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データ利活用でつくる新しいまちと暮らし
実現に向けた課題と解決のポイントは

 もたらす価値の大きさから「21世紀の石油」とも表現されるデータ。高効率な社会を実現し、快適で安全・安心な暮らしをサポートするデータをどのように利活用し、どのような価値を引き出すかは、これからの社会の発展やあり方を大きく左右する。では、現在、データの利活用はどこまで進んでいるのか。そして、どのような課題があるのか。取り組みをリードする3社のキーパーソンに話を聞いた。
(2022年9月に開催された「NEC Visionary Week 2022」のセッションより)

データを利活用して暮らしやすいまちをつくるスマートシティ

 ──最近は身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する「ウェルビーイング」という言葉もありますが、人々の豊かな暮らし、それを支えるまちづくりを実現する上でデータはかかせない資源です。データの価値をいかに引き出すか──。大きなテーマと向き合っているみなさんとデータ利活用の現在地や課題、解決策について議論したいと思います。まずはみなさんの取り組みをお聞かせください。

山村氏:日建設計は、建築の設計監理、都市デザイン、および、そのための調査・企画・コンサルティング業務を行うプロフェッショナル・サービス・ファームです。私たちのデータ利活用の舞台となるのがスマートシティです。

株式会社日建設計総合研究所
執行役員
山村 真司 氏

 世界中で多くのまちがスマートシティの実現に向けた取り組みを進めていますが、当社は、初期の施策策定から実証実験、設計、建設、そして完成後の運用まで、スマートシティプロジェクトをトータルに支援しています。

 当社が計画時点等で携わった代表的な事例の1つに千葉県柏市の三井不動産様の柏の葉スマートシティがあります。このプロジェクトは、世界に向けて社会課題の解決モデルを提示することを目的とし、地球にやさしい「環境共生都市」、新しい活力となる成長分野を育む「新産業創造都市」、あらゆる世代が健やかに安心して暮らせる「健康長寿都市」を3つのテーマに据えたまちづくりが進められました。

 三井不動産様を中心に公・民・学が連携して、これらテーマの実現を目指してさまざまな施策が取り組まれており、データ利活用が中心となっている取り組みの一つが、2019年に国土交通省に採択された”スマートシティ先行モデルプロジェクト“です。「エネルギー」、「モビリティ」「パブリックスペース」、「ウエルネス」に関する地域の課題解決を図るべく、エネルギー関連情報のプラットフォーム化、柏の葉キャンパス駅から東京大学柏の葉キャンパスまでの自動運転、公共スペースでの人流解析や道路関連情報の把握と保全利用、健康サービスの可能性検討など、さまざまな取り組みの検討が一体的に進められています。

柏の葉スマートシティコンソーシアム
出典:国土交通省HP、https://www.mlit.go.jp/common/001291681.pdf別ウィンドウで開きます

より高度なデータ利活用を目指してサービス強化に着手

奥津氏:駅探は乗換案内を中心とするコンテンツプロバイダーです。運営している乗換案内サイト「ekitan.com」は、月間1200万のユニークユーザに利用されており、月間PVは7100万に達します。

株式会社駅探
取締役 技術本部長
奥津 浩一 氏

 データを利活用した事業にも積極的に取り組んでいます。例えば、クライアントである鉄道事業者から提供してもらう改札の入出データと、当社の乗り換え案内エンジンから出力される全時間帯の推定利用経路データなどを組み合わせ、区間ごとに最も混雑が予測される時間帯などを予測したデータを生成し、クライアントに提供しています。ほかにも山形県と、通勤や通学にかかわる移動データと当社の乗り換え案内から出力されるデータを組み合わせ、路線バスの時間帯別の混雑予測データを生成する実証実験に取り組みました。

 現在は、よりカスタマイズした情報をユーザに提供するなど、データ利活用の可能性を高めるために、検索履歴とユーザIDを紐付け、検索条件だけでなく検索結果もログとして記録し、より高度な行動分析が行えるようにekitan.comの強化を進めています。

データを利活用してウェルビーイングな社会を実現する

山下:NECは顔認証などの映像解析、AI(人工知能)といった先進技術、ユーザIDを軸に多様なデータやサービスをつなぐID認証・統合の仕組み、データの収集・連携・統合を担うデータ流通プラットフォームなど、「NEC Smart Connectivity」をはじめとする豊富なデジタルアセットを駆使して、データ利活用および、ウェルビーイングな社会の実現を目指しています。

