本文へ移動

NECが本気で挑んだ「企業変革のリアル」
~どの企業でも起こる成長に向けた痛みの乗り越え方~

 NECは1899年の創業以来120年を超える歴史を歩んできた。「テクノロジーを核にイノベーションを生み出す」という強みは今も変わっていないが、巨額の赤字をきっかけに、直近15年はビジネスモデルの大きな転換を図っている。これは創業以来の大きな試みであり、さまざまな困難が立ちはだかり、多くの痛みを伴った。しかし現在、積み重ねてきた変革がようやく実を結びつつあり、経験・ノウハウを活かした、伴走型の変革支援サービスも提案しようとしている。ここでは、NECの変革の取り組みを振り返り、自らの知見やノウハウに基づく独自のメソッドと提供価値を深掘りしてみたい。

再建に向けてビジネスモデルを大転換

 NECは、いま変革の途上にある。「これぞ、チームの力。」をキーメッセージとする働き方改革「Smart Work 2.0」が進行中だ。個人の「働きがい」を向上させ、それをチーム力につなげていくことを目指している。

 「NECがパーパス(企業としての存在意義)として掲げる『社会価値の創造』は、決して一人では実現できません。チームや組織による共創が不可欠です。そこで会社は働き方を全社一律で決めず、チームで決定していく方針を打ち出しました。チームの状況に応じて、最適な働き方は異なるからです。チームごとに自分たちに最適な働き方を考えることに意味があるのです」とNECの森田 健は主張する。

NEC
人事総務部門
カルチャー変革エバンジェリスト
森田 健

 ここに至るまでは苦難の連続だったが、NECは外部の力を借りることなく、自らが変革を推進し、手ごたえをつかみつつある。「残念ながら変革はアウトソースできません。苦しくても、歯を食いしばって自分達でやり切るしかない」と森田は訴える。

 その途上では実にさまざまな課題に直面した。課題解決を支援するパートナーの存在は大きい。そこでNECは自らの経験・ノウハウを活かし、変革を支援する「アドバイザリーサービス」提供の準備を進めている。

 このサービスのコアはどのように形作られたのか。そこに踏み込む前に、まずNEC自身の変革の歴史を紐解いていきたい。NECが抜本的な変革の必要性を痛感したのは、2010年度から2期連続で赤字・無配となったこと。当時の遠藤社長のもと、NEC再建に向けた構造改革が始動し「2015中期経営計画」により社会価値を創造する「社会ソリューション事業」に注力する姿勢を打ち出した。

まず上層部が本気度を示し、現場社員の変革を牽引

 一方で新たな課題も浮き彫りになった。構造改革を重視するあまり、社員を“置き去り”にしてしまったのだ。「会社の成長の源泉は『人』です。社員が生き生きとやりがいを持って働くことできる環境が重要です。それがイノベーティブな行動や挑戦につながっていく」と森田は話す。

 そこで「2020中期経営計画」では、社員の力を最大限に引き出す「実行力の改革」に注力。社員の成長を促す人事評価制度とスマートな働き方を目指す「Project RISE」をスタートさせた。

 まず行ったのが、社員の声と徹底的に向き合うことだ。経営トップが約1万人のグループ社員と向き合い、直接対話する場を設けた。国内NECグループ23社、5万4000名以上からヒアリングも行った。

 その結果、「大企業病」「内向き文化」「無駄な仕事が多い」「スピードが遅い」など厳しい意見が相次いだが、結果は包み隠すことなく、グループ全社員と共有。その上で社員の声に基づく変革の要諦を「6つのキードライバー」に整理した(図1)。

図1 6つのキードライバー
社員の声をもとに実現すべきテーマを6つに整理した。経営力を再構築し、社員の主体性と創造性を最大限に引き出す。ハード/ソフト両面のアプローチで、この取り組みを支える仕組みを整備していく

 この実現を目指す取り組みの1つが、働き方改革「Smart Work」である。「Smart WorkはProject RISEの重要な柱。“働き方の改革”にとどまらず、人事制度改革、コミュニケーション改革まで踏み込んだものです」と森田は説明する。

 注目すべきは、まず会社の上層部から変革を行ったことだ。役員体制にメスを入れ、事業規模・機能に相応した役員を配置。役割と責任を明確化し、重複・重層化も排除してマネジメント体制をシンプル化した。雇用契約も改め、1年単位の委任契約に変えた。

 上層部が変革の本気度を示した上で、社員の人事制度改革に着手。フェアな評価とフィードバックで社員の成長を促す仕組みづくりを進めた。

 組織の風通しを良くするため、トップマネジメント層とのコミュニケーションも強化した。森田社長と社員がオンラインで直接対話するセッション「Town Hall Meeting」を月例で開催。2021年度、延べ11万8,500名が参加したという。

 柔軟な働き方を支える環境及び制度整備も推進した。フリーアドレス化やコワーキングスペース創設などのオフィス改革、全社員を対象としたテレワークやスーパーフレックスタイム制度の導入、デジタルワークプレイスの整備や承認の電子化などを実現した。

