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VUCA時代を生き抜くカギに!
サプライチェーンレジリエンスの実現手法とは?
VUCA(※)時代においては、需要と供給の不確実性がますます高まっている。企業がこれに対応していくには、予測精度の向上に加え、変動リスクに機敏に対応する「レジリエンス(復元力・回復力)」の向上が求められる。そのために欠かせないのが、データサイエンスによる意思決定支援である。サプライチェーンデザインと改革を専門とする早稲田大学 准教授の大森 峻一氏と、需要予測エヴァンジェリストとして活動するNECの山口 雄大に、サプライチェーンレジリエンス実現の手立てとデータサイエンスの可能性について話を聞いた。
- ※ VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語
なぜサプライチェーンレジリエンスが必要なのか
市場のグローバル化に伴うサプライチェーンの拡大、消費者ニーズの多様化などにより、需要の不確実性が増し、需要予測の難易度は高まる一方だ。
高度なAI技術を駆使しても、100%満足のいく需要予測を行うことは難しい。予測が外れたり、想定外の環境変化やリスクが発生したりする場合、軌道修正に時間がかかると、機会損失や過剰在庫を抱えてビジネスに大きなダメージを与える。ビジネスを取り巻く環境の不確実性が増す中、あらゆる可能性を想定して事前に対策を考えておく必要がある。
「変動リスクを想定して、需要予測に“幅”を持たせたさまざまなシナリオを描き、供給側も含めたサプライチェーン全体を最適化する。これが『サプライチェーンレジリエンス』の考え方です」とNECの山口 雄大は語る。
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アナリティクスコンサルティング統括部
需要予測エヴァンジェリスト
山口 雄大
とはいえ、過去のトレンド分析だけでは“幅”を持たせたシナリオを描くのは難しい。ビジネスを取り巻く環境は刻一刻と変化しているからだ。例えば、パンデミック前の需要予測ではコロナ禍の急激な市場変化に対応できない。これで手痛い思いをした企業も少なくないはずだ。
レジリエンスを高めるためには因果関係を整理することが欠かせない。「何が起こると、どれだけ需給に影響するのか。部材の調達コストや利益率、物流のリードタイムも商材ごとに異なります。当然、対策もそれぞれに考えなければいけません。直接の顧客やその先の市場の情報と、サプライヤーや物流パートナーの情報を入手して適切に分析し、対策をプロアクティブに考えていく必要があるのです」と山口は提言する。
そのために欠かせないテクノロジーがデータサイエンスである。予測に影響を与える環境変化が発生した場合にどうするか。その備えや選択肢を、シミュレーションによって事前に考えておくことを支援する手法だ。
「基本シナリオから現実が乖離してきたら、シミュレーションしておいた代替策を実施してサプライチェーンのアクションを軌道修正し、同時に最新データを使って、需要予測を見直します。これを繰り返すことにより、次の効果的な打ち手を常に考え、事業のレジリエンスを高めることが可能になります」と山口は語る。より適切な意思決定を迅速に行うことで、サプライチェーンの混乱や市場の変化による事業へのダメージを軽減できるという。
データサイエンスの活用によるサプライチェーンレジリエンスの実現に向けて、多方面で研究が進んでいる。NECでは高度な需給インテリジェンスを実現する「NEC Advanced-S&OP(Sales and Operations Planning)ソリューション」において、レジリエンスの向上を目指している。S&OPとは企業の戦略をオペレーションで実現するための意思決定プロセスのこと。需給情報の統合的な分析から経営へ有意義な示唆を提供する。
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「具体的には、需要予測に基づくシナリオ分析のほか、調達や物流の供給リスク、市場変化などを俯瞰して考察。ここから事業戦略の深化のための示唆を提供し、プロアクティブな需給リスク対策を提案し、レジリエンスのための高度な意思決定をサポートします」と山口は説明する。
データを基に変動リスクのシナリオを考えていく
学術レベルでもサプライチェーンレジリエンスの高度化に向けた研究が進んでいる。その第一人者の1人が早稲田大学 准教授の大森 峻一氏である。オペレーションマネジメントやサプライチェーンマネジメント(SCM)の専門家であり、予測と意思決定の融合やコラボラティブリスクマネジメント、サプライチェーンセグメンテーション、行動オペレーションマネジメントなどの研究に力を入れている。
サプライチェーンレジリエンスに向けた、大森氏の主要研究テーマが「データ・ドリブン・サプライチェーン最適化」である。「データサイエンスによって、より速く、より広くサプライチェーン上の問題を発見し、対策を立てるアプローチです」と大森氏は述べる。
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その研究の重要なキーワードが「ロバスト」だ。ロバストとは、環境の変化に対する力強さやしなやかさを持つことを意味する。「需要予測にはどうしても誤差が出るし、外れることもある。パンデミックや自然災害、地政学的なパワーバランスの変化など予測も付かないことが突然起こることもある。それを想定した上で、変動リスクのシナリオを考えておくわけです。需要と供給の不確実性を考慮したロバストサプライチェーンを目指しています」と大森氏は語る。
