「安全・安心」だけでなく「楽しさ」も生み出せる
ロックフェスが証明した顔認証の新たな価値
顔認証といえばセキュリティの技術。そう認識している人は少なくないだろう。しかし、「Vポイント presents ツタロックフェス2026」では、ファン体験を高める新しい活用方法が提案された。音楽フェスという非日常空間に顔認証がどのように組み込まれ、お客様にどのような価値を提供したのか。その挑戦の内側と、見えてきた社会実装の可能性について、フェスの主催者であるCEミュージック クリエイティブと協賛したNECの担当者に聞いた。
SUMMARY サマリー
SPEAKER 話し手
CEミュージック クリエイティブ株式会社

前田 博章氏
ツタロックフェス総合プロデューサー

吉崎 真矢氏
Rolling Stone Japan Unit
兼 LIVE PLANNING Unit
General Manager
NEC

三浦 和樹
デジタルコマース統括部
コンシューマーエクスペリエンスグループ
ディレクター

佐藤 良祐
デジタルコマース統括部
コンシューマーエクスペリエンスグループ
主任
顔認証による新しい体験の提供に挑戦
──ツタロックフェス2026の成功おめでとうございます。
前田氏:ありがとうございます。ツタロックフェスは、2018年から開催されている音楽イベントです。人気アーティストから若手アーティストまで、様々なアーティストが出演します。大切にしているのは、若い人たちに「自分たちのフェス」だと感じてもらえることです。毎年来場してくださるお客様、フェスの常連アーティストはもちろん、初めてフェスに来るお客様、初めてフェスに出るアーティスト、そして初めてフェスのトリを飾るアーティストなど、様々な人に新しい体験を提供し、明日への活力を持ち帰ってもらいたいと考えています。その活力の源泉になるのは音楽体験だけではありません。今回は顔認証技術を使った新しい体験の提供に取り組みました。
ツタロックフェス総合プロデューサー
前田 博章氏
──顔認証技術をどのように活用したのでしょうか。
吉崎氏:フェスには、様々な楽しみ方がありますが、醍醐味の1つに“フェス飯”があります。ただ、食べ物や飲み物で両手が塞がると、チケットやリストバンドを提示するのは案外大変で、そんなお客様の姿を見て、なんとかならないかと思っていました。顔認証技術なら、その課題を解決できる。そうした思いのもと、NECと協力して複数の体験を企画しました。
まず会場では、財布やスマートフォンを取り出さずとも、顔をかざすだけで買い物ができる顔認証決済と、顔認証決済時のVポイントの自動付与を行いました。また、顔認証決済したお客様が参加でき、オリジナルグッズなどが当たる抽選企画「Face抽選」も実施しました。
さらに目玉企画として、専用トイレ、食事/休憩スペース、専用観覧エリアなどを備え、列に並んだり、座る場所を探したりせずともゆっくりとフェスを楽しむことができるアップグレードチケット購入者向けの「Premium Upgrade Area」を設置。入退場時の本人確認を顔認証で行い、Premium Upgrade AreaというVIP空間は顔パスで出入りできるようにしました。
Rolling Stone Japan Unit
兼 LIVE PLANNING Unit
General Manager
吉崎 真矢氏
SNSを通じて広がった顔認証の“ワクワク感”
──NECは、どのような思いでイベント企画に参画したのでしょうか。
三浦:顔認証の可能性を検証し、社会実装に向けた知見の蓄積を図ることが大きな目標です。しかし、顔認証で新しいファン体験を創出することはNECにとって大きなチャレンジでした。顔認証は、どちらかというとセキュリティが主戦場で、安全性と利便性の両立が価値の中心でした。実際、建物への入退場管理、セキュリティゲートなどでの本人確認、そして、決済などの分野では多くの事例が生まれていますが、エンターテインメント分野はあまり事例がありません。BtoBビジネスを中心とする技術の会社であるNECにとってもほとんど経験がなく、顔認証が、どんな楽しさを生み出すことができるのか──。どうすれば、お客様に使いたい、使ってよかったと感じてもらえるか──。企画の上流工程から参画し、エンタメの現場で揉まれながら難しいテーマに向き合いました。
