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2022年02月24日

空飛ぶクルマ業界、欧州勢の猛追と進む用途の多様化

 2022年1月末現在、空飛ぶクルマの学会VFS(Vertical Flight Society)に登録されている様々なeVTOL(電動垂直離着陸機)は、600モデルを突破した。長引くコロナ禍にも関わらず、諸外国の開発競争は衰えを見せていない。

 特に、米国をリードするJoby社のS4と欧州をリードするVertical Aerospace社のVA-X4が激しいトップ争いを展開している。今回は22年1月にサンノゼ市で開催されたeVTOL シンポジウムの話題を交えながら、ここ半年ほどの空飛ぶクルマ業界をまとめてみよう。

一般公開飛行を狙うJoby Aviation社

 22年1月、Joby Aviation社は、FCC(連邦通信委員会)にサンフランシスコ湾岸部での試験飛行にともなう電波利用申請を行った。S4の飛行経路はゴールデンゲート橋、アルカトラズ島、ベイブリッチなどの観光ポイントを望む飛行(2ルート)で、実現すれば広く一般市民の眼に触れる公開飛行となる。

 2024年からロサンゼルス市、マイアミ市、ニューヨーク市、サンフランシスコ市で商業サービスを狙う同社にとって、地元サンフランシスコでの公開飛行は地域住民の理解と支援を得るための重要なイベントとなるだろう。ただ、公開飛行は連邦機関や州政府、地方自治体との調整が始まったばかりのようだ。

サンフランシスコでの公開飛行を狙うJoby Aviationは、SK Telecomと組んで韓国進出も発表した(写真:同社プレスリリース) 

 同社の製造モデル1 Joby S4はカリフォルニア州サンタクルーズ周辺でテスト飛行を繰り返しており、昨年7月に最長飛行距離155miles(250km)、最高速205mph(時速330km)を達成したほか、高度7,000feet(約2.1km)を超える飛行を最近行っている。

 S4は都市内の短い距離を飛ぶeVTOL。こうしたタイプは一般的に地表から900m以下の運用が想定されている。そのためS4が7,000feetを試験飛行していることに注目が集まっている。

 これはFAA(連邦航空局)の機体認証審査において、同高度の飛行を求められていると推測される。FAAが空港での離発着で同高度での待機や侵入を想定しているのか、山岳エリアなどを想定したものか、あるいは米航空法の関係からとりあえず実証をもとめているのか・・・など様々な理由が推定される。

 いずれにせよ、S4が繰り返すテスト飛行は、商業化を見据えた本格的な内容になっていることは間違いない。

1 航空機の開発では、技術開発や機能実証のため複数の試験機体(デモンストレータやプロトタイプなど名称は色々)が製作されて試験飛行を繰り返す。そして最終的に製造ラインに乗せる完成形を製造モデルと呼ぶ。

Archer社、いよいよ遠隔テスト飛行を開始

 eVTOL(電動垂直離着陸機)ベンダーのArcher Aviation社も21年12月16日にデモンストレーション機体Makerの初飛行を成功させた。同公開飛行は、遠隔操作による無人飛行を雨模様のなか実施し、地上約8メートルのホバリンクとなっている。

 パロアルトに本社を置く同社は、21年11月に飛行試験チームが試験飛行施設に移り本格的な試験飛行体制に入った。今回は遠隔操縦(搭乗者なし)で飛ぶため、無操縦者航空機としてFAAからCOA(包括試験飛行許可)をとり、MIDO(検査を担当するFAA地方分署)による機体検査を受けて公開飛行に望んだ。

Archer Aviation社は21年12月、遠隔操縦による初のホバリングテストに成功した。(写真:同社プレスリリース)

 同社が目指す製造モデルは5名乗り(パイロット1名+旅客4名)で、巡航速度150mph(時速240km)、航続距離60miles(約100km)、最大離陸重量7,000lb(約3ton)となっている。試作機Makerは80%スケールモデルだが「翼長、全長などを拡張することで製造モデルへとスムーズに拡張できる」としている。(胴体最大断面サイズはほぼ変わらず)

