SXとは?注目される理由や実践事例、DXとの違いをわかりやすく解説
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近年、より効率的で価値の高いビジネスの実現を目指して、多くの企業が業務のみならず企業文化や組織のあり方にも及ぶ大幅な改革に取り組んでいます。その典型が、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。しかし、株主、従業員、顧客など、さまざまな立場の人たちにとって魅力的で頼れる企業になるためには、競争力を高めるDXと同時に、持続可能性が求められます。そこでいま、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ばれる、新たな視点からのビジネス変革が注目を集めています。
SX(サステナビリティトランスフォーメーション)とは?
SXとは、「企業経営を取り巻く環境の不確実性が一段と増す中で、『企業のサステナビリティ』と『社会のサステナビリティ』を同期化させた上で、企業と投資家の対話において双方が前提としている時間軸を長期に引き延ばす経営の在り方や対話の在り方」を指します。
出典:サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ|経済産業省
2019年11月、経済産業省は「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を設置しました。同検討会は、2020年8月に発行した「中間取りまとめ」を報告し、その中で企業の持続的な価値向上に向けて、SXを上記のように提案しました。
また、大きく2つの観点から、企業の戦略や施策、業務プロセスを検討する必要があるとしています。
①中長期視点での経営リソースの配分
1つめの観点は、中長期視点から、事業のポートフォリオ(事業構成)、イノベーション創出に向けた種植えなどを管理・実践することです。市場のグローバル化やSNSなど、すばやい情報拡散の手段が普及したことで、顧客ニーズの多様化と急激な変化が顕在化しています。さらには、大胆なビジネスモデルの変革が必須になる業界も増えました。また、ディープラーニングや量子コンピュータのような新技術が登場し、その使いこなしの巧拙が企業の競争力を大きく左右するようにもなりました。
こうした事業環境の変化に追随するためには、企業が保有する経営リソース(いわゆるヒト、モノ、カネ)は有限である一方、単純に現時点での採算性や貢献度だけに注目するのではなく、将来性を見据えた中長期視点での選択と集中が必要になります。
②社会のサステナビリティを念頭に置いた経営
もう1つの観点は、社会のサステナビリティ(持続性)を念頭においた経営を目指すことです。近年、コロナ禍や米中対立など、市場やサプライチェーンの状況、技術やビジネスモデルを創出・選択する際の前提となる価値観を激変させる不測の出来事が次々と起きています。こうした不確実性の中で、企業が持続的に稼ぐ力を養っていくためには、将来の社会の姿からバックキャスト(逆算)して、中長期的なリスクとオポチュニティ(事業機会)を把握し、経営に反映していくことが不可欠です。
その際、ESGや国連が2030年での達成を目指す17の目標「持続的開発目標(SDGs)」などに関連した、足下の企業業績に直結しにくい事業も、その意義を熟慮して積極的に取り組むことが重要です。それが中長期的な企業の社会価値を向上させ、企業の将来事業を円滑に進めるための素地を生み出すからです。さらに、社会課題を解決するための製品・サービスの提供は、時代と社会の要請に応えるものであり、新たな成長事業へと発展する可能性があります。
企業のSDGsに対する取り組みについては、下記の記事をご覧ください。
2021年08月30日
SXが注目を浴びている背景
SXが注目を浴びる背景には、企業の社会的責任の追求や持続可能な成長への意識の高まりがあります。SDGsやESG、人材資本経営といった考え方が広まる中で、企業はビジネスのあり方や経営戦略を見直し、社会的な課題の解決と共存・共栄を目指す必要があります。
