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「地域×教育×大企業」でワクワクする未来を創造したい
~中学生がつくった“加太PRゲーム”が地域再生の小さな火を灯す~

 NECが運営する「BluStellar Communities関西地域共創プログラム」では、関西エリアの経済活性化と新たなビジネス共創を目的としたコミュニティ活動を展開している。その一環として、地域活性化をテーマとするワーキンググループが発足。2024年には加太中学校と連携した「地域学習プログラム」が始動し、教育を通じた持続的な地域再生モデルの実証が進められてきた。異業種による共創は、地域にどのような変化をもたらしつつあるのか。関係者が加太に集い、その成果と未来について語り合った。

SPEAKER 話し手

南海電気鉄道株式会社

佐々木 亮氏

デジタル変革室 データマーケティング部
課長補佐

中村 宏紀氏

鉄道事業本部 運輸車両部
主任

株式会社オプテージ

川島 潤也氏

コンシューマ事業推進本部 サービス開発部 コンシューマプロダクトチーム
サブマネージャー

和歌山市立加太中学校

鳥居 純子氏

校長

モデレーター

土屋 俊博氏

株式会社子ラボ屋
代表取締役

持続的な地域活性化を目指し加太の課題と向き合う出発点

 この座談会に参加したのは、ワーキンググループのメンバーである佐々木 亮氏(南海電鉄)、中村 宏紀氏(同)、川島 潤也氏(オプテージ)と加太中学校校長・鳥居 純子氏の4名。内閣府においてスマートシティ政策の検討に携わった経験や、全国で地域経済の活性化に取り組む土屋 俊博氏がファシリテーターを務め、座談会は和やかな雰囲気の中で行われた。

土屋氏:まずは地域活性化の必要性から入りたいと思います。なぜ今、加太で地域活性化が必要だと考えたのか。その背景と問題意識について教えてください。

佐々木氏(南海電鉄):私は加太線沿線で生まれ育ち、子どものころから加太は特別な場所でした。夏になると海水浴客で本当に賑わっていて、電車も道路も人であふれていました。でもその後、乗客は大きく減ってしまい一時は廃線の危機と言われるほどに落ち込んだのです。だからこそ、にぎわっていたころを知る自分にとって、地域や学校の変化は他人事ではありませんでした。2016年に観光列車「めでたいでんしゃ」を走らせてからは少しずつ持ち直したものの、安定的に人を呼び込むには地域と連携し、外からお金が入る“域外市場産業”をどう育てるか。これが要になると考えていました。

南海電気鉄道株式会社
デジタル変革室 データマーケティング部
課長補佐
佐々木 亮氏

中村氏(南海電鉄):加太で実感するのは、“昔は賑わっていた”記録と、“今の静けさ”のギャップです。観光や漁業のポテンシャルはあるのに、人口減で日常の経済は縮んでいく。だからこそ外から人とお金を呼ぶ導線を、データも使ってしっかりつくっていく必要があると思いました。

南海電気鉄道株式会社
鉄道事業本部 運輸車両部
主任
中村 宏紀氏

川島氏(オプテージ):通信事業者の立場から言うと、人口規模に収益が比例しがちです。だから「地域が元気であること」は、実は私たち自身の事業基盤にも直結します。加太を見ていると、街の人同士の近さや見守り合う文化がまだ残っている。この強いコミュニティ性に、外からの需要(観光・コンテンツ消費など)をどう繋ぐかが鍵だと感じました。

鳥居氏(加太中学校):80年近い歴史のある本校ですが、地域の人口減少に伴って、令和2年には生徒数が21⼈にまで激減し、学校の維持が困難な状況になったそうです。しかし、学校がなくなることで地域がさらに衰退することを懸念した地域の方々から、「学校存続」を願う強い声が上がり、そうした地域の思いを受け、本校は令和4年度から和歌山市で唯一の「小規模特認校」として、学区を市内全域へと開放しました。