 今後、Joby S4のようにパイロットによるテスト飛行を実施するためには、FAR Part23(連邦航空規則第23条2 )による機体テストに移る必要がある。

2 パート23は19名以下の乗客を乗せる固定翼航空機の耐空審査基準。

次世代ヘリコプターJaunt Airの動向

 22年1月25日から3日間、カリフォルニア州サンノゼ市でVFS(Vertical Flight Society)主催のTVF(Transformative Vertical Flight)eVTOLシンポジウム会議が開催された。同会議は、空飛ぶクルマに関する最新動向が発表される。今回は次世代ヘリコプターとして注目されるJaunt Air Mobility社や高効率推進システムが注目されるOverair社などが登場し、最近の状況を報告した。

 Jaunt社の開発するeVTOLは異色のシングル・ローター型で、第2.5世代デモンストレーション機Carter PAV Autogyro3 による試験飛行を進めている。PAVは、パイロットを含む4名乗り、ローター直径45feet(13.7 m、翼長も同じ)で、水平推進プロペラは78inch(2 m)のエンジン駆動。飛行時間は1時間以上で速度214mph(時速344km)となっている。

TVF(Transformative Vertical Flight)eVTOLシンポジウム2022で開発状況を発表するeVTOL各社。(写真:筆者撮影)

 同社の目指す製造モデルJourney SRCは、パイロット1名と旅客4名の5名乗りで、巡航速度175mph(時速280km)、航続距離80mile(約130km)、純電動で最大離陸重量は6,000lb(約2.7ton)となっている。

 ヘリコプターの騒音は、高速で動くローター先端から大量に発生する。Jaunt社は低速でローターを回すROSA(Reduced rotor Operating Speed Aircraft™)を使うことで、ノイズは70dB以下(巡航時)に抑えようとしている。

 フル・スケール・モデルの飛行は23年を予定しており、24年には耐空審査(回転翼航空機の認証FAR Part29)に入り、26年から本格生産を狙っている。同社はカナダ航空局の協力をうけ、カナダ市場での展開に意欲を示しているほか、南米への進出計画も発表している。

 また、米空軍がすすめる次世代航空機開発支援プログラムAgility Prime(アジリティー・プライム)の支援を受けており、騒音低減技術ではPenn State UniversityおよびContinuum Dynamics社と提携しているほか、先端プラスチック材料および製造技術ではQarbon Aerospace社やGeorgia Institute of Technology(ジョージア工科大学)との共同研究を行っている。また、高速充電ではBAE Systems社とBinghamton University校(ニューヨーク州立大学)との研究も進めている。

Jaunt Air Mobility社は、Flapper Tecnologia社と提携しラテンアメリカ市場に進出する。上記は同社が開発中のJourney SRC機予想図(写真:同社プレスリリース)

 なお、Jaunt社は、Airo Group社と経営統合し、2022年に新規株式公開(IPO)を狙っている。Airo社は、政府・公安関連のドローン事業(Airo Drone、Agile Defense、Coastal Defense、 Aironet、Sky-Watch、Airgilityなど)と、航空機製造のAspen事業部から構成され独自にIPOを目指していた。

 IPOが成功すれば、Airo社はAAM(Advanced Air Mobility)市場に参入できる一方、Janut社は機体開発および商用化に必要な資金を調達できる。

3 Jaunt Air Mobilityは、テキサス州の航空研究開発会社Carter Aviation Technologiesを買収し、同社が開発していたシングル・ローターeVTOLの技術や知財を取得している。そのため試作機にはCarterの名前が残っている。試作機の第1世代はCarterが開発したMAV55となる。