社会的責任の観点
社会的責任の観点から見ると、「SDGs」と「ESG」の2つの観点が主に注目を集めている要因として挙げられます。
SDGsの観点では、SXは持続可能な社会と環境を実現するための企業の取り組みとして注目されています。企業はビジネスモデルや経営戦略を再構築し、社会的な課題の解決や環境への負荷軽減に向けた取り組みを行うことが重要です。
ESGの観点では、2006年に国連が発表した国連責任投資原則の中で、ESGが新たな投資の判断軸になる旨を記載していたことから注目度が高まってきている背景があります。ESGとは、環境:Environment・社会:Social・ガバナンス:Governanceの3要素を指します。
企業には環境負荷の削減、社会的責任の果たし方、透明性の確保など、ステークホルダーの利益を総合的に追求することが求められます。
人財資本経営の観点
SXは人材の育成や多様性の推進にも関連します。企業が従業員の能力開発や働き方改革の推進に注力すると、従業員は快適に業務に取り組むことができるようになると期待でき、企業の競争力にも影響します。
また政府機関や経済団体は、SDGsやESGに加え、人材資本経営の観点からもSXを推進しており、企業に対して方針や指針、支援策を提供しています。
SXは企業の競争力や持続的な成長を支える重要な要素となっており、経営に取り入れることで、社会的な価値創造と長期的なビジネスの成功に繋がります。
SX実践に必要なダイナミック・ケイパビリティとは
SXを実践していくためには、「ダイナミック・ケイパビリティ」が欠かせません。ダイナミック・ケイパビリティとは、変化を知る「感知力」、変化の意味を理解する「捕捉力」、あるべき姿に向けて対応・適応・改革する「変容力」の3つの力を要素とした企業の能力です。そして、この3つの力の底上げに、ICTの活用が極めて重要になります。
業務のデジタル化が進み、顧客や商品のデータには、時代や社会の変化を映す貴重な情報が含まれるようになりました。「感知力」を高めるためには、より質の高いデータをより多く収集できるシステムの構築が欠かせません。
また、一見ありふれた、取るに足らない現象が、将来の大きな変化の兆しであることがあります。ビッグデータ解析や人工知能(AI)などを活用することで、事業環境の変化を可視化して傾向を探ったり、先に何が起きる可能性が高いのか正確に予測したりできます。これらICTの活用で企業の「捕捉力」は飛躍的に高まり、変化の兆しを見逃さずに対処することができるのです。
さらに、変化に対処するための手法も、過去の多くのナレッジの中から適切な類似手法を迅速に検索し、タイムリーに対処できるようになりました。量子コンピュータのような新しい技術を用いて、既存のコンピュータや人間の頭では試算できなかった組み合わせの最適化も可能になりつつあります。こうしたICTは、「変容力」の向上をもたらす強力なツールになります。
SX的発想のビジネス変革事例
ICTの活用例の中から、SX的発想で行われているビジネス変革の例をご紹介します。
AIを用いた再生可能エネルギーの利用
まずはAIを活用した再生可能エネルギー利用の安定化です。短期的な経済効率から見れば、化石燃料の活用には合理性があります。しかし、地球環境の保全という観点から、再生可能エネルギーの活用は持続可能な社会に欠かせません。発電量が天候などに大きく左右される経済効率が低い手段を、上手に使っていく必要があるのです。そこで、AIを活用して天候の変化による発電量の変動予測や量子コンピュータを活用した配電計画の最適化などによって、需給バランスが取れる電力活用法を実践する試みが出てきました。
ICTを活用した持続可能な農業
また、農業を持続的な産業に変える取り組みも進んでいます。日本の農業が衰退している一因として、作業量の割に収益が得られない点が挙がります。そのため、高度な技能を持つ篤農家も後継者がいない状態です。短期的視点からはお手上げ状態なのですが、ICTを活用することで農業の魅力を高めようとする試みが数多く行われています。例えば、篤農家の目配りをIoTで、知恵をAIでシステム化し、質の高い作物を大量に生産して高収益が得られる魅力的なビジネスに、農業を変える取り組みが実践されています。
