2018年10月30日
熱気あふれる競技会場に、5GとARで
リアルタイム情報を映し出す
~テレビ朝日、NTTドコモ、NECの共創による、5Gを活用したARスポーツ観戦の取り組み~
競技会場の臨場感を味わいながら、同時に刻々と変化するさまざまな競技情報も目の当たりにできる。そんな新たな実証実験が水泳競技大会の会場で行われた。通信のタイムラグが1000分の1秒という「5G」と先進の「AR(Augumented Reality 拡張現実感)」だからこそ実現できるリアルタイムな情報提供。スポーツ観戦のスタイルが、いま大きく変わろうとしている。
競技会場の観客へ、もっと多くのリアルタイム情報を
次世代移動通信システムとして、世界中の期待を集めている「5G」。NECでは、これまで5Gを活用した建設機械の遠隔施工システム、5Gと4Kの高精細映像を組み合わせた遠隔診療サービスの検証など、建設や医療をはじめさまざまな分野で5G活用の取り組みを進めてきた。そして今回、5G活用の新たな取り組みとして行ったのが、ARと組み合わせたスポーツ観戦の実証実験だ。
スポーツ観戦といえば、スタジアムやアリーナの観客席で実際の選手の活躍を目の当たりにしながら、その場でしか味わえない臨場感が何よりの醍醐味だ。一方で、「会場ならではの迫力と臨場感とともに、競技中のさまざまな情報をリアルタイムで知りたい」――実際にアリーナなどで観戦経験のある人は、そんな思いを抱いたことはないだろうか。
現在、水泳競技などではレース中、会場の電光掲示板に選手情報や着順、ラップタイムが表示されるが、これらの情報を見るには、視線をプールから掲示板へと移動する必要がある。ふだんテレビで観るスポーツ中継では、レースの経過タイム、ターン時の順位やレーン、タイム差など、さまざまな情報がレース映像とともにひとつの画面上に映し出されるため、会場では情報量に物足りなさを感じたり、視線の移動に煩わしさを感じたりする人も多いようだ。
5GとARの融合した実証実験を、実際の水泳大会で実施
「レース観戦に集中しながら、ライブな情報が欲しい」「競技中の選手同士のタイム差やレース中の順位などもリアルタイムで観たい」そんなスポーツファンの思いに、技術で応えることができないだろうか。テレビ朝日、NTTドコモ、NECでは、3社共創によるプロジェクトとして、スポーツ観戦の新たな取り組みをスタート。2018年9月には、水泳大会の実際の会場で、先進の5GとARを組み合わせた実証実験が行われた。
「テレビ朝日では水泳の中継放送に力を入れています。中継が行われる競技会場でよく耳にするのは情報が足りないという観客の声です。私たちがテレビ放送で使う多彩なコンテンツ情報を、会場の皆さんにダイレクトに、しかもリアルタイムで届けるという新しい試みは画期的で、とても面白いと感じました」と、テレビ朝日の小野 真介氏はプロジェクトの背景を説明する。
5GとARを融合した実証実験は、テレビ朝日から提供される選手情報やタイムデータなどのコンテンツをローカルサーバで処理を行い、5Gネットワーク回線を使って、ゴーグル型のARデバイスやタブレットに瞬時に表示するというものだ。このプロジェクトでNECは、AR用の画像認識ソフトウェア開発をはじめ、5G基地局、コンテンツ用のローカルサーバ、さらにARデバイスなど、インフラ領域をトータルでサポートした。
「100分の1秒の世界で繰り広げられる水泳競技のドラマ。ARを使ってさまざまな情報を競技会場の観客にリアルタイムでお届けする取り組みは、低遅延が大きな特長である5Gなくしては実現できないものです」
ARデバイスの中で、現実と仮想世界が合体
