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コニカミノルタ×NEC:プラネタリウムとSFプロトタイピングが実現した新感覚の共創体験

 社会やテクノロジーが急速に移り変わっていくなかで、企業もより柔軟にビジネスに取り組んでいくことが求められている。単に便利なソリューションを提供するだけでなくワクワクする未来をつくろうとするNECも昨年10月にはSFプロトタイピングを取り入れたイベントを実施するなど、従来のビジネスの枠組みや企業の壁を超えてさまざまなプロジェクトに取り組んできた。

 2023年2月に行われた「コニカミノルタ×NEC SFプロトタイピングワークショップ ~無限の星空で∞の未来を想像=創造する~」は、まさにそんなNECの姿勢を象徴するものと言える。東京・有楽町の「コニカミノルタプラネタリアTOKYO」で行われたこのイベントは、「SFプロトタイピング」という新たなイノベーションツールを用いてこれまでにない共創の場をつくりだしていた。

SFプロトタイピング共創ワークショップ(ハイライト映像)

プラネタリウムで行われる異色のプロトタイピング

 企業のワークショップといえば日中に社内の会議室やセミナールームで行われるのが常だが、この日イベントが行われたのは「プラネタリウム」。参加者は入口でランタン型のライトを手渡され、薄暗いプラネタリウムの空間へと進んでいく。ワークショップが始まると広々とした天井に星空が映し出され、参加者は一気に非日常空間へ引き込まれていった。

 NEC エンタープライズ企画統括部 シニアプロフェッショナルの杉山浩史とプロフェッショナルの冨成裕輔による進行のもと会場へ入ってきたのは、科学文化作家/応用文学者の宮本道人氏、文芸アイドル/書評家の西田藍氏、コニカミノルタenvisioning studioの神谷泰史氏とデザインセンター チーフデザイナーの大江原容子氏の4名だ。本ワークショップはコニカミノルタとNECのコラボレーションにより実現したもので、会場には両社の社員が集まったのだという。登壇した面々がプラネタリウムというシチュエーションに合わせてアウトドアファッションに身を包んでいることもあってか、会場は不思議な熱気に包まれている。

科学文化作家/応用文学者 宮本 道人氏

 「SFプロトタイピングとは、フィクションを媒体に斜め上の未来像をつくり出す手法です。今日のようにSFアイデアを話し合うワークショップを開いて、たくさんの人で多様な未来の可能性を共有できることも、特徴のひとつです」

 多くの企業とともにワークショップを行ってきた宮本氏がそう語るように、単にSF的な想像力を通じて未来を考えるだけではなく、開かれた場をつくることでさまざまな立場の人々が議論に参加できることがSFプロトタイピングの魅力でもあるのだろう。

 もっとも、コロナ禍の世界を描いているかのように思えるアイザック・アシモフ『はだかの太陽』や「メタバース」という言葉を初めて提唱したニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』のように、SF作品がときに未来を予見してきたことも確かだ。数多くのメディアでSF作品やその魅力を紹介してきた西田氏も「フェミニズムSF」というジャンルを紹介し、1980年代に刊行されたマーガレット・アトウッド『侍女の物語』のような作品が現代社会における女性の権利やフェミニズムを考える上でも示唆に富んでいることを明かす。「SF」というとしばしばロボットや宇宙船、人工知能など先端的なテクノロジーが想起されがちだが、人種やジェンダーなども含め私たちが生きている現実とは異なる社会を想像するきっかけを与えてくれることがSF作品のもつ力でもある。

