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SDGs・ESG×レゴ®ワークショップ 体験レポート
~レゴ ブロックを使ってSDGsの学びを深めるワークを体験してみた~

 wisdomで定期的に開催している「SDGs・ESG×レゴ®ワークショップ」。これはSDGsの世界観をレゴブロックとレクチャーによって楽しみながら体感し、一人ひとりの気付きと学びを深めるワークショップ。今回は「基礎編」と「まちづくり編」が、はじめてオンラインで開催された(両日とも2部制。定員は各回40人ずつ)。今回はこのうち、「基礎編」を体験取材。どんな学びが得られたのか、その気になる内容を誌上レポートしたい。

「自分に見えている景色」を相手に伝える

 ワークショップは、進行役を務めたこども国連環境会議推進協会(JUNEC)の事務局長 井澤 友郭氏によるSDGsについての解説から始まった。

 SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月の国連サミットで採択された世界共通の目標で、持続可能な世界を実現するための17のゴール(目標)と169のターゲットからなる。

 地球が本来持っている生産力や廃棄物の吸収力(バイオキャパシティ)と、人間の生活を支えるために必要な土地、水域の面積(エコロジカル・フットプリント)を比較すると、人間は既に、地球1個では足りないほどの環境負荷を地球に与えているという(図1)。

図1:人類が今の社会生活を維持するために必要な、土地や水域の面積(エコロジカル・フットプリント)を試算すると、「2030年には地球2個分が必要になる」といわれる
出典:エコロジカル・フットプリント レポート 2017別ウィンドウで開きます

 「このままの生活やライフスタイル、価値観を維持し続けると、2030年には地球2個分が必要になり、地球での暮らしは持続不可能になってしまう。人類はいわば、自分の収入ではまかないきれないほどの消費をしてしまっているわけです。我々の世界を変革しないかぎり、こうした流れに歯止めをかけることはできない。そこで、2030年までに世界を変革するためのゴールとして設定されたのが、SDGsの17の目標です」(井澤氏)

こども国連環境会議推進協会(JUNEC)
事務局長
井澤 友郭 氏
LEGO®SERIOUS PLAY®公認ファシリテーター。SDGsなど地球規模課題をテーマにした企業研修やワークショップ型授業を、年間200回以上開催。延べ4万人以上の学生や社会人に、世界の出来事を自分ゴト化するプログラムを提供してきた

 SDGsの概要について学んだ後、受講者は5、6人単位のグループに分かれてワークを行った。課題は「レゴブロックを使って、①今の気分、②Myヲタク要素、③仕事、について表現すること」。各自が自己紹介を兼ねて、「なぜこのブロックを選んだのか」を1人1分でプレゼンする。まずは手を動かして直感的にブロックを選び、作品を制作。作品を通してファシリテーターやほかのメンバーと対話しながら、自分の考えを言語化していくわけだ。

 今回のプログラムでは、グループごとに1人ずつファシリテーターがつく。自己紹介は、最初にやり方のモデル役も兼ねてファシリテーターから始まった。

 ①今の気分は、ピンクのブロックです。いろいろな方とお会いできるのが楽しみだったので、ハッピーな色合いのブロックを選びました。②ヲタク要素は、赤のブロックです。保育の仕事に情熱を燃やしているので、情熱の赤を選びました。③は、講師として保育園や幼稚園の先生を支える仕事をしているので、(ヒト型のブロックで)縁の下の力持ちを表現してみました」(写真1)

写真1:レゴブロックを使った自己紹介

 受講者全員、自分が選んだブロックを説明した後、第2のテーマでワークが行われた。

 テーマは、「自分の中で①お金、②名誉、③友人の3つがどのような優先順位を持ち、互いにどうつながっているかをブロックで表現する」こと。お金=青いブロック、友人やコミュニティ=ピンクのブロック、名誉・他者承認=緑のブロックにそれぞれ置き換え、その配置によって関係性を表現していく。

 このワークでは、受講者の個性の違いが、一人ひとりの説明の言葉だけでなくブロックによる表現を通じて理解することができた。「名誉、お金、友人の順番に優先順位が高い」ということを、ブロックを階段状に並べて説明する人(写真2)もいれば、「3つとも甲乙つけがたいほど重要で、すべてが互いに関連している」といってブロックを丸くつなげていたり、一直線に並べていたりする人もいた。

写真2:①お金、②名誉、③友人の優先順位をブロックを階段状に並べて説明する受講者

 「“3つの価値観は甲乙つけがたい”という言葉に対して、ブロックによる表現や意味付けが異なっていたように、事実に対する解釈も人によって異なります。これは、社会課題へのアプローチも同じ。“貧困”という事実をどう解釈するかは、人によって全く違うわけです」と井澤氏は語る。「言葉だけでコミュニケーションするのではなく、“自分に見えている景色”を相手に伝え、問いかけることが大切です」(井澤氏)

