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将来を担う中堅メンバーから変革を拡げたい
リーダー育成に新しい風を吹き込んだカルチャー変革支援とは

 総合ものづくりサービス企業へと事業変革を進めているオークマは、それをリードする変革人材の育成に取り組んでいる。既存ビジネスに縛られない発想で新たな事業強化を担う人材を生み出したい。そう願いを込めて「“創る”ワークショップ」と名付けたプログラムでは、30代前半~40歳前後のメンバーを集め、変革の当事者である自覚を促したり、部門を超えた協力関係の構築を図ったり、共に新ビジネスのアイデアを構想したりしている。オークマのCHRO(最高人事責任者)である野﨑 あゆみ氏に話を聞いた。

総合ものづくりサービス企業を目標に掲げて事業を変革

 金属などの材料を削り出し、さまざまな部品を加工する──。機械をつくる機械として工作機械は「マザーマシン」とも呼ばれる。オークマは、世界を代表する工作機械メーカーの1社である。用途に応じた機種と、高い剛性と精度を可能にする高速かつ高品質な加工で自動車や航空機、医療機器、半導体などのものづくりを支えている。

 現在、同社は、製品に対する絶対的信頼を土台に、ものづくりプロセス全体を支援する「総合ものづくりサービス」企業として、社会に貢献し、世界をリードする存在となることを目標に掲げ、事業変革に取り組んでいる。創業から120年以上にわたり培った熟練の技を重要な礎としつつ、ロボットやIoT、AIなどの先端技術を積極的に取り込み、自律的に最適な加工を行うスマートマシンを実現したり、部品加工以外のプロセスをカバーするソリューションを開発したりして、顧客である製造業の生産革新により大きく貢献する。同社は、これからのオークマの姿を、そう見据えている。

 世界指折りの工作機械メーカーである同社だからこそ、多くの社員は既存ビジネスの中で成功体験を積み上げているし、誇りもある。それ故に、新たな事業変革を進めるためには、その成功体験を今後にどう生かすのか、何を新たに加えていくべきかを深く考え抜く必要がある。

 そのような中、どのようにして社員の意識を変革に向かわせるか。同社は、さまざまな取り組みを行っているが、人事・教育の面からもアプローチしている。

変革人材を育成するためのワークショップを開催

 「てっきり役員の人が会社を変えてくれるのだと思っていた。でも、変えるのは僕たちなのだとわかった」「変革なんて無理と思っていたが、できるような気がしてきた」。ある人事・教育施策の後、参加したメンバーが、このようにつぶやいたと言う。言葉からは、同社に変革意識が芽生えつつあることがうかがえる。

 では、具体的に、同社はどのような施策に取り組んだのか。

 例えば、以前は指定されたユニフォームを全社員が着用することが決められていたが、今は業務に応じて就業時の服装を自分で選択できる。工場などで着るユニフォームについても製造部門の若手・中堅社員を中心にデザインや機能性を見直し、その新しいユニフォームをこの秋から社員が着用している。

 「カルチャー変革は事業成長の土台となる。カルチャーを変えたいという経営トップの思いを、どのように実践していくか。まず目に見える部分から『オークマが変わる』ことを示したいと考えました。また、事業変革を前に進めるには、自分の頭で考え、意思決定を行っていかなければなりませんが、毎日、同じ決められた服装では『この洋服は、仕事に着ていくのにふさわしいか』を自分で判断することもありません。身近なところから自ら意思決定する習慣を身につけてほしいとも考えました。新ユニフォームのデザインをメンバーに任せたのも、彼、彼女らに何かを変える経験をしてもらうためです」とオークマのCHROを務める野﨑 あゆみ氏は言う。

オークマ株式会社
執行役員
CHRO
国家資格キャリアコンサルタント
GCDF-Japanキャリアカウンセラー
野﨑 あゆみ氏

 さらに30代前半~40歳前後の中堅メンバーを対象に変革を担う人材を育成するための「“創る”ワークショップ」を開催している。

 「変革を前進させるには新しい発想で、新しい事業を創っていくリーダーが必要になります。オークマには、その役割を担うポテンシャルを持った優秀な人材がたくさんいます。まだ、そのための訓練を十分に受けていないだけです。“創る”ワークショップは、その育成が目的です。この年代を対象にしたのは、これから管理職となり、リーダーシップを発揮していくのは、彼、彼女らだから。この層を中心に変革人材の母集団を形成し、徐々に拡大。段階的に全社の変革の輪を広げていきたいと考えています」と野﨑氏は話す。