NEC
データコネクティビティサービス統括部
ディレクター
山下 亜希子

 例えば、まちに存在するさまざまなデータを個人IDに集約し、その人の行動や興味を深く理解しながら、高度にパーソナライズした情報を提供することで、生活者の顧客体験を向上する取り組みを進めています。また、顔認証システムとエレベータシステムを連携させ、混雑を避けながら最短導線でオフィスに移動できる仕組みを提供しています。ほかにもNECならではの映像解析技術によって、データを匿名化しながら、交通量・人流を可視化し、道路の整備・工事計画の立案に役立てています。これらの事例は、資料にまとめてWebでも公開しています。ぜひアクセスしてみてください。

データ利活用を成功させるカギは企業間連携とマネタイズ

 ──3社ともウェルビーイングな社会の実現に向けてさまざまなプロジェクトを進めているのですね。データ利活用に取り組む中では、どのような課題に直面しましたか。

奥津氏:大きく3つの課題があります。1つ目は、当社が持っている既存のデータだけでは、ユーザの属性がわかりづらいこと。現在は、ユーザに「曜日」や「駅名」などの検索条件を紐付けることで、属性を推定できないかと考えています。

 2つ目は、同様に通勤か日常生活か、あるいはレジャーか、乗換検索の目的がわからないこと。こちらは、駅や路線の周辺情報、イベント情報などを合わせて提示し、その閲覧履歴を分析して対応することを検討しています。

 そして3つ目はシステムに関する課題です。2つの課題が示すとおり、自社で持っているデータだけでは限界があります。そのため、パートナーから提供してもらうデータなども扱うことになるのですが、それらのデータを適切に扱うには、多様なデータを1カ所に集約し、安全に管理したり、利活用に向けて整えたりする、データ活用基盤が必要だと感じています。

山下:ekitan.comを通じて多くのデータを蓄積しているという印象でしたが、目指す価値を実現するには足りないデータもある。それを外部データで補完するには、適切なデータ活用基盤が必要ということですね。集めたデータを当初の目的だけでなく、二次利用、三次利用へと発展させ、データの可能性を引き出しためにも、適切なデータプラットフォームの実現は必要な取り組みとなりそうです。山村さんは、どのような課題を感じていますか。

山村氏:スマートシティプロジェクトは、数年がかりで取り組むプロジェクトです。そのため、プロジェクト開始時に描いたデータ利活用シナリオが、建設途中や運用開始後に陳腐化してしまう場合があります。

 それを防ぐには、できるだけ長期的な視点でデータ利活用のビジョンを描き、定期的に点検し、必要なら修正していかなければなりませんが、点検する目は、不動産会社、建設コンサル、設計会社、行政や自治体といった既存のプレイヤーだけでは不十分とも感じています。将来、そのまちの暮らしを支えていくことになる駅探さんのようなサービス事業者など、より多くのプレイヤーに初期段階から参画してもらい、複数の視点でデータ活用ビジョンを点検し続けるのが理想です。

 そのために必要不可欠なのがマネタイズです。経営資源がなければ、多くの事業者に参画してもらうことも、プロジェクトを持続させることも困難だからです。補助金頼みのプロジェクトは、いずれ予算の確保に苦労し、頓挫してしまう可能性が高まります。

山下:マネタイズの重要性と難しさはNECもさまざまなプロジェクトで直面しています。マネタイズする上では、どのようなポイントを意識していますか。

奥津氏:私たちの乗換案内は、「近い未来」を予測できるという強みがあります。その強みを活かし、多くの事業者と共にマネタイズしていくことを意識しています。例えば、交通機関や地域の事業者、そして生活者を連携させる地域マーケティングプラットフォームの構築などです。先ほど利用者の属性を推測する取り組みを紹介しましたが、属性情報から好みなどを推測し、これから向かう先にある店舗などの情報を広告として表示する。広告主である事業者とユーザをマッチングし、事業者のマネタイズに貢献しながら、自分たちもマネタイズを図る仕組みです。

山下:複数の事業者を巻き込んでマネタイズを図っているのですね。

山村氏:マネタイズは、本当に難しい。1つのマネタイズモデルで、すべての費用をまかなうようなビッグマネタイズを実現できれば理想的ですが、そううまくはいきません。複数の事業者が連携したり、協力したりしながら、小さなマネタイズを積み上げて、プロジェクト全体を支えるのが現実的な解だと思います。

山下:複数のプレイヤーが参画し、異なる視点でデータ利活用ビジョンを創出していき、さまざまなマネタイズを積み上げて、持続可能なプロジェクトを実現していく。議論を通じて、データを利活用したウェルビーイングなまちづくりのポイントが見えてきました。データを利活用するためのアセットを提供するだけでなく、まちづくりに参加する多くのプレイヤーたちをつなぐ存在でもありたい──。NECが果たすべき役割も改めて確認しました。今後もみなさんと協力しながら、ウェルビーイングな社会の実現を目指していきます。