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2021年01月14日

なぜサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が注目される?
――企業に求められる稼ぐ力とESGの両立

 近年、より効率的で価値の高いビジネスの実現を目指して、多くの企業が業務のみならず企業文化や組織のあり方にも及ぶ大幅な改革に取り組んでいます。その典型が、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。しかし、株主、従業員、顧客など、さまざまな立場の人たちにとって魅力的で頼れる企業になるためには、競争力を高めるDXと同時に、持続可能性が求められます。そこでいま、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ばれる、新たな視点からのビジネス変革が注目を集めています。

DXからSXへ、いま注目を集める理由とは

 2019年11月、経済産業省は「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を設置しました。同検討会は、2020年8月に発行した「中間取りまとめ」を報告し、その中で企業の持続的な価値向上に向けて、SXを提案しました。その際、SXを「不確実性が高まる環境下で、企業が『持続可能性』を重視し、企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針」と定義しています。また、大きく2つの観点から、企業の戦略や施策、業務プロセスを検討する必要があるとしています。

 1つめの観点は、中長期視点から、事業のポートフォリオ(事業構成)、イノベーション創出に向けた種植えなどを管理・実践することです。市場のグローバル化やSNSなど、すばやい情報拡散の手段が普及したことで、顧客ニーズの多様化と急激な変化が顕在化しています。さらには、大胆なビジネスモデルの変革が必須になる業界も増えました。また、ディープラーニングや量子コンピュータのような新技術が登場し、その使いこなしの巧拙が企業の競争力を大きく左右するようにもなりました。

 こうした事業環境の変化に追随するためには、企業が保有する経営リソース(いわゆるヒト、モノ、カネ)は有限である一方、単純に現時点での採算性や貢献度だけに注目するのではなく、将来性を見据えた中長期視点での選択と集中が必要になります。

 もう1つの観点は、社会のサステナビリティ(持続性)を念頭においた経営を目指すことです。近年、コロナ禍や米中対立など、市場やサプライチェーンの状況、技術やビジネスモデルを創出・選択する際の前提となる価値観を激変させる不測の出来事が次々と起きています。こうした不確実性の中で、企業が持続的に稼ぐ力を養っていくためには、将来の社会の姿からバックキャスト(逆算)して、中長期的なリスクとオポチュニティ(事業機会)を把握し、経営に反映していくことが不可欠です。

 その際、ESGや国連が2030年での達成を目指す17の目標「持続的開発目標(SDGs)」などに関連した、足下の企業業績に直結しにくい事業も、その意義を熟慮して積極的に取り組むことが重要です。それが中長期的な企業の社会価値を向上させ、企業の将来事業を円滑に進めるための素地を生み出すからです。さらに、社会課題を解決するための製品・サービスの提供は、時代と社会の要請に応えるものであり、新たな成長事業へと発展する可能性があります。

SX実践に重要となる2つの観点
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SX実践に重要となる2つの観点

SXの実践には変化に柔軟に追随できる変革能力が欠かせない

 SXを実践していくためには、「ダイナミック・ケイパビリティ」が欠かせません。ダイナミック・ケイパビリティとは、変化を知る「感知力」、変化の意味を理解する「捕捉力」、あるべき姿に向けて対応・適応・改革する「変容力」の3つの力を要素とした企業の能力です。そして、この3つの力の底上げに、ICTの活用が極めて重要になります。

 業務のデジタル化が進み、顧客や商品のデータには、時代や社会の変化を映す貴重な情報が含まれるようになりました。「感知力」を高めるためには、より質の高いデータをより多く収集できるシステムの構築が欠かせません。

 また、一見ありふれた、取るに足らない現象が、将来の大きな変化の兆しであることがあります。ビッグデータ解析や人工知能(AI)などを活用することで、事業環境の変化を可視化して傾向を探ったり、先に何が起きる可能性が高いのか正確に予測したりできます。これらICTの活用で企業の「捕捉力」は飛躍的に高まり、変化の兆しを見逃さずに対処することができるのです。

 さらに、変化に対処するための手法も、過去の多くのナレッジの中から適切な類似手法を迅速に検索し、タイムリーに対処できるようになりました。量子コンピュータのような新しい技術を用いて、既存のコンピュータや人間の頭では試算できなかった組み合わせの最適化も可能になりつつあります。こうしたICTは、「変容力」の向上をもたらす強力なツールになります。

動き出す遠い未来も視野にいれたビジネス変革

 ICTの活用例の中から、SX的発想で行われているビジネス変革の例をご紹介します。

 まずはAIを活用した再生可能エネルギー利用の安定化です。短期的な経済効率から見れば、化石燃料の活用には合理性があります。しかし、地球環境の保全という観点から、再生可能エネルギーの活用は持続可能な社会に欠かせません。発電量が天候などに大きく左右される経済効率が低い手段を、上手に使っていく必要があるのです。そこで、AIを活用して天候の変化による発電量の変動予測や量子コンピュータを活用した配電計画の最適化などによって、需給バランスが取れる電力活用法を実践する試みが出てきました。

 また、農業を持続的な産業に変える取り組みも進んでいます。日本の農業が衰退している一因として、作業量の割に収益が得られない点が挙がります。そのため、高度な技能を持つ篤農家も後継者がいない状態です。短期的視点からはお手上げ状態なのですが、ICTを活用することで農業の魅力を高めようとする試みが数多く行われています。例えば、篤農家の目配りをIoTで、知恵をAIでシステム化し、質の高い作物を大量に生産して高収益が得られる魅力的なビジネスに、農業を変える取り組みが実践されています。

SXはDXの価値を拡張する

 先述したように、多くの企業が取り組んでいるDXは、現時点の事業の効率化と価値向上を目的とした取り組みになりがちです。そこにSXの視点を取り入れることで、事業環境が変化しても持続的に強みを発揮できる事業体制を構築できるようになります。

 DXとSXは、どちらかを選んで取り組むようなものではありません。2種類の発想を、描いたビジョンに合わせて組み合わせ、改革を進めていくものです。

DXの価値を拡張するSX
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DXの価値を拡張するSX

 2020年になり、日本では「失われた30年」という言葉が聞かれるようになりました。新型コロナウイルス感染症の脅威もいつ去るかわかりません。このような状況のときこそ、企業は100年先をも見据え、ビジネスの競争力と持続力を同時に養うことが求められるのです。その実現のためには、いま多くの企業が向き合っているであろうDXにSXの視点を加え、それぞれの取り組みを同時に進めていく必要があるのではないでしょうか。

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