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2019年12月20日

業界が変わるビジネストレンド

IT時代の”超・放課後”
──令和の子どもたちの放課後・校外学習は、最新テクノロジーが満載

 近所の子どもたちと放課後に野球をして遊ぶという昭和の風景はいまや昔。令和の時代の子どもたちは最新テクノロジーを活用した遊び場や校外学習を楽しめる環境だ。最新テクノロジーといっても誰もが親しみやすく使えるインターフェイスで豊かな体験を得ることができるのだから、現代の子どもたちは恵まれている。

 その1つが2018年11月に山形県鶴岡市にオープンした全天候型の”超”児童館「KIDS DOME SORAI」(キッズ・ドーム・ソライ)である。雪深い庄内地方にあって冬でも思い切り遊べる場を作ろうと、鶴岡市に本社を置くヤマガタデザインが建設した。また、熊本県の阿蘇山に建つ阿蘇火山博物館では、2019年3月から「阿蘇山上観光VR体験」のサービスを開始した。火口などを上空から360度撮影した画像をVRで体験できる。そんな楽しい超・放課後を紹介しよう。

本能と創造性が爆発する遊び場

 山形県鶴岡市はいま地域再生のモデルとして注目を浴びている。立て続けに話題となる施設が生まれ、県外からの人を呼んでいるからだ。その立役者がヤマガタデザインである。従業員が98人で不動産開発運営会社として2014年にスタートしたが、いまやホテル、カフェレストラン、集合住宅、農業施設まで運営する街づくり企業に発展した。

 同社が2018年11月に開館したのが全天候型の”超”児童館「KIDS DOME SORAI」である。0歳の赤ちゃんから小学生までを対象に「本能と創造性が爆発する遊び場」をコンセプトとして子どもたちの五感と遊び心を刺激するような場となっている。

 秘密基地のような「アソビバ」と、紙やビーズ、毛糸など1000種類の素材と200種類の道具でいろいろなものが作れる「ツクルバ」からなり、子どもたちの知的好奇心を刺激する。道具の中には3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工具もあり、タブレット端末を使ってプログラムも学べる。

 さらに「ハイテク」と表現される所以は、SORAIの入退室管理には、顔認証システムが使われているからだ。会員カード等なしで、受付時にカメラに顔をかざすだけで瞬時に認証される。大人にとっては未来感を感じるチェックだが、これからの子どもたちにとっては、それが当たり前になっていくのだろう。
生体認証とは?

秘密基地のような「アソビバ」(左)と1000種類の素材と200種類の道具でいろいろなものが作れる「ツクルバ」(右)

水田に浮かぶ国内最大級の木造ホテル

 ヤマガタデザインはもともと鶴岡市が推進していた「鶴岡サイエンスパーク」の不動産開発運営を請け負って設立された。創業した山中 大介社長は鶴岡市どころか山形出身でもない。三井不動産で郊外型大規模商業施設の開発・運営に従事した山中氏はサイエンスパークを訪れたことをきっかけとして鶴岡市に移住している。

 サイエンスパークは慶應義塾大学先端生命科学研究所や、クモの糸繊維を世界で初めて合成・量産化したスパイバーなどの誘致に成功し、一定の成果を見たが、資金不足に陥り、21ヘクタールもの用地の3分の2(14ヘクタール)が未開発のままだった。山中氏はその現状を見て、何かできることがあるのではないかと、2014年に資本金わずか10万円でヤマガタデザインを設立した。

 その後、山中氏は金融機関や地元企業など40社の出資を仰ぎ、3年間でなんと約23億円もの出資金を集めた。融資でなく出資であることが地元の山中氏への期待を物語る。

 「庄内地方に住む上で必要なものをすべて自分たちで作る」ことをポリシーとし、2018年9月には国内最大級の木造ホテルで、水田の上に浮かぶように建つ「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」(庄内ホテル・スイデンテラス)をオープンさせた。有名な建築家の坂茂氏が設計を担当。天気次第では水田が鏡面のように見え、その景観が話題となり、”日本のウユニ塩湖”と称されている。