「なぜ取り残されているのか」と発想することがSDGsのゴールの起点に

 2回のワークを終え、アイスブレイクを終えたところで、再び井澤氏が、SDGsについてのレクチャーを行った。

 「SDGsには、『誰一人取り残さない世界の実現』というゴールが用意されています。では、そもそも『どんな人が取り残されていると思いますか』」と、井澤氏は受講者に問いかける。

 例えば、SDGsの目標4では「教育機会の促進」が掲げられているが、モザンビークでは小学校に入学した子供のうち、6年生まで残っている子供はわずか31%にすぎない。では、なぜモザンビークでは、7割もの子供たちが小学校をドロップアウトするのか。その理由としては、貧困、ジェンダー不平等、水道未整備のため子供が水汲み労働を強いられていることなど、さまざまな理由が考えられる。

 「子供が学校にいけない原因はたくさんあります。それと関係しているのは、SDGsの目標4(教育機会の促進)かもしれないし、目標6(きれいな水の確保)かもしれない。1つの問題に対しては、さまざまな原因が複雑に絡み合っています。つまりSDGsのゴールは単独で存在するのではなく、さまざまなゴールが複合的に関係しているのです。その意味で、SDGsとは身近な社会課題を分析する17の視点である、ということができます」(井澤氏)(写真3)

写真3:SDGsの目標4(教育機会の促進)を説明する井澤氏

SDGsは途上国だけの問題ではない――日本の抱える課題とは

 一方、日本の状況はどうなのだろうか。SDGsは途上国の問題、海の向こう側の話だと思っている人もいるかもしれませんが、実は日本にも、17の目標のうち、達成度が「低い」と評価された項目が5つも存在する。目標5(ジェンダー平等)、目標13(気候変動対策)、目標14(海洋資源の保全)、目標15(陸上の生物多様性の保全)、目標17(グローバル・パートナーシップの活性化)の5項目だ(図2)。

図2:日本のSDGs達成度評価。目標5(ジェンダー平等)、目標13(気候変動対策)、目標14(海洋資源の保全)、目標15(陸上の生物多様性の保全)、目標17(グローバル・パートナーシップの活性化)の5項目で達成度が低いと指摘されている
出典:Sustainable Development Report 2020別ウィンドウで開きます

 例えば目標5に関していえば、2019年の男女平等ランキングにおける日本の順位は、153カ国中121位。ジェンダーギャップには健康、経済、政治、教育という4つの指標があるが、日本は健康の分野では、世界でもトップレベルで男女差別がありません。にもかかわらず、これほど順位が低い理由は、経済と政治にあるという。

 「例えば、国会議員に占める女性の割合は10人に1人であり、企業の取締役に占める女性の割合は約6%ほどにすぎない。『2020年までに女性の管理職比率を3割にする』という目標が、以前から掲げられてはいるものの、このままでは到底達成できない。賃金格差も男性が100だとすると、女性は73です。2018年の日本の順位は149カ国中110位でしたから、1年間で10位以上もランキングが下落したことになります」(井澤氏)

 また、LGBTに対する対応も、欧米諸国に比べると大きく後れを取っている。日本におけるLGBTの割合は7.69%。13人に1人がLGBTで、これは左利き人口の比率とほぼ同じだという。だが、LGBTに対応した制度が整備された企業は、まだ数えるほど。同性婚も認められていないため、配偶者に認められるさまざまな優遇措置も受けられないのが実情だ。

 目標13の気候変動対策についても、日本の達成度は低い評価にとどまっている。環境省が発表した「2100年の天気予報」によれば、2100年には那覇を除き、日本の主要都市の殆どで気温が摂氏40度を超えると予測されている。温暖化が原因と考えられるスーパー台風や集中豪雨などの異常気象も頻発しており、災害被害も激甚化の一途をたどっている。

 「日本ではエネルギー消費量が非常に高く、1人当たりのCO2排出量は8.8トンに及びます。日本より上位にある国のほとんどが産油国。日本は省エネ技術が発達しているので、気候変動対策の達成率は高いと思われがちですが、実は世界有数のCO2排出国でもあるわけです」(井澤氏)

 それでは、目標17のグローバル・パートナーシップに対する日本の評価はなぜ低いのか。これは、国民総所得(GNI)に含まれるODAの割合、すなわち途上国支援が少ないことに起因しているという。

 「SDGsというと海外の話だと思われがちですが、日本の中にも取り組まなければならない課題は山ほどある。目標4(教育機会の促進)については高い達成度を示していますが、目標10(不平等の是正)や目標12(持続可能な消費と生産の促進)など、達成度や進捗度が低い項目も少なくないのが実情です」(井澤氏)

