エンジニアの夢から生まれた日本発の “空飛ぶクルマ”とは?
日本発の「空飛ぶクルマ」を開発している「CARTIVATOR(カーティベーター)」。空飛ぶクルマの開発は現在世界中で進められているが、CARTIVATORは異色の存在といえる。というのも、大規模な資金力を有するメーカー主導ではなく、先端エンジニアの草の根的な活動からスタートしているからだ。同団体では、2020年のデモフライト実現に向け、着々と機体の研究開発を推進。将来的には、空飛ぶクルマによるビジネスの展開も視野に入れている。
それはメカ好きな若者たちが描く夢から始まった
広大な大空を自由に飛び回ってみたい――。誰もが子ども時代に描いたであろうそんな夢を、自らの手で叶えてしまおうとする人々がいる。自動車や航空、ドローンなど、様々な技術分野で活躍する現役エンジニアによる有志団体「CARTIVATOR」だ。
「クルマが空を飛ぶなんて、遠い未来かSFの世界の話。以前は私もそんな風に考えており、自分が実際に作る側にまわるとは思いも寄りませんでした」と同団体の共同代表を務める福澤 知浩氏は振り返る。
もともと、幼少時にはプラモデルやメカ好きな1人の少年だったという福澤氏。モーターが動く仕組みに感動したことから、ものづくりの世界に多大な関心を抱いたという。大学ではロボットや機械工学を研究。大手自動車メーカーの調達部門を経験した後に、製造業向けのコンサルティング会社を立ち上げている。
その福澤氏が大きな転機を迎えるきっかけとなったのが、自動車メーカーの若手エンジニアを中心とする趣味サークルへの参加であった。自動車は各車種の開発リーダーを中心に設計・開発を進めていくが、若手がその立場に就くのは10~20年も先のことになる。それまでただ待つのではなく、自分たちの手で何か作ってしまおうというのがこの集まりの主旨である。
「最初は手作りの小型自動車を製作したり、ハンググライダーを飛ばしてみたりと、いろいろなことにチャレンジしました。そのうちに空飛ぶクルマを作ろうという話が持ち上がり、2014年に1/5スケールの試作機を製作。まだ経験もなく苦労しましたが、無事飛行させることができました」と福澤氏は話す。
この成功が、さらなるステップへとつながっていく。メンバーは1/5スケールに続いて、1/1スケールの試作機の製作に着手。不足する資金をクラウドファンディングなどからの支援を受け、2016年には飛行試験にまでこぎ着けた。プロジェクトに関心を持った他分野のエンジニアなども続々と参加し、メンバーは100名を超える大所帯に拡大。さらには、かつて勤務していた自動車メーカーやNECなど、多くの企業のスポンサーシップも獲得するに至った。メカ好きな若者たちが抱いた夢が、具体的な形として結集し始めたのである。
事業会社も設立し、人の移動にイノベーションを巻き起こす
こうして誕生したCARTIVATORだが、そのコンセプトはあくまでも自由なものづくりに取り組む有志団体だ。現在は「2020年に開催される国際イベントでのデモフライト実現」を活動目標として掲げている。しかし、メンバーの中からは、この取り組みをそれ以降もさらに発展させたいとの声が上がってきた。そこで設立されたのが、空飛ぶクルマによるビジネス創出を目指す企業「SkyDrive」だ。今後は両者が有機的に連携しながら、空飛ぶクルマの研究開発や社会実装(研究成果を社会問題の解決のために応用・展開すること)に向けた取り組みを共同で進めていくという。
「SkyDriveでは2020年のさらに先を見据えており、2023年に機体の発売を開始、2026年には量産も開始するというロードマップを描いています」と福澤氏は説明する。2050年には、誰もが自由に空を飛べる時代を創ろうというのが同社の企業ビジョンだ。
「空飛ぶクルマが実現することで、人の移動に様々なイノベーションをもたらすことができます。好きな時に、好きな場所へ意のままに移動できますし、交通渋滞に延々とハマるようなこともありません。また、道路がなくても大丈夫ですから、砂漠や海上などを移動する手段としても利用できます」と福澤氏。ドクターヘリのような救急救命用途、観光地でのエンターテインメント、離島への輸送など、様々なユースケースを想定しているという。
もっとも、現時点ではまだ研究開発の段階だけに、本当に事業化が可能なのか不透明な部分も多い。しかし、この点についても、十分な勝算があるという。例えば、空飛ぶクルマの機体コストは高級車よりも安く、タクシーより低いサービスフィーを設定できる可能性がある。しかも、滑走路不要で直線移動が可能なため、移動時間を圧倒的に短縮できるという利点もある。
「成田空港から横浜駅へ移動する場合、現在は電車で約1.5時間、バス/タクシーで約1.5~2時間を要します。空飛ぶクルマなら、これを30分程度にまで短縮できます」と福澤氏は話す。これなら、是非利用してみたいと考える人も多いことだろう。空飛ぶクルマを使ったビジネスは、決して絵に描いた餅ではないのである。
官民共同でのルール/インフラづくりにも積極的に参画
ただし、空飛ぶクルマの本格的な実用化に向けては、解決すべき課題も多い。
「まず1つは技術面です。現在のバッテリー容量では飛行時間が限られるため、この限界を突破する必要があります。また、都市部を飛ばすとなると、騒音も問題になってくるでしょうし、安全性についても十分に担保することが求められます。また、事業面の課題として、具体的なマーケットをいかに創出するかが挙げられます。例えばドローンも数年前にはホビーレベルでしたが、現在では様々な事業分野で活用されています。しかし、その一方で、ドローンのようなマーケットを獲得できず普及しなかった技術も少なくありません」(福澤氏)
さらに、公共交通機関として成り立たせるためには、社会的なルールやインフラづくりも必要だ。もちろん、この点については、一企業の力だけではどうにもならないことも多い。そこで同社でも、国や関係省庁などへの働きかけを積極的に行い、官民や異業種協調による解決を図っていく考えだ。このような連携がうまく進めば、日本でも遠からず空飛ぶクルマが自由に飛び交う社会が訪れるかもしれない。