2017年01月31日
「ビッグデータ」の“次”を見据えて。NECのAI技術が切り開く「新しい世界」とは?
ビッグデータ解析を自動化し、熟練専門家がいなくても迅速な予測が可能に
このように「混沌とした現実世界」を象徴する映像、音声などの非構造化データの分析を可能にしたことは顕著な躍進である。しかし実社会でのAI活用のためには、さらなる課題が存在する。それは熟練専門家の不足だ。分析対象となる事象が複雑化し、AI技術も進化していけば、それに携わる専門家の人数・能力もより高いレベルが求められる。しかし技術の進化に人材面の拡充が追いつくことは容易ではない。IT業界では、高度な予測を行うことができる熟練のデータサイエンティストが一朝一夕には育たないからだ。また人材が確保できたとしても、専門家の勘や経験に依存するやり方は、時間やコスト面で大きな負荷が発生しやすい。「迅速で汎用的な問題解決」、これも実社会を変革するAI技術のキーワードである。こうした問題を解決するのが、「予測分析自動化技術」である。

「予測分析自動化技術」は、企業がビッグデータを活用して行う、商品の需要予測や製品の潜在顧客予測などを、AI活用で完全自動化する画期的技術だ。従来の予測手法は、経験豊富なデータ分析の専門家が、長時間・多工数をかけ、試行錯誤しながら大量のデータを解析していた。NECの新技術は、長年蓄積されたAI技術やデータベース技術などの融合によって実現したもので、AIの様々な機械学習手法が導き出した大量の予測モデルから、最適のモデルを短時間で見つけ出し、合理的な予測を立てる。三井住友銀行と同技術を使って実施した実証実験では、これまで2~3か月かかっていたデータ分析作業が1日に短縮でき、かつこれまでと同等以上の分析精度を達成できることを確認した。
人手が必要な部分は、作業担当者による対象データの整理のみで、データ分析の専門家は不要となる。同技術は予測結果だけでなく、予測に至った根拠も提示されるため、作業担当者は状況に応じた設定の変更やアレンジ・修正も施しやすい。NECではこの技術について、2017年度を目途に製品化を検討している。
「秘密計算技術」で暗号化データをそのまま高速処理することが可能に
NECは今後、海外チャネルを活用してグローバルなオープンイノベーションを押し進めるなど、連携研究の規模を現状の3倍に拡大する。同様に、2018年度のオープンイノベーション関連の投資を2016年度比で3倍にまで拡張する方針だ。グローバルな研究開発を推進するため、2016年4月に組織体制を刷新。価値共創センターを新設したほか、セキュリティ研究所とシンガポール研究所の体制を強化し、国内研究所を技術領域ごとに再編した。今後はさらに世界各国に分室を設置することで、研究者、大学・ベンチャーとのグローバルな連携体制を整備する。人材マネジメントもグローバルレベルで遂行。現在、新規採用の約4割をグローバル人材が占めるまでに充実している。世界各地の分室で人材採用を積極的に行い、国内外を問わない優秀な人材確保をさらに推進することで、適材適所の人材マネジメントを加速させる。
こうしたオープンイノベーションに対する積極的な取り組みの成果として、今回披露されたのが「秘密計算技術」である。ビッグデータが人類共有の財産と認識され始め、その活用が急速に進むなか、悪意・過失・事故によるデータ漏洩の被害をいかにして防ぐのか。この難問を解決するには、従来のセキュリティ対策である「データの暗号化」だけでは不十分だ。なぜなら認証システムやデータベース検索などで利用する暗号化データは、一旦元データに戻して処理する必要があり、その際にデータ管理者が盗んだり、外部の攻撃者が管理者権限を悪用して詐取したりする可能性があるからだ。

「秘密計算」は、暗号化したデータを元のデータに戻さずそのまま処理する技術で、基本的な手法としては、複数のサーバが協力して計算する「マルチパーティ計算」という計算法が確立しているが、処理速度が非常に遅く、実用には至っていなかった。今回NECが開発した秘密計算の新技術は、各サーバへ分散するデータ量を2倍にすることなどで、他社技術と比較して、計算速度を14倍まで向上。1秒当たり約3万5000件の認証処理が可能になり、多数の従業員がいる大企業のサーバで使えるレベルに到達した。また、データ抽出処理時の高速化で、「秘匿データウェアハウス」も世界で初めて開発。これにより、1000万件ものデータの集計を、わずか1分で実行できるようになった。これまで「非現実的」であったマルチパーティ計算の実用化は、NECが最先端の海外企業や大学と連携することで、NEC方式の強化と開発ペースを加速し、わずか1年で世界トップレベルの性能に達したことによる。
NECは今後、秘密計算のさらなる性能向上を目指して研究開発を進め、より強固な情報漏洩防止ソリューションの完成を図る。まずは個人情報を扱うアプリから実用化し、自治体や金融機関をターゲットに製品化を果たし、2019年には同技術の汎用化を目指す。