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「AI 時代に変化する消費者意識調査」を
デジタルエシックス視点で読み解く 02

変わりゆく消費者が企業に求める誠実さとは

 NECは、SNS、買い物・予約・支払い系サービス、エンタメ・コンテンツ視聴系サービスなど、日常的にデジタル サービスを使用している15歳から74歳の一般消費者1,597人を対象にアンケート調査を実施し、その結果を「AI時代に変化する消費者意識調査」としてまとめ、2025年11月27日(木)に公開しました。

 近年、企業活動においてその重要性が増している「デジタルエシックス」をより深く理解するために、本記事では公開済みの調査結果に加え、その背後にある多くのデータや追加分析を踏まえて、消費者のリアルな姿を見つめていきます。本調査から得られた多くの示唆をもとに、全5回にわたりご紹介していきます。

 第1回目は「AI/パーソナライズがもたらす消費者の期待と不安」と題して、どのような体験を消費者がしているかを見ていきました。第2回目は、調査結果「2.『覚醒した顧客』が変える企業との関係」から、変わりゆく消費者像に焦点を当てます。

 調査結果は以下リンクよりご確認いただけます。

AI時代に変化する消費者意識調査2025 | NEC

1.消費者の不誠実体験とダークパターンの具体例

 図表1と2は「AIやデータを活用したサービスに対し不誠実だと感じた体験」に関する調査結果です。今回は、この調査結果の詳細を見ていくことからはじめましょう。

 「過去にデジタル技術を活用して提供されるサービスの利用時に不誠実だと感じた人」の割合が8割を超えました。不誠実だと感じた体験の内容は「透明性の欠如」と「意図的ともとれる不親切なUX/UI」に大別されます。

 これらを読み解くには、消費者庁が2025年4月に公開した「いわゆる『ダークパターン』に関する取引の実態調査」※1で示された内容が参考になります。

 代表的なダークパターンはデジタル会員サービスを例にすると、以下のようなものが挙げられます。

  • 契約しているサービスの解約導線を意図的に隠す
  • Webサイト内で「解約」「退会」の文字やページを見にくくする
  • 画面遷移や必要なクリック数や手順を増やす
  • Webサイトで数多くのステップを踏んだあとに電話のみで受付を行い、その電話も混雑でなかなかつながらず時間を浪費させたあげく、さらに解約を踏みとどまらせるための特別な情報提供を行う

 これら以外にも数多くのダークパターンが世の中にあふれています。

2.顧客離反プロセス―不誠実体験がもたらす顧客行動の変化

 このような不誠実な体験が消費者行動にどのような変化を与えるのでしょうか。

 図表3が示す通り、顧客は不誠実な経験をすると「心」が離れ、「行動」で示し、「言葉」で広めるという「3つの顧客離反プロセス」を引き起こし、最終的にはそのサービスやブランドから離れていきます。つまり、単なる利用停止にとどまらず、否定的な口コミやSNSでの発信を通じて、他の消費者にも影響を及ぼす可能性があります。一度の不誠実な体験が、企業評価の新たな視点を消費者に与えると同時に、離反した顧客は企業の姿勢を厳しく評価する傾向があります。

3.企業の対応事例―ネットフリックスの取り組みとその意義

 では、企業やブランドはどのように対応すべきでしょうか。

 顧客との関係性を考えるうえで有益な取り組みとして、米国の動画配信大手ネットフリックス社の事例が挙げられます。ネットフリックスは世界中で3億人を超える有料会員を誇るサービスです。契約している有料会員のうち「一定期間アクセスしていないユーザー(休眠アカウント)に対しメールで「休眠アカウントですが大丈夫ですか?」と確認し、反応がなければ自動的に解約する※2取り組みを行っています。さらに解約後も一定期間は視聴データを保持して再開しやすい仕組みも提供しています。

 この取り組みを、表面的なマーケティングプログラムやイメージ向上を目指したキャンペーン、あるいはエシカル(倫理的な)ポーズでしかないと決めつけてしまうと現在のデジタル社会におけるマーケティングの本質を見失ってしまうことになります。ここから見えてくるのは、圧倒的な競争優位性と自社サービスへの絶対的な自信を前提に、価格競争力や競合他社との関係性、外部環境、市場成長率などを総合的に分析し、体験価値の最大化を目指して設計されたマーケティング施策です。結果として「3つの顧客離反プロセス」を回避するだけではなく、顧客がネットフリックスに対して抱くブランドロイヤリティへ昇華し、解約しても再び戻ってくる本当の意味でのLTV(ライフタイムバリュー)の最大化という成果に結実しています。

4.マーケティング理論の応用―コトラー氏の理論と現代消費者像

 では次に、図表4「品質の次に来る、新たな競争軸」と図表5「問われる企業姿勢と、企業からの発信内容」に関する調査結果を見てみましょう。

 この結果からは顧客の変化とそれを取り囲む外部環境の変化を企業側がどう捉えていくかが肝要になります。

 まず、図表4では、不誠実な体験をしたことがある人の43%が「品質や価格も大切だが、企業の姿勢や社会的な取り組みも重要」だと考えている結果になりました。このことから、現在の消費者が製品やサービスの品質だけでなく、企業の姿勢や発信内容も重視するようになったことがうかがえます。また、デジタル環境の変化により、消費者自身が、企業がどういう姿勢で自分たちに接しているか、自分たちをどう考えているか、その企業が信頼に足る存在かどうかを自分自身で見て判断しようとしているように考えられます。

 さらに、このような顧客を取り巻く変化は、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院マーケティング学名誉教授で「マーケティングの神様」と言われるフィリップ・コトラー氏が2021年に経営コンサルタントのH.カルタジャヤとI.セティアワンとの共著『マーケティング5.0 Marketing5.0:Technology for Humanity』※3で示した理論に通じます。

