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環境領域のメガトレンド「ネイチャーポジティブ」とNECの取り組み

 カーボンニュートラルによる気候変動の緩和だけでなく、生物多様性の喪失に歯止めをかけるため世界が具体的に動き出しています。2023年12月14日に、CIC Tokyoにて行われた「ネイチャーポジティブへの旅 vol.1」では本イベントを主催したSUNDRED株式会社(以下、SUNDRED)と株式会社AIST Solutions(以下、AIST Solutions)、日本電気株式会社(以下、NEC)の3社がネイチャーポジティブとビジネス・地域との関係についてディスカッションを行いました。

 本記事では、国内IT企業初のTNFD*レポートを発行したNECの取り組みを振り返ります(*TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース)。また、イベント全体の模様はアーカイブ動画を本記事の最後に掲載しておりますのでご参照ください。なお、本記事はイベントの内容を編集・再構成したものとなります。

 ここからは、イベントに登壇したNEC 経営企画部門 マーケットインテリジェンス部 兼国際社会経済研究所(IISE)ソートリーダーシップ推進部の篠崎裕介より、ネイチャーポジティブというトレンドの概要と同社の取り組みを紹介します。

NEC 経営企画部門 マーケットインテリジェンス部 篠崎裕介

ネイチャーポジティブという環境領域のネクスト・トレンド

 地球環境の問題は、大きく「気候変動」「自然災害と極端な異常気象」「天然資源危機」「生物多様性の喪失・崩壊」の4つがあります。ネイチャーポジティブとは、生物多様性を含む自然資本の喪失・崩壊を食い止め、プラスに転じさせていくことを指します。

経済・社会を支える自然資本

 なぜ、ネイチャーポジティブが必要なのでしょうか?SDGsウエディングケーキを見てもわかるように、我々の経済・社会は、自然・生物によって支えられています。あまりに当たり前すぎて、普段、意識する機会が少ないかもしれませんが、我々の生活は、食べ物や、ものづくりのための原材料、きれいな水・空気、レジャーや憩いの場、といった生態系サービスと呼ばれる自然の恵みなくしては成り立ちません。

生物多様性を含む自然資本は、多様な生態系サービス(自然の恵み)で社会・経済を支えている

自然資本の劣化は加速し続けている

 IPBES*の「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書別ウィンドウで開きます」では、約150名の専門家による1万5千以上の科学論文を分析した結果、「生物の多様性と、生態系が人類にもたらす機能やサービスは世界中で劣化しており、その劣化の進行は加速し続けている。このままでは私たちの暮らしは持続し得ない」としています。

 一方で、経済、社会、技術といったすべての分野に渡るトランスフォーマティブ・チェンジ(社会変革)を緊急に、そして協調して起こすことができるならば、持続可能な社会を形成することができる、とも報告しています。

 また、世界経済フォーラムは「The New Nature Economy Report別ウィンドウで開きます」の中で、世界のGDPの半分以上(44兆米ドル)が自然資本に依存しており、手を打たなければ2030年には2.7兆米ドルの損失につながるとしています。

  • * IPBES:生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム

世界の目標と情報開示の要請

 こうした背景の中で、自然資本、生物多様性の損失を食い止め、反転させるネイチャーポジティブに向けて、具体的な動きが鮮明になってきました。2022年12月、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、2030年までの新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。

 この生物多様性枠組では、23個の目標(ターゲット)が定められました。陸域・淡水域、海水域の30%保全(30by30)、外来種の半減、過剰肥料半減、生物多様性に有害な補助金の5000億円の削減といった具体的な数値目標が設定され、気候変動におけるパリ協定にあたるともいわれています。

 企業においては、ターゲット15において企業・金融機関に対する生物多様性のリスク、依存、影響を定期的に監視、評価、開示させるための措置を講じる、という自然に関する情報開示の要請が盛り込まれました。

昆明・モントリオール生物多様性枠組の2030年ターゲットの概要

TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース

 では、企業はどのように自然関連の情報を開示すればよいのでしょうか?2023年9月18日、それに応えるフレームワークがTNFDから提示されました。TNFDはTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(自然関連財務情報開示タスクフォース)のことで、企業や金融機関に対し、自然資本および生物多様性への依存と影響、それに伴う事業機会とリスクの情報開示を求める国際的なイニシアティブです。

 2022年4月から、東証プライム上場企業に対して気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づいた情報開示が義務づけられたことは記憶に新しいと思います。TNFDはこの自然資本・生物多様性版であり、今後、TCFDと同様、企業に対して情報開示の要請が高まっていくと考えられます。

 TNFDに関しては、兼務出向している国際社会経済研究所(IISE)で、ネイチャーポジティブを主なテーマとして野口 聡一 理事をモデレータに、TNFDタスクフォースメンバーでMS&ADインターリスク総研株式会社フェローの原口 真 氏とNEC デジタルプラットフォームビジネスユニットの井出 昌浩 氏をパネリストに迎え、パネルディスカッションを実施しました。ご関心のある方を以下に抄録と動画アーカイブがありますのでご参照ください。