文芸アイドル/書評家 西田 藍氏

複数の言葉を組み合わせ新たな概念を生み出す

 この日行われたワークショップは、参加者の「趣味の言葉」と「未来の言葉」を組み合わせることで未来像を構想するものだ。

 たとえば大江原氏は「楽しい防災」、神谷氏は「飯ごう」、西田氏は「モキュメンタリー」など、趣味の言葉については今回のシチュエーションも踏まえながらそれぞれが個人的に関心のある言葉を挙げていく。続く「未来の言葉」は、それぞれが未来的だと感じる言葉を挙げていく。杉山はフラスコの中で化学反応が起きるように企業の共創を生み出す「共創フラスコ」、西田氏は「宇宙移民」、神谷氏は「イメージングテクノロジー」、大江原氏は「没入エンタメ」など、登壇者が挙げていく言葉のなかには独自の概念もあり、どれも未来的なものばかりだ。

コニカミノルタ envisioning studio 神谷 泰史氏

 宮本氏が実践するSFプロトタイピングは、このふたつの異なる言葉を組み合わせ、見たことのない概念を生み出していく。まず宮本氏がプラネタリウムっぽい言葉を組み合わせてみようと言って「飯ごう宇宙移民」という言葉を挙げると、西田氏が応答し「飯ごう型の宇宙船に乗った第一次宇宙移民がいて、彼らは第二・第三世代の宇宙移民から特別視されてるんじゃないでしょうか」と語る。

 本ワークショップではこうしたアイデアをもとに、さらに議論を広げていく。西田氏の解釈だけでなく「一つひとつの飯ごうの中に異なる宇宙が入っている」「たくさんの宇宙人がいるけれど、飯ごうのフォーマットは共通していてその中にはそれぞれの星の食べ物が入っている」など、登壇者は議論を重ねながら異なるアイデアを出していく。さらに宮本氏は、こうした一見荒唐無稽に思えるアイデアを実際に実現するとどうなるか議論を促していく。

 「飯ごうとプラネタリウムの技術をかけ合わせて飯ごうを覗き込むと宇宙が見えるようなプロダクトをつくって、お米が“移民”するようにして一つひとつの宇宙を混ぜ合わせるようにできたら面白いですよね」

 「宇宙のシミュレーションをするようにして、飯ごうの中のお米一粒一粒が星になって星座が見えたりブラックホールが生まれたりするようなプロダクトがつくれたらエンターテインメントとして面白いかも」

 登壇者の議論を受け、宮本氏は「これって一見バカっぽい意見を出し合っているように見えるかもしれませんが、むしろその方がいいんです」と語る。ビジネスに関するワークショップというと誰もが有益なことを言おうと身構えてしまいがちだが、むしろ友人との雑談のような心構えで意見を出せる方が固定観念から抜け出しやすくなるのだろう。

NEC エンタープライズ企画統括部 プロフェッショナル 冨成 裕輔

ワクワクする議論から未来は見えてくる

 次に宮本氏は、同じプロセスを会場へと開いていった。まず趣味の言葉としては「手作り音楽フェス」「野球観戦」「クロスバイク」「ゲーム実況動画」「ジャズセッション」といった言葉が挙げられていき、未来の言葉としては「都市シミュレーション」「永久機関」「アンチエイジング」「ホログラム」「どこでもドア」といった言葉が並んでいく。

 そこからさらに言葉を結びつけていくのも参加者の人々だ。「ホログラム野球観戦」「アンチエイジング都市」「永久音楽フェス」――さまざまな耳慣れない言葉が上がっていくなかで、宮本氏が選んだのは「アンチエイジング都市」。もちろんこれは今生まれたばかりの造語であり存在しない概念だが、参加者からはこれがどんな都市なのか次々とアイデアが飛び出してくる。

 ある人は「都市の住民をモニタリングし、食生活などのアドバイスをしてくれる都市」と表現し、またべつの人からは「都市巡りをしていくとアンチエイジングにつながる」というアイデアが上がる。こうしたアイデアに対し、さらにべつの参加者は「1つめに訪れた都市は胃腸をよくしてくれて、2つめの都市は足腰がよくなるなど、都市ごとに効能が分かれていても面白いかもしれません」と応答する。他方で対立意見として「都市が複雑化し迷子になる人が増えるのでは」という意見が上がったかと思えば、さらに改善案として「アンチエイジング都市内の専属ナビゲーションサービスをつくろう」という意見も飛び出すなど、参加者からは積極的な発言が引き出されていった。

