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協調・共創で日本ならではのDXを目指す
業界や企業の垣根を越えるポイントは

 社会全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる。日本企業のDXは遅れ気味という指摘もあるが、停滞させている課題を克服し、変革を前進させるには何が必要か。NTT西日本とNECでスマートシティやDX事業に携わる2人に話を聞いた。
(2022年11月に開催された「NEC DX DAY 2022」のセッションより)

SPEAKER 話し手

西日本電信電話株式会社

寺田 雅人 氏

ビジネス営業本部
エンタープライズビジネス営業部
地域プロデュース担当部長

NEC

吉本 裕

テクノロジーサービス部門
データコネクティビティ&TSテックセールス統括部
シニアディレクター

スマートシティは課題先進国である日本の切り札

──まずはお二人の経歴と取り組んでいることをお聞かせください。

寺田氏:NTTに入社し、まず携わったのがNTT西日本のクラウドビジネスの立ち上げです。その後、企業向けICT導入の営業・SE、NTTグループの技術戦略企画、グループ会社における地域ビジネス拡大の戦略企画などを担当し、現在はスマートシティビジネスの戦略企画および営業を担当しています。課題先進国の日本にとって、スマートシティは「切り札」だと信念を持って事業を推進しています。

 一般的にスマートシティプロジェクトは、そのまち固有の解決したい課題やありたい理想像、それを実現するための行政や防災、教育、観光といった、各サービス、そして、各サービスを持続的に生み出すために必要な「都市OS」としてのデータ連携基盤、「マネジメント」としての維持・運営体制の3つの構造で整理できます。

 通信事業者であるNTT西日本が提供するネットワークは、さらにそれらを土台で支えるインフラ。ですからNTT西日本は、特定の一部の領域にかかわるのではなく、まちそのものを持続していくことに責任があると考え、さまざまな事業者と連携しながらスマートシティプロジェクトに包括的に取り組む方針を掲げています。

NTT西日本のスマートシティ戦略

吉本:私はNECに入社後、営業や新ソリューション事業の立ち上げに携わってきました。特に注力したのがデータ流通・データ活用を支えるサービス事業の立ち上げです。現在、NECは社会や企業のDXを支援するビジネスに力を入れていますが、データ利活用のための基盤技術は、そのために不可欠なアセット。2022年からはテクノロジーサービス部門というDXのコア技術・サービスを集約している組織にて、テクニカルセールスを統括しています。データ利活用基盤とAI(人工知能)や生体認証、セキュリティなどを組み合わせて、DXに貢献する新しい製品やサービスを開発したり、お客様に提案したりして、DXによるお客様の価値向上に貢献しています。

NECのDX支援戦略

遅れ気味と指摘される日本のDXの実態は

──NTT西日本もNECも、DX推進に力を入れているのですね。では、日本企業のDX推進状況をどのように見ていますか。

寺田氏:取り組む企業は増えたが、成功したといえる企業はまだ少なく、停滞傾向にある──。特にビッグデータの活用などが進んでいない──。さまざまな調査を見ると世界に比べて日本企業のDXは遅れ気味といえそうです。

 しかし、DXはほかの国との比較や評価がすべてではありません。今後、日本独自のDXが進むことで停滞を打破することができるはず。そのカギは「協調」と「共創」だと考えています。実際、NTT西日本への相談も複数の事業者の連携が前提となっているプロジェクトが増えています。

吉本:日本企業は目の前のお客様を大切にしすぎて、劇的な変化や変革が遅くなってしまう。そうした側面もあるかもしれません。

 また、データを価値に変えるための技術は既に確立されていますが、日本企業は、その使いこなしがうまくいっていないという側面もあります。求められる高い安全性、費用負担の問題、利害関係が複雑なステークホルダーのマネジメント、そして法制度などが原因です。

 ただ、NECへの相談件数を見てもDXに取り組む企業は確実に増えています。決してDXの意欲が削がれているわけではありません。既存の課題を少しずつ解決していけば、必ず利便性と安全性を両立した日本ならではのDXが実現すると確信しています。

──複数の企業が協調・共創しながら、共に課題を解決し、価値を創出する。それが日本ならではのDXを推進するカギになりそうですね。

吉本:特に期待が大きいのが不動産、交通・鉄道、リテール業界の連携です。なぜなら、これらの企業は生活者に非常に近い接点を持っており、そこから多様なデータを蓄積できるからです。そのデータを持ち寄れば、もっと住みやすい国、安全・安心な生活が実現するはずです。

企業間の連携のポイントはビジョンの共有

──ライバル関係にあったり、事業の進め方が違ったり、異なる企業が協調・共創するのは簡単ではなさそうです。どのような意識や取り組みが必要になりますか。

寺田氏:生活者にどういう価値を提供するのか、どんな社会課題を解決していくのか。まずはビジョンを共有することが先決です。

吉本:確かに技術やデータに対する意識が先行し、目指す価値がはっきりとしていないプロジェクトは、PoC(概念検証)止まりになりやすいですね。

寺田氏:たとえば、世界ではさまざまな都市が生活のストレスを軽減したり、幸福度を高めたりすること、つまり生活者のウェルビーイングの向上を共通のビジョンに据えたスマートシティプロジェクトを進めています。

 日本でも似たようなプロジェクトの取り組みも増えていますが、特徴的なものとしてウェルビーイングを可視化する取り組みが始まっています。幸せのような形のないものを可視化しようとしているわけですから、難易度は低くありませんが、客観的な指標だけでなく、主観的な指標も導入して、どうにか可視化しようと研究と挑戦が進んでいます。