 これにより、新型コロナウイルスの感染拡大にも柔軟に対応することができた。緊急事態宣言のもとで出社制限が求められた中、85%のテレワーク率でも業務を継続し業績も維持できたという。

 一連の変革を市場も高く評価。2018年4月に約8000億円だった時価総額は、2021年3月末時点で倍以上の約1兆8000億円に大きく伸長した。

 「Project RISEスタート当時は、硬直状態から氷解し変化のための基盤を整備する『Un-freeze』のフェーズ。働く場所や時間、働き方そのものをできるだけ自由にしていく『働きやすさ』に力を入れてきました。現在は社員一人ひとりが自ら考え、自ら変わる『Change』のフェーズです。今後もこれを推し進め、変わり続けることを文化として定着させる『Re-freeze』を目指します」と森田は語る。

個の働きがいを向上させ、チーム力の強化につなげる

 こうしてProject RISEは新たなフェーズ「Project RISE 2.0」に移行。その一環として「人とカルチャーの変革」はバージョンアップされ、組織のダイバーシティを加速させるための人事施策を推進している。すでに4年前と比較してキャリア人材は500人以上、グローバル人材は約1万1000人、女性管理職比率も2.3%増加した。

 個人のキャリア形成を支援する「キャリアオーナーシップ」制度も導入している。これはジョブ型人事、社内人材公募制度を拡充するとともに、新会社のNECライフキャリアが“なりたい自分”を目指すキャリアデザインを強力にサポートするものだ。

 こうした変革を支える働き方改革も「Smart Work 2.0」に移行した。中でも重視しているのが「働きがい」の向上である。これまでの取り組みで「働きやすさ」の向上は一定の成果を収めた。これからは働きやすさに加え、より前向きに仕事と向き合い、喜びを感じられるようにしていくという。コロナ禍でテレワークが定着していく中、「もっとコミュニケーションを活性化したい」「組織の枠を超えてノウハウを共有したい」という声が数多く上がってきたからだ。

 そこで先述したように「これぞ、チームの力。」というキーメッセージを掲げ、働きがい向上をチーム力強化につなげる取り組みを進めているわけだ。

 こうした多様な施策を展開した結果、従業員と企業の信頼関係を示すエンゲージメントスコアが、2018年の14%から、2022年には35%まで向上した。引き続き、変革を推し進め、2025年までに同スコアの50%達成を目指している。

変革の“リアル”を知るNECはお客様の変革に伴走する

 先が読めない不確実性に対応するためには、変化に強い「変革メカニズム」を実現することが重要である(図2)。まずデータを活用し、ビジネスモデルを変革する。そして競争力を持続するためには、その変革を継続する必要がある。「変革し続けるためには、その取り組みを支える人・組織・文化の変革が不可欠です。ここに踏み込まないと、ビジネスモデル変革も継続しない。NECが変わることができたのは、人・組織・文化の変革を実現できたからです」と森田は訴える。

図2 変革のメカニズム
スピーディにビジネスモデルを変革させつつ、それを社会や市場ニーズの変化に応じて継続させていく。そのためには自ら考え、変革し続ける人・組織・文化づくりが必要となるため、段階的に変革のレイヤーを上げていくことが肝要だ

 その意味で、Project RISE及びSmart Workは、すなわち人・組織・文化の変革を目指す取り組みだと言えるだろう。その中で培った知見や方法論、それを支える先端テクノロジーは大きな強みだ。これが冒頭で触れたアドバイザリーサービスのベースになっている。

 その最大の特徴は、お客様に伴走して変革を支援すること。組織全体のマインドチェンジ、社員の主体性と創造性を引き出す働き方改革、制度改革とそれを支えるビジネスインフラの整備までワンストップで対応する。

 変革の構想段階から実行段階までには、多くの悩み・課題が発生する。問題解決のためにコンサルティング会社を活用する手もあるが、当事者意識が芽生えづらいといわれる。「NECはコンサルティング会社を使わずに、自ら変革をやり遂げました。それだけに変革の“リアル”を知っています。その知見や方法論、各種アウトプットは、同じく変革に取り組むお客様にとっても大きな価値となるはず。NECは『伴走型の戦略パートナー』として、お客様の“壁打ち相手”となり、同時に変革のアクセラレータとしてお客様の活動を加速します」とNECの松尾 貴彦はその強みを述べる。

NEC
戦略コンサルティングサービス部門
オペレーションコンサルティング統括部
組織・人事改革ディレクター
松尾 貴彦

 不確実性が増す変化の激しい時代の中で、すべての企業が変革の必要性に迫られている。人・組織・文化の変革は人事部の仕事ではなく、経営者の仕事である。そして変革は比較的業績のいい時に行うのが成功のポイントだという。「業績が悪化してからの変革は、病気に例えると外科手術。お金もかかるし血も流れます。業績が悪化する前に着手すれば、食事や生活習慣を変えるだけで健康になれる」と森田は話す。

 規模の大小や業種の違いはあっても、企業は生身の人間の集団である。NECで起こったことは、どの企業でも起こり得る。NECは変革の“リアル”を知る伴走型の戦略パートナーとしてお客様に寄り添い、働き方改革とその先の企業変革まで強力に支援していく考えだ。