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2020年06月23日

ポストコロナ時代に企業が生き残るには?
~『アフターデジタル』著者に聞くDX最強のヒント

 本格的にデジタルトランスフォーメーション(DX)の展開が始まった日本。しかし、書籍『アフターデジタル』の中で主著者の藤井保文氏は、「そもそも日本のDXは立脚点が間違っている」と警鐘を鳴らす。中国を拠点に活躍し、最先端のDXを捉えてきた著者は、日本企業に欠けている「デジタルが完全に浸透した“アフターデジタル”の世界観」の重要性を訴えてきた。本インタビューでは、日本企業が捉えるべきアフターデジタルの世界観、そして続編での緊急提言、ポストコロナの時代に日本企業が陥ってはならない思考の罠など、今こそ必要な日本企業へのメッセージを訊いた。

アフターデジタルで中心となる
真のOMO型ビジネスの定義とは?

 ──著作では、日本と世界のDXには大きな隔たりがあるとされています。どのような違いがあるのでしょうか?

 日本では、「DXの目的とは何か」という問いに対して、十分な思考がされていないケースが多く見受けられます。中国などで起こっているDXを見ると、「如何にユーザーエクスペリエンス(UX)への注力が必要不可欠か」という本質を心底理解していることが分かります。マイクロソフトの言葉で、「業務」「人事」「顧客との関係性」「製品・サービス」の4つをデジタル化すべきとされていますが、先進事例から見るに、「顧客との関係性」並びに「製品・サービス」をまず変えないといけない、ということでしょう。しかし、日本で叫ばれるDXは、業務と人事に留まるケースが圧倒的に多い状況です。確かに効率化や可視化はできますが、顧客との関係性、及び製品・サービスが変わったら、業務も人事も変えざるを得ないはずです。日本では人手不足の解決に対してのデジタル化が言われていますが、それでは本質的なDXへ到達できない危険性があります。

 加えて、社会のパラダイムが変化していることに気づかずにデジタル化を進めていることも問題です。デジタルがリアル世界を包み込みつつあるアフターデジタルの社会が見えてきているのに、いまだにリアルをメインにデジタルを付加価値として捉えている現状に違和感があります。これでは競争力を手にすることはできません。

藤井保文氏
株式会社ビービット 東アジア営業責任者/エクスペリエンスデザイナー
1984年生まれ。東京大学大学院学際情報学府情報学環修士課程修了。金融、教育、ECなどさまざまな企業のデジタルUX改善を支援。「平安保険グループの衝撃―顧客志向NPS経営のベストプラクティス」監修・出版

 ──そこで重要視されているのが、OMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインが融合したと捉える思考法)ですが、これもリアルをメインにする日本ではなかなか本質に踏み込めていない印象でしょうか?

 デジタルがリアルを覆ったときに、企業競争の焦点が「製品販売型」から「体験提供型」へと移行することを理解しているかが重要です。ここのロジックの転換がOMO型ビジネスに欠かません。日本ではどうしてもモノを販売する思考で捉えがちですが、体験全体で価値やジャーニーを提供するのがOMO型ビジネスだと思っています。

 アフターデジタルの時代はあらゆる行動データが利用可能な時代となります。これまでの「属性データベース」の時代から、「行動データ」の時代にとって代わるわけです。コンビニエンスストアを例にすると、今まではレジでどの年代でどこに住んでいる人がどの商品を買ったという「属性データ」が分かる程度でした。これが「行動データ」になると、どの人がある飲み物を手に取ったのをやめて、レジで実際にこの商品を買ったというほど詳細なデータが分かるようになります。となると、サービスの価値は単体の「モノ」ではなく、最適なタイミングで最適なコンテンツをその人に合った最適なコミュニケーションで提供することに移っていきます。OMO型ビジネスでは、モノを売り続けることではなく、顧客の状況を捉えてずっと寄り添っていなければ、企業は生き残れなくなっていきます。

アフターデジタルの世界では、企業の競争力は「製品」から「体験」に変化していく
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日本に求められているのは、
オンラインからオフラインを考える逆の発想

 ──真のOMO型ビジネスを理解するための分かりやすい事例はあるでしょうか?

