」にする考え方なので、マスによるキャンペーンとの組み合わせで相乗効果を上げていくこともファンベースの大切な考え方です。

ファンかマスかという二者択一ではない

──ファンベースとマス・マーケティングの両方を使い分けるということでしょうか。

 今は情報が多すぎる時代ですが、情報への接点は二極化しています。過剰なほどのインターネットやSNS利用は、実は東京のような一部の都会に限定された現象で、そういうところでは人々がとてつもない情報量の中で暮らしているから、企業の発信はほとんど伝わりません。もはやファンからの自然な口コミしか伝わらないといっても過言ではありません。

 一方、それ以外の一億人くらいはほとんどネットを活用していなかったりする。従来のようなテレビコマーシャルやそのほかの単発キャンペーンが有効です。

 そういう現状を鑑みると、この両方を組み合わせるのが有効です。

 例えば都会を中心にファンベース施策を進め、地方・地域にはマス広告を中心にして組み合わせる。そうすると限りある予算の中でも実施できます。ファンだけで回していけるような強靭なブランド力がある場合や、逆にマス広告の予算はまったくとれないとか、特定の地域に特化して営業している場合などは、中長期的なファンベースだけでも有効です。そこに完全にシフトすることもあり得るでしょう。

──佐藤さんも以前はマス向けの広告を提案する側でしたが、変調の兆しはいつごろ感じましたか。

 自分で20年以上個人サイトをやってきたこともあって、マス・マーケティングの考え方でトップダウンの広告をつくっている間も、ボクはずっと生活者を見てきました。個人サイトをやっていると生活者の反応とかよく見えてくるので、その辺の変化には敏感だったのです。マスを見ていたのに急にファン向きに方向転換したわけではなくて、生活者の変化を繊細に追ってきた結果、徐々にベースをファンに移行してきたということです。いずれにせよ、こうすれば間違いないという秘策などありません。丁寧に見ていくことが大切です。

好きのツボはファンに聞こう

──ファンベースに則った場合、具体的にどういう施策を行うのでしょうか。

 すでにファンになってくれている方々を決して手放してはいけません。彼らの支持を強くしていくためには、企業の価値にしっかりと「共感」してもらい、ストーリーに「愛着」を持ってもらい、「信頼」を深めることが肝要です。「共感」「愛着」「信頼」という3つのアプローチを考えるとわかりやすいでしょう。ただし、これはひな形ではありません。このアプローチを全部やる必要もありません。

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 とにかくすぐやったほうがいいのは、ファンがその企業や商品のどこを愛しているのかを「傾聴する」ことです。ファンのツボがどこにあるのかを探る作業ですから、ファンミーティングのような場を設定すると有効です。案外、自社のツボはわからないものです。わからないことは相手に聞きましょう。

 でも、それは例えばファンイベントをやってもてなして、高価なお土産をあげたりすることではありません。「傾聴」と「おもてなし」はまったく違います。まして、ファンだからとアイドルのコンサートのようにファングッズを売る感覚で行う販促もふさわしくありません。

──ファンに集まってもらってから、企業側は何をすればいいのでしょうか。

 ファン同士で盛り上がってもらい、「好き」の顕在化をしてもらいます。顧客を知るための調査として、アンケートやグループインタビューはよくある手ですが、生活者はいつもその商品のことを考えているわけではないので、いきなり「魅力を教えて」といわれても、上手に言語化できません。「なんとなく好き」みたいなぼんやりした答えになってしまいます。

 だからこそ、ファン同士で語ってもらって、頭を耕してもらう必要があります。ファン同士が話すと盛り上がります。その盛り上がりの中で少しずつ彼らは「自分がどこが好きだったか」を再認識していきます。それが重要です。

 そのとき、企業サイドがその場をファシリテートするのは避けた方がいいです。企業サイドがファンの言葉をまとめたり、コントロールしようなんて思わず、じっと我慢していい言葉が出るのを待つんです。

 例えば阪神ファン同士で集まったとします。「阪神のどこを愛してますか?」とか、本題を次々聴いていくのではなく、ファン同士による雑談を我慢強く傾聴すべきです。そのうち誰かが「そういえば昔、ああいうことがあったよね」「こういうところが阪神の素晴らしいところだよね」なんて話をしていくことで、ファンが「好きのツボ」を自ら語り出してくれます。それを待つのです。