今後は保護者に顔認証情報をメール送信

 スイデンテラスは県外の人々との交流の場であり結節点だが、続いて立ち上がったソライは地域を担う子どもたちの子育て支援である。この名称は庄内藩で長く教育指針とされた「荻生徂徠」の徂徠学に由来する。ソライを作った理由についてヤマガタデザインでは「冬になると積雪で思い切り体を動かせる場所がない、放課後の居場所がないという子どもたちや子育て世代の課題を解決するため」と語る。

 ソライの入場料は子どもが500~1500円の有料になっているので、当初は一般的な会員カードによる管理を検討したが、カードの発行・管理コスト、紛失による再発行や貸し借りでのなりすましなどのリスクを考慮して、顔認証システムを導入した。

SORAIの入退場管理には、NECの「NeoFace 顔認証システム導入セット」が活用されている
画像を拡大する

 同社の榎本拓巳氏(情報システムマネージャー)によれば、「本能と創造性が爆発する"超"児童館をコンセプトにしていることもあり、直感的に使える顔認証は親和性が高い」と判断したからだ。

 土日祝日ともなると1回2時間の予約制で約200名が来場するが、顔認証によって待たせることもなく、子どもたちは面白がってシステムを利用している。今後は保護者に顔認証情報をメール送信したり、学びに顔認証技術を取り入れたりすることも考えているそうだ。今は先進的な取り組みに感じられるが、SORAIの成功を皮切りに、今後は顔認証を導入する施設も増えていくだろう。

右からヤマガタデザイン株式会社 情報システムマネージャーの榎本 拓巳氏、同社KIDS DOME SORAI部門長の土屋 陽子氏、同じくSORAI受付担当の鷲尾 瑛未氏

雄大な阿蘇の自然を体験できるVR

 熊本県の阿蘇地域は、南北25km、東西18kmにおよぶ広大なカルデラ地形を形成する中に5万人以上もの人が住んでいるという世界的に希有な場所だ。世界ジオパークにも指定される阿蘇の特長として熊本県の上田 哲也氏(観光物産課長)は、「特に、生きている火山の様子を間近で見ることができる阿蘇山の中心にある中岳火口は、日本でも類を見ず、国内のみならず世界各国から多くの観光客を集めています」と語る。熊本地震以前は、阿蘇山上には200万人の観光客が訪れていたという。

熊本県 観光物産課 課長 上田 哲也氏
中岳は、活発な火山活動を続け、噴煙が上がる様子を阿蘇火山博物館の位置からも確認できる

 この中岳から3kmほど離れた場所に「阿蘇火山博物館」がある。同館の溝口 千花氏(マネージャー兼総務部課長・ガイドセンター長)も阿蘇山の希少性を次のように語った。
「阿蘇山は中岳に火口監視用カメラを2台設置し、24時間観察している点で国内でも珍しく、火山研究上、貴重な活火山です。そのため、そこには火口見学や自然体験学習など教育旅行の子どもが訪れていました。しかし、阿蘇地域の観光の目玉である阿蘇中岳火口は年間のうち3分の1は雨が降り濃霧が出る天候や噴火警戒の規制によって火口に近づくことができなくなるという課題がありました」

 しかも、同館や阿蘇地域は近年災害に見舞われ続けた。2016年4月には熊本地震の影響で、建物全体が大きな被害を受け、火口監視用のカメラも2台とも破損した。また、市街地と博物館を結ぶ道路が寸断、鉄道も不通、インフラも被害を受けた。さらに同年10月には中岳が噴火、警戒レベルが3(入山規制)に引き上げられた。

 被災の結果、阿蘇山上への観光客は17年には20~30万人と激減。19年は70~80万人まで回復し、20年にはインフラの完全復旧が見込まれ震災前に戻ることが期待されている。