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創造理工学部・経営システム工学科 准教授
大森 峻一氏
大森氏の研究室ではさまざまな手法やアルゴリズムの開発に取り組んでいる。ここではその代表例を3つ紹介したい。
まず1つ目が「データ・ドリブン最適化とアウトオブサンプル・リグレット」だ。これは需要シナリオを最適化モデルで分析し、供給の最適解を導出する手法である。
「検証ではいい結果が出ても、実際の需給結果で答え合わせすると精度が下がることがあります。人が入力データを与えると、どうしても楽観的な予測に傾く傾向があるからです」と大森氏は説明する。これを見越して“幅”を持たせ、ロバスト力を高めるために試行錯誤を重ねているという。
2つ目は「サプライチェーンセグメンテーションと解釈可能な最適化」の研究だ。
最適化モデルにより、仮に最適解が提案されたとしても「なぜそうなるのか」がわからないとブラックボックス化してしまう。例えば、需要に季節性を持つ商材もあれば、商材ごとに部材の調達コストや利益率なども違うことがある。当然、変動リスクやそれによる事業への影響度も変わってくる。「商材などのセグメンテーションごとに『なぜそうなるのか』『条件が変わったから、こうした方がいい』といった理由がないと、意思決定しづらい。その裏付けとなる解釈可能性を高める研究を進めています」(大森氏)。
3つ目が「人間の心理・行動の考慮と選択ベース最適化」の研究だ。サプライチェーンは多くのステークホルダーとの連携で成り立つ。自社の思惑通りに他者が動いてくれるとは限らない。バイアス(思い込み)や個人的・社会的選好といった行動経済学、在庫管理や物流のオペレーションまで考慮してサプライチェーンの最適化を考える必要がある。こちらの選択によって相手はどう動くか。それによってサプライチェーンがどんな影響を受けるかまで考えて意思決定するわけだ。一種のリスクコントロール手法といってもいいだろう。
こうした学術研究成果をSCMに取り入れていけば、レジリエンスが向上し、リスクや環境変化に強いサプライチェーンを実現することが可能だという。
データサイエンスと現場の知見を併せ持つ人材が不可欠
それではサプライチェーンレジリエンス実現に向け、企業には何が求められるのか。必要なケイパビリティは大きく4つある。
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1つ目は「サプライチェーンモデリング」。サプライチェーンの上流から下流まで各業務領域の現実に合ったモデリングを行うことである。2つ目は「エンド・ツー・エンドのデータベース」の整備だ。こちらもサプライチェーンの上流から下流までカバーしたデータの収集と管理を実現することが重要となる。また、分析結果には「なぜそうなのか」という解釈性も求められる。3つ目が「アジャイルなS&OP」。近年では月次ではなく、より短期の隔週など、環境変化に合わせた迅速な意思決定をサポートできる仕組みが必要だ。そのためにシステムとプロセスには継続的な投資を行うことが求められる。そして4つ目がそのS&OPを支える「KPI管理」である。顧客ごと、製品ごと、エリアごとの在庫充足率、コストと利益率、在庫回転率なども詳細に把握し見える化していくわけだ。
ただし、この実現に向けては課題もある。SCMの知見や経験だけでなく、財務指標分析、取引先経営分析、投資対効果試算などファイナンスの知見も必要になるからだ。加えて、ハザードリスク、財務リスク、オペレーションリスク、戦略リスクなどを見える化し、適切な判断力も求められる。これらを兼ね備えた人材を見いだすことは容易ではない。
「こうした人材育成は産学連携で進める必要があります。SCMは企業の現場から発展していった学問です。問題解決の研究は研究室で行えますが、問題の発見となるとそうはいきません。現場に入り込まないと、現場の問題はわからないからです。このため企業と大学・学術機関との共創による教育・研修プログラムが必要だと考えています」と大森氏は述べる。既に大学の学生を企業に派遣するインターンシップのような活動を始めているという。
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こうした取り組みが核となり、産学の視点を兼ね備えたデータサイエンスの活用が進み、より強靭なサプライチェーンレジリエンスの実現が可能になるだろう。
NECでもさまざまな取り組みを進めている。サプライチェーンの幅広いテーマについて深掘りする需要予測サロン「デマサロ!」の配信もその1つだ。これは需要予測エヴァンジェリストの山口が、さまざまな分野の専門家と「知の共創」を届ける対話型のWeb番組。需要予測にかかわる実務担当者はもちろん、SCMの高度化やS&OPプロセスの構築を検討しているマネジメント層にも学びのある内容となっている。
ほかにも学術知見や類似事例などを紹介し、SCM変革の方向性を提言する「需要予測相談ルーム」も運営している。「需要予測AIは本当に実務に使えるのか」「需要予測のために何から始めればいいのか」といった幅広い相談に応じる。直近2年間で130社程度の相談実績がある。
サプライチェーンの課題は企業によってさまざまだ。まずその課題に耳を傾けることから始める。NECがこうした対話型Web番組や相談ルームを提供するのはそのためだ。今後もNECは産学連携を視野に入れ、VUCA時代を生き抜くカギとなるSCMの高度化を強力に支援していく。
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