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2019年06月24日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

電子化の道をひた走る「強い政府」
経済の根幹を握る「発票(ファーピャオ)」のしくみ

ブロックチェーンを活用した電子発票が拡大

 ブロックチェーン技術の導入も進んでいる。ブロックチェーンの考え方を用いた発票発行システムが全国で初めて稼働したのは2018年8月、広東省深圳市内の高層ビル「国際貿易センター」展望回転レストランで入場券の発票を発行したのが最初とされる。その後、今年3月には同市内の地下鉄福田駅で、全国の地下鉄で初めてブロックチェーンの技術を用いた発票の発行がスタートした。開始当日だけで1万人以上がこのシステムを利用して発票の発行手続きを実行したという。地下鉄の運賃といえば日本円で数十円単位で、このような少額の商取引でもブロックチェーン技術を活用した信頼度の高い発票発行システムが気軽に利用されるようになったのは画期的なことといえる。

 発票が紙の時代はもちろん、電子化された後も残された大きな問題は、その発票が本当に正当なものであるか、偽造はないか、すでに利用された発票の重複使用はないかといった信頼性確保の問題だった。これまで発票の真偽の確認は各企業の経理担当者の仕事で、連日発生する大量の発票の確認作業は大きな負担だった。しかしブロックチェーンを活用すれば発票の信頼性は飛躍的に高まり、確認の手間を劇的に削減できる。当然、コストも大幅に節減できる。今後、電子発票の利用にますます弾みがつくものと見られている。

圧倒的な徴税能力

 前述したように、中国での事業活動の大きな特徴は、取引に関連するお金の流れが事実上、常に税務当局のネットワークとリンクしており、有体に言えば、税務当局の管理の下で進行していく点にある。

 どの企業が、いつ、どこで、誰から、何を、いくらで買って、それをいつ、どこで、誰に、いくらで売って、どれだけの利益(損失)が出たのか。そのために企業はいくらの経費を、どこで、どのように使ったのか。そして、残った利益の中から、社員の誰に、いつ、いくらの賃金やボーナスを払ったのか。それを受け取った従業員の何某は、それをいつ、どこで、どのように使ったのか。そのほとんどすべてを税務当局がつくりあげたプラットフォーム上で把握することが可能だ。

国家税務局「納税サービスブラットフォーム」のトップページ。国税に関するさまざまな手続きや問い合わせができる
国務院(内閣に相当)インターネット監督調査プラットフォームの運用開始を伝える国家税務局のホームページ

 この仕組みは徴税する側、要は国家の統治者にとって非常に都合がよく、中国政府の徴税能力は極めて高い。ことの是非はともかく、現実問題として中国の圧倒的な国家権力の源泉の一つはここにあると言っていい。このような仕組みを既存の先進国がつくり上げることはほぼ不可能だろう。

世界最強の「電子政府」か

 早稲田大学電子政府・自治体研究所は2018年10月、国際 CIO 学会につらなる世界の11大学と提携し、主要なICT先進国65カ国を対象に電子政府の進捗度を調査した結果を発表している。「ネットワークインフラの充実」「行政管理の最適化」「オンライン・サービス内容」「ホームページの利便性「政府CIOの活躍度」「電子政府普及振興」「市民の電子参加」「オープン・データ活用」「サイバーセキュリティ能力」「先端技術の活用」という10の指標を基準に各国政府の取組みの進捗度をランキングしたものだ。

 それによると1位はデンマーク、2位シンガポール、3位は英国だった(日本は7位)。中国は32位で、高い評価ではなかったが、これは私の勝手な推測だけれど、このランキングは「市民に対するサービス」という観点に立って行われているのが理由ではないかと思う。市民へのサービス精神は低いが、電子化を武器に強力な統治能力を確立しているという点では、おそらく中国は世界一だろう。

「無現金社会」の議論も

 日本でもよく知られているように、中国ではアリペイやウィチャットペイなどのスマートフォンアプリによる支払いがほぼ全国民的に普及していて、日常生活で現金を使うことが本当に少なくなっている。加えて、ここで紹介したように、政府がデジタル的な手段でほとんどすべての商取引を把握できる仕組みも整ってきた。そうなると、次に出てくるのは「現金はもう、いらないのではないか」という議論である。実際、中国のメディアでは「無現金社会」の構想に関する記事が目につくようになってきている。

 実現にはまだ遠い段階ではあるが、仮に現金を廃止してしまえば、為政者にとっては、統治がさらにやりやすい状況になると思われる。時期はともかく、本気で実現を考えている可能性はある。情報感度の高い人はすでにそのあたりに反応しているようで、ある友人はインドで2016年、「脱税退治」を名目に高額紙幣が突如、廃止されたことを引き合いに、「中国でも何があるかわからない。現金が突然廃止されるかもしれないし、銀行口座はいつ閉鎖されるかわからない。だから資産の一部を米ドルの現金にして自宅に置いてある」と言っていた。まさに「上に政策あれば、下に対策あり」で、中国はおもしろい。

 「無現金社会」にはやや飛躍があるとしても、状況はその方向に向かっていることは間違いない。この点において中国社会は極めて有利な条件を備えていて、間違いなく世界のトップランナーだと思うのである。

新システムの立ち上げを伝える上海市税務局「電子税務局」トップページ
田中 信彦(たなか のぶひこ)氏

BHCC(Brighton Human Capital Consulting Co, Ltd. Beijing)パートナー。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師(⾮常勤)。前リクルート ワークス研究所客員研究員
1983年早稲田大学政治経済学部卒。新聞社を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、ファーストリテイリング中国事業などに参画。上海と東京を拠点に⼤⼿企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。近著に「スッキリ中国論 スジの日本、量の中国」(日経BP社)。

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