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2022年08月25日

行政ビッグデータとは?
~山積する社会課題を解決し、地方を創生する重要な切り札に~

 個人情報保護法の改正により、都道府県と政令指定都市による「匿名加工情報」の民間事業者への提供が2023年度からスタートする。行政ビッグデータの利活用は、官民双方のサービス設計と運用のあり方を抜本的に変革し、社会課題の解決はもとより、官民共創による新たな産業の創造にもつながると期待されている。今後のデータ利活用の可能性と、推進に向けてクリアするべき課題について、分野を超えた公正、自由なデータ流通と利活用によるデータ社会の実現を目指す一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)、国や地方公共団体の行政サービスをユーザ視点で標準化する一般社団法人ユニバーサルメニュー普及協会(UM)、匿名加工情報のシステム化を推進するNECのキーパーソンに話を聞いた。

新たなサービスやイノベーションを生み出す可能性

──個人情報保護法の改正により、都道府県と政令指定都市は「行政機関等匿名加工情報」(以下、行政ビッグデータ)を民間事業者へ提供することが可能になります。このデータ活用は、どのような社会課題の解決につながるのでしょうか。

ユニバーサルメニュー普及協会 北野氏:
 私たちユニバーサルメニュー普及協会は、主に国や地方公共団体の行政サービスに、住民であるユーザの声を反映させ、誰もが簡単にサービスを検索し活用できることを目指しています。その観点から行政ビッグデータの可能性を考えてみたいと思います。

 そもそも行政サービスは、公平性を担保しながらも一定の利用者をターゲティングしてつくられており、どのサービスが使えるかは利用者である住民自身で調べて申請することが必要です。しかし、行政側がある程度、ユーザの属性を整理・把握できれば、住民が気付かなくても、行政側からプロアクティブにアプローチできるようになります。

 そのためには、行政サービスの情報を見やすく整備するだけでは不十分で、住民の属性情報と行政サービスをマッチングさせていくことが必要です。こうした新しいサービスは、行政が単独でつくるには限界があり、膨大な個人情報を持っている通信事業者や生命保険会社などが、行政サービス情報を活用しながら展開していく方が官民双方に大きなメリットを生みます。行政ビッグデータ活用によって、GtoBという形で行政が保有する情報を民間事業者が活用できるようになることは、新しいサービスの創出、ビジネス創造につながる可能性を秘めています。

一般社団法人ユニバーサルメニュー普及協会
事務局長
北野 菜穂氏

データ社会推進協議会 清水氏:
 行政、特に市区町村が保有するデータは、住民の属性や行動、指向などを網羅するインテリジェンスの宝庫です。私が参画した2021年度東京都「東京データプラットフォーム データ整備事業」でも、推奨データセット対応の目黒区の町丁目・性別・年齢層別人口統計データ、地価調査データの推移120カ月分を相関分析したことで、エリア別の地価変動予測が可能であることが立証されています。

 そのことからも、例えば、住民の健康や経済状態、教育水準などの行政ビッグデータを組み合わせて分析することで、ピンポイントのエリアに、どのようなサービスを展開していけば効果的かがわかり、官民の知恵やリソースの投入が大幅に効率化します。さらに、小売店のPOS情報や混雑状況、人流、IoT家電やスマートメーター、宅配便伝票といった民間データを組み合わせると、分析の精度がぐっと高まります。平時の企業活動だけでなく、発災時にも各家庭の家族構成や時間帯から、「この区域では高齢者が逃げ遅れている可能性がある」といったことが推察でき、ピンポイントでの対策が行いやすくなると思います。

一般社団法人データ社会推進協議会
研究員
清水 響子氏

NEC 岩田:
 少子高齢化の進展と多様化する住民ニーズには、今後、行政機関だけではカバーできないケースが多くなってきます。多くの住民は普段、役所に足を運ぶ機会がほとんどありませんが、準公共分野の医療、公共交通機関、Wi-Fi(公衆無線LAN)といったリソースは、人々の生活に欠かせないものとなっており、民間サービスに接する機会の方がはるかに多くなっているのが現状です。

 ならば多様化する住民ニーズには、こうした準公共と民間サービスが中心に対応していくのが自然の流れで、それらのサービスのレベル向上を図るには、行政ビッグデータの活用が不可欠な要素となってきます。

 地方公共団体のデータには、住民票の住所、固定資産である家屋や土地の所在といった地理的データに加え、性別・年齢データ、文化や習慣の違いがわかる出身国などの人口統計的データがありますから、それぞれの地域にフィットしたサービスやプロダクトの開発に貢献できる可能性が高くなります。

NEC
デジタル・ガバメント推進部門
シニアエキスパート
岩田 孝一

行政ビッグデータの普及促進に向けた課題とは

──行政ビッグデータの価値を最大化していくには、さまざまな課題も残されています。取り組むべき課題についてお話しください。

清水氏:
 日本が本格的にオープンデータに取り組み始めて早10年が経ちましたが、なかなか成果が出ていません。地方公共団体に向けたアンケートでも、お金やリソースの問題だけでなく、「効果が実感できない」「なかなか理解が得られない」「利用者がごく一部に限られている」といった課題が必ず上位に上がってきます。