会場でARデバイスを装着した観客は実際の競技シーンを観ながら、デバイスに映し出されたARコンテンツ情報を同時に目にすることができる。スタート前には、ARデバイスで観ているプールの上部に、仮想ディスプレイが現れて選手リストを表示。競技がスタートすると、レースの経過タイム、ターン直後にはタイム順の選手順位やレーンナンバー、さらに選手同士のタイム差など、刻々と変化するレースの展開が、仮想ディスプレイ上にリアルタイムで表示される。そしてゴール後には成績上位順に、レーンナンバー、選手名、ゴールタイムも瞬時に映し出される。電光掲示板に視線を移す必要がないため、逆転の劇的瞬間やゴールした選手の一瞬の表情なども見逃すことなく、競技の興奮と感動が余すことなく体感することができる。
「5GやARなど先進技術を活用する上で大切なのは技術優先ではなく、あくまでも観戦者の気持ちや視点。スポーツの特性を活かしながら、その魅力を先進技術でより高めて、会場にお届けすることで、スポーツ観戦の楽しさはさらに盛り上がっていくでしょう。NECのスピーディな対応で、プロジェクトがスケジュール通りに達成できたことに感謝しています」と、テレビ朝日の小野氏は話す。
現実空間にバーチャル情報を重ねてマッピングするARは、現在さまざまな分野で活用されている。身近な例として知られているのはスマホ用アプリ「ポケモンGO」だ。また、家具や大型家電などの製品CGを実際の部屋に映し出して、サイズやイメージをチェックするなど、日常生活の中にもARは広がっている。NECグループでは、遠隔地の技術者への技能指導や現場作業のサポートなどARを活用したB to B向けのソリューションも提供している。
AR活用において実績のあるNECだが、今回のスポーツ観戦の実証実験においては、難しい課題もあったという。その苦労についてNECの大橋は次のように語る。
「これまでのAR活用の実績は、小さな空間にバーチャル情報をマッピングするケースが中心でした。今回の水泳競技のような大きな会場で、実空間にAR情報をズレなく表示するのはとても難しいことでした。そこで、ARデバイスが持っている空間認識技術とNECが開発した画像認識技術を組み合わせて、ズレを抑えたコンテンツ表示を実現しました」
実証実験の結果は、体験者の9割から好評の声
水泳会場で、ARデバイスを装着して実証実験を体験した観戦者に行ったアンケートでは、競技の臨場感を体で感じながら、さまざまな情報を同時に目にできることに、9割の体験者たちから好評価を得た。「着順がリアルタイムで表示され、わかりやすい」「選手と掲示板を交互に観る視線の往復がなく、レース観戦に集中できる」といった好意的な意見や、軽量化や視野角の拡大などデバイスの進化に期待する声もあった。また、競技の間の待ち時間に、「リプレイ映像を映して欲しい」など、表示コンテンツのリッチ化を求める意見も数多く集まった。
「NECは、ITとネットワークという双方の分野で強みがあります。『NECといっしょに、何か新しいことをしたい』さまざまな分野のパートナーと手を結び、ユーザーの心を捉えるいままでにない5GやAR体験など、新たな価値を生みだしていきたいと考えています」とNECの大橋はその思いを語る。
また、実証実験を振り返ってNTTドコモの鈴木氏は、次のように話す。
「NTTドコモでは遠隔医療や働き方改革など、これまで5Gを活用したさまざまな取り組みを進めてきました。そうした社会的課題への取り組みに加え、今回スポーツ観戦というエンターテイメント分野において、5G活用による新たな価値を創出したことに大きな意義を感じています。5Gによる新たな価値創出は、1社だけでなかなか実現できません。これまでにないアイデアや新しいビジネスモデルのヒントなど、パートナーとの協業が重要だと思っています」
「低遅延」だけでなく、「高速・大容量」「多数同時接続」という強みを持った5G。今後は、映像やCGなど表示コンテンツの充実に加え、サッカーやゴルフ、F1など幅広いスポーツ分野への活用拡大、さらにコンサートやイベント会場におけるエキサイティングな演出やリアルタイムな情報提供など、5GとARを活用した新たな可能性は、大きく広がっていく。