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2019年02月25日

織田 浩一 北米トレンド

低コストで無人店舗を実現する新たなテクノロジー
~AI、店内ドローン、米国リテールテックの今~

 今年もニューヨークで開催されたNRFのRetail's Big Showに参加してきた。小売業界の将来を占う意味で非常に重要なカンファレンスである。米国の小売業界のトレンドを知ることができると共に、ここから2-3年で普及するであろうテクノロジーを体験できる。今年のNRF Retail's Big Showで出展されたテクノロジートレンドについて解説する。

3万6500人が訪れるNRF Retail’s Big Show

 NRF(National Retail Federation:全米小売協会)は、1911年に設立した全米の小売業界を代表する非常に大きな業界団体で1万8000のメンバーを抱える。同協会のメンバーは全米380万店舗を運営し、2900万人を雇用、加えて2兆6000万ドル(約287兆円)の生産高を誇り、GDPにも大きく影響する規模だ。業界を代表し、ロビー活動、教育・トレーニング・リーダーシップ育成プログラムの提供、業界レポートの出版などの活動を行なっている。

 ほかにも年に複数の業界向けカンファレンスを運営しているが、ニューヨークで毎年1月に3日間にわたって開催されるNRF Retail's Big Showは年次総会を兼ねたもので、世界99ヶ国から3万6500人が参加し、そのうち1万6000人が小売業界担当者という巨大なカンファレンスだ。500のキーノートやセッションが300以上の講演者によって行われ、700以上の企業展示ブースが現れる。

ニューヨークのカンファレンス施設Jacob K. Javits Convention Centerのスペース全体を占める巨大なカンファレンスである(撮影:筆者)

 ここ数年は小売をサポートするスタートアップも含めたテクノロジー企業が展示ブースを占めており、トップスポンサーにIBM、マイクロソフト、SAP、それらに続いてGoogle Cloud、アリババ傘下の小売・レストランテクノロジー企業Freshippo、AWS、Magento、Salesforceなどがスポンサーとして名を連ねている。

大手企業が集まる企業展示ブース(撮影:筆者)

 さらに、企業展示ブースをテーマ別に分けて、「Innovation Lab」と呼ばれる小売業界の将来を占うようなテクノロジー群を集めるセクションや、イスラエル輸出機構のスポンサーによるスタートアップ企業を集めた「Startup Zone」を設営している。これらのステージでは、小売向けのスタートアップ企業のピッチ(自社製品やサービスを紹介するプレゼンテーション)や新規テクノロジー分野の動向についてのパネルディスカッションなどもある。

Innovation Labでは海外からも数多くの新規テクノロジーが集まり、参加者も熱心に企業の話を聞いている(撮影:筆者)

AIチェックアウトフリーのテクノロジーが多数登場

 今回のNRF Retail’s Big Showで一気に実用化して、注目を集めていたのがAIやコンピュータービジョンを使って無人店舗化を可能にする、チェックアウト不要な機能を提供するテクノロジー群であろう。

 Amazonがチェックアウトフリー店舗「Amazon Go」を公開してから、競合の大手小売チェーンも高い興味を示しており、それに対応するスタートアップ企業群が多数生まれている。

 ただ、センサーなどを含めて一店舗あたり100万ドルといわれるAmazon Goの投資金額は、小売チェーンにとっては非常に負担が重く、テクノロジー企業にはこれらをどのように低コストで提供できるかが問われている。それを解決しようというAI系企業が数々登場してきており、実務に耐えられるレベルになってきたところだ。

Amazon Goの店内。天井に大量のビデオカメラが設置されている(撮影:筆者)

 例えば、米カリフォルニア州サンタクララのスタートアップ企業AifiはAifi NanoStoreという空港や駅などに設置できる24時間型小型無人店舗をNRF Retail’s Big Showに合わせて発表した。

 クレジットカードや店舗アプリなどを使って解錠してドアを開け、中に入り好きな商品を手にして店を出れば、支払いまで完了してしまうというものである。15平米ほどの店舗サイズから、設置場所や販売商品の種類、求める事業規模により大きさを調整できるようだ。10人ほどしか入れないサイズの店舗で、同時に10人程度の商品購買行動を認識できるようになっている。すでにポーランドで5400店舗を展開するコンビニチェーン「Zabka」が導入を発表している。

Aifi NanoStoreの設置想定図(同社のプレス用資料より)
NRF Retail's Big Showでデモが行われたAifi NanoStore。入り口の右手にクレジットカードとモバイルアプリ用のスキャナが付いている(撮影:筆者)