 例えば中国でアリババが展開しているOMO型スーパーの「フーマー」の例を挙げてみましょう。注文から30分で自宅へ配達する日本のネットスーパーのような形態なのですが、本質はまったく異なります。日本のネットスーパーの考え方は、店舗にEC機能を付けるというものです。しかしフ―マーは全く逆。ECの倉庫にお客さまを入れるという発想から成り立っています。

 店舗では店員が常にスマホを見ながらECの注文を確認して、商品のピッキングを行います。商品を入れたかごは天井のベルトコンベアーに吊るされて店内を回り、屋外で待機する配達員のところへ運ばれます。なぜ、ベルトコンベアーで店内を回すのでしょうか。それは、「リテール」と「エンターテインメント」を融合させた「リテールテインメント」をフ―マーが標榜しているからです。せっかく顧客に来店してもらえるなら楽しませたいというUXに則った考え方です。

 そのほかにもフ―マーでは、生け簀で泳ぐ魚を調理してもらえるフードコートがあります。ECでは鮮度が分からないため、鮮魚などは敬遠されがちですが、来店してフードコートを体験し、同じ生け簀の魚がデリバリーでも届くとなれば、顧客は安心してECでも鮮魚をオーダーするようになるわけです。あくまでもECに立脚したサービス設計です。

 また、店舗では食品の横にQRコードが表示されていて、専用アプリでスキャンするとおすすめの料理レシピと食材が紹介される仕組みもあります。食材の一括購入のボタンを押せば、全部まとめてカートに入り、アプリのキャッシュレス機能で会計し、手ぶらでお店を後にしても、30分後には食材が家に届いている、といった使い方もできるわけです。まさにオンラインとオフラインの融合がUXの観点で実装されているのです。

 日本でもオンライン企業であるメルカリがオフラインでその使い方を教える「メルカリ教室」を展開しています。例えば、モノをたくさん持っているシニア層が実際に教室でメルカリを使ってモノを売るまでの体験をします。シニアの方はコミュニティを持っていますし、ITが使えることにより仲間内でヒーローにもなれるため、どんどん使い方がレクチャーされ広がっていくようになります。十分なリターンも見込めており、まさにメルカリはEC事業のためのリアル戦略を打ち出しているのです。

データは金儲けの道具ではない。
UXや社会への還元視点がなければ淘汰される

 ──新型コロナウイルスの影響で、より一層日本でもオンライン化が叫ばれています。その際に気をつけるべき点とはなんでしょうか?

 OMO型ビジネスへの転換を含め真のDXに対応しようとしている経営者の方は増えていらっしゃると思います。ただ、そこで僭越ながら“残念だ”と感じているのが「データの扱い方」になります。本来、DXで行うデータ活用はUXへの還元が目的になるはずです。ですが、日本では「持っているデータが財産」という勘違いが大きいように思います。データはソリューション化しないと持っている意味はなく、リスクやコストにしかなりません。ソリューションにできたとしても、「販売マッチングの最適化」や「プロモーション効率化」のみにしか使われないケースが多く、「如何にユーザーに価値として還元するか」が考えられていないケースも多くみられます。これでは間違った方向にDXが進みかねない。『アフターデジタル2』の執筆を急いだのもそんな危惧があったからです。

 では、正しくデータをUXに還元するにはどうしたらよいのでしょうか? 私はマインドセットの段階として3つの段階があると考えています。まず第1段階としては、「データ自体では金儲けできない」と理解することです。データの形は各社で異なるため、例えば10社のデータを突合すると膨大なコストがかかります。目的をもってデータを集め、そのデータを解釈し、活用方法を定めてソリューション化して初めてデータに価値が出るため、無目的にデータを突合しようとしても、意味がありません。

