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デジタルヘルスとは?「人生100年時代」を支えるテクノロジーを解説

 私たちの健康を守る医療やヘルスケアの分野に、数々のイノベーションが生まれています。日本は超高齢社会に突入し、後期高齢者の割合が増え続けることに伴う社会保障費の急増、医療や介護に関わる人材の不足など、ヘルスケアの現場は深刻な課題を抱えています。そうした中、人生100年時代に向け、デジタル技術を活用することで人々が活き活きと暮らすことができる健康長寿社会の実現を目指す「デジタルヘルス」が注目されています。

最新のデジタル技術で医療、ヘルスケアの効果を向上

 デジタルヘルスとは、人工知能(AI)やチャットボット、IoT、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析、仮想現実(VR)など最新のデジタル技術を活用して、医療やヘルスケアの効果を向上させることを意味しています。

 医療は、人の命や機能の維持に関わる重要な分野です。これまで医療分野では、電子カルテのようにICTが活用されるなど、診療記録に関するシステムであるEHR(Electronic Health Record)に注力されてきました。しかし、ヘルスケアでは日常の活動記録が重要であることや、再発予防には個人が生涯にわたり、自分自身に関する健康・医療情報を個人の同意のもと、ネットワークを通じて参照・共有・活用等を行うシステムのPHR(Personal Health Record)が重要となるため、EHRとPHRとの連携が推進されつつあります。さらには臨床研究においても、デジタル技術の活用による新たな価値の提供が期待されています。

超長寿社会だからこそ求められるデジタルヘルス

 ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授は、国や組織、個人が「人生100年時代」という時代観に基づいて計画を描くことの重要性を訴えています。世界最長寿国である日本では、政府が2017年9月に「人生100年時代構想会議」を開催し、超長寿社会において人々がどのように生き、いかなる経済・社会システムが必要になるのかを議論しました。

 少子高齢化が進む日本の社会では、社会システムのひずみが顕在化してきています。最大の課題となっているのが、医療費の増大による財政圧迫の懸念です。令和2年度一般会計予算の102 兆 6580億円のうち、社会保障関係費は35兆8608億円であり、予算全体の34.9%を占めています。社会保障関係費は年々増大しており、そのうち大きな支出項目となっている医療給付費は12兆1546億円に上ります。

 この医療給付費を削減するため、診療報酬の抑制が進められています。これは、病院の経営を直撃し、多くの医療機関の経営維持を厳しくしています。つまり、医療給付費を無理なく削減できる施策を打たない限り、国民皆保険の制度の維持が難しくなってきているのです。そこで、疾病や介護の予防に取り組むことで医療費を抑制し、健康長寿の達成を目指すことが重要になります。

病気の発症、重篤化する前に異変を察知して対処

 元気に暮らせる老後を実現し、医療費増大を抑制するためには、医療・ヘルスケアのイノベーションが不可欠です。ICTを効果的に活用することで、病気の発症と重篤化の防止、効果的で効率的な診断・治療、適切できめ細かなフォロー・介護が期待されます。

 当然のことながら、病気にならなければ医療費はかかりません。また、早期に対処して重篤化させなければ、患者本人の苦痛も少なく、一般に医療費も軽減できます。つまり、病気にならない体を維持する適切なヘルスケアと、病気の兆しや軽微な症状の早期発見が重要になるのです。これまでは症状が出た後の病院での検査、または定期検診で病気が見つかる例がほとんどでした。そのため見つかった時には、既に症状が進行している場合も多くあります。一方、例えばがん検診は、早期発見に役立つことが統計資料からも明らかです。しかし、検診の検査方法(胃透視の限界)や検診間隔が長いなどの理由で残念ながら早期発見できない例もあり、病気を予防するため、さらには軽微な状態で把握するためには、日常生活の中で自分の体の状態をどれだけ正確かつ継続的に把握できるかが重要になってきます。

出典:IF Lifetime Venturesが作成の図版より引用し、NECで作成

 近年では、ウェアラブル端末とそこから得た生体情報を解析するクラウドサービスが、病気の発症や重篤化の防止に活用できるようになってきました。ウェアラブル端末などを使って自身の生活習慣を把握できるようになり、日常生活の中で収集した生体情報から病気の兆しを察知するAIなども開発されています。AIやチャットボットを使って、ちょっとした異変を気軽に相談できるようにもなりました。

 そして、ICTを活用して、治療後のフォローやリハビリテーション、介護の効果を高める取り組みが進んでいます。IoTやウエラブル端末を活用して日々の生体情報を収集し、それを基にAI技術がリハビリ計画の立案や患者の回復度の予測などを行って、効率的で質の高い介護サービスを提供する試みが行われています。

 東京都八王子市を拠点とする医療法人社団 KNI(北原病院グループ)の取り組みでは、より効果的なリハビリ計画の作成にAI技術を活用しています。特に脳卒中の患者は後遺症の種類や程度が皆、異なるため、予後予測が難しく、リハビリの計画策定は理学療法士などのセラピスト個人の能力や経験に依存しがちです。しかも、リハビリの保険適用範囲は年々減り続けており、リハビリを継続して受けるためには費用の自己負担が必要になってきます。AI技術を活用することで、費用対効果の高いリハビリを実践できる仕組みを整えられる可能性が出てきました。

 また、AI技術を活用して、例えば、電子カルテのデータから、患者の食事、記憶、問題解決、階段、歩行・車椅子、排便コントロール、トイレ動作など18項目からなる生活動作の自立度について予後予測をし、現状の患者の自立度と予測した自立度を合わせて「見える化」が可能です。これにより、リハビリの進行が順調なのか、計画見直しが必要なのかを把握する助けになります。また、現状の患者の回復度が把握しやすくなるため、病院スタッフが適切な介助を提供しやすくなることが期待されます。

出典:IF Lifetime Venturesが作成の図版より引用し、NECで作成

医療技術の地域間格差を是正するロボットやVR

 ほかにも近い将来実現するデジタルヘルスの取り組みが進められています。ロボットを使った遠隔手術です。医師不足に悩む地域もたくさんあります。また、特定の医師しか対処できないような稀有な病状の病気もあります。既に、「da Vinci Surgical System」といった手術ロボットが実用化され、最小限の開腹部で精密な手術ができるようになりました。そして、da Vinciの特許の多くが2019年に満了になり、現在、多くの手術支援ロボットの開発が進んでいます。例えば、ロボットアームで触れた患部の感触を医師が触感として感じることができる手術ロボットなどが開発されています。さらに、5Gの実用化によって通信遅延が解消され、オンライン手術が実現する環境も整いつつあります。

 VRを使った手術のシミュレーションでは、難しい手術や医療行為を行う際、医師が事前にVRを使ってトレーニングできるようにする取り組みが進んでいます。医療データに基づいた症状をシステムで再現することで、より実践的な準備を整え、効果的で失敗のない対処を目指すものです。外科医の腕は、経験に比例して向上していきます。これからはVRを活用することによって、経験豊富な多数の医師を短時間で育成できることも期待されます。

医療・ヘルスケアの発展で「人生100年時代」が到来

 医療やヘルスケアの分野でのDXは、大きく発展する分野であると言えます。近年、医療でのICT活用の可能性が広く知られるようになり、政府もデジタル・ヘルスケアの利用を後押しするようになりました。ウェアラブル機器から得られる生体情報など、これまで一般の病院での医療行為にあまり利用されてこなかった情報が比較的容易に利用できるようになっていくことでしょう。近未来の医療・ヘルスケアは革命的な進化を遂げ、まさしく「人生100年時代」が到来するでしょう。

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