 現状、地方公共団体によるオープンデータの作成はほとんど現場職員が手作業で行っています。庁内では正式な業務として認知されていないことが多いため、予算も業務プロセスも確立していません。原課に「"データを更新してください"とは頼みづらい」という声すら聞こえてきます。

 オープンデータの元になる行政サービス業務自体も紙ベースで更新・報告されることが多く、オープンデータ担当者がわざわざ手入力でデータ化しています。さらに利活用する民間事業者側でクレンジングし、初めて“使えるデータ”になります。きれいなデータの生成・維持には、お金と手間がかかりますから、そのコストを社会的に分担し、データ整備が正式な自治体業務あるいはビジネスとして成り立つエコシステムに転換していく必要があります。

 データとしての価値が生まれれば、民間事業者もお金を出して買いますし、データを活かしたサービス創出という形で住民への還元が可能になります。各地方公共団体が住民サービスやデータ整備のすべてを税金で賄うのではなく、データ共有による分担が結果的に好循環につながります。行政ビッグデータはその転換点の象徴になりうるでしょう。

 もう1つ、推奨データセット自体の問題も大きいと思います。本来データモデルはデータ作成や利活用の当事者が関与し実際のユースケースを想定して構築すべきですが、その過程が端折られてしまったため、メタデータに書くべき項目がフラットに並んでいるなど、提供する側・使う側どちらにも不便な形式となっています。また、値の書き方も地方公共団体ごとに解釈が異なり、用語や文章自体のプレーン化も進んでおらず、公開方法もバラバラです。このままでは政府が目指してきた「オープンデータ100%」が実現しても、「活用できる」状態とはいえません。1788の地方公共団体サイトへデータを取りに行き、推奨データセットに準拠していたとしても、値の意味が異なるデータを使えるように整形するのは無理があります。

北野氏:
 清水さんがおっしゃったように、都道府県でも市区町村でも庁内の業務フローが異なっているため、用語や文章、値の表記が統一されていません。そこから生まれるオープンデータも推奨データセットに対する各地方公共団体の解釈が曖昧なため、表記に少なからずブレが生じ、作業負担が多い割に“使えるデータ”になり得ていません。

 こうした問題を解決するには、行政が保有するデータは“原則オープンデータ”であるという認識のもと、既存の業務手順を変革することが必要です。具体的には、紙ベースで行われている業務フローを、データ処理の業務フローへと棚卸して、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とデジタル業務ツールの活用を通し、もともとの業務で取り扱うローデータそのものが、公開可能なデータとなるよう支援することが大切です。

 一方、データとしての価値を高めるには、準公共にデータ作成や利活用を落とし込むことも積極的に検討していく必要があります。例えば、AED(自動体外式除細動器)という装置がどこにあるのかという情報は、推奨データセットの対象データに入っていますが、実は準公共の一般財団法人 日本救急医療財団が既にデータを収集し、「財団全国AEDマップ」を公開しています。つまり、オープンデータの作成コストをすべて行政に負担させるのではなく、むしろそのデータを使ってイノベーションを起こそうとしている準公共団体に落とし込む方が、理にかなっているのではないでしょうか。

岩田:
 確かに、公共分野の事業すべてを行政が担うことが、地域住民の幸せにつながるとは限りません。地方公共団体は少子高齢化や多様化するニーズへの対応に追われていますが、職員の増員も経費の確保も年々難しくなっています。人材・資金・ノウハウといったあらゆる面で手詰まりになる中、民間事業者の新しい技術やノウハウを積極的に取り入れ、官民連携で課題解決と地域活性化を図っていくことが何よりも重要になります。

 地方公共団体が保有するデータはこれまで、既存の行政サービスのために入手したものなので、ほかの目的に利用することは想定されていませんでした。個人が識別できないよう加工を行っているとはいえ、行政データを民間事業者に活用させることに、職員の方々はかなり抵抗があります。

 行政データの民間活用に否定的な方々にも、そのデータが官民連携の新しいサービスを生み、地域住民の利益にもつながることを認識していただくことが必要であると思います。

行政ビッグデータの利活用を支えるテクノロジー

──今後、行政ビッグデータの活用を促進させるために、どのようなツールやテクノロジーが有効となるのでしょうか。

清水氏:
 ツールというより、本当の意味での基盤づくりを行うことが、行政ビッグデータの活用促進の大前提になると思います。基盤とは、データの格納庫を指すのではなく、データを活用するための仕組み、人も含めたリソースの配置、インタフェース、アプリケーション、運用母体など、デジタルのみならずアナログを包含したオープンな「場」だと考えます。そして何か問題があれば、アジャイルに修正可能なものでなければなりません。それらが揃って初めて「基盤」となり得ます。

