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「Zoom×NEC」の共創が日本の現場を強くする
~生体認証とコミュニケーションが融合した未来の世界

 コロナ禍でテレワークが浸透し、在宅勤務と出社を組み合わせたハイブリッドワークも広がりを見せている。しかしその一方で、在宅勤務のメリットを享受できるのはオフィスワーカーのみで、現場に通わざるをえないエッセンシャルワーカーにはそのメリットが届いていないのも事実だ。また、さらなる使い勝手の向上やセキュリティの課題も残されている。今後、よりスマートなデジタル社会を実現させていくには、どんな解決策が求められるのか。Forbes JAPAN Web編集長の谷本 有香氏が、ZVC JAPAN株式会社(Zoom) 社長の佐賀 文宣氏と、NECの吉川 正人に話を聞いた。

  • 本コンテンツは、NEC Visionary Week 2022生体認証の役割~スマートなデジタル活用に向けて~を基に、再編集を加えたものです。

「現場はリモートワークできない」という課題を解決したい

Forbes JAPAN 谷本氏(以下、谷本氏):コロナ禍によってテレワークが浸透し、企業の働き方は大きく変わりました。普段は在宅やリモートで仕事を行い、必要な時に出社するといったハイブリッドワークも広がりを見せています。NECでもハイブリッドワークを実践していますね。

Forbes JAPAN
執行役員
Web編集長
谷本 有香氏

NEC 吉川(以下、吉川):NECでは、2018年から本格的な働き方改革をスタートさせました。それ以降、フリーアドレス化などのオフィス改革、全社員を対象としたテレワークやスーパーフレックスの導入、AIによる業務効率化といった取り組みを順次進めてきました。その結果、2019年末以降の新型コロナウイルスの感染拡大にも柔軟に対応でき、テレワーク率85%程度を維持するなど、従業員一人ひとりの働き方が大きく変化しています。現在は、従業員が必要に応じて出社するハイブリッドワークを実践しており、私も出社することが増えてきています。

谷本氏:吉川さんも最近は出社する機会が増えたということですが、チームやプロジェクトメンバーが分散する中、社内外の方とどのようにコミュニケーションをとっているのですか。

吉川:新しい働き方を支えるツールの1つとして、定着しているのがZoomです。当社の会議室にはZoom Roomsが設置されているので、出社したときは、ほとんど会議室にこもってZoomを使っています。多いときは1日15,6回以上使っていますね。Zoomは圧倒的に使いやすいので、本当にありがたい。

 実はNECとZoomとの出会いは古く、2017年にまで遡ります。NECグループ会社の1つが、当時まだ日本企業でもほとんど知られていなかった米シリコンバレーのZoom本社を訪問し、日本で初めて販売契約を取り付けたのがきっかけです。以来、NECグループは働き方DXを支える重要なコミュニケーション基盤の中核として活用。現在は、グループ12万人がZoom MeetingsやZoom Roomsなどを日常的に利用しています。

ZVC JAPAN(Zoom)佐賀氏(以下、佐賀氏):先進的なテクノロジー企業であるNECグループの方にZoomを使っていただけているのは嬉しいことですね。ただ、実は当社としては課題も感じています。というのも、ビデオコミュニケーションを使って在宅勤務をしているのはオフィスワーカーだけで、日本人全体からみると25%程度にすぎないのです。コロナ感染の危険があっても、毎日現場に通わざるをえないエッセンシャルワーカー(フィールドワーカー)に支えられて、オフィスワーカーは在宅勤務を行っていた。これが日本社会の現状です。私たちは、もっと現場でビデオコミュニケーションを活用していただけるような提案をしていく必要があるのではないか。そんな思いから、今回、NECさんと新たに協業することになりました。

ZVC JAPAN株式会社(Zoom)
社長
佐賀 文宣氏

生体認証が普及すれば「自分自身」が鍵になる

谷本氏:具体的には、どのような形で協業を進めているのですか。

吉川:今、検討中のテーマは2つあります。1つは、生体認証とZoomを組み合わせた新ソリューションを開発する「ソリューション協業」、もう1つは、オンライン・ミーティングの利便性とセキュリティを高める「開発協業」です。

 1つ目の「ソリューション協業」については、先ほど佐賀さんも指摘されたように、コロナ禍で「現場でも非接触で認証がしたい」「リモートでコミュニケーションができるようにしたい」といったニーズが高まりつつあると感じています。