 さらに進んで第2段階では、「ユーザーに還元する思想(不義理ではないか)を明確に持てるかどうか」にかかってきます。中国企業の視察などで「日本企業はデータをクロスセルやアップセルにしか使わない」という話をすると、中国企業の担当者は「それって、ユーザーに失礼ですよね」と不思議な顏をしますね。ユーザーからデータをもらっているのに、ユーザーにメリットを返せなければ結局ユーザーは離れていきます。得られたデータを自社のメリットだけに使うのではなく、ユーザーがいつまでもそのサービスや世界観に留まってくれるためにデータを使うことの重要性をすでに中国企業などは身を以て知っています。日本企業はまだ第1~第2段階の企業が多い印象です。

 そして、第3段階は「社会貢献として還元する思想があるか」にまで広がります。例えば東南アジアのタクシーの配車兼ライドシェアから始まった「Grab」はタクシーにとどまらずデリバリーフードなど、人やモノの移動を手掛けます。ここで重要なのは、Garbがユーザーの利便性はもちろん、ドライバー側の社会課題も解消する仕組みを構築したことです。インドのタクシードライバーはこれまで銀行口座が持てず、社会的信用度が低い状況でした。しかし、Grabによってドライバー自身の行動データが蓄積され、収益が可視化されることで、ローンや融資が受けられるようになっているのです。もちろん中国でもこうした社会課題を解決するOMOビジネスは意図して企業が生み出しています。

データをUXに還元するための3つの段階
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「おもてなしの世界観」をテクノロジーで作りこむ

 ──アフターデジタルの世界が進むなかで、日本企業の強みとはなんでしょうか。

 中国などのかつて後進国だった国では、ペインポイントの解消をメリットにデジタル化が急速に進み、定着しました。逆に日本人は「世界観」を創出することが得意だと思います。例えば、世界的に有名になった「おもてなし」もその1つ。他の国の「相手に対応する接客・接待」とは少し異なり、美徳やモラルといった目に見えにくい世界観を相手に提示することに長けています。ペインポイントや利便性からは少し外れていても「こんな生活いいよね」という世界観が提示できる。マイナスをゼロにするというより、ゼロをプラスに変える試みが強みになるのではないでしょうか。

 日本は中国などと比べても、交通や医療、金融などのインフラは整い、大きな社会的ペインポイントが解消された土台の上に多様なサービスが生まれている状態でした。その意味では、欧米でプラットフォーマーへのカウンターカルチャーとして注目されるムーヴメント、D2C(Direct to Customer)の潮流をどのように組み込むかの方が、ブランドや世界観と言う観点では参考になると思っています。一方で、中国はデジタルとリアルの違いの理解とそのつなぎ方に一日の長があるので、どのような体験を紡いでいくのかという意味で中国を参照すると良いのではと考えています。

 ──最後に、日本企業へメッセージをお願いします。

 DXは新たなUXを提供し、得られたデータをUXや社会に還元するために行うことが重要です。社会課題の解決のためにという視点からDXを進めることは、さらに先の未来が見え、よりよいUXへの還元やユーザーへのベネフィットにつながり、結局は最終的に企業の成長につながっていくことになるはずです。

書籍

『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』
著者:藤井保文氏(ビービット)/尾原和啓氏(IT批評家)

2019年3月に発刊され、既に8.5万部を突破した注目の書籍。日本ではなぜ真のDXが進まないのか? これからの時代に必須となるアフターデジタルの世界観、真のOMOビジネスを豊富な海外事例を交えて解説している。

アフターデジタル2 UXと自由』 著者:藤井保文氏(ビービット)

『アフターデジタル』の発刊から1年、その反響の大きさからフィードバックや様々な議論が生まれ、新たに集積された膨大なインプットを再整理した最新作。アフターデジタル時代に持つべき精神(マインドセット)とケイパビリティ(能力と方法論)が提示されている。書籍という形式は更新性がなく、書き終えてから発売までタイムラグがある。そのアフターデジタルというコンセプトとの自己矛盾を解消すべく、本作は執筆中の原稿をリアルタイムで公開する斬新な手法が取られた。執筆中に起こったコロナ禍による企業変革への考察、メッセージもふんだんに盛り込まれている。

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