 官民相互でデータ活用をスムーズに行うための共通語彙基盤や情報共有基盤なども不可欠な要素ですが、データと利用者をつなぐ一定の知見をもったデータコンシェルジュのような存在も非常に重要になると思います。例えば、何かしらの分析に必要なデータを探している方に、「それならこういうデータが使えますよ」と仲介することで、分析までのリードタイムを大幅に短縮できるからです。実際にデータコンシェルジュを設けた企業が、従来3カ月かかっていた社内ユーザへのデータ提供リードタイムを2週間程度に短縮できた例があります。今後、行政ビッグデータの提供過程で使われた「どのような人が、どんな目的で、このデータを活用した」というログも蓄積していけば、データ活用の大きな財産になるでしょう。

北野氏:
 まずは、必要とするデータがどこにあるかを見つけるためのアクセシビリティ向上が必要です。現状、ファイル名だけではデータを見つけられないケースが少なくありません。アクセシビリティの向上は、データの付帯情報となるメタデータをきちんとつくることで担保されます。そのためには、データの作成者は誰か、いつ作成され、いつ更新されたか、サイズや形式は何か。そのデータを特定するためのIDも含め、情報の意味をきちんと理解した上でデータカタログを整理していくノウハウやスキルが求められます。

 私はいろいろな地方公共団体と行政サービス情報のデータ構造化や業務効率化のお話をさせていただきますが、そこではよく「As-Isをデータで可視化しましょう」と申し上げています。それをもとに理想図を書けば「To-Be」の世界になります。もちろんそこまで一足飛びに行けることはないのですが、少しずつブレイクダウンすることで、来年度はどこまでやれるかという「Can-Be」は示せます。

 理想的な業務のあり方に近づくには時間がかかります。しかし何も考えず現状を継続していても地域や社会課題の解決にはつながりません。

岩田:
 行政ビッグデータの用途としては、短期的なマーケティングやマッチング、需給予測、リスク予測、リスク予防などが挙げられます。つまり今の状況を見える化し、それに最適なサービスを提供したり、組織の意思決定を行うために使われたりします。

 正しい意思決定を行うには、データが見やすく表現され、誰もが正しい判断ができるように整理されていなければなりません。そのためチャートやグラフ、マップなどの視覚的要素を活用し、データの傾向や外れ値、パターンを正しく伝えるデータビジュアライゼーション技術が注目されています。エリアマーケティングにおいてターゲティングエリアを地図上に表現するGIS(Geographic Information System)、必要に応じて判断材料をリアルタイムに提示するBI(Business Inteligence)、そして機械学習やディープラーニングといったAIも、データビジュアライゼーションには不可欠なテクノロジーとなっており、NECもこの分野に積極的に取り組んでいます。

 また、データドリブンな意思決定を行うには、ETL(抽出/変換/書出し)やAPS(匿名加工)といった、データ精製と安全性を補完する技術も必要です。この領域でもNECはプロダクトやサービスを整え、さまざまなご要望に対応できる環境を整備しています。

 もう1つ重要なのが、効率性や安全性だけでなく、住民サービスの公平性を支えるサービスです。効率的なサービスは民間事業者や準公共でも担えますが、そこでフォローできなかった対象は行政がしっかり支えることが理想的な姿です。そういったサービスを支援するテクノロジーやサービスも、NECでは提供していきたいと考えています。

社会課題の解決に向けた新たな挑戦

──今後の新たな行政ビッグデータの活用やその促進に向け、それぞれどのような取り組みや挑戦をなさっていくお考えでしょうか。

清水氏:
 行政ビッグデータの利活用を促進する基盤としてのオープンで持続的な場という話をしましたが、私たちDSAもその1つだと思っています。現在DSAには官民含めて約170団体の会員がいますが、どちらかといえば歴史ある大規模な企業が多いので、今後は新しい発想を持ったベンチャー企業の方々、若者や女性を中心にサービス利用者として多様な視点を持った方々ともコミュニケーションを取りながら、データ活用に向けた取り組みを進めていきたいと思います。

北野氏:
 行政サービスにIDを振り、それを必要とする住民IDと紐付け、どこでも自分のサービスとして使えるようにしていきたいですね。英語では“Public Service ID”と呼ばれる技術ですが、これを日本のデジタル・ガバメントの中にしっかり埋め込み、国際標準にしていくことが私たちの大きな目標です。

 もう1つ挑戦したいのが行政サービス情報の地産地消。法律に則して全国一律で行われる児童手当のようなサービスとは違い、その地域や地方公共団体ごとに必要とされる条例に基づいた行政サービス、その情報のデータ化を準公共や民間事業者と一緒に地産地消することで、新たな産業を生み出し、必要なサービスが必要な人に届くようにしていきたいですね。

岩田:
 行政データの利活用を促進するには、匿名加工技術や運営者要件などで行政・民間事業者・個人の合意が必要で、一団体の検討では解決できないのが現状です。そこでNECは、行政、法務専門家、活用者など多様なメンバーを集めた研究会を開催しています。データを起点としたアプローチによる利活用ユースケースの深堀りを行い、実際に民間事業者が匿名加工情報を入手したり、活用したりする際、運用面ではどのような課題があり、その解決策は何かなどを研究することで、利活用しやすい制度運用の実現に向けた具体的な提言を行っていきたいと思います。

──皆様、本日は貴重なご意見をありがとうございました。

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