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価値観を超えて共創する未来、業種を超えた対話の力
~BluStellar Communitiesイベントレポート~

 10月24日、NEC本社でイベント「BluStellar Communities Dialogue~異なる強みで、創るこれから~」が開催された。本イベントでは、最新技術を体感できる共創空間「NEC Future Creation Hub」のツアーや企業における生成AI活用をテーマにしたディスカッション、チームビルディングのワークショップなど多様なプログラムが展開された。イベントの締めくくりには、参加者同士が自由に交流できるネットワーキングの場も設けられ、会場は熱気と笑顔に包まれていた。当日はBluStellar Communities(※)で活動するメンバーを中心に、他社との交流に関心をもつさまざまな業種の方が参加。参加者はイベントを通し、旬なテクノロジーについての対話や異業種との交流に何を感じたのか。ここでは、参加者の好奇心と対話が交錯した、リアルだからこそ生まれる熱気に満ちた1日の様子を紹介したい。

  • さまざまな企業から集まったメンバーが、課題の検討や価値の共創を行い、対話を通じて互いの成長を目指すNECが運営するコミュニティ

最新テクノロジーの体感と生成AIの潮流を学ぶ

 イベントは、NEC Future Creation Hub(FCH)ツアーで幕を開けた。参加者はまず、複数名一括による顔認証登録を体験。ウォークスルーでの顔認証通過を経て、施設内へと足を踏み入れた。

 特に注目されたのが、NECが注力する生成AIの活用事例紹介だ。ここでは、NECの映像認識AIと生成AI(LLM)を組み合わせて、事故原因の分析から報告書作成までを自動化するデモが披露された。保険業務や製造現場など、さまざまな分野での活用が進んでいるという。また、NECが誇る顔認証技術は、現在では虹彩認証やマルチモーダル認証へと進化し、空港や公共施設などでの導入が進んでいる。

 そのほか、顔の表情からバイタルサインを読み取る技術やNECが提供する共同輸配送プラットフォーム、業務プロセスの可視化・改善を支援するプロセスマイニングの事例など、社会課題の解決に向けた技術の数々が紹介され、参加者の関心を集めた。見学ツアーを通じて、NECが描く未来社会の姿と、それを支える技術の最前線を体感した参加者たち。テクノロジーが人と社会にどう寄り添い、共創を促すのか――その可能性に触れる貴重な時間となった。

 見学ツアーが終了した後は「生成AI活用の可能性ディスカッション」と題したセッションが始まった。ファシリテーターを務めるのは、NECの魅力を伝えるMissionaryであり、生成AI領域のエバンジェリストとしても活躍する野口 圭。ディスカッションに先立ち、野口が生成AIの潮流と産業活用の現状について解説した。

NEC
AIテクノロジーサービス事業部門
シニアエバンジェリストNEC DX Missionary
野口 圭

 AIはまさに日進月歩で進化している。OpenAIが2025年9月25日に発表した、テキストによる指示だけで動画を生成する「SORA」の公開は、世界中の耳目を集めた。一方で、Googleも検索エンジンのトップ画面に「AIモード」を配置。「検索」の領域でも、AIを巡ってビッグテック企業が火花を散らしている。

 AIの影響はそれだけにとどまらない。日本の製造業を支える“匠の技”にも、その波は押し寄せている。テスラが開発を進めているAI搭載の人型ロボットが完成すれば、ロボット1体で数百種類の作業がこなせるようになる。生産現場がロボティクスによってデータ化されれば、日本が誇る熟練工の技術はAIによって丸裸にされ、海外に流出する恐れすらある。

 「Webとリアルを問わず、このままでは、日本の競争優位の源泉ともいえる“暗黙知”が根こそぎ奪われかねない。それを防ぐためにも、NECは使命感を持って日本のデータを守らなければならない、と強く思います」(野口)。

 ガートナーは、2025年は世界のAI支出が約1.5兆ドルに達し、スマートフォンやPC市場を上回ると予測している。ただし、生成AIのエンタープライズ用途での活用は課題も多い。特に難しいのが「費用対効果」の問題だ。

 「我々も100以上のユースケースを検討し、現時点で大きな原価低減につながる領域を模索し続けています。生成AIの活用は今まさに始まったばかり。自社の現状を互いに共有し、ゴールに向けて一歩ずつステップを踏むことが重要です」(野口)。