高効率を特徴とするOverair社のButterfly

 カリフォルニア州Lake Forest市に拠点を置くOverair社は、2020年にKarem Aircraft社から分社したeVTOLベンチャー。

 同社の開発する「Butterfly」は、パイロット1名と旅客5名の6シートで、巡航速度は200mph(時速322km)、航続距離100mile(約160km)、積載重量1,100lb(498kg)。主翼(high wing)と長いV型尾翼に2機ずつ可動型ローター(合計4ローター)を装備している。

Overair社は、航空会社Bristow Group社から最大50機の事前発注を獲得している。写真は同社が開発中のButterfly(写真:同社プレスリリース)

 Butterflyの特徴は、高精度制御の可変ローター(OSTR:optimum speed tiltrotor, 特許取得済)にある。これは大型のティルト・ローターを低速で回転させることで、低い消費電力でホバリングから高速飛行(時速240km~320km)までを可能にする技術。同社は低消費飛行のおかげで1回のフル充電で複数回の飛行が可能だとしている。

 21年8月に発表されたButterflyの新デザインではローター1機が止まっても、安全に着陸できるように後部プロップのサイズが大きくなった。また、巡航時のノイズは33dB以下と説明している。

 現在、フル・スケールの試作機を製造中で、22年中に初飛行を実施する予定。同社は2025年にFAAおよび韓国航空局4 から機体認証を取得したいとしている。

4 Overair社には韓国のHanwha Systems社が2,500万ドルを投資しており、株式約30%を所有している。そのためOverair社は韓国での早期運用を狙っている。

欧州市場をリードするVertical社 VA-X4

 今年のVFS eVTOLシンポジウムでは、欧州における注目eVTOLプレーヤーVertical Aerospace社が登壇し、開発状況を解説した。

 2016年に設立されたVertical Aerospace社の製造モデルVA-X4は2024年にサービス開始を狙っている。同社のTim Williams氏(Chief Engineer)によれば「VA-X4は現在DOA(design organization approval)の審査中で、次のCompliance Demonstration段階を通過すれば、EASA(欧州航空安全機関)および英国航空局の承認を得ることになる」と解説し、24年のサービス開始に自信を示した。

今年のVFS eVTOLシンポジウムでは、欧州における注目eVTOLプレーヤーVertical Aerospace社のTim Williams氏が登壇した(写真:同社プレスリリースおよび筆者撮影)

 EASAの強力な支援のもとVertical VA-X4は、Joby S4とほぼ同時期にサービスを開始することになる。

 VA-X4はパイロット1名と旅客4名の5シート、翼長は約50feet(15m)。巡航速度は150mph(時速240km)、航続距離100mile(161km)、積載重量992lb(450kg)で、チルト型8プロペラの純電動タイプ。フラップとエルロンを備えた高ガル翼で、尾翼はラダー付Vシェープ、テール部分には高い空力特性を考慮したVHFアンテナが装備されている。ベース価格は400万ドル。

 こうしてみるとJoby S4とほぼ同じ仕様とサイズだが、Joby S4は尾翼側も含めプロペラがサークル形状に配置されている。一方、VA-X4は主翼の前後に並行してプロペラを配置するところにS4とのデザイン上の違いがある。

 オペレーションでもJoby社とVertical社は大きく違う。Joby社は製造から運行までを自社でおこなう垂直統合モデル。一方、Vertical社は製造販売だけで、実際の運行は航空会社などがおこなう水平分業モデルを採用している。そのため早期にeVTOL事業に参入したい航空会社や航空機リース会社からの仮発注がVertical社には殺到している。

 また、Vertical社は既存の商業航空機製造に近い分業体制を採用している。Vertical社はバッテリー・システムとローター・デザイン開発を主に手掛ける一方、電動推進ユニットではRolls-Royce社と、飛行制御システムではHoneywell社と、先端複合材料ではVOLVAY社と、翼の製造ではGKN社と共同開発を進めている。