 Aifiは元々カメラモジュールを一点100ドルほどで店舗に販売し、それにAI画像分析によるショッパー、商品トラッキングシステムをライセンスしているとのことだが、それをパッケージ化することで導入を容易にし、同時にコスト削減を達成しているという。

Aifiのショッパー・商品トラッキングシステムの分析図(社プレスリリース画像より)
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 Intelの企業展示ブースや他のブースでも、いくつかの冷蔵庫自体がチェックアウトフリーになっているものが見られた。下図はIntelのパートナーがデモを実施していたものであるが、上部にカメラが付いていて、冷蔵庫のドアを開け商品を取り出すことをカメラでトラッキングしている。

Intel企業展示ブースに見られた冷蔵庫と購買商品表示のシステム(撮影:筆者)

 スーパーマーケットの店舗をチェックアウトフリーにするためのスマートショッピングカートを販売しているのがCaper(ケイパー)である。カートにセンサーやコンピュータービジョンカメラが搭載されており、カートに入れる商品を自動的に認識することが可能である。

 カートに投入された商品やどの棚の前を通るかといった情報から商品推奨やディスカウント表示などが行われ、平均18%購買金額が向上するという。

 店内インフラを変えることなく、店舗全体にセンサーやカメラを導入するよりも低い投資で導入が可能だ。すでにニューヨーク州のスーパーマーケット店舗でテスト導入されている。

商品マップの表示や手に取った商品、どの棚の近くを通っているかにより推奨製品が表示される
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AIによる動的価格設定・最適化

 アメリカのスーパーマーケットや家電量販店では電子棚札(ESL)が広く普及しているが、それに連動して自動的に商品の価格を設定していくAIソリューションを提供しているのがBlue Yonder(ブルー・ヨンダー)である。販売、プロモーション、ブランド・製品データ、関連製品の販売状況、天候や祭日などのデータを統合して、価格の弾力性を分析し、オンライン・実店舗・オムニチャネルで自動的に価格設定を行えるというものである。導入により利益を5%向上させたり、在庫を20%減らしたりする効果があるという。

店員が店舗・オンラインで接客

 オムニチャネルという言葉は、オンライン上での注文から店舗でのピックアップまでの業務全般で使われることが多いが、店舗にいる店員をEコマースやマーケティングのスタッフとして、オンラインでも顧客と直接関わるためのツールを提供しているのがSalesfloor(セールスフロアー)である。

 Saks Fifth AvenueやL'Occitane、Bloomingdale'sなど主にアパレル系小売で使われている。店内の接客においてiPadアプリで過去の購買データから製品推奨を行ったり、新たな顧客データを入力し、その顧客に向けて店員が特別な商品を入荷した時にメールを送信したり、セールのお知らせを行い、来店のアポを取るという一連の「クライアンテリング」と呼ばれる関係構築業務のためのツールである。

モバイルアプリ、メールツール、データ分析、製品推奨ツールなどが統合されている(同社サイトより)
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ドローンによる棚卸し

 ロボットによる棚卸しや在庫確認などを行うソリューションを提供している企業は今までもいくつか登場しているが、それを小さなドローンで自動的に行うシステムを提供しているのがPensa Systems(ペンサ・システムズ)である。閉店後や店舗に客がいないセクションでの在庫確認などが可能で、大規模店舗で複数のドローンを使いながら行うことが可能であり、ロボットに比べ遥かに安く済むという。また、小さいが、商品を高く積み上げているような店舗でも対応が可能なこともメリットである。

 ビールメーカー「InBev(インベブ)」とのパイロットテストでは、店舗での毎時間の在庫データを提供し、在庫切れを98%の確率で正確にレポートしたという。

店内ドローンが自動的に棚卸し、在庫トラッキングを行う(同社サイトより)
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棚の在庫切れを示すダッシュボード(同社サイトより)
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 以前はデータ分析やAIなどの新規テクノロジーはEコマースへの導入が活発であったが、ここ4-5年、店舗内のビデオ導線解析やWifi、ビーコンなどによる顧客分析が登場し、店舗内でのデータ取得方法が一気に増えてきた。この延長にチェックアウトフリーのためのテクノロジーが登場してきたが、この実店舗への最新テクノロジー導入の流れはさらに加速すると考えられる。

 全米3000店を目指すというAmazon Goのように来店客と接点をできるだけ少なくし短時間の購買をサポートするような店舗や、クライアンテリングの概念に見られるようにオムニチャネルで積極的に顧客と関わっていく店舗など、様々なアプローチがある中で、Amazonの競合店舗がどのような対策を講じていくのかが注目される。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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