異業種間での対話を通して知見を広げる

 セッションの後はグループワークが行われた。最初の対話セッションのテーマは「(生成AIを使って)会社でトライしていること、トライしたいこと」。ここでは参加者それぞれが自社での取り組みや課題を共有し、異業種ならではの視点が交錯した。

 あるチームは、「AIで何ができるか、というイメージは共有されつつあるが、そこに至るまでのプロセスが明確ではない。ステップを踏んでゴールに向かうことが重要」との発表があり、段階的な導入の重要性が指摘された。

 また、別のチームからは、「膨大な資料の要約や翻訳にAIを活用し、仕事のスピード感は上がっている。だが、社内には現状を変えたくない人や、『AIの解答は本当に正しいのか』と疑いの目を向ける人もいる。縦割り組織の中で、固定観念をいかに打破するかが課題」といった声も上がった。

 さらに別の参加者は、AI推進担当として「便利さを実感させることが浸透のカギ」と述べ、現場に落とし込む工夫を重ねているという。実際にツールを使ってもらうためには、業務改善の実感を伴う体験が不可欠であり、推進者自身がその価値を伝えきれていないことへの反省も共有された。

 生成AIの導入においては、セキュリティの壁も大きな障害となっているようだ。特に機密情報の扱いに慎重な企業では、AIツールの利用が制限されるケースも多く、現場の創意工夫だけでは突破できない課題がある。ある参加者は「使いたい人は使っているが、使わない人はまったく使わない」と述べ、社内の温度差が普及の妨げになっていると指摘。こうした状況を打破するには、トップのコミットメントや制度設計、人材評価の見直しなど、組織全体が本気で変わる覚悟を持たなければ、AI活用は絵に描いた餅に終わる――そんな切実な声も上がった。

 続く第2セッションのテーマは、「会社における活用に向けての課題と解決ポイント」。再びチームに分かれて10分間ディスカッションが行われ、全体発表ではAI導入にまつわるいくつかの問題が議論の俎上に載せられた。

 特に印象的だったのは、レガシーな業務環境における抵抗感だ。ある参加者は「AIの導入は、自分たちのやり方が否定されるように感じる」と語り、長年の業務慣習が変化への壁となっている現状を指摘した。さらに「AIの出した答えに信頼性があるのか」という疑問に対して、「正しいオペレーションが行われているかどうか」を測るKPIなどの客観的指標がなければ説得が難しいという課題も共有された。

 そんな悩みを語る参加者もいれば、「上司としてAIネイティブ世代の部下とどう向き合い、彼らのパフォーマンスをどう評価すればいいかわからない」と、世代間ギャップに対する戸惑いの声も上がった。

 実際、若手社員は生成AIを“空気のように”自然に使いこなす一方で、上司世代はその成果をどう評価すべきか悩んでいるという。あるチームでは「暗黙知の継承が難しくなっている」という声もあり、従来の“秘伝のタレ”のような業務ノウハウが、AIによって可視化・再構築される可能性と、それに伴う不安が語られた。

 3つ目の対話セッションのテーマは「未来(10年後)に向けて、チャレンジしたいこと」。10年後を見据えて、どんな会社をつくり、どんな仕事がしたいのか。参加者は自分が見据える未来を自由に語り合った。

“チームビルディング”で理想のチームをつくる

 その後、BluStellar Communitiesの紹介(コラム参照)を挟んで、「チームビルディング ワークショップ体験」が行われた。このワークの目的は、チームメンバー全員の強みと弱みを共有して、相互補完しながら、一人ひとりの能力を最大限に引き出すチームづくりを体験することにある。

 このワークショップでは、まずは一人ひとりが、ワークシートに自分の「強み」「弱み」「自分が貢献できること」「皆に助けてほしいこと」を記入。次に、「各メンバーがどんな形でチームに貢献できるのか」、「チームが力を出せる/出せないのはどんな時か」をチーム全員で検討した。

 「普段からブレインストーミングをやる機会は多いのですが、『一人ひとりがどんな形でチームに貢献できるか』を議論したのは初めて。自分はわかっているつもりでも、実はわかっていないことが多いので、“言語化して伝える”体験を仕事にも活かしたいと思います」と、ある参加者は力強く語った。