 ただ、現場でZoomを利用するとなると、「PCなどの入力端末がないので、IDやパスワードを入力できない」、あるいは「作業中に長時間、画面を凝視したり操作したりするのは、安全面や作業効率の面で難しい」というように、さまざまな課題があるのも事実です。また、フィールドワーカーの方たちは、現場で同じ端末やタブレットを共用されているので、認証機能がないと不正アクセスが発生する懸念もある。こうした現場の課題に対する解決策となりうるのが、「ヒアラブルデバイス」の活用です。

NEC
生体認証・映像分析統括部
シニアディレクター
吉川 正人

谷本氏:ヒアラブルデバイスとはいったいどのようなものなのでしょうか。

吉川:NECの生体認証の1つ「耳音響認証」を搭載したイヤホン型のウェアラブルデバイスのことです。これを耳に装着すれば、個人の特定からZoom起動、ログインに至るまで、一連の流れをスムーズに行うことができます。顔認証のように画面を凝視する必要もなく、作業の手を止めずに、相手とリモートで会話することができるのです。

耳音響認証はNECが独自に開発した生体認証。耳穴への送信音に対する反響が、人によって異なることを利用して個人の認証を行う。すでに応援購入サービス「Makuake」を活用し、トゥルーワイヤレス型ヒアラブルデバイスの先行販売を行っている

佐賀氏:現場では「作業中は手が離せない」という方が多い。NECさんの耳音響認証の話を伺って、そのバリアを超えるための技術がここにある、と実感しました。それも今回の協業に至った理由の1つで、大変有意義な協業ができそうだと感じています。

吉川:このテクノロジーが現場全体の10%、20%でも採り入れられれば、日本の製造現場での安全性や生産性は飛躍的に向上するはず。現場の方もリモートワークができるようになり、さまざまな形での社会変革につながっていく。それは大きな価値を生み出すのではないかと考えています。

建設・作業現場向けアプリケーション
NECがヒアラブルデバイスを活用して開発した建設・作業現場向けアプリケーション。ヒアラブルデバイスを活用して、複雑な操作をすることなく、手軽にデジタルを活用することができる

谷本氏:従来、オフィスワーカーが享受していたビデオコミュニケーションのメリットを、フィールドワーカーも享受できるような仕組みを作り上げれば、これまでにない付加価値を社会にもたらすことになりそうですね。とてもワクワクするお話です。その実現には、NECが得意とする生体認証の技術の進化があるわけですね。

吉川:おっしゃる通りです。当社は「Bio-IDiom(バイオイディオム)」という生体認証のブランドをつくり、顔、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、耳音響の6つをラインアップしています。なかでも、顔認証や虹彩、指紋の技術は世界No.1と高く評価され、グローバル調査会社のフロスト・アンド・サリバンからは、当社は「セキュリティにおける生体認証市場のCLEAR WINNER」として高い評価を得ています。

 とくに顔認証では、その高度な認証精度を活かし、歩きながら顔認証ができる「ウォークスルー顔認証」を提供しています。これなら、マスクやサングラス、眼鏡を装着したままでも顔を認証できますし、10年前のパスポート写真でも顔認証ができるなど、経年変化にも強いのが特徴です。

 今回の、ヒアラブルデバイスが搭載する「耳音響認証」は、人によって形状が違う耳の中に音を反響させることで、「その人が誰か」を特定する技術です。これは耳に装着するだけで認証ができますし、人の体内に装着するので「なりすまし」も困難です。また、デバイスを耳に装着している間は継続して認証を行うことができるため認証のたびに特別な動作や意識をする必要がないのも特徴です。

谷本氏:仕事柄、NECの顔認証はよく耳にしますが、それ以外にもこれだけ多くの技術を有しているのですね。

吉川:さらにもう1つ、「究極の本人確認」ともいえるのが、顔と虹彩によるマルチモーダル(複数様式)の生体認証です。これは、当社の強みである顔認証と虹彩を組み合わせたもので、「認証エラー率100億分の1」を実現した認証デバイスの準備を進めているところです。今後、生体認証が本格的に普及すれば、現金・パスワードレスの社会が実現し、カードやPINコードを併用する必要もなくなるでしょう。顔、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、声、耳音響を適材適所で組み合わせ、自分自身が鍵となりIDとなる、そんな世界が実現する、と考えています。