数年前のNECとは印象が違う。変革の経験を借りたい

 同社と共に“創る”ワークショップを企画し、運営しているのがNECである。

 「人材育成支援の専門企業への依頼をほぼ決めていたのですが、土壇場で依頼先をNECに変えました。以前、NECの本社を訪問し、カルチャー変革に取り組んでいる森田さんや役員の方から、数年来、NECが大規模なビジネス変革に取り組んでいることを聞いたことがあります。その覚悟や苦労が強く印象に残ったと同時に保守的な印象だったNECの雰囲気が近年、ガラッと変わっていることが腑に落ちました。その経験をぜひオークマの人材育成に借りたいと考えたのです」と野﨑氏は言う。

 具体的に同社はNECが役員内で行った研修を中堅向けにアレンジして前述の“創る”ワークショップとして整備した。「既存ビジネスを見つめ、新たな事業の在り方の構想を練っていくワークショップです。カルチャー変革は経営層からがセオリー。そうお伝えしましたが、野﨑さんは、どうしても中堅メンバーを対象に同じワークショップを行いたいとのこと。その熱意に応えようと依頼を引き受けました」とNECの森田 健は話す。

NEC
ピープル&カルチャー部門 兼 コンサルティングサービス事業部門
ビジネスアプリケーションサービス統括部
カルチャー変革エバンジェリスト
森田 健

 “創る”ワークショップは、次の3つを目的に据えている。

 まず参加者に圧倒的な当事者意識を持ってもらうこと。既存ビジネスの中で上司から指示された役割を果たすだけでなく、自分もオークマのビジネスの成否や成長を左右する一員だという自覚を促すのである。「そう自覚することは、自分のキャリアをどのように形成していきたいかを考えるきっかけにもなります」(野﨑氏)。

 2つ目は、部門間の垣根を取り払い、協力体制を創ることである。全社的な変革を進めるには、部門横断的な取り組みが不可欠。しかし、同社は単一事業企業であるものの営業、設計開発、製造、サービス、バックオフィスなど、さまざまな部門間で交流する機会が少ないという課題があった。多様な部門から人が集まるワークショップを通じて、人と人のつながりを創り、困った時に頼ったり、切磋琢磨したりする関係を構築してもらおうと考えた。

 そして、3つ目は未来のビジネスモデルを考えることである。総合ものづくりサービス企業を目指すオークマは、工作機械を提供することに加えてさらにどのようなことができ、今後、どのような価値を提供すべきか。参加者全員で、新ビジネスのアイデアを練る。まさに変革の本丸となる活動である。

NECの統括部長からのアドバイスに目を輝かせる

 これらの目的のもと、“創る”ワークショップは、約半年をかけて合計4回のワークを行った。

 1回目は、現在のオークマのビジネスの可視化である。「ビジネスモデルキャンバスというフレームワークを用いて、ビジネスモデルを整理しました。現在のオークマ様の強みや課題が次々にあげられ、とにかく盛り上がりました。このメンバークラスで、これほど正確にビジネスモデルを表現できる人材はめったにいません」と森田は話す。

 それを踏まえて2回目は、これからのオークマのビジネスについて考えた。しかし、ここで空気が一変した。参加者のほとんどが新ビジネスをイメージすることができず頭を抱えてしまったのである。「1回目との落差の大きさは、言葉では表現できないほど。会場は終始、静まりかえっていました」と野﨑氏は振り返る。