 大量受注5 を抱えるVertical社は24年頃から数年で千機以上の機体製造をする必要があり、共同開発パートナーをスムーズにサプライチェーンへ転換させることが重要だ。もちろん、米Joby社も量産を視野に工場の建設を進めており、サプライチェーンの構築も始まっている。

 なお、Vertical社は21年10月、空港設備管理会社のFerrovial社6 と提携し全英25ヶ所にバーティポート(eVTOL用離発着場)を建設する計画も発表している。同施設は、Virgin Atlantic社7 が整備を検討している国内サービス・ルートを含んでいる。

 Vertical社はすでにロンドンのHeathrow空港へのアクセスで合意しているほか、今回のバーティポート・ネットワークには、Cambridge市とHeathrow空港を結ぶルートが入っている。

5 Vertical社は21年10月現在、Virgin Atlantic航空、American Airlines航空、Avolon社(航空リース大手)、Bristow社(ヘリコプター運用会社)、Iberojet航空、丸紅から合計1,350機の仮購入予約を受けている。同受注総額は約54億ドルに達する。

6 Ferrovial社はスペインを拠点とする空港の建設および空港設備管理を専門としており、世界で33ヶ所の空港管理を行っている。同社はドイツのeVTOLベンチャーLilium社と提携しフロリダ州でのバーティポート建設もおこなう。

7 Virgin Atlantic社はVertical社の4人乗りVA-X4eVTOLを使い、最大約100マイル間隔のルートで英国内サービス網を整備する計画を検討している。

Airflow社、水上eSTOL開発に着手

 eSTOL(電動短距離離発着機)のベンチャーAirflow.aero社は21年12月、地域航空事業者Tailwind Air社と水陸両用のeSTOL「Airflow Model200 floatplane」開発に関して契約を結んだ。同社にとって、これは「水上離着陸機に特化するビジネス・モデルの変更」というよりも、個別プロジェクトへの対応と考えるべきだろう。

 Airflow社は元Airbus Vahana開発チーム5名が、2019年に独立して設立したミドルマイルの電動航空機ビジネスを狙うベンチャー。最近、欧州の機体メーカーPipistrel社と提携したほか、Plug Power社からの投資を受けている。

Airflow.aero社は21年12月、地域航空事業者Tailwind Air社と水陸両用のeSTOL「Airflow Model200 floatplane」開発に関して契約を結んだ(写真:同社プレスリリース)

 eSTOLは100m程度の広場があれば離発着ができる電動航空機のこと。Joby S4のようなeVTOLは30mx30m程度のビル屋上を利用できるが、積載重量や航続距離の制約が厳しい。逆にeSTOLは同等のeVTOLにくらべ積載重量や航続距離が伸ばせる点にメリットがある。

 今回20機を発注したTailwind社は、2014年に設立された米北東部で運行する地域航空会社。地域航空事業でも、環境に優しい電動航空機の必要性が高いと同社は考えている。21年、ボストン港とニューヨーク港を結ぶ定期便を運行するなど、事業を拡大している。同社は、Airflow Model200による米中部・大西洋岸およびニューイングランド地域向け港湾航空旅客輸送を狙っている。

貨物eVTOL分野も競争が活発化

 旅客と並んで重要な用途と考えられているのが貨物eVTOL。この分野も競争が始まっている。

 前述のVFS eVTOLシンポジウムで、米Elroy Air社は第2世代モデル「Chaparral C1」を発表した。貨物eVTOLではパイロットが操縦するタイプ(有操縦者航空機)と遠隔操縦するタイプ(無操縦者航空機)に分かれる。

 後者に属するChaparral C1は、リフト・アンド・クルーズ型ハイブリッドeVTOLで、航続距離300mile(480km)、積載重量は300lbから500lb(135kg~225kg)、8つの垂直リフトファン、前進用4プロペラを装備している。

