データ活用に取り組むなら知っておきたい
先行企業が生み出した価値と活用の勘どころ
AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、ブロックチェーンなど、さまざまなデジタル技術が新しいサービスを生み出している。その革新の中心にあり、価値の源泉となっているのがデータだ。そのことは企業の競争力にも顕著に表われており、データ活用の巧みさは、現在の企業の成長を左右する重要な条件の1つとなっている。では、先行してデータ活用に取り組んだ企業は、どのようなデータに着目し、どのような価値を引き出したのか。また、その価値を引き出すためにどんな工夫を行ったのか。いくつかの成功事例からデータ活用の勘どころを探りたい。
情報通信白書にも表われたデータ活用意欲の高まり
既に開始している企業、これから開始する企業、ステージに違いはあるかもしれないが、多くの企業がデータを活用し、新しい価値を生み出そうとしている。その傾向は、調査にもはっきりと表われている。
総務省は2022年7月5日に「令和4年『情報通信に関する現状報告』(令和4年版情報通信白書)」を公表した。この中で、DXの取組状況では、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」など、日本企業の約56%がDXに取り組んでいると回答し、そのデジタル化の目的を聞くと、生産性向上についで、2番目に多い63.5%が「データ分析・活用」を挙げているのである(図1)。
データ分析・活用を目指す企業の多さは、活用分野の幅広さにも表われている。社会を見渡せば、地域の活性化、新しい買い物体験の提供、業務の大幅な生産性向上、そして、ヘルスケアなど、既にさまざまな分野でデータを活用した課題解決が進んでいる(図2)。
また、データのリアルタイム処理でシステムを遠隔操作する。機械学習などで過去のデータを分析して未来を予測する。複数のシステムをまたいでデータをつなぎ、食品トレーサビリティーのように信頼や安全を担保したりするなど、データ活用のためのシステムもパッケージ化やサービス化が進んでおり、それらを利用すれば、企業は初期投資を抑えながら、早期にデータ活用を開始することが可能。そのことも企業のデータ活用に向けた取り組みを後押ししている。
デベロッパーが意識した将来のデータ活用への備え
では、具体的な事例を取り上げながら、データ活用の勘どころを見ていこう。
都市開発を手掛けるあるデベロッパーは、5Gやスマートセンサーなどの最先端技術を駆使して次世代先進オフィスビルの実現を目指した。
この企業が最先端技術で目指したのは、安全で円滑なビルの入退場や移動である。具体的に、この企業が建てた次世代先進オフィスビルは、入場ゲートの顔認証で個人を把握したら、エレベータシステムと連携し、混雑を避けてオフィスに行くことができるよう、エレベーターを自動的に振り分ける仕組みなどを実現している。
また、将来のデータ活用に向けた準備も進めている。カメラや画像分析システムなど、ビル内のさまざまなシステムから取得できるデータ、さらには天気、気温といったビル外のデータまでをリアルタイムにつないで処理することができるデータ活用基盤サービスの導入だ。
この事例の勘どころはここにある。この企業は将来、さまざまなシステムのデータをつないで新しい価値を生み出そうと考えたわけだが、システム間の連携に個別に対応すると、そのための調整や実際の開発に大幅な時間や工数がかかってしまう。これでは気軽にアイデアを試してみることも難しい。
一方、この企業が選んだデータ活用基盤サービスは、ハブのようにさまざまなシステムのデータをつなぎ、システムインターフェースの差分を吸収することが可能。開発もノンプログラミングで行えるため、システム環境の変化にも追随しやすく、さまざまなデータ連携を柔軟に企画し、実際に試してみることができる。このサービスを導入したことで、この企業のデータ活用の可能性は一気に広がったといえよう。実際、さまざまなデータの統合・蓄積・活用を進め、ビル外の気象情報やイベント情報、混雑状況など、ビル内の情報の相関を分析したりしながら、ビルや地域の発展に貢献するサービスを実現する考えだという(図3)。
映像データを複数の技術で多角的に解析
次に紹介するのは通信事業者の事例である。ICTを活用して地域活性化に貢献すべく、この企業はあるまちづくりプロジェクトに参画した。テーマは、まちの安全性と安心、そして快適性を高めることだ。
この企業が取り組んだのはICTセンシングを活用した実証実験である。イベントエリアの模様をセンシングし、そのデータを使ってイベントの効果検証を行えないかと考えた。具体的には、カメラ映像を解析して、来場者の属性情報を把握。また、別の解析技術も使って同じ映像から混雑状況、つまりイベントの集客状況も把握できるようにしたのである。
この事例の勘どころはここ。同じ映像データを複数の用途に使った点だ。同じ映像でも別のシステムで解析すれば、得られる知見や発見は異なる。映像から自動で人物・顔を検出し、年齢・性別などを推定する技術、そして、個人ではなく、かたまりとしてとらえ、群衆行動を解析する技術という2つの技術で映像を解析することで、より深い分析を行えるようにしたのである。
2つのデータをつないでいるのは、デベロッパーの事例でも紹介したデータ活用基盤サービスである。天気やカレンダーなどの外部データも含めた複数のデータをつなぎ、データ活用を強力に支えている。
さまざまなデジタルアセットでデータ活用を支援
このデベロッパーや通信事業者と共にプロジェクトに取り組み、映像解析技術やデータ活用基盤サービスを提供したのはNECだ。NECは、顔認証や画像解析、AIといった先進技術、ユーザIDを軸に多様なデータをつなぐID認証やID統合の仕組み、そして、2つの事例のカギとなったデータ活用基盤サービス「データコネクトサービス」など、データの連携を担うデータ流通プラットフォームなど、豊富なデジタルアセットを駆使して、多くの企業のデータ活用を支えている。ここで紹介した事例以外にも多様なプロジェクトに参画しており、地域の活性化、顧客向けサービスの高度化、サプライチェーンの最適化、自治体とのウェルビーイングに向けた取り組みなど、さまざまな分野で大きな成果を上げている。それらのプロジェクトの概要やNECの担当者が気付いた勘どころをまとめた資料もWeb上で公開している。ぜひ参考にしてほしい。
どのようなデータに着目し、どのような価値を引き出すか──。データは単独ではなく、複数のデータと組み合わせることで、新しい発見や価値につながる──。つまり、複数のシステムに分散するデータをいかにつなぐかは、データ活用を成功させる重要な条件となる。既にデータ活用に取り組んでいる企業も、これから取り組む企業も、その視点をもって、取り組みや計画を点検してみてはどうだろうか。