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「応援」と「挑戦」の循環が未来の社会をつくっていく
~NEC未来創造会議分科会レポート~

 2050年の未来を見据え実現すべき未来像と解決すべき課題、そしてその解決方法を構想するべく2017年に始動したNEC未来創造プロジェクト。2018年には「意志共鳴型社会」というコンセプトを策定し、現在は社会実装に向けてさまざまなステークホルダーと共創プロジェクトを進めている。2020年12月から3ヶ月に渡って行なわれたのは、「共感」をベースにした社会の実現を目指すeumoとの社会実験「GIFT & ACTION」だ。

今回の実験の成果を振り返るべく、9名が参加した座談会が開催された

共感を可視化するための通貨

 「意志共鳴型社会を実現するためには、応援する人が挑戦する人を育むコミュニティが必要だという仮説を立てたんです。それが『GIFT & ACTION』。eumoさんのコミュニティ通貨を活用し、感謝される人より感謝する人を増やすコミュニティをつくる仕掛けを考案しました」

 未来創造プロジェクトの一員として「GIFT & ACTION」を牽引したNECの青木勝は、そう振り返る。eumoによる「共感コミュニティ通貨eumo(ё)」をカスタマイズした「GIFT&ACTION Coin」を使ったこの社会実験は、参加者が発表したさまざまな挑戦(ACTION)に対して、コインと応援のメッセージを贈る(GIFTする)もの。今回は約160名が参加した結果、29の挑戦プロジェクトが生まれ、参加者間で盛んにコインのやりとりが生まれたという。

 eumo(ё)とは通貨を「貯める」ものから「循環する」ものへ変え、「幸せになるための手段」としてお金の再定義を行うための電子マネーであり、これまでeumoが行なってきたプロジェクトでは法定通貨と紐づいていた。実際に通貨として購買活動に使えるだけでなくチップやメッセージ機能を有したeumo(ё)は、人とのつながりや共感を可視化しながら経済活動を促進するものだったが、GIFT&ACTION Coinが特殊なのは法定通貨と紐づいていないことだろう。

 「当初はこれまでと同じように法定通貨とつながっているほうがeumo(ё)の醍醐味に触れてもらえると思っていたのですが、結果的には貨幣としての価値をなくしたことで純粋に人の感情に触れられた気がします。ぼく自身、じつはここまで盛り上がるとは思っていなくて、参加者の方々の熱量には本当に驚かされました」

 eumoのCJO(Chief Jinen Officer)の武井浩三氏はそう語り、貨幣価値を介在させないことで、人が何を感じてどんな意図をこの通貨に込めているのか可視化されやすくなったことを明かす。それは従来の貨幣や通貨とは異なる新たな可能性を提示することでもあっただろう。

参加者は最初に1,000GIFTを付与され、互いにそのコインをやりとりした

手放さなければ新しいものはつかめない

 「参加者のみなさんの活動をよく見てみると、挑戦する方々も積極的にほかの人を応援していることに気づきました。挑戦者も同時に応援者であって、与える人と受け取る人が分かれているのではなく循環が生まれていたんです」

 武井氏がそう言って挙げた「循環」という言葉は、まさにeumoが目指す社会ともつながっている。eumo代表の新井和宏氏が「わたしたちは残高ではなく流通量にフォーカスしていて、人々の気持ちが循環していく社会をつくりたいと思っています。わたしたちの目指す共感資本社会をつくるためにも、ギフトが循環する仕組みのデザインは重要でした」と語るように、GIFT&ACTION Coinは人々が他者を応援する気持ちを活発に循環させる仕組みだったともいえる。

 かように挑戦と応援は人々の間で循環し繰り返されるものだが、「GIFT & ACTION」とあるとおりACTIONに先立ってGIFTというフレーズが置かれていることも重要だ。eumoの岩波直樹氏は、この言葉に込めた思いをつぎのように語った。

 「この20年で社会はどんどん不寛容になっていき、決められたルールやシステムから逸脱することが許されづらくなっています。でもその不寛容を解消しなければつぎの社会は見えてこない。異なるものを許容したり包み込んだりできる社会をつくるためには、応援やギフトの気持ちを人々がもたなければいけないと考えました。ぼくもeumoも自分たちだけで動いてるわけではなく、ほかの方々から共感いただけることでこそ活動を続けられるわけですから」

 硬直した社会を変えるためには、何かを生み出したり手に入れたりすることではなく、むしろ他者に与えることを知らなければならないのだ。「人は何かを手放さなければ別の何かをつかめません。まず自分から手放すことで、自分も応援されるし、自分を表現しやすい社会がつくられていくと思うんです」と岩波氏が語ると、NECの岡本克彦も「インプットだけでなくアウトプットとの循環が重要ですよね。それはeumoさんが注力されている自然経営のようなエコシステムの理念ともつながっているように思います」と指摘する。

参加者のひとりが振り返りの議論をまとめたグラフィック

ラブ・アンド・ワクワク=GIFT & ACTION?