──意見をもらって商品を改善していくのとも違うのですか。

 改善はファンベースとは遠い観点です。悪いところを直すのではなく、イイトコロを伸ばすのがファンベースです。だってファンたちはすでに好きでいてくれるのですから、彼らが語る「イイトコロ」を聴いていく。

 夫婦の関係に例えるとわかりやすいかもしれません。例えば自分は「妻は仕事ができる自分を誇りに思ってくれているはずだ」とか思っても、妻はそんなところが好きなわけではない。自分を愛してくれているツボを夫は理解してないケースは多いんです。まずは、それを知りましょうということです。自分のどこが好かれていて、リスペクトされているのかがわかれば、そこを伸ばしていこうとなり、そのためにはこうやればいいと見えてくるはずです。ダメなところを直すのではなく、イイトコロを伸ばす。夫婦もビジネスも、人間同士のつながりです。よく相手の感情を見るという根源的な仕事になります。

ボトムアップで実施するファンベース施策

──傾聴すべき相当なファンを見つけることも、企業にとっては一苦労ではないでしょうか?

 単にファンミーティングを開いても、そういうイベントが好きな人とか、お土産ゲッターみたいな人が来ちゃいます。そのため、なんらかのハードルを設ける必要があります。応募のためのアンケート項目のフリー入力欄を大きくとっておいて、そこに長めに熱く書いてくれる人を選ぶとか、会場までの交通費を自腹にしてもらうとか、参加費を支払ってもらうなども有効だと思います。それでも参加したいというのがファンですから。

 共創マーケティングやコ・クリエイションが陥りがちな失敗として、一般的な生活者を集めてしまうことがあります。そうすると全員の意見を取り入れた無難な商品ができあがる。ちゃんとファンを集めないと、その企業の進むべき道まで理解したうえでの意見などいってくれません。ファンはその辺全部理解しているので、とても有効な共創が生まれます。

──ファンベースは中長期で捉えるという話でしたが、どれくらいの時間がかかるものでしょうか。社内の理解を得るにはどうしたらいいでしょう。

 効果を感じるのには3年くらいは見ておいたほうがいいでしょう。その時に出てくるのが、費用対効果の話です。手間が掛かるとか、手離れが悪いとかいってくる人も出てくるでしょう。組織として四半期での成果を求められるのも理解できます。冒頭に申し上げたように、中長期的な売上を安定させることをベースにしながら、新規の顧客を獲得する単発的なキャンペーンも実施するというのは、理解を得やすい施策だと思います。

 ただし、短期的な成果や効率ばかりを重視していくのは、時代的に厳しいと思います。さらにいえば、短期的な成果を求め続けるのは、仕事のやり甲斐につながりにくく、スタッフを疲弊させる原因にもなりがちです。

 ファンベースは経営戦略に関わることですから、ボトムアップによって経営層のマインドを変える必要があります。1月に、ファンベースを基盤としたマーケティング支援事業を、野村ホールディングスとアライドアーキテクツと佐藤尚之との合弁によって立ち上げると発表しました。そこではファンベース専業で、いろいろな施策を提供していくつもりです。

──これからファンベースを取り入れようとする企業やビジネスパーソンに向けて、メッセージをお願いします。

 担当者がファンベースをやりたいと思って、課長、部長と承認を得たけれども役員の決裁が下りないといったことがあるかもしれません。役員クラスの方は、マス・マーケティングが非常に有効だった時代の成功体験を持つ人たちなので、なかなか受け入れてくれません。ロジカルに説得することが必須です。パレートの法則や社会の現状、時代の流れなど、ファンの支持を得ないと売上が安定しないというロジックをしっかり固めて臨む必要があると思います。そして、実施するファンミーティングにもぜひキーパーソンに来てもらいましょう。ファンミーティングでファンに実際に会うと、彼らは優秀ですので、ファンを大切にする意味を瞬時に理解してくれます。

 企業が生活者の課題を解決し、生活者に笑顔になってもらえる商品やサービスを懸命に開発する。そして、それが売れ続けるということは、事業活動を通じた社会貢献です。企業の価値を愛してくれているファンは仲間で、その方達と付き合っていくことは企業にとってこの上なく幸せなことなのです。

ファンベース
―支持され、愛され長く売れ続けるために

2018年2月に出版されたにもかかわらず、現在でもAmazon売れ筋ランキングの上位に入るベストセラー。これからの企業の視点に必須の「ファンベース」の考え方を、豊富なデータや事例を挙げて解説している。インタビューで語られたファンベースの第一歩「傾聴」のその先は、ぜひ本書で学んでいただきたい。

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