デジタルコマース統括部
コンシューマーエクスペリエンスグループ
ディレクター
三浦 和樹
佐藤:顔認証によって利便性と特別感を両立させたファン体験を提供したい。そう考えてこだわった1つがPremium Upgrade Areaの設置場所です。ツタロックフェス2026は2ステージ構成ですから、その中間にPremiun Upgrade Areaを設置し、両ステージへの動線の要に位置付けました。ステージ転換のたびに会場の外側を大回りして移動しなくても、直接、左右の専用観覧エリアに行くことができるようにし、顔パスで出入りできるPremium Upgrade Areaに快適な動線という特別感を追加しました。
デジタルコマース統括部
コンシューマーエクスペリエンスグループ
主任
佐藤 良祐
前田氏:専用観覧エリアに直接行けるスムーズな動線はもちろん、床のデザインやフォトブースなど、NECが“遊び”を取り入れてくれたPremium Upgrade Areaの空間設計は非常に好評でした。他のフェスをプロデュースしている関係者も「このアイデアは参考にしたい」と言っていました。
三浦:ありがとうございます。うれしい評価です。ただ、あの空間にたどり着くまでには苦労もありました。薄暗いフェス会場で顔認証の精度をどう確保するかという技術的な課題はもちろん、「楽しい場を作る」という体験設計自体がNECには不慣れな領域でした。社内でも『展示会ブースじゃないんだぞ!』とツッコミを入れながら、CEミュージック クリエイティブとの議論も重ねることで、私たちの発想が鍛えられていきました。
吉崎氏:アップグレードチケット自体は完売で、ソファに座ってゆっくり食事しているお客様など、フェスではなかなか見られない様子やお子様連れのお客様の姿が印象的でした。
三浦:システムの処理件数を見ると、1日目より2日目、2日目より3日目と、会期中、顔認証決済の利用数が右肩上がりで増えていきました。「顔認証決済、やばいくらい便利」「顔パスで入れるPremium Upgrade Area最高」など、顔認証を利用したお客様のSNSへの投稿が好循環につながっていたようです。“ワクワク感”が人から人に伝わり、顔登録の手間といったハードルを容易に超えていく様子は、非常に新鮮でした。
フェスの前後も含めた体験設計
──当日の会場だけでなく、会期の前後でもイベントを実施したそうですね。
吉崎氏:はい。それも今回の顔認証による新しいファン体験創出の大きなテーマでした。具体的には、会期の約10日前からSHIBUYA TSUTAYAで事前顔登録イベントを実施しました。また、会場で行ったFace抽選の景品にはカフェ・ラウンジ「SHARE LOUNGE」の利用特典が含まれており、当選したお客様には会期後にSHARE LOUNGEを利用いただく予定です。
佐藤:フェス前後を含めた様々なイベントや情報提供が奏功し、事前の顔登録数は私たちの想定を大きく超え、顔認証がすでに多くの人に受け入れられていることを感じました。
吉崎氏:フェス関連の企画というと、どうしても当日のことに目を向けがちです。顔認証という技術を通じて会期の前後も含めてお客様との接点を作ることができたのは大きな知見になりました。
──今後の展望をお聞かせください。
吉崎氏:顔認証によるファン体験に、はっきりと手応えを感じました。弊社が手がけるライブはツタロックフェスだけではありません。様々なイベントで顔認証体験を継続していきたいですね。
佐藤:技術を提供するだけでなく、より上流のプロセスからお客様体験や提供価値の設計に携わったことは本当に貴重な経験です。この経験を活かして、顔認証が生み出せる体験価値の幅を広げていきます。
前田氏:フェスで顔認証の便利さを体験したお客様が、それを日常に持ち帰る。その行動の変化が社会を少しずつ変えていく。エンターテインメントの多様な可能性を改めて感じました。NECとも一緒に、ぜひ様々な挑戦に取り組みたいですね。
三浦:お客様がSNSで“ワクワク感”を共有し、それが自然に広がり、次の行動につながる。この好循環を間近で見ることができたことは、私たちにとって大きな自信です。すでに多くの人に認識されている「安全・安心」という価値だけでなく、生活者に「楽しさ」を提供する技術としても、顔認証のさらなる社会実装に取り組んでいきます。