 マーケティング5.0とは、社会的責任や倫理性を含むブランドストーリーに価値を置くマーケティング3.0(人間中心)とデジタル化とオンラインとオフラインの融合を重視するマーケティング4.0(テクノロジーというイネーブラー)を統合したものと定義されています※4。そこでは、顧客との関係性をより深く、より長期的に築くことが重要なテーマとなっており、データドリブンとAIの活用が、それを支える主要な手段として示唆されています。

 この指摘は、本調査結果を読み解く上での道標になります。いかにすれば顧客満足度を高めることができるのか。良い製品や優れたサービスを提供するだけでは不十分です。これまで以上に、顧客との関係性、LTV(ライフタイムバリュー)を最大化するためには信頼関係が求められてきます。またマーケティング5.0では「カスタマー・ジャーニーの全工程で絶え間ないエンゲージメントを望む」※5としています。前述で紹介したネットフリックス社の事例のように顧客体験のあらゆるシーンで顧客との信頼関係を構築することができれば、自ずとLTVの最大化が見えてきます。これはビジネスの好機につながります。

5.デジタルエシックスと顧客エンゲージメント

 デジタルエシックスとはインターネットやAIなどのデジタル技術が発展する中で、決められたルールを守るだけでなく、社会の常識や価値観も踏まえて、人や社会にとって本当に望ましいデジタル利用のあり方を示す規範のことです。この考え方は「カスタマー・ジャーニーの全工程で絶え間ないエンゲージメントを望む」顧客と対話していくうえでとても相性が良いといえます。企業がデジタルエシックスを通して、顧客と倫理的かつ誠実に向き合うことで、信頼関係の構築につながります。

6.覚醒した顧客―新しい顧客像の考察

 最後は、新しい顧客像「覚醒した顧客」について考えてみます。

 「覚醒した顧客(購入・利用する商品やサービスを選ぶ際、企業姿勢や発信内容を意識することがとても増えたと回答した人)」(図表6)は自分自身で企業の倫理や姿勢の本質を見極めようとするだけではなく、SNS等での「評価」に積極的で大きな影響力を持つ存在です。市場における企業やブランドのロイヤリティを考えていく上で、注目すべき顧客層であり、デジタルの発展・浸透に伴い、このような顧客層はますます増加していくことが予想されます。

 野村総合研究所が2025年5月に発表した「AIと『デプス・エコノミー』(深さの経済)」のレポートにこの覚醒した顧客と向き合うためのヒントがあります※6

 当該レポートでは、同一製品の大量生産によってコスト競争力を高める「スケール・エコノミー(規模の経済)」に対して、これからは同一顧客との大量のインタラクションから顧客理解を深め、顧客満足度や顧客の支払意思額を高める「デプス・エコノミー(深さの経済)」が求められてくると説いています。AIの普及によって、サービスはより高度化・高速化し、より個別最適化を実現して、最終的には一人の顧客(N=1)に向けたサービスが生まれてくる「ディープ・カスタマイゼーション」が可能になります。個々の顧客に寄り添うサービスが、AIエージェントとデジタル技術で展開されていくわけです。

 デジタルエシックスの魅力は、多面的、多層的、多元的な対話の連続です。まさに、動的であり、一つの正解を導き出すものではありません。覚醒した顧客とともに「深さの経済」を追求することで、新しいビジネスの可能性が見えてきます。

7.まとめ

 商品・サービス品質だけでは選ばれない時代になる中で、「何を提供するか」以上に「どう向き合うか」が重要になり、対話を求める『覚醒した顧客』が新たな主役となります。

 今回紹介した調査結果の分析から言えることは次の点になります。

  • (1) 信頼の定義は、「良い商品・サービス」から「誠実な向き合い方」へと変化
    一般企業では「商品・サービスの品質」が信頼の第一条件だが、デジタルサービスでは「プライバシー保護」や「顧客対応」がそれを上回る。顧客は「何を提供するか」以上に「どう向き合うか」を重視している。
  • (2) 一度の不信体験が、企業を評価する新たな視点を消費者に与える
    デジタル上で不誠実な体験をした人は、そうでない人に比べ、企業の姿勢を意識する割合が2倍以上、その意識が近年増えたと答える割合は約5倍に達する。体験が価値を決定的に変えている。
  • (3) 特に「離反」に至った顧客は、企業の姿勢やプロセスを最も厳しくジャッジする
    不誠実な体験によって離反した顧客のうち、43%が「企業姿勢や発信内容は重要」と回答。彼らにとって離反とは、製品への不満ではなく、企業そのものへの信頼が失われた時の最終審判である。
  • (4) 変化の中心に、市場を動かす「覚醒した顧客」という新たな顧客像が浮かび上がる
    彼らは企業のあり方を厳しく評価し、SNS等で積極的に発言する。もはや単なる消費者ではなく、市場の評判を形成し、企業との対話を求めるデジタル時代の新たな「主権者」である。
  • (5) マーケティング5.0時代は「継続的なエンゲージメント」と「デジタルエシックス」が鍵
    「覚醒した顧客」と「深さの経済」がこれからの市場を形づくる。

 次回は、デジタルエシックスと消費者の関わりについて、さらに深く掘り下げていきます。

引用・参考文献:

  • 「Netflix」は、Netflix, Inc.の登録商標です。
  • 「NRI」は、株式会社野村総合研究所の登録商標です。
  • 本記事に記載されている会社名、商品名、サービス等の名称は、各社の商標または登録商標です。

調査・企画・執筆:NEC BluStellarブランドマーケティンググループ(吉見大輔、鈴木章太郎、若山拓巳、権田麻実)