ウェルビーイングを可視化する取り組み

 このウェルビーイングの可視化が実現すれば、まちづくりは変わります。これまで、まちづくりは、より安全に、より快適に、といった目標を掲げて進んできました。しかし、安全さ、快適さの定義は、実は一人ひとり異なる側面もあります。可視化したウェルビーイングを活用すれば、単一的なとらえ方だけではなく、一人ひとり異なる生活者の視点を取り込みながら、よりそのまちの長所にフォーカスした特徴的なまちづくりを進めることができます。

 実際、大阪・関西万博の舞台となる大阪の夢洲のコンストラクションと呼ばれる取り組みでは、大阪・関西万博の工事時に懸念される渋滞を緩和するという大きなビジョンを共有したことで、資材の運搬、建設現場の安全管理など、競争領域ではない課題に複数の事業者で取り組む体制が実現しました。

 また、同じく大阪および大阪・関西万博関連の取り組みですが、万博開催時の混雑回避と周遊拡大による地域経済活性化を両立するために、交通・鉄道業界の複数の企業が連携。AIによるアクセスルートの案内、需給連動型のダイナミックプライシング実現、駐車場と公共交通機関を連携させたパークアンドライドの促進のためのサービスを備えた「OSAKAファストパス(仮称)」の実現に取り組んでいます。

──ビジョンの共有以外には、どのようなポイントがありますか。

寺田氏:1つの企業の立場ではなくプロジェクト全体を見据えて全体最適を追求する「リーダーシップ」、関係者を取りまとめながら必要なルールや標準づくりなどを進める「コーディネート」がポイントになります。もちろん技術も不可欠です。大阪でも、大阪府によって大阪広域データ連携基盤「ORDEN」という構想があります。この基盤を通じて、官民問わずさまざまなデータやサービスがつながり、府民や来街者の利便性を向上するさまざまなサービスの創出を支える構想の実現に向けて取り組みが始まりました。

DXシステムのテンプレート化で変革のスピードを高める

──日本企業が目指すべきDXの姿が見えてきました。スピード感を持って、それを実現していくには何が重要ですか。

吉本:データはあくまでも源泉。存在しているだけでは価値はなく、現実の世界の価値を引き出さなければなりません。その役割を担うのがさまざまなサービスです。

 NECは、データの価値を引き出す、さまざまなサービスをスピーディーに実現するために、必要なアセットを組み合わせテンプレート化し、提供しようと試みています。

 これまでNECは、さまざまなお客様とDXプロジェクトに取り組んできました。その中で特定のお客様だけが求める固有の要件と、ほとんどのお客様に共通する要件があることに気付きました。その共通する要件を整理して汎用的なシステムモデルを作成。お客様がDXプロジェクトを開始したら、それをすぐに提供して求めるサービスを実現し、迅速なDX推進をサポートするのです。

 もちろん最初から100点ではなく、固有の要件を満たすためのカスタマイズが必要ですが、1からスタートするよりははるかに速い。お客様の多くは、既にデータを蓄積しており、それを価値に変えたいと強く願っています。それに対してNECは、どんな支援を行えるか。そう考えてたどり着いたDX支援の1つのかたちです。

──どのようなテンプレートがありますか。

吉本:顧客体験の向上、サプライチェーンの最適化、データドリブン経営の実践、ワークスタイル変革など、さまざまな目的に応じたテンプレートを用意しています。

 たとえば、顧客体験の向上を目指すテンプレートとして「CXを向上するオファリングスイート」があります。これは、使い慣れたID情報(デジタル)や生体情報(リアル)を基に、点在する情報を連携させ、お客様情報の一元把握・分析を行うことで、より高度にパーソナライズしたサービスを提供したり、市場ニーズに適した新サービスの創出をサポートしたりするサービスです。お客様一人ひとりを認識し、安全な環境でパーソナライズしたサービスを提供するために必要な生体認証技術、顧客データプラットフォーム、ID統合管理サービスなどのアセットを組み合わせています。

CXを向上するオファリングスイート

 生体認証を扱うサービスとして、顔データと虹彩データで照合する決済サービスを開発しました。9月に「NBA JAPAN GAMES 2022」会場にて大規模実証を行いましたが、高精度な認証なので、QR提示もクレジットカードのパスワード入力もせずに手ぶらで買い物が出来てとても便利だったとユーザのみなさまから大変好評でした。私自身も会場でTシャツを買いましたが、カメラを見つめるだけで決済が完了したのでとても快適でした。またこの購買履歴を踏まえ、ファンクラブへの勧誘やグッズのEC販売など、パーソナライズ化された次の案内につなげられることも、データの循環が生み出す価値になります。

顔・虹彩生体認証による決済の実証実験の様子

寺田氏:標準的なものではなく、自社に合わせてつくった独自システムで行いたい──。かつて日本企業の多くがそう考え、それが企業の柔軟性や俊敏性に悪い影響を与えることもありました。DXシステムのテンプレート化は、それを抑止する意味でも効果的ですね。

──今後の展望をお聞かせください。

寺田氏:企業間ですから、もちろん競争はありますが、DXを進める上では共創も重要です。NTT西日本は、社会の一員として多くの事業者と協力しながら業界の垣根を越えたDXにこれからも挑戦していきます。

吉本:DXというと急激な変化を想定してしまうかもしれません。しかし、周囲を見渡してみると、DXによる変化はじわじわとゆっくり進み、気が付いたら、いつのまにか様子が一変していたというような小さな変化の連続ではないでしょうか。たとえば、キャシュレス決済も、ある日を境に全員が使い始めたのではなく、徐々に使用する人が増え続けているはずです。これからも、みなさんと一緒に小さな変革を積み上げていきたいと思います。

──ありがとうございました。吉本が紹介した「CXを向上するオファリングスイート」について、以下のサイトから資料のダウンロードが可能です。ご興味ある方はぜひアクセスください。

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