SXの実践事例
SXに取り組めていない企業も多い中、積極的にSXに取り組み、成果を上げている企業も存在します。ここからは、SXに取り組んでいる企業の事例を解説します。
大林組
大林組では、サステナビリティを推進するべくサステナビリティ委員会を設けています。サステナビリティ委員会では、サステナビリティ化における問題点の発見やその課題への対応方針の策定、そして経営層・取締役会に対して提言をし、実際に執り行う際の実施状況の確認を行っています。
サステナビリティ委員会に加えて、大林組は様々なサステナビリティの取り組みも行っています。その中のひとつに「環境に配慮した社会づくり」があり、持続可能な社会を実現するためサプライチェーン全体で脱炭素・循環・自然共生社会づくりに取り組んでいます。温室効果ガス排出量の削減、廃棄物の発生の抑制と再資源化、生物多様性の保全と自然保護など、「脱炭素」「循環」「自然共生」社会の実現に向けて事業活動全体を通じた環境負荷低減の取り組みを行っています。
ユニリーバ
ユニリーバでは、「サステナブルな暮らしを”あたりまえ”にする」ことをユニリーバのパーパス(目的・存在意義)に掲げてサステナビリティな活動に取り組んでいます。
地球の未来を改善すべく、気候変動へのアクションとして2039年までにCO2排出量実質ゼロを目指し、事業活動全体にわたって再生可能エネルギーに移行しています。また、人々の健康、自信、ウェルビーイングを改善すべく、誰もがおいしくヘルシーな食事を楽しめるようにすること、食品がつくられ消費されるまでのフードチェーンからの環境負荷の削減、植物由来の製品ポートフォリオの拡大に取り組んでいます。
NEC
NECは、2020年に発表した会社の存在意義や行動原則と個人とのつながりを示す「NEC Way」に基づき、サステナビリティ経営を推進しています。そのなかで下記の2つの組織を設立し、社内外の声を活かせる仕組みをつくりました。
- サステナビリティ戦略企画室:NECのサステナビリティ推進を目的とした専門組織
- サステナビリティ・アドバイザリ・コミッティ:社外の専門家・有識者が諮問する委員会
環境問題に対してNECは、”2014年7月に気候変動対策への貢献による社会価値を定量化し、2020年度にサプライチェーン全体のCO2総排出量に対して5倍のCO2削減貢献”という目標に焦点を定めました。この目標の達成に向けて、ICTを使った高度な社会インフラを提供する「社会ソリューション事業」を通じて、気候変動の緩和と影響への備えの両面で貢献を強化してきました。その結果、2020年には7.7倍のCO2削減貢献を実現しました。今後も更なるCO2排出量の削減を目指しています。
出典:NECのサステナビリティ経営: サステナビリティ経営 | NEC
出典:Sustainability Report サステナビリティレポート 2021
SXとDXの違い
先述したように、多くの企業が取り組んでいるDXは、現時点の事業の効率化と価値向上を目的とした取り組みになりがちです。そこにSXの視点を取り入れることで、事業環境が変化しても持続的に強みを発揮できる事業体制を構築できるようになります。
DXは、企業においては主にデジタルを活用してビジネスモデルや業務に変革を起こし、企業競争力・企業価値の向上を目指します。
一方で、SXは単に企業の成長のみならず、社内外を問わない持続性の向上を目的としています。
DXとSXは、どちらかを選んで取り組むようなものではありません。2種類の発想を、描いたビジョンに合わせて組み合わせ、改革を進めていくものです。
企業の未来を左右するSX
2020年になり、日本では「失われた30年」という言葉が聞かれるようになりました。新型コロナウイルス感染症の脅威もいつ去るかわかりません。このような状況のときこそ、企業は100年先をも見据え、ビジネスの競争力と持続力を同時に養うことが求められるのです。その実現のためには、いま多くの企業が向き合っているであろうDXにSXの視点を加え、それぞれの取り組みを同時に進めていく必要があるのではないでしょうか。