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2019年07月26日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

「世界レベル」の都市が足りない!
都市の連合で人の分散を図る「都市圏」の発想

急拡大する内陸の「特大都市圏」

 このように「超大都市」で人口減少が始まっているのに対し、急速な成長を見せているのがその後に続く「特大都市圏」だ。四川省・成都、湖北省・武漢、陝西省の西安、河南省・鄭州など内陸部の都市の成長ぶりが目立つ。

河南省鄭州市の近郊に出現した「新都心」。鄭州は「中原(ちゅうげん)」と呼ばれる広大な平野部に位置し、この一帯は漢民族が最も早くから文明を開いた地域とされる。武漢と並ぶ中国中央部の巨大都市である

 たとえば四川省の「成都都市圏」は1600万人の人口を有する成都市を中核に、その周辺につらなる徳陽、眉山、綿陽、資陽、楽山など人口300~400万人の中規模都市群からなり、総人口は4000万人を超える。市内には2018年10月現在、すでに6路線の地下鉄が開通、136の駅があり、総延長は196㎞に達している。2020年末までにそれが515㎞に延びるというから、都市としての発展ぶりがうかがわれる。市内の繁華街を歩けば、世界のさまざまなラグジュアリーブランドのブティックが並んでおり、まさにグローバルクラスの都市に成長しつつある実感がある。

 また湖北省・武漢は古くから揚子江中流域の重要都市で、北京と広東を結ぶ南北軸と、上海と成都、重慶などをつなぐ東西軸が交わる、まさに中国主要部の真ん中にある都市だ。中心部の都市人口は1060万人(2018年)、周辺の農村部も合わせた総人口は3000万人を超える。「武漢都市圏」は、黄石市、咸寧(かんねい)市、黄岡市、孝感市、鄂州(がくしゅう)市といった人口100~700万人クラスの都市がつらなり、都市圏としての総人口は5000万人近い。すでにこれら諸都市を結ぶ高速道路に加え、最高時速250㎞の都市間高速鉄道(城際鉄路=インター・シティ)も2016年に全面開通しており、都市圏としての一体性が高まっている。

 こうした総人口1000~5000万人の都市圏を複数育成することで超大都市への一極集中を防ぐ。さらに全国各地に数億人単位の中産階級の仕事と生活の場を生み出し、先進国水準へのグレードアップを実現する──のが基本的な思惑である。それを20年近く前から構想し、着実に実行してきた戦略性には恐るべきものがある。

武漢市街全景。中国のど真ん中、長江沿いにある巨大都市。かつては製鉄などの重工業都市として知られたが、大学など高等教育機関が多く、人材が豊富な特性を生かしてIT企業なども育っている

構想20年、中国を変えた「西部大開発」

 「西部大開発」といえば、中国と長いつきあいのある人には懐かしい響きの言葉だと思う。中国国務院(内閣に相当)が沿海部と内陸部の格差縮小を掲げて「西部大開発戦略」の基本構想を発表したのが2000年。そこから本格的な取組みが始まり、20年弱の時間が流れた。その間の内陸部の成長ぶりはまことに目覚ましく、今回、新たな「都市圏」の中核として登場する都市の多くが「西部大開発」の対象となった地域にある。

 いまから約10年前、2008年の中国都市GDPランキングでは、内陸部の武漢、成都はそれぞれ13位、14位、鄭州、長沙はそれぞれ22位、23位だった。西安にいたっては上位30都市にも入っていなかった。それが2018年のランキングでは武漢は8位、成都は9位へと上昇、トップ10入りしたほか、長沙は14位、鄭州は16位、西安は21位へといずれも大きく順位を上げている。

 日本国内では経済成長で沿海部と内陸部の格差は広がる一方といった認識が一部にあるが、現実にはこの10年、少なくとも都市部に関する限り、沿海部と内陸部の経済格差は着実に縮小している。中国という巨大国家がさまざまな問題を抱えながらも、とりあえず安定した成長を維持しているのは、こうした国家主導の開発による富の分散が相当の程度、機能しているからにほかならない。その基盤をもとに、さらに一段上を目指そうというのが今回の「特大都市圏」構想と言ってもいい。

中国の都市圏構想に影響を与える「東京首都圏」

 このような中国の「都市圏」構想に大きな影響を与えているのが東京を中核とした日本の首都圏の成長である。日本の首都圏にはさまざまな定義があるが、一般的には東京都心から50-70kmの圏内で、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県という4つの都県にまたがり、「東京の中心部と社会的、経済的に事実上一体とみられる地域」を指すことが多いようだ。総人口は計算方法にもよるが、3500~4000万人とされ、GDPは1兆5000億ドルを超える。「世界最大の都市圏」との言い方もしばしばなされている。

 複数の「特大都市圏」の育成を目指す中国からみて日本の首都圏が重要な研究対象となっているのは、主に以下のような理由による。

  • 4000万人という巨大な人口を抱えていながら、一部地域への過度の人口集中、スラム化などの現象が起きていない
  • 巨大都市圏でありながら、首都圏内の移動はスムーズで、効率的である
  • 商業、工業、居住、オフィスなどの地域が適度に分散しており、地域の役割分担が機能している
  • 複数の一級行政単位(都県)にまたがっていながら、相互の連携、協力関係が円滑に行われている
  • 巨大都市にもかかわらず空気や水の汚染など環境問題が深刻化していない

 日本の首都圏にもかつては深刻な大気や水の汚染があったし、いわゆる通勤地獄など何十年も解決されていない問題もある。「隣の芝生」的な過大評価の感じもしないではないが、4000万人という一国並みの人口と、国のランキングでも世界で上位に入るほどのGDPを生み出す「都市圏」が、(傍から見れば)非常にスムーズに運営され、世界中から人を集める魅力的な地域になっていることについて、中国での評価は非常に高い。

東京首都圏を10個つくる

 首都圏の人口4000万人という規模は前述した中国の「特大都市圏」にほぼ匹敵する。総人口5000万人近い武漢都市圏のGDP(2017年)は2兆2600億元(約36兆円)程度で、現時点では東京首都圏の4分の1程度にとどまるが、将来的には東京首都圏クラスの都市圏を全国に10個ぐらいつくりたいというのが中国の為政者の目指すところだろう。人口は日本の10倍以上なのだから、そう考えたとしても不思議はない。

 社会主義中国は建国以来、「国民を食べさせること」に国の総力を注いできた。そのための主要な手段が戸籍による居住地の制限だった。それが事実上、廃止され、いよいよ中進国から、将来的には先進国を狙う新たな「国の骨格」を準備するフェイズに入ってきている。そのキーワードは「分散」にある。中国という巨大な人口を抱え、なおかつ都市部の人口密度の極めて高い国の国民が、より高い生活水準を実現しようとすれば、人を広い地域に分散させる以外に道はない。

 目論見通りに実現するかどうか、もちろんわからないが、そのような発想で隣の国は考えていて、数十年単位の時間軸で事を進めていることは知っておくべきだと思う。

田中 信彦(たなか のぶひこ)氏

BHCC(Brighton Human Capital Consulting Co, Ltd. Beijing)パートナー。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師(⾮常勤)。前リクルート ワークス研究所客員研究員
1983年早稲田大学政治経済学部卒。新聞社を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、ファーストリテイリング中国事業などに参画。上海と東京を拠点に⼤⼿企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。近著に「スッキリ中国論 スジの日本、量の中国」(日経BP社)。

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