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AIが営業をサポート 社員数を増やさずに売り上げを伸ばす大塚商会の「秘訣」とは?

 多くの企業にとって重要部門の1つといえるのが「営業」だ。その一方で、効率化が難しい部署でもある。顧客に対してどのようなアプローチをとるかは、各営業担当者に委ねられていることが多いからだ。つまり、どうしても属人的になりがちで、標準化・効率化が難しいのである。こうした課題を払しょくしているのが大塚商会だ。同社では予測分析自動化AI「dotData」を導入。20年以上にわたって蓄積してきたビッグデータを基に、商談につながる特徴をAIが自動的に抽出し、営業担当者のスケジュールに連携して商談先を提案する「AI行き先案内」を開発した。これにより全体の商談件数の底上げにつながるなど大きな効果が得られているという。

SPEAKER 話し手

株式会社大塚商会

地主 隆宏 氏

執行役員
マーケティングオートメーションセンター長

越智 郁夫 氏

マーケティングオートメーションセンター
データサイエンス課 課長

蓄積した膨大なビッグデータをAIで分析し営業力強化を図る

 日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2022」によれば、日本の時間当たりの生産性はOECD38カ国中27位だった(※)。今後、労働人口が減少していく中、いかに生産性をあげていけばよいのか。これは多くの企業にとって重要な経営課題だといえるだろう。

 こうした中、社員数を増やさずに売上高を伸ばすビジネスモデルを確立している企業もある。その好例といえるのが大塚商会だ。同社は、顧客のデジタル化や業務効率化をITで支援する企業であり、自社のビジネスでもITを積極的に活用することで知られる。自社で導入して目利きをした技術や製品をソリューションに仕立てることで、「自信をもっておすすめできる」商材を顧客に届けることを大きな強みにしているわけだ。

 その代表的なテクノロジーの1つがAIだ。大塚商会の地主 隆宏氏は「AI (人工知能)を活用して営業活動の効率化などを実現しています」と語る。

 AI活用の背景には、大塚商会独自の2つの活動がある。いずれも20年以上にわたる長期の取り組みだ。

 1つは「社員数を増やさずに売上高を伸ばすビジネスモデルの確立」だ。1998年ごろまでは社員数の増加と売上高が連動していた大塚商会だが、ITの活用などさまざまな仕組みを導入して生産性、効率性を向上し、社員数を増やすことなく、市場での存在感を拡大し続けている。今後もこのビジネスモデルを継続させるには、これまで以上に営業活動の効率化が求められる。

 もう1つは、2001年に開始した「セールスプロセスリエンジニアリング」(以下、SPR)の取り組みだ。SPRは大塚商会の営業担当者が必ず使う営業ツールで、すべての営業活動をデータ化している。「2000年以降の累積データ件数は、商談が5000万件以上、売上明細が12億件以上という膨大なものです。このビッグデータには商談内容、取引状況だけでなく販売後のサポート情報などがあり、営業活動とお客様の状況が蓄積されています。これを分析して、営業活動を効率化する取り組みを続けてきました」(地主氏)。

 このように長きにわたって効率化を推進している大塚商会だが、課題もあった。それは営業担当者にそれぞれ得意・不得意な領域があり、パフォーマンスにも差があること。

 「どの会社でも売れる営業担当者が一定の割合の売上を確保していますが、それだけでは企業としての底上げができません。どの営業担当者にも自分たちの力量以上に売れる力を持たせる方法が課題でした」と地主氏は振り返る。

 そこで大塚商会では、20年以上にわたって蓄積してきたビッグデータをAIで分析することで、これまで見えなかった市場の変化や顧客のニーズをとらえられないかと考えた。

大塚ビッグデータの変遷

特徴量設計が数カ月から数日に dotDataで迅速な分析が実現

 学習するデータは膨大にある。しかし、データ分析をしようとしても、従来のデータサイエンスプロセスではAIが分析すべき対象や特性を数値化した特徴量の設計に至るまでに数カ月を要することもある。そうした中で、出合ったのがデータ分析ツール「dotData」だ。特徴量抽出を含むデータの前処理プロセスを自動化して、数カ月かかった処理を数日に短縮し、すぐにAIモデルを構築してデータ分析が可能になる。