Elroy Air社のChaparral C1は、リフト・アンド・クルーズ型ハイブリッドeVTOL(写真:筆者撮影)

 第1世代はガソリン・エンジンで発電機を回しながら飛行するハイブリット方式だったが、第2世代では小型で高出力のターボシャフト8 によるハイブリット方式に切り替えている。これにより航続距離や積載重量が向上した。

 Chaparral C1ではタクシーイング(地上での運転)能力が向上した。貨物配送の高度自動化を狙うElroyは機体が着陸した後、コンテナ集荷場まで地上を自動で走行する。その場合、障害物などを認識して回避する必要があり、Chaparral C1では機首に物体認識用のLiDAR(レーザー光を使ったリモートセンシング装置)を装備している。

 そのほか、飛行中コンテナ内の荷物が移動しないように固定ベルトを装備し、コンテナを自動的に着脱するフックアンドリフト機構を高度化させるなど、Chaparral C1では様々な工夫が盛り込まれた。

 また、Elroy社は、ローカル航空事業者Mesa Airlines社から最大150機の受注契約を締結したと発表している。Mesa社はAmerican Airlines社、United Airlines社、DHL社の地域航空業務の委託運行を行なう航空会社。両社は2023年からChaparralを使った航空貨物輸送を計画しており、一般貨物だけでなく医療貨物輸送も狙っている。

 なお、Elroy社も米空軍のAgility Primeから支援を受け、21年下半期に170万ドルのTACFI(Tactical Funding Increase)契約を獲得している。

8 ターボシャフトはジェットエンジンと同じ燃焼原理だが、ジェットエンジンは排気を推力にする。一方、ターボシャフトは排気により軸出力を取り出す。ターボシャフト・エンジンはヘリコプターなどで用いられている。

臓器航空輸送が貨物eVTOL市場を切り開く?

 貨物eTVOLの用途として、臓器移植の長距離配送に注目が集まっている。たとえば、ヘリコプターによる空港送迎サービス予約を提供するBlade Air Mobility社は21年9月、臓器の航空輸送サービス大手Trinity Air Medical社を約2,300万ドルで買収した。

 全米16州で移植センターや臓器調達機関とのビジネスを展開するTrinity社は、2020年約1,600万ドルを売り上げている。

 Blade社は買収により臓器輸送事業の収益強化を目指しており、将来的にはeVTOLなどによるAAM(Advanced Air Mobility)事業と組み合わせたマルチ・モーダル9 の臓器輸送事業を視野に入れている。

9 マルチ・モーダルとは、複数の交通機関と運行管理システムをひとつのサービスとして提供し、利用者の利便性を向上させること。ブレードは臓器輸送で中長距離を航空機で、空港から病院までを救急車で配送することでマルチ・モーダルなサービスを構築しようとしている。

ホームビルド分野でもeVTOLブーム

 欧米では、自分で航空機を組み立てて空を飛ぶ「飛行機マニア」が多い。ホームビルド・エアークラフト10 (自作航空機/ホームビルド機)の祭典オシュコシュ・エアーショー11 には世界中から60万人(2021年)のマニアが集まる。

 このホームビルド市場を狙ったeVTOLベンチャーも現れている。たとえば、個人用eVTOL制作キットを製造販売するJetson社は、ホームビルド機「Jetson ONE」の試験飛行映像を21年12月に公開するとともに「22年分の受注を完了した」と発表した。

 Jetson ONEは、リチウム・イオン・バッテリーを搭載した高剛性アルミ・フレームの機体に8つの電動モーター、4対のプロペラを備え、飛行時間は約20分、最高速度は時速102km(63mph)、最大重量(パイロットの体重)は95kg(210pound)となっている。

個人用eVTOL制作キットを製造販売するJetson社は、ホームビルド機「Jetson ONE」の最新の試験飛行映像を21年12月に公開(写真:同社ホームページ)

