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2020年09月17日

ニューノーマル時代、スマートシティに重要な2つの視点とは

 次世代のまちづくりを目指す「スマートシティ」の取り組みが、世界で広がりを見せている。日本の活動を加速させるため、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」を公開。NECはメンバーの1社として、アーキテクチャ策定に貢献した。ニューノーマル時代において、スマートシティも新たなフェーズへ移行していくだろう。策定されたアーキテクチャは、ニューノーマル時代にどのような創出価値をもたらすのか。ここではその全体像や今後のスマートシティに求められる重要な2つの視点について紹介したい。

デジタル技術で加速する都市のスマート化

 スマートシティの取り組みが世界各国で活発化している。なかでも欧州は10年以上前から国や公共団体が積極的な支援に乗り出し、各地で先進的な取り組みが行われている。

 例えば、スペインのバルセロナ市では、市長の強いリーダーシップのもと、200件超のプロジェクトが進行している。市中に設置した1万7500個以上のセンサーから上がってくる膨大なリアルタイムデータを集中管理し、エネルギーや公共交通の効率化、ゴミ収集や環境問題などの課題解決を推進している。市民参加型で進めるケースが多いのも欧州における取り組みの特徴である。

 米国ではニューヨーク市の取り組みが目を引く。IoTとWi-Fiを活用した水道メーターの自動検針システム、発砲検知装置による治安向上、市バスに搭載したセンサーによるバス優先交通、水源の水質モニタリングなどスマート化の領域は幅広い。

 もちろん日本でも取り組みは広がりを見せている。香川県高松市は近隣の綾川町、観音寺市との3市町連携による広域防災で、強靭なまちづくりを目指している。その取り組みは、道路交通情報、気象情報、河川水位、潮位などの防災関連情報を一元化し、俯瞰的な状況判断で防災・減災につなげるというもの。さらにGPSによる移動経路情報を基に、人気スポットの情報発信やサービス向上に役立てる観光振興策にも取り組んでいる。

 富山県富山市が目指すのは、持続可能なコンパクトシティの実現だ。省電力・長距離通信が可能なネットワークを活用し、こどもの見守りや市民・来訪者への移動ナビゲーションなどを実現している。民間事業者を含む異なるいくつものシステムを連携させ、公共交通機関による移動を可視化し、市民・観光客の回遊性の向上を目指す実験も進めている。この移動可視化データは民間に開放し、地域産業・経済の活性化に役立てていくという。

スマートシティの“設計図”となるアーキテクチャ

 日本は東日本大震災の影響もあり、エネルギー分野を中心に以前からスマートシティの取り組みが進められてきた。個々の分野やサービスにおけるスマート化の進行度は、世界的に見ても高いレベルにある。

 その一方で課題があることも事実だ。中でも大きいのは、「分野ごと」「サービスごと」「自治体ごと」に個別最適で実装されていった結果、構築したシステムやサービスの再利用や連携ができず、拡張性が乏しい点だ。地域の抱える課題はその地域によってさまざまで、独自性があることも要因だが、個々に開発を行えば当然コストもかさんでしまう。「そのため持続的な活動が難しく、都市の課題解決や住民の利便性向上につながりにくいのです」とNEC セキュリティ研究所 所長代理の藤田 範人は指摘する。

 こうした課題解決のため、NEC、日立製作所、アクセンチュア、鹿島建設、産総研、データ流通推進協議会の6社の共創により構築したのが「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」だ。これは日本の持続的経済成長に必要な科学技術イノベーションの創出を支援する、内閣府主導の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として作成されたもの。「簡単に言えば、スマートシティに必要な要素とその関係を示した“設計図”です」と藤田は説明する。

NEC
セキュリティ研究所 所長代理 兼
PSネットワーク事業推進本部
シニアエキスパート
藤田 範人

 最大の特徴は「人」を最上位に位置付けていること。そして「人」中心のまちづくりを支える両輪として「都市オペレーティングシステム(都市OS)」と「都市マネジメント」がある(図1)。

スマートシティリファレンスアーキテクチャの全体像
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図1 スマートシティリファレンスアーキテクチャの全体像
Society 5.0をベースに導出した、「人」中心のまちづくりと相互運用性を重視したアーキテクチャ。都市OSと都市マネジメントの両輪が機能することで、信頼性・真正性を担保したサービスの提供が可能になる