自分の手を信じて、まず作品で表現してみる

 どうすればこうした課題を解決し、「誰一人取り残さない世界」を実現できるのか。講義で得た知識を踏まえて、SDGsをテーマにした最後のワークが行われた。そもそも、SDGsの問題を考える上で、レゴを使うことにはどのような意味があるのか。井澤氏はこう説明する。

 「私も企業研修のグループワークでは付箋を使うこともありますが、最初から言葉で表現することにはリスクもある。中途半端な共感で終わってしまうことも多く、必ずしも対話が深まるとはいえないのが現実です。例えば『貧困』1つとっても、子供の貧困と高齢者の貧困、都市の貧困と農村の貧困など、一人ひとりが課題と感じている貧困は違うはずです。別の言葉でいえば、『一人ひとりが見ている景色は違う』わけです。『あなたがいう貧困って、誰のどんな貧困ですか?』と聞かない限り、互いの解釈の違いになかなか気付かない。だから言葉にする前に、自分の手を信じて、言語化しにくいものをまず作品で表現してみる。貧困を生み出している壁があるとしたら、それは高い壁なのか、低い壁なのか。それはどんな形で何で生み出された壁なのか。それを見てほかの人が質問し、対話を深める中で、『貧困』という言葉の解像度を上げていくわけです」

 このワークの課題は、レゴを使って「どんな人が取り残されているか」をビジュアライズすること。 5分間で1つの作品を制作した後、1人当たり2分間の持ち時間で、プレゼンとQ&Aが行われた(写真4)。

写真4:「どんな人が取り残されているのか」というテーマで、レゴブロックにより作品を制作。直感的にレゴのパーツを選び、思い思いに組み立てる。作品について説明し、受講者同士が対話しながら言語化のプロセスをたどっていく

 ある受講者は、レゴブロックで「自分自身」と「日本」、「世界」の関係性を表現していた。

 「コロナ禍で私たちは日本国内の問題ばかり考えがちですが、世界の中で見ると、ワクチン予防接種の割合が圧倒的に低い。ほかの地域では予防接種率がどんどん高くなっているのに、日本では1%にも到達していないわけです。こうなると、日本が感染拡大の根源と世界に見られる可能性もあるのではないか。日本だけを見るのではなく、世界全体を見て取るべき行動を考えていかなければならない。そんな考えから、このレゴをつくりました」

 また違う受講者がつくった作品は、社会の分断に着目したものだった。ワークシートを2つのエリアに分け、片方には、カラフルなレゴを組み合わせた大きく複雑なブロックを、もう一方には、片隅にポツンと座って大きなブロックの方を見つめる、人型のレゴを配置した。

 「多様な年齢や価値観を持つ人たちと共感しあいながら、コミュニティをつくって前進するハッピーな人たちと、壁に隔てられて、コミュニティと分断された人たち。その分断を表現したくて、このレゴをつくってみました」

 各受講者からの作品の解説が終わると、お互いに簡単な質問をする。この中で、ファシリテーターが「ハッピーな人たちを表現したブロックの中には、回転するパーツもありますよね。なぜ、そのように表現したのか」と質問した。すると、質問された受講者は「コミュニティの中でいろいろな人たちと交わることで、価値観も含めて上昇していく。そんなイメージを表現したかった」と回答した。

 わずか数分間というワークの中で、対話を通じて作品の意図がより明確になり、相互理解が深まっていく。そんなことを感じさせられる場面だった。

イメージを可視化し、想像を超えた答えを引き出す

 「誰一人取り残さない」というSDGsのゴールを達成するためには、「どんな人が取り残されているのか」を可視化し、SDGsのどの項目に起因しているのかを考え、多様な人々が議論しながら、真に有効な対策を打っていく必要がある。そのためには、レゴブロックによって潜在意識を活性化し、一人ひとりが見ているものを可視化・共有しながら、対話を通じて言語化していくプロセスは、1つの大きなきっかけとなりうる――今回の体験を通じて、そう実感することができた。

 「SDGsのポイントは、単なる“改善”ではなく“トランスフォーム(変革)”することです。ただし、ゴールに到達するための方法に制約はなく、誰もが自分の得意な方法でゴールに到達すればいい。皆さんは“会社人”として、社内評価を軸に生きていくのか、それとも“社会人”として、社会的価値を軸に生きていくのか。この機会に、あらためて振り返っていただきたいと思います」。井澤氏はそう言って、ワークショップを締めくくった。

当日はグラフィック カタリスト 成田 富男氏による、グラフィックレコーディングも行われた。グラフィックによりワークショップの内容がわかりやすく可視化され、内容の整理と理解、記憶の定着に役立つ。