顔・虹彩・耳、そしてマルチモーダルへ
NECは顔と左右の虹彩を組み合わせることで、“認証エラー率100億分の1”を実現。認証時にIDやパスワードの入力が不要になる社会の実現を目指している

Zoomの「人と人をつなぐ力」とNECの「現場力」に期待

谷本氏:2つ目のテーマである「開発協業」ではどのような取り組みをされる予定でしょうか。

吉川:
 開発協業で、私たちが目指しているのは、オンライン・ミーティングの利便性とセキュリティの向上です。デジタル化によって利便性が増す一方、問題となっているのが、膨大なログイン用パスワードなどの煩雑な管理です。これはセキュリティ上のリスクや高齢者のデジタルデバイド問題を生み出す一因にもなっています。

吉川:開発協業で、私たちが目指しているのは、オンライン・ミーティングの利便性とセキュリティの向上です。デジタル化によって利便性が増す一方、問題となっているのが、膨大なログイン用パスワードなどの煩雑な管理です。これはセキュリティ上のリスクや高齢者のデジタルデバイド問題を生み出す一因にもなっています。

 この問題を解く鍵となるのが、やはり生体認証です。生体認証は安全で使いやすい技術ですので、Zoomのログインに活用すれば、パスワードの入力に手間取って時間をムダにすることもなくなり、他人がZoomのミーティング・リンクをクリックして不正アクセスするリスクも回避することができます。

谷本氏:それができれば、業務も効率化して生産性が上がりますよね。Zoomを使用する際に、セキュリティを懸念される方がある程度いるのも事実です。この生体認証を使えば、セキュリティ上の懸念も払拭されて、より多くの方に使っていただくことができそうですね。

佐賀氏:おっしゃる通りです。我々もセキュリティをはじめ多くの投資を行い、体制もつくりながら真摯に取り組んできました。私たちは世界24拠点にデータセンターを持っていますが、ユーザの方がどのデータセンターを使うのか、どこにはデータを置かないのかということを、自身で選択できるようになっています。日本にも、東京と大阪にデータセンターを運営していますので、もし特定の国にデータが行かないようにしたいということであれば、使わないサーバーをユーザの管理者の方が設定するというコントロールもできます。

 さらにEnd to Endの暗号化も行えますし、映像や音声にまで電子透かしを入れて、どの参加者のデバイスから音声が漏えいしたのか、映像や写真がとられたかも追跡できるようになっています。もちろん注力しているのはセキュリティだけではありません。話した内容をリアルタイムにテキスト化する字幕機能や、英語で話した内容を日本語に翻訳して表示する翻訳機能など、常にユーザの使い勝手を考えた進化を続けています。

谷本氏:ここ1~2年だけでも、大きな進化を遂げているのですね。さらなる将来に向けて、2社は互いに何を期待していますか。

佐賀氏:私は、NECの現場力に大変期待しています。NEC自身が製造業で、数多くの現場を有してると同時に、様々な業種のお客様を抱えておられる。私たちもどんどん現場に出ていって、自ら現場力を身に付けたいと考えています。

 実際、現場力×生体認証×Zoomで解決できる課題は少なくないはずです。例えば、Zoom越しに会話をするだけで、「誰が会議に参加しているか」を認証し、自動的に出欠を取ったり、会議終了後に名刺情報が自動的に交換されたりと、さまざまな展開も考えられるでしょう。

吉川:Zoomは「人と人をつなぐ」「点と点をつなぐ」という価値に加え、今は「点と点の間」にあるサイバーの世界でいかに付加価値を付けられるか、という課題に取り組まれています。我々は、サイバー空間にいる人々の識別・特定を行い、その方たちがZoom上で行っている活動の利便性や付加価値をさらに高めていく。そういった形で、我々はZoomさんに価値を提供できるのではないかと考えています。

佐賀氏:テクノロジーの未来を語るのも楽しいですが、まずは「今のテクノロジーを、すぐに現場に役立てるにはどうしたらいいか」を考えることが重要だと思います。現場を理解して、今ご提案できることをきちんとご提案することに、真面目に取り組んでいきたいと思います。

吉川:NECもこれから、さまざまな新しい生体認証技術を提供していきます。まずは利用効果の高い領域をしっかり見て、Zoomと協力しながら、新しい価値を提供していきたいですね。