コニカミノルタ デザインセンター チーフデザイナー 大江原 容子氏

 参加者から出たアイデアに対し、登壇者の面々もコメントを加えていった。大江原氏は「母親と一緒にこういう街を巡って元気にさせてあげたいですね」と家族の観点から交流が広がっていく可能性を語り、他方で西田氏は「こんな都市が1,000年以上続いたら、いつの間にかアンチエイジングが呪術や伝承のようになって、なぜ若返るのかよくわからないけどみんなが旅を続ける世界になりそうです」とさらに想像を広げてみせる。宮本氏は次のように語ってワークショップを締めくくった。

 「こうした未来像はビジネスと無関係に思えるかもしれませんが、実はここからのバックキャスティングが価値を生み出すことも多々あります。たとえば今日出たアイデアの一部は現代の技術で実現できるかもしれないし、こうした世界が実現したら新たなビジネス上のリスクが発生するかもしれない。あるいはこの世界で生きる人の価値観を考えてみることは、べつのビジネスの可能性を考えることにもなるでしょう。ただ机に向かって『ビジネス』を議論するのではなく、ワクワクしながら話し合うことで見えてくる未来があるはずです」

NEC エンタープライズ企画統括部 シニアプロフェッショナル 杉山 浩史

共創を促すための空間づくり

 夜のプラネタリウムという一風変わったシチュエーションで行われた今回のSFプロトタイピングは、思わぬ効果を登壇者や参加者にもたらしていたようだ。

 「通常のイベントは登壇者と参加者がくっきり分かれていて、登壇者は“見られる”立場に置かれます。でも今日のイベントはプラネタリウムもあるし会場が薄暗かったおかげで、いつもより自然にトークできた気がします」

 そう語るのは、人一倍多くのアイデアを挙げていた西田氏だ。自由に議論を行うといっても「登壇者」「幹部」「女性」など個々人の属性によって思考や発言に制約が生まれてしまうこともたしかだろう。参加者からも「小中学生のような子どもと一緒にワークショップを行えばもっとアイデアが広がりそう」という声があがり、SFプロトタイピングが世代を越えた交流を生み出しうる可能性を感じさせた。さらにまたべつの参加者は「日本の社会ではSF的な発想力をもった人がいたとしても、企業の中でアイデアが潰されてしまいやすい気がします」と語り、のびのびした議論の場を経たことで日ごろのビジネスシーンがときに硬直した空間を生んでしまっていることを指摘する。

 異なる企業が共同でイベントを行うと企業ごとに分断が生まれてしまうこともあるが、コニカミノルタとNECという異なる企業が共同で行った今回のワークショップは両社の想像力が混じり合う空間を生み出していた。日頃はデザインセンターに所属し未来のビジョンを描いている神谷氏も「言葉をきっかけに未来を考えることで一人ひとりがもつ多様性が引き出されたと感じます。プラネタリウムという環境も大きかったですね」と振り返り、今回のワークショップが通常のビジネスシーンでは生まれ得ない空間をつくりだしていたと語る。

 企業や産業の壁を越えた共創の重要性が叫ばれるようになって久しいが、ただ異なる企業や異なる職種の人々を一箇所に集めれば豊かなコミュニケーションが生まれるわけではないだろう。一人ひとりが想像力を解放できる環境をつくり、ワクワクする体験を生み出すことでこそ、多様な意見が飛び出しこれまでにない未来の可能性が描かれるはずだ。コニカミノルタとNECが行った一夜限りのSFプロトタイピングは、企業共創の新たな形を示してもいたのかもしれない。

SFプロトタイピング共創ワークショップ(フル映像)