“運ぶ力”を企業間でシェアする時代へ
共同輸配送が描く物流戦略の最前線
2025年10月「なぜみんな、動きはじめたの?物流危機に挑む“一歩”の理由」と銘打ったイベントが開催された(NEC ロジスティクスシェアリングコミュニティが主催※)。そのテーマは「共同輸配送」の実現だ。当日は、コミュニティに所属する8社のメンバーが参加。第1部では、NECの「共同輸配送プラットフォーム」を活用する三井倉庫サプライチェーンソリューションの実践事例を紹介。続く第2部では、参加者全員による課題検討とグループディスカッションが展開された。本稿では、その概要をお伝えしたい。
物流危機で生まれた共同輸配送の可能性
ドライバーの働き方改革にともなう「2024年問題」で、物流業界はいま大きな転換点を迎えている。労働力不足や輸送能力の低下、物流コストの増大――。そんな“物流危機”への懸念が高まるなか、注目を集めているのが、複数企業がトラックを共用して荷物を運ぶ「共同輸配送」だ。
とはいえ、条件の合うパートナー企業を見つけ、日々変動する荷量を調整しながら、オペレーションを回すのは容易ではない。共同輸配送を最適化していくには段階的に5つのステップを踏んでいく必要があるからだ。このステップを少しでも前進させていくため、NECでは2024年10月に「共同輸配送プラットフォーム」の提供を開始した。
このプラットフォームは、AIと各社の物流データを活用して運行計画やサプライチェーンを最適化し、共配を効率的に実現するためのシステムだ。共同輸配送の進め方とプラットフォームの概要について、NECの梅田 陽介は次のように語る。
「NECでは共同輸配送の最適化に向け、企業の方々が課題を克服するための支援を行ってきました。このプラットフォームでは、『グルーピング』『プランニング』『オペレーション』という3つの機能を通じて、共同輸配送の計画作成から実行までをスムーズに行うことができます」
ロジスティクスソリューション統括部
プロフェッショナル
梅田 陽介
まず「グルーピング」で、各社が登録した物流ルートや車両種別などの情報をもとに、共通点のある企業を自動的に抽出し、共同配送の候補を見つける。次に「プランニング」では、入力された条件に基づいて相手企業とマッチングし、効率的な配送計画を立てる。最後に「オペレーション」で、自動生成されたルートをもとに、最終的な条件を確定し、実際の運行に移る仕組みだ。
「この3つの機能をシームレスに連携させることで、条件の不一致による手戻りを防ぎ、複数企業が相互に連携する“n対n”型(1対1ではなく、多対多の関係性)を効率的に実現します。これが『共同輸配送プラットフォーム』の目指すところです」(梅田)
共同輸配送プラットフォームが広げるビジネスチャンス
既に実践例もある。三井倉庫サプライチェーンソリューション(以下、三井倉庫SCS)との取り組みがそれだ。
三井倉庫ホールディングスとソニーの合弁会社として物流ソリューション事業を展開する同社が、「共同輸配送プラットフォーム」の利用を始めたのは2025年4月。導入の目的は、荷量の変動に左右されず、常に幹線ルートの高い積載効率を維持すること、また、荷主やほかの物流会社とのネットワークを広げることにあった。
「最近はドライバー不足の影響もあり、物流量が変動して既存トラック台数とのミスマッチが発生しても、急遽チャーター便の追加で対応するのは難しいのが実情です。そんなとき、NECさんから『共同輸配送プラットフォーム』の話を聞き、課題解決の糸口になるのではないかと感じました。また、このプラットフォームを利用すれば、営業ノウハウがなくても新しい荷主さんと出会える。この2点が、共同輸配送を始める決め手となりました」と三井倉庫SCSの石川 隆世氏は語る。
国内事業 国内輸送部 東日本課
石川 隆世氏
ただし、共同輸配送が軌道に乗るまでの道のりは平坦ではなかった。なかでも腐心したのが社内の各部署との調整だ。同社は全国に拠点を広げているが、そのすべてがハブ的な機能を備えているわけではない。石川氏は各拠点に連絡を取り、「NECのプラットフォームを使って共同輸配送を行うことになった。ついては共配の中継拠点として使いたいので、協力してもらえないか」と依頼して回った。
「共配自体、前例が少ないこともあり、『面倒な案件を持ってきた』と受け取られたこともあります。なかなか骨の折れる仕事でしたね」と石川氏は振り返る。
ほかの物流会社との協業により物流コストが削減された事例も
それでも粘り強く重要性を説き続け、2社との継続的な共同輸配送を実現。東京-名古屋間の幹線では、積載率の改善とチャーター便の削減、新規顧客の開拓にも成功したという。