 地主氏は「ビッグデータと一言でいっても、実際には多種多様なデータがあります。ここから市場や顧客のITニーズの変化を見つけて営業担当者に迅速に届けることが必要です。dotDataを使うことで、スピード感のあるデータ分析が可能になりました」と話す。

 同社がdotDataを活用して営業活動の効率化に役立てているソリューションが、2019年に導入を始めた「AI行き先案内」だ。これは営業ツールのSPRと連携してデータ分析した結果から、それぞれの営業担当者に出向く先の企業を提案するというもの。dotDataが分析した特徴量から企業が何を求めているかを読み解き、AIがSPRのカレンダーに自動的に予定を入れていく仕組みだ。

 「たとえば、3年前に商談があったお客様には次の商談の要望が高まっているといった時間軸での分析から、AIが行き先を提案します。空いている時間で前後の商談場所から移動可能な地域のお客様を提案するなど、インテリジェンスを持って営業担当者を支援しています」(地主氏)

多くの気付きを与えるAI 営業の肌感覚を裏付けた例も

 AI行き先案内が営業担当者に提案するとき、dotDataはどのように特徴量を提供しているのだろうか。大塚商会の越智 郁夫氏は、dotDataが提示した特徴量とその解釈についてこう説明する。

 「PCの受注予測では、お客様からの問い合わせの内容をdotDataが自然言語処理した特徴量を抽出しました。たとえば、『年末調整』『リビジョンアップ』というトピックに関するお問い合わせがあると、PCの需要が生まれやすいといった形です」

 大塚商会では、得られた知見を、営業担当者が有効に活用するために、特徴量の「読み解き」という作業を業務プロセス化している。特徴量の裏にある意味について、分析部門と業務部門で解釈をすることで、営業担当者にもわかりやすく腹落ち感のある情報として、営業活動に活かすことができるわけだ。こうした読み解きができるメンバーは、社内での育成の成果もあり、右肩上がりに増えている。情報分析を必要とする現場で洞察を得られる人材を育成してきたことも、AI活用の成功に結びついているという。

 dotDataの特徴量から思いも寄らない関連性が見つかったこともある。その一例が、複合機の稼働データとLED照明の受注の関係だ。「大塚商会ではオフィスのすべてを取り扱っていて、PCや複合機だけでなく、LED照明なども提供しています。そうした中で、dotDataは過去2年間で複合機のファクシミリ利用が増えたお客様では、LED照明の受注が増えるという特徴量を提示してきた。ファクシミリの利用とLED照明の購買の関係性は、人間の分析担当者には出てこないアイデア。そういった、隠された知見が見つかることがdotDataのパワーの1つです」と越智氏は語る。

 このほかにも、「営業活動が一定の間隔で行われている場合に受注しやすい」といった特徴量も出てきた。これは、「間隔が長すぎても短すぎても効果的ではない」という、営業活動の肌感覚がデータで裏付けられた例だ。「dotDataがなければ見つけることができなかった関係性や、感覚的に理解していたことをデータが裏付ける関係性など、多くの気付きを得ています」と越智氏は評価する。

AIの提案は1年で3倍に 今後は人材開発にも活用を推進

 ビッグデータから市場や顧客のニーズを分析して商談先を提案するAI行き先案内の効果は、既に数字として表れている。地主氏は「AI行き先案内で提案したAI商談は、2020年上期から2021年上期の1年で約3倍の7万4300件に増加しました。AI商談の効果は全体の商談件数の底上げにもつながり、2021年第1四半期には8.4%の増加率を達成しています」と成果を語る。

 成功のポイントとしては、AIが高い精度で営業の提案をできるようになったこと、それに伴い営業担当者がAIを信頼するようになったことが挙げられる。SPRという営業担当者が日々扱う営業ツールのカレンダーに、AIによる商談提案を上手に融合させていることも成功のポイントだ。

 dotDataの高速で自動化されたデータ分析の力は、AI行き先案内以外にも活かされる。「経営戦略として、人材開発部でもAI 活用を推進しています。dotDataの特徴量から社員のパフォーマンスを測定するといった使い方にも用途は拡大しています。特に、次世代の若手営業は、すぐに利用価値を見出し実績につなげています」(地主氏)。

 同社では今後も継続してAIをフル活用することで、営業担当者の生産性を高め、さらなる成長を目指していく考えだ。