 推進システムは冗長設計で緊急着陸用パラシュートを搭載しているが、実際の飛行高度は地上2mから5m程度を想定している。22年度の製造数(12機)はすでに予約済みで、1機の価格は9万2,000ドルとなっている。キットは半完成状態で届き、マニュアルに従って最終組立をユーザーが行なう。

 ちなみに、日本のeVTOLベンチャーのテトラ・アビエーションも、このホームビルド・エアークラフト市場を狙っており、昨年の オシュコシュ・エアーショーでプロトタイプを発表している。

10 多くの場合、ホームビルド機はメーカーが設計製造して、キットをユーザーが自分で組み立てる。もちろん操縦にはパイロット免許が必要だが、ホームビルド機は貨物や旅客輸送などの商業用途には使えない。米国では最小で40時間程度の飛行実習でスポーツ・パイロット免許を取得することができるため、多くの操縦資格者がいる。日本でも自作航空機として機体登録ができ、航空法第11条但し書きを活用することで飛行許可を得ることができる。

11 オシュコシュ・エアーショーはウィスコンシン州Oshkosh市で毎年7月に開催されるEAA(Experimental Aircraft Association)主催の航空ショー。Wittman Regional 空港を中心に自作航空機の研修やアクロバット飛行など多様な催し物が行われる。2021年のショーでは、小型eVTOLのデモ飛行も披露された。

自家用eVTOLではAIR ONEが登場

 イスラエルのeVTOLメーカーAIR社は21年10月、自家用eVTOLのプロトタイプ「AIR ONE」を発表した。

 2018年に設立されたAIR社は、個人飛行を楽しむための自家用eVTOL市場をねらうベンチャーで「多くの最先端技術と製造プロセスでeVTOLを量産し、消費者が手の届く価格で提供すること」を標榜している。

 AIR ONEは2名(パイロット+副操縦士)乗りの固定翼タイプ。航続距離110mile(177km)、巡航速度155mph(約時速250km)、機体から伸びた4本のポールに8つのモーター、4対のプロペラが取り付けられている。

自家用eVTOL市場をねらうAIR ONEは2名(パイロット+副操縦士)乗りの固定翼タイプ。(写真:同社プレスリリース)

 翼にも電動推進部分にも推進方向を変える可動機構がないため、機体重量は2,138lb(970kg)と軽い。垂直離陸から水平飛行へのトランジションは、ヘリコプターのように機首を下げることで実現する。また、翼もポールも折りたたみ式で自宅のガレージなどに収納可能となっている。

 自家用機を持ちたいアマチュア・パイロットを狙っているため、同社は複雑な飛行機能やナビゲーションを支援する「fly by intent」ソフトウェアを開発している。これにより機体の監視や高度な飛行スキル、難しい訓練を必要としないと同社は説明している。

 車検などと同じような定期検査を実施するほか、飛行前チェックを省略できるAI監視システムを実装する。AIR社は現在、FAA(米連邦航空局)と協力してG1認証(Part 23における最初の認証段階)の取得を進めている。

 Joby社やVertical Aerospace社が、24年の商用サービスを視野に激しいトップ争いを展開する一方、巨大市場を狙って多くのベンチャーがeVTOL開発競争に参入している。また、今回紹介した自家用eVTOLやホームビルドeVTOL、カーゴeVTOLや水上eSTOLなど、ニッチ市場を含めた多様な用途の模索が広がっている。

小池良次(CEO、Aerial Innovation, LLC.)

小池 良次(こいけ りょうじ)氏

商業無人飛行機システム/情報通信システムを専門とするリサーチャーおよびコンサルタント。在米約30年、現在サンフランシスコ郊外在住。情報通信ネットワーク産業協会にて米国情報通信に関する研究会を主催。
・商業無人飛行機システムのコンサルティング会社Aerial Innovation LLC最高経営責任者
・国際大学グローコム・シニアーフェロー
・情報通信総合研究所上席リサーチャー

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