その1つが、メーカー系物流会社と協業した事例である。もともと三井倉庫SCSでは、東京-名古屋の幹線輸送における積載率の低下や、物量波動への対応に悩みを抱えていた。そんなとき、やはり東京-名古屋で幹線輸送を行うメーカー系物流会社とプラットフォーム上で出会い、2社間でルートを共用する共同輸配送をスタートさせた。
「この幹線では月間500パレットの荷物を輸送していましたが、共配によって新規のお客様の貨物が上積みされ、月平均15~30パレットの増量を実現。当社の幹線からあふれた貨物もパートナーの物流会社に委託できるようになり、コストの高いチャーター便を削減することができました」(石川氏)
もう1つの事例は、工業計測器最大手・横河電機との共同輸配送である。横河電機は、東京から三重まで、大型の計測機器を定期的に輸送している。客先の工場への納品ということもあって、従来はフルチャーター便を利用していたが、長距離だと大型機械1点を輸送するにも4トン車をチャーターする必要があるため、積載率がなかなか上がらず、コストがかさむのが悩みの種だった。
そこで、三井倉庫SCSは横河電機に、2回の中継を挟む輸送方法への切り替えを提案。東京・大田区のハブ拠点を中継地として、名古屋まで共同輸配送を行い、名古屋で再び積み替えて、三重県内の客先に納品する仕組みをつくり上げた。
「荷物を途中で積み替えると事故の可能性も上がりますし、納品先ごとに軒先条件も異なります。このため調整項目は多岐にわたりましたが、結果として横河電機様はチャーター便の削減、当社は幹線便の積載率が20~30%向上し、収益を改善することができました」と石川氏。この取り組みは双方に大きなメリットをもたらし、今も定期的な協業関係が続いている。
「このプラットフォームを通じて、さらに多くの企業と新しい共同輸配送のかたちを探りたい。今後も継続して取り組みを進めていきたいと思います」と石川氏は前を向く。
プラットフォームを拡充して「運ぶ力」を創り出す
こうした成果が見込めることもあり「共同輸配送プラットフォーム」は徐々にその裾野を広げつつある。
「現在既に飲料、IT機器、日用品、家電、自動車部品、住宅設備、素材化学など多分野の企業が登録し、東京・中部・大阪・九州などの主要幹線を中心にルートを広げています。登録後1カ月以内にグルーピングが成立する企業は全体の85%以上に上ります」(梅田)
今後は2026年までにルートやエリアを拡大し、モーダルシフトにも対応。2028年には物流企画・経営支援までを担うプラットフォームへと進化させる計画だ。「今後もプラットフォームの機能やサービスを拡充し、新たな領域のデジタル化を進めたい。それによって“運ぶ力”を創り出し、さらに発展させていきます」と梅田は抱負を述べた。
交流しながら意見交換を重ね、今後に活かしていきたい
第2部のグループディスカッションでは、第1部のパネルディスカッションを踏まえ、参加者全員が自社の課題に向き合った。共同輸配送の取り組みにおいて、自社はステップ1〜5のどの段階にあるのか、今後の取り組みや外部リソースの活用をどう進めるか、というのが今回のテーマだ。
ステップ1の企業からは、「共同輸配送を誰が担うのか、どれほどの工数がかかるのか。まずはその整理が必要」との声が上った。また、自社内でのデータ収集も今後の課題として挙げられた。ステップ2の企業は、「共同輸配送のパートナーを見つけて、会社ごとに異なる荷姿や輸送ルートのデータを分析し、すり合わせすることが必要」とコメント。「専業ドライバーの協力を得るためにも、運行計画をしっかり作成し、ドライバーの負荷を軽減する必要がある」との意見が寄せられた。
既に共同輸配送に取り組むステップ3の企業は、「各社で日時やタイミングが異なるため、マッチングが難しい」と課題を指摘。一方、ステップ5の企業は、特積み(複数の荷主の貨物を1台のトラックにまとめて積む運送方法)による共同輸配送を既に実践しているが、「特積みには制約が多く、供給が不安定になりがち」なので、「共同輸配送プラットフォームで他社と情報を共有しながら、安定的に荷物を届けられる仕組みを実現したい」と思いを語った。
1時間を超える活発な議論の中で、共同輸配送に対する期待も高まり、議論は盛り上がりを見せた。「売上拡大につなげるためには、自社で蓄積したデータをフォーマット化することが不可欠」「トラックに積み込めない残荷の発生を防ぐためにも、業界全体で情報を共有すれば、物流の改善と社会貢献につながる」「こうした交流の場を活用しながら、意見交換を重ねていきたい」――そんな前向きな声が飛び交い、グループディスカッションは熱気のうちに幕を閉じた。