 「アクションを通じて人々の気持ちがつながりエネルギーが大きくなっていく様子は、共鳴そのものでしたね。eumoの名刺には“ラブ・アンド・ワクワク”と書かれているのですが、まさにそんな体験だったと思います」

 そう語るのは、今回の社会実験の事務局を務めたeumoの伊藤彩氏だ。eumoの枩山聡一郎氏も伊藤氏の発言を聞いてうなずき、「出会いの偶発性によって想像を超えるようなワクワク感が生まれて驚きました。NECさんがまずわたしたちに共鳴してくれたからこそ、これだけの動きが生まれたんですよね」と語る。

 未来創造プロジェクトが目指す意志共鳴型社会を実現する一歩として行なわれた今回の社会実験は、eumoとNECの共鳴を起こし両社のメンバーをも変えていったようだ。eumoの三輪氏も実験を振り返ってつぎのように語る。

 「今回参加者のみなさんの動きをわかりやすく可視化したことで、いい循環が生まれたのかなと。この実験を通じて、人に変化を与えるものとしてのGIFTという言葉がすごく好きになりました。ぼく自身のなかにも熱量が生まれていったので、今後もさらに活動を続けていかねばと思います」

 三輪氏が感じたような熱量は、実験全体を覆っていたものでもあった。青木は「完璧に計算しきるのではなくゴールがどこにあるか確信できていないままみなさんと試行錯誤できたことでプロジェクトが成功したし、熱量も生まれた気がします」と語る。新井氏も青木に同調し「やってみないとわからないことだらけでしたね。最初はもっとコインを渡さないと残高がなくなって人々が動かなくなるのではと思ったのですが、実際には残高が少なくなることでさらに応援が加速して熱量が生まれた。自分は応援する機会を奪っていたのかもしれないとハッとさせられました」と語った。

 岡本によれば、今回の実験を通じ、挑戦と応援を重ねていくことで参加者の幸福度も上がっていったという。「すでに挑戦できていた人でさえ、みんなが活動する様子を見て自己肯定感が得られたそうなんです」。岩波氏も「他人に感謝できる人は応援されやすくなるし、挑戦もしやすくなる。他人に感謝できると何かをやってみようと思いやすくなって、幸福度も上がるのだなと。ラブ・アンド・ワクワクってGIFT & ACTIONそのものですよね。その関係を紐解くことが意志共鳴型社会に近づくヒントだと思いました」と語り、GIFTとACTIONがつぎの社会をつくっていく可能性を指摘した。

eumoもNECのメンバーも今回の結果には驚かされたという

誰もがアクションできる社会をめざして

 GIFT & ACTIONとは、一度限りの社会実験で終わるものではないだろう。今回の実験で得た循環の流れをどうやって社会へインストールしていけるか考えることでこそ意味がある。武井氏によれば、eumoは今回の実験を経てさらにeumo(ё)をアップデートする予定だという。

 「eumo(ё)はもともと決済システムがメインの機能でしたが、GIFT & ACTIONのように挑戦を応援する仕組みをデフォルトで組み込んでいきたいと考えています。いわゆるクラウドファンディングのシステムではリターンを設定しないとプロジェクトをつくれませんが、それだとギブアンドテイクになってしまって純粋な応援ができないですよね。今回の取り組みは純粋な贈与を行う仕組みをつくることにもつながるはずです」

 武井氏の発言を受け、未来創造プロジェクトメンバーの西山も「今回オンラインで実験を行えたのは面白かったですが、今後はリアル空間での取り組みも含めた組み合わせを考えていきたいですし、もっと多くの団体とコラボレーションしていきたいです」と語る。青木も「eumoさんとつくったこの仕組みは、どんな場所にも展開できると思いました」と今後の広がりに期待を見せる。

 これからさまざまな場にGIFT & ACTIONが広がっていくことは、確実に社会を変えていくだろう。岩波氏は「現代社会の問題はエネルギーの奪い合いからきています。お金も一種のエネルギーで、みんながそれを巡って争っている。でも意志共鳴型社会を通じてエネルギーの循環を生み出していけば、つぎの社会が見えてくると思うんです」と語る。これは単に「お金」の問題のみならず、エネルギーや資源の問題ともつながっているのだろう。

 「ぼくが忘れられないのは、いろいろな人から『こんな程度のアクションでいいんですか』と不安そうに尋ねられたことです。アクションには大きいも小さいもない。ぼくらはみんなが一歩前に踏み出すことを応援したいし、そのための場を提供していきたい。だから未来の社会では全員がアクションする人であり、アーティストであってほしいんです。それが自分を生きることでもあるのではと。これからも素敵なGIFT & ACTIONが増えていく場を育んでいきたいですね」

 そう新井氏が語ったように、社会の変化は大きな企業や組織だけが起こすものではない。むしろ一人ひとりの小さな一歩が変化の始まりとなり、感情や行動の循環を起こし、それがコミュニティへとつながって社会全体を変えていくのだろう。資本主義社会のつぎに訪れる未来の社会が、GIFT & ACTIONというひとつの社会実験から始まろうとしているのだ。