 そこで、野﨑氏とNECは話し合い、急遽3回目の内容を変更した。

 「NECも社内研修やワークショップで行き詰まると、第三者を入れて刺激するといった工夫で状況を打破してきました。今回、オークマ様には顧客の課題を中心にとらえる『デザイン思考』を取り入れることを提案しました(図)。ワークショップを会議室からオークマ様の工場に移し、そこで働く人たちをお客様だと思ってヒアリングしたり、実際の仕事を生で見たりしながら課題を見つけ、その解決策を考えることで新ビジネスの構想を練ってはどうかと提案したのです。結果は大成功。工場に場を移した3回目のワークショップでは、『この業務は自動化できそう』『その方法をオークマから提案できないか』など、2回目の様子が嘘だったかのようにさまざまな意見があがりました」とNECの町田 正史は話す。

図 「NECのデザイン思考」フレームワーク
世界で実績のあるメソッドが用いられており、含まれるプロセスやツールなどを活用することで、デジタルビジネスを具体的かつスピーディーに進めることが可能
NEC
コンサルティングサービス事業部門
戦略・デザインコンサルティング統括部Future Creation Design
ディレクター
町田 正史

 最後の4回目は新ビジネスのアイデアを発表するプレゼン大会。東京のNEC本社で行った。「驚いたのはワークショップの関係者だけでなく、NECの統括部長が参加者のプレゼンを聞き、『収益化するには、この点を見直してはどうか』など、大変貴重な具体的な複数のアドバイスをくれたことです。参加者からすれば、自分たちが四苦八苦した新ビジネスの創出に、日々、取り組んでいる方からのリアルな意見。ものすごい集中力で目を輝かせながら聞き入っていました」と野﨑氏は言う。

“創る”ワークショップの様子

 そして、その日、東京から愛知への帰路の中で野﨑氏は、「てっきり役員の人が会社を変えてくれるのだと思っていた。でも、変えるのは僕たちなのだとわかった」「変革なんて無理と思っていたが、できるような気がしてきた」という前述したメンバーのつぶやきを聞いたのである。

“創る”ワークショップの参加者たち

部門を超えたつながりや意識の変化が大きな成果

 ワークショップの参加者たちは、参加した意義や成果を次のように話す。

 「私の所属は情報システム部ですが、他部門の同僚とやり取りする機会はとても限られています。それがワークショップを通じて顔見知りになっただけでなく、仕事の内容やこだわり、困っていることなどを生の声で聞くことができました。他部門の人とDXについて立ち話するなんて、以前では考えられなかったことです。またNECの統括部長の方から、私たちのアイデアに対して、オークマ内ではとても思いつかないたくさんのアドバイスをいただき、新たなビジネスを考える経験値の差に驚きました。この考え方を、その後の仕事でもかなり意識しています」(近藤 真人氏)。

オークマ株式会社
情報システム部
近藤 真人氏

 「商品開発の仕事を行っていると、お客様の声やほかの人の意見をもっと聞いてみたいと思う場面があります。ワークショップを通じて、最前線でお客様と接している営業担当者や他の部門の人との幅広いつながりができました。開発に行き詰まった時、あの部門には、あの人がいる。ちょっと意見を聞いてみよう。そう思えるようになりました」(秋元 あゆみ氏)。

オークマ株式会社
商品開発部
デザインアーキテクチャ開発課
秋元 あゆみ氏

 「私は営業を担当しています。オークマのビジネスは、工作機械を提供すること。確かに間違いではないのですが、その枠を超えようという意識はありませんでした。しかし、ワークショップを通じて、どうすればお客様の課題を解決できるかを考えることが、総合ものづくりサービス企業を目指すオークマの新ビジネスにつながるのだと体感しました。その意識を持ち続けたいと思います」(永島 祥平氏)。

オークマ株式会社
営業本部 大阪支店 明石営業所
永島 祥平氏

 また野﨑氏は、参加者の上司から、ワークショップ参加後、メンバーの発言の質が変わったと聞いたそうだ。中堅層の意識が変わり、成長が加速すれば、上司は彼らに重要な仕事も任せるようになる。それによって権限委譲が進み、さらに変革のカルチャーが浸透するはずと野﨑氏は期待している。「来年、再来年と“創る”ワークショップを継続し、変えることを怖がらないリーダーを増やしていきたい。NECは、それに共に取り組んでくれる力強い仲間。大いに期待しています」と野﨑氏は語った。