 都市OSとは、サービス同士の連携や都市間の連携を支えるシステム的な共通の土台。具体的には1対1で結合されていたサービスとデータを分離したり、API(Application Programming Interface)の公開や認証を連携するための仕組みを規定したりと、サービスやほかの都市OSを相互につなぎやすくする役割を果たす。

 都市OSはスマートシティの発展とともに段階的に拡張していけるため、最小機能単位での実装によるスモールスタートが可能だ。ニーズに合わせて機能を選択・追加することで、容易に拡張できるという特長を持つ。

 一方の都市マネジメントはスマートシティにかかわる推進組織やステークホルダーを整理し、ビジネスモデルを描くためのフレームワーク。住民データの取り扱いや管理の指針・方法、地域における合意形成の進め方などを定めている。スマートシティを実現する上で、決めるべきことや考慮すべき事項もリスト化されている。地域全体で一体感を持った、持続可能な都市運営を可能にするためのものだ。

 「都市OSと都市マネジメントの“両輪”により、例えば自治体間の連携や横展開が容易になり、サービス開発のスピードアップとコストダウンが期待できます。また、サービス提供者は、本来の目的であるサービスの設計・開発に注力できるようになります」と藤田はメリットを述べる。

 先述した高松市と富山市は、このアーキテクチャを先取りした都市間連携を既に実践している。富山市が試験的に導入した地域MaaS(Mobility as a Service)のアプリケーション機能を高松市でも再利用したのだ。「これにより、サービスの標準化による他地域への横展開の可能性を実証することができました」(藤田)。

 スマートシティリファレンスアーキテクチャには2つの成果物がある。1つはスマートシティ実現に必要な構成要素や実装指針を体系的に整理した「アーキテクチャホワイトペーパー」。もう1つは、アーキテクチャに基づき地域課題を解決する活用方法を具体的な手順で解説する「アーキテクチャ導入ガイドブック」である。いずれも内閣府のホームページ上で公開されており、誰でも入手可能だ(※)

(※)内閣府HP SIPサイバー/アーキテクチャ構築及び実証研究の成果公表

すべてがシームレスにつながる「人」中心のまちづくり

 今後は、新型コロナウイルスの感染拡大を経て、人も社会も変化していく。こうしたニューノーマルの時代を迎え、スマートシティに求められることはどのように変化していくのだろうか。

 「スマートシティが目指すところは、利用者や住民中心のサービスの拡充にあります。これはニューノーマルになっても変わりません。ただ、新型コロナウイルスの感染防止策として『非対面・非接触』の新しい生活様式を強く求められるようになりました。窓口や教育のオンライン化などはその一例です。こうした物理世界の制約を解消するために、2つの視点の重要性がより高まっていくでしょう」と藤田は話す。

 1つは「コネクティビティ(相互運用性)」だ。新型コロナウイルスの感染対策で複数の自治体が濃厚接触の通知アプリを導入しようとしたが、アプリに互換性がなく自治体のエリア外で使えないという問題が生じた。これはアーキテクチャを共通化してコネクティビティを確保しなかったことが原因だ。

 物理空間は自由に行き来が可能で、連続的につながっている。好きなところへ移動し、そこでさまざまなサービスを享受できる。「サイバー空間もこれと同じ世界を実現する必要があります。自治体の境界でサービスが途切れるようなことがないようにしなければなりません。今回構築したリファレンスアーキテクチャでも、都市OS間のコネクティビティを基本原則の1つとしています」と藤田は説明する。

 もう1つは「パーソナライゼーション(個人最適化)」だ。「人」中心のまちづくりを進めるためには、人がまちに合わせるのではなく、まちが人に合わせて寄り添う必要がある。パーソナライゼーションが可能になれば、例えば、習熟度別に学習内容をカスタマイズした教育カリキュラムの提供や、本当に避難が必要な人だけに避難を指示する防災対策など、一人ひとりに最適で快適なサービスの提供が実現できるだろう。

今後のデータ利活用に向け乗り越えるべき課題とは

 コネクティビティとパーソナライゼーションを推進するには、データの利活用がカギとなる。データの利活用に向けた法令遵守やガバナンスの強化は当然なすべきことであるが、一方、拠り所となる肝心のルール自体が明確に定まっていないため、それだけで十分ということにはならない。