業種を超えてつながることの価値が実感できた

 今回のイベント全体を通じて、参加者は何を感じたのか。BluStellar Communitiesのメンバーからは、こんな声が寄せられた。

 「今日は4時間があっという間に過ぎ、本当に有意義な一日でした。日ごろは会社に閉じこもりがちですが、イベントを通じて、世の中はあらゆる面で進んでいると痛感させられました。野口さんからのインプットも充実していましたし、イベントの進め方もよく練られていて学ぶところが多かった。それも含めて会社に持ち帰り、アップデートを図っていきたいと思います」。

 「以前、他社との協働プロジェクトに参画したことがあるのですが、互いに競合する部分と共創できる部分があり、他社から学べることは非常に多いというのが実感です。その意味で、さまざまな会社の方と出会えるBluStellar Communitiesの存在はとても貴重です。今後も情報交換の場として、ぜひ活用させていただきたいと思います」。

 なお、今回のイベントには、BluStellar Communitiesのメンバーだけでなく、未入会の参加者も加わり、率直な感想を披露してくれた。

 「このイベントを通じて、さまざまな業界の人と出会うことが、自分の価値観を広げる上でどれほど大切かを実感しました。これからはWebサービスが一層拡大していく時代。世界の動きに対応するためにも、新しい価値観を学び続けていく必要があります。今回、NECさんにその機会をいただけたことは、自分にとって本当に大切な“宝物”になりました」。

 ワークショップ終了後は会場を移動して、参加者が自由に交流するネットワーキングが行われた。会場は笑顔と熱意が飛び交う、まさに“共創の空間”となった。

BluStellar Communities──企業同士の交流が生む新たな学びと実践

 顧客の課題解決や共創を支援するBluStellar Communitiesがオープンしたのは2023年4月。発足以来、専門性の高い仲間と交流しながら実践的なノウハウが学べる新たな価値づくりの場として活動してきた。現在稼働中のテーマコミュニティは、「web3」「AI・データアナリティクス」「チェンジエージェント」「セキュリティ」「ロジスティクスシェアリング」「関西地域共創プログラム」「調達業務×生産性向上Lab」の7つ。企業や業種の枠を超えて有識者やメンバーと対話を重ねながら、事例紹介やディスカッション、フィールドワークなどを通じて日々探求を行っている。ここでは参加者によるBluStellar Communitiesへの評価について紹介したい。

●AI・データアナリティクス/株式会社ノーリツ 業務改革推進部 ビジネス変革スペシャリスト 大橋 祐一氏

 需要予測におけるAI活用の事例に興味があり、参加させていただきました。ほかのメンバーも同じような悩みを抱えていて、「こういう使い方もあるのか」と発見することも多く、大変有意義な時間を過ごしています。

●チェンジエージェント/SpireX株式会社 経営企画室 シニアエキスパート 渡邉 拓也氏

 私はチェンジエージェントのコミュニティに参加しています。組織変革を進めるうえで、他社の取り組みや考え方に触れることで、自社の課題を客観的に捉え直す貴重な機会になっています。特に、組織風土の醸成や人材育成に関する議論は学びが多く、日々の活動に活かせる示唆を得ています。自分なりの関心テーマを持って参加すると、より多くの気づきやメリットを実感できるはずです。

●ロジスティクスシェアリング/豊通ケミプラス株式会社 経営企画部 課長 金久 英治氏

 物流業界では2024年問題によるドライバー不足が深刻化しており、NECの共同輸配送プラットフォームを活用した実践的な取り組みに強い関心を持っています。現場でのハンズオンを通じて、業界全体での課題解決に向けた新しい視点を得ることができています。

●web3/株式会社デジタルガレージ web3事業部 Senior Specialist 越智 直樹氏

 ブロックチェーン技術や分散型サービスの可能性について、業種を超えたメンバーと議論できる場は非常に貴重です。特に、実証実験やユースケースの共有を通じて、理論だけでなく実践に基づいた知見が得られる点に魅力を感じています。メンバー同士でより深く共創できる機会があれば、さらに意義のある活動になっていくはずです。

●関西地域共創プログラム/株式会社NTTマーケティングアクトProCX CXソリューション部 主査 三好 淳一郎氏

 企業・行政・学校が連携して地域課題に取り組むこのコミュニティでは、少子化や教育など、社会的なテーマに対して実践的なアプローチが行われています。中学生との協働プログラムなど、普段の業務では得られない“生きた学び”が得られることに、大きな価値を感じています。