阿蘇火山博物館 マネージャー兼総務部課長・ガイドセンター長の溝口 千花氏

防災と観光を兼ねた震災復興

 インフラが整えば観光客も戻ってくるだろう。しかし、何もせずにただ期待をしているばかりではいられない。そこで同館では、県と連携をしながら対策に立ち上がった。阿蘇火山博物館 常務理事である岡田 誠治氏は次のように語る。
「有識者会議を立ち上げ、何とか再生への方策を探りました。その成果がVRとビジターセンターの設立です。新たに火口監視用の超高感度カメラを設置し、その映像をVR化し、防災と観光を兼ねた新しい震災復興に取り組み始めました」(岡田氏)

阿蘇火山博物館 常務理事の岡田 誠治氏

 問題となったのは、まずは精度のよいカメラの重要性。そのため県の補助金制度を利用し火口から噴出する火山ガスに耐えられるようにオールチタン製のフルハイビジョン超高感度カメラを採用した。また、従来、カメラと博物館をつないでいたケーブルもズタズタに切れてしまったので、代わりに映像を無線伝送に切り換えている。

 そこにドローンの活用も加え、誕生したのが「阿蘇山観光VR体験」というVRコンテンツである。
「新しいフルハイビジョン超高感度の火口カメラは、火口内部の様子を鮮明に映し出し、VRという先端映像技術を活用することで、まるで火口の中を歩いているかのような臨場感溢れる体感を実現しました」(上田氏)

学びもできる阿蘇をテーマパークにしたい

 コンテンツは火口カメラのリアルタイム映像、火口カメラのベストショット映像、阿蘇自然体験映像の3本。まるで、自分が空中に立って全方位を見渡せるような不思議な感覚があり、ディスプレイを装着したまま下を向くと噴煙を上げる火口が真下に見える。リアルタイムとベストショットどちらも味わうことができるほか、自然体験では阿蘇の壮大な草原の上を「飛ぶ」ことができる。阿蘇中岳の立ち入りが規制される時も、VRによってその様をリアルに体験することが可能だ。

リアルタイム映像や火口カメラのベストショットなど、パネル展示などとはまったく異なる「体験」ができる

 さらに、今年度はコンテンツ2本を制作中で、19年12月までにはカルデラ全体を撮影した空中散歩と、阿蘇の名水の映像が追加される予定だ。そこには、子どもたちにこの阿蘇の地域の魅力を知ってもらうと同時に、火山噴火を起点とした防災意識を高めてもらうことも目的にある。

なかなか画像だけでVRの臨場感は伝わらないが、実際にコンテンツを体験すると、阿蘇の火口や周辺のその場に自分が立っている感覚が味わえる

 VRの特質上、保護者の同伴なしで利用できるのは13才以上になるが、もちろん保護者がいれば小学生でも体験できる。現在、VRを体験するためのヘッドマウントディスプレイは12台あるが、順番待ちになるほど利用率は高い。日によっては100人以上が順番待ちをするそうだ。利用者は半年間で8500人を超えたという。

 シアターを持つ同館では、今後、修学旅行生や校外学習で訪れる子どもたちを一気に収容して3Dコンテンツを体験してもらう、そんなアイデアも持っているそうだ。岡田氏は「阿蘇のテーマパークのようにしたい」と笑う。

 顔認証で未来感あふれる入退室を実現した「KIDS DOME SORAI」に、VRで遊びながら火山活用や防災意識も学べる「阿蘇山観光VR体験」。令和の子どもたちの放課後や課外授業には、ごく自然に驚くようなテクノロジーが入り込んでいる。子どもたちにとって、先進テクノロジーももはや当たり前の世界だ。まもなく小学校ではプログラミングの授業もはじまる。そんなデジタルネイティブな子どもたちは、身近に感じるテクノロジーを使ってどんな社会をつくっていくのだろうか──。

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