NEC
デジタルトラスト推進本部長
野口 誠

 「データの利活用、さらには、その価値を高めるAIや顔認証といった新しい技術やソリューションの利活用に関しては、現状、法令やルールの整備が追い付いていません。それゆえ、法令を遵守しガバナンスを強化していても、セキュリティやプライバシーなどの観点で新たな課題が発生しかねません。さらに、データの利活用や新たな技術・ソリューションの利活用が社会に受容(納得)されるかどうかは、場所、時代、人などによって大きく変化します。このような状況において、自治体や企業などのデータを利活用していく側は、自身のデータの利活用が社会に受容されるものとなるよう、その動向に配慮しながら自らを律するとともにその取り組みを継続的にアップデートしていく、という努力を積み重ねていく必要があります。そして、これは決して容易なことではありません」とNECでデジタルトラスト推進本部長を務める野口 誠は訴える。

 NECは、既にこのような課題に取り組んでいる。2018年10月には、現在、野口が本部長を務める「デジタルトラスト推進本部」を新たに設立。AIの社会実装や生体情報をはじめとするデータの利活用(以下、AIの利活用)がプライバシーなど人権に与える影響を考慮し、人権の尊重に基づいた戦略策定・推進を行う専門組織であり、技術に加え、法制度・倫理など社会受容性に係わるノウハウを有する専門要員で構成されている。また、2019年4月には「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定。これは、AIの利活用に関する事業を推進する際、社員一人ひとりが企業活動のすべての段階において人権の尊重を常に最優先なものとして念頭に置き、それを行動に結びつける指針となるもので、現在、このポリシーの考え方を関連事業に組み込む取り組みを進めている。

 さらに、2019年6月には「デジタルトラスト諮問会議(外部有識者会議)」を設置した。この会議は、法制度や人権・プライバシー、倫理に関し専門的な知見を有する外部有識者(弁護士やNPO、アカデミア、消費者)から多様な意見を取り込み、AIの利活用において生じる新たな課題への対応を強化することを目的としたものだ。このように、幅広い見識を基に世の中の動きを見極めながら、データの利活用をはじめ自らの事業活動が社会により受容されるものとなるよう、努力を続けているのである。

 社会に受容されるデータの利活用を実現する上で重要になるのが、「トラスト」の確保である。トラストとは「データそのものが本当に正しいのか」という真正性、「データを扱うシステムに問題はないのか」という安全性、そして「取引先やエコシステムが信用できるかどうか」といった信頼性を担保すること。つまり、単にデータの機密性を確保するといった情報セキュリティの話にとどまらず、住民をはじめ社会から信頼を得るためのより広範な取り組みが必要となるわけだ。

 「今後さらなるデータの利活用を推進するためには、トラストを確保し、データの利活用に対する社会の受容性をより高めていくことが不可欠です。スマートシティでいえば、スマートシティリファレンスアーキテクチャにある『戦略』『ルール』『推進組織』『都市マネジメント』『都市OS』といったすべての要素に対して横断的に、トラストの確保を組み込む必要があります」と野口は指摘する。

 いかに住民目線のトラストを確保するか。NECではこのような観点にも配慮しながら、都市のスマート化に向けた活動を進めている。トラストを確保し、社会受容性を醸成することができれば、その先に新しい世界が広がる。

 「スマートシティリファレンスアーキテクチャは都市のスマート化を進めるための“設計図”です。大切なことは、これをベースに日本独自のニーズに対応した日本型スマートシティを目指すことにあります」と藤田は語る。高齢者や子育て世代にやさしい職住環境、危機に未然対処できる防災・減災対策、“おもてなし”に溢れた観光施策――。その可能性は尽きることがない。

 都市がデジタルを実装し、データの利活用が進むことで、「人」中心のスマートなまちづくりが加速していく。誰もが楽しく安心して暮らし、オープンデータの活用による新たな産業の創出も期待できる。ニューノーマルに向けて社会の構造が大きく変化する今こそ、都市のスマート化を実現する好機ともいえるだろう。

 これからもNECは多様なパートナーとの共創を通じ、スマートシティリファレンスアーキテクチャに基づく都市のスマート化を支援し、新たな社会価値の創造と持続可能な社会の実現に貢献していく。

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