2030年、10兆ドルの事業機会

 ここまで、自然資本が危機的な状況にあること、企業が情報の開示が求められるといった、差し迫った内容ばかりでしたが、それは目線を変えると事業のチャンスでもあります。世界経済フォーラムは「The New Nature Economy Report II別ウィンドウで開きます」の中で、ネイチャーポジティブに移行するためのアクションをとることで2030年に10兆ドルの事業機会が生み出されるとしています。また、環境省は、日本においても47兆円の事業機会が生まれると推計しています。

ネイチャーポジティブの事業機会
出典)WEF, The New Nature Economy Report II.別ウィンドウで開きます
環境省, ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)の策定に向けて別ウィンドウで開きます

ネイチャーポジティブへのNECの取り組み

 NECはPurposeとして安全・安心・公平・効率という社会価値の創造と、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を掲げています。その実現に向けて、NEC 2030VISIONでは、ありたい社会像を環境・社会・暮らしの三層構造でとらえ、すべての営みの土台となる「環境」において「地球と共生して、未来を守る」ことを目指しています。

 そうした中で、NECでは、これまで国内外のネイチャーポジティブのための仕組みづくりや、国内の環境推進活動に積極的に参画し、貢献してきました。同時にデジタル技術を保有する企業の使命であり機会であると捉え、自社の情報開示の実践としてTNFDに取り組みました。

なぜ、国内IT業界初のTNFDレポートを発行したのか

 自然関連財務情報開示は、投資家やお客様などステークホルダーとの対話のためにあります。NECでは、いち早く対話をはじめることで、社会やお客様のネイチャーポジティブを目指した取り組みに貢献するためのデジタル技術へのニーズを知りたいと考え、2023年3月に発行されていたTNFDのベータ版フレームワークv0.4をもとにTNFDレポートを7月10日に発行しました。

 NECのTNFDレポートの特徴としては、リスクに加えて、自社の製品・サービスをTNFDの定義するバリューチェーンの下流と位置付けて、具体的な事業機会を開示したことが挙げられます。事業機会を明らかにするため、各拠点の環境部署だけでなく、事業部門や製品部門など25部署約80名との社内コミュニケーションを推進し、TNFDレポートを作成しました。

 リスクに関しては、製造業として直接操業392拠点、一次調達取引先の生産拠点2000拠点のリスクを評価しました。TNFDが推奨する公開ツールであるENCOREやAqueductに加え、自社の環境パフォーマンス管理ソリューション GreenGlobeXを活用して拠点のリスクを評価しました。また、公開ツールだけではわからない流域ごとの現地の状況をヒアリング調査しています。

開示スコープの絞り込み、リスクの評価(NEC)
NECのデジタル技術とネイチャーポジティブへの貢献機会

生産性向上と環境負荷低減を両立する農業ICTソリューション

 事業機会の例としては、農業ICTソリューション CropScope(クロップスコープ)があります。今後も世界人口の増加が見込まれますが、気候変動の緩和が求められる中で、森林を切り開き新たな耕作地を増やすことは難しいでしょう。そうした中で、肥料や水の利用などの環境負荷を軽減しながら、食料生産を高めるためには、農業生産現場の革新が必要です。

 CropScopeはAIを活用した農業デジタルツインを実現するものです。農作業、収量、リモートセンシングなどのデータを一つのプラットフォームに集約し、蓄積したデータを活用して、施肥、灌漑などの予測・最適化を行います。

圃場可視化のイメージ(NEC)

 エム・エス・ケー農業機械株式会社とNECの共同実証では北海道の秋まき小麦において、施肥量を22.2%削減しながらも17.5%の収量向上を実現しました。カゴメ株式会社とNECが設立した合弁会社DXAS Agricultural Technology LDAは、AIによる自動灌漑を北イタリアとポルトガルのトマト圃場に導入し、19%少ない灌漑量で約23%の収量アップを達成しました。

 CropScopeは、デジタル技術による農業のDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、ネイチャーポジティブへつながるソリューションの代表例と言えます。

自社実践のノウハウから、デジタルによる事業変革まで

 NECは、TNFD開示の伴走支援のメニューもご用意しています。自社実践のノウハウと、お客様と同じ事業会社としての目線で着実な開示をご支援するとともに、テクノロジー保有企業としてお客様ビジネスのネイチャーポジティブ移行を持続的にご支援します。

パネルディスカッション

 本記事では、「ネイチャーポジティブの動向とNECの取り組み」について取り上げました。イベントの中でつづいて行われた、SUNDRED、AIST Solutions、NECの3社によるネイチャーポジティブとビジネス・地域との関係についてのパネルディスカッションの模様は、以下の記事をご覧ください。

本講演の動画アーカイブは以下からご覧いただけます。

ネイチャーポジティブへの旅Vol.1 [NEC公式] - YouTube