 現在は、全校生徒約50人の半数以上が校区外から、南海電車などの公共交通機関を利用して通っています。彼らにとって加太は、自らの意志で「選んで通う特別な場所」です。

 だからこそ、地域に根差した学びを通じて、子どもたちが加太の魅力を再発見するとともに、自らに誇りを持てるような、そんな教育活動を大切にしていきたいと考えています。

土屋氏:皆さんの話を総合すると、課題の核は2つに整理できそうです。1つ目は、人口減・消費縮小という構造的課題に対して、域外からの需要(観光・産品・体験)で稼ぐ産業=域外市場産業をどう再設計するか。2つ目は、それを地域コミュニティの力と接続させ、教育や人材育成を通じて循環を生むこと。つまり「外貨を呼ぶ産業」と「地域の誇り・関係性」を二軸で回す循環設計が必要、ということですね。

佐々木氏:まさにそこです。短期のイベントは盛り上がっても熱がすぐ冷めてしまう。だから地域の人が“自分ごと化”できる仕組みにし、子どもの学びや発信が地域の産業とつながる状態をつくりたい。私はこの「地域再生モデル(域外市場産業×教育)」を加太で確かめたいと思いました。

川島氏:地域活性化の活動は単独の企業で取り組むには限界があるので、役割の違うプレイヤーが最初から一緒に設計することも重要です。誰かが“押し売り”するのではなく、地域の核になる人の思いを中心に据え、そこに技術・発信・運営を重ねていく。そうすれば一過性ではなく、続いていく形に近づきます。

株式会社オプテージ
コンシューマ事業推進本部 サービス開発部 コンシューマプロダクトチーム
サブマネージャー
川島 潤也氏

中村氏:その意味で、学校が地域の入り口になっている加太の特性は大きい。中学生が地域の良さを自分の言葉で発信できるようになると、保護者や地域の人の関与も自然と広がり、内外の循環が生まれます。

鳥居氏:子どもたちが、加太の価値を深く知り、「次代の地域の担い手」として、主体的に地域の魅力を発信する力を養うことは、学力と同じくらい大切な教育の柱だと考えています。

地域と学校が支える“加太らしい学び”ができあがるまで

土屋氏:そうした課題認識からどのような経緯で今回の地域学習プログラムにつながっていったのでしょうか。

佐々木氏:これまでも学校や地域の皆さんと、子どもたちが加太を好きになるきっかけづくりを続けてきました。地域に根差した学校の力と、外部の実装力を重ね合わせれば、子どもたちが“自分の言葉で加太を発信する”学びができるはずだと考えていたからです。そこから対話を重ね、地域を題材にした学びのプログラムとして形になっていきました。

鳥居氏:佐々木さんから最初にお話をいただいた時は、正直「何をやるのか」が見えませんでした(笑)。しかし話を重ねるうちに、過疎のまちの小さな中学校で、最先端のICTを活用した授業をするのは面白いのではないかと思うようになりました。

 そこで生徒たちに相談してみたところ、「加太を題材にしたゲームをつくれば、聖地巡礼や観光に来る人が増えるかもしれない」といった意見が出てきました。こうした生徒たちの考えをきっかけに、ゲーム制作の話が具体的に動き始めました。

 ゲーム制作は単にプログラミング学習にとどまらず、加太について調べ、考え、構成するといった活動すべてが、「加太の魅力を伝えたい」という目的につながる、教科の枠を超えた探究的な学習になります。こうした経験が、子どもたちの自己肯定感を高めると考え、取り組みを進めてきました。

和歌山市立加太中学校
校長
鳥居 純子氏

土屋氏:加太ならではの地域の特色を生かし、PRゲームをつくってみようという声から、“地域を学ぶ授業”が、一歩踏み込んで“地域を発信する”取り組みに変わっていったわけですね。その後、どうやってプログラムの中身や共創を行っていったのでしょうか。

モデレーター
株式会社子ラボ屋
代表取締役
土屋 俊博氏

佐々木氏:プログラムの具体的な内容を詰めるため、まずは加太中学校の生徒と意見交換を実施。加太の魅力や集客の方法について、中学生にヒアリングを行いました。その結果を踏まえ、ゲーム制作の体験学習が始動。2、3年生30人がプログラミングを学び、ゲーム用エンジン「Godot」を使って、加太の魅力を表現したゲームを制作するグループワークを行うことにしました。

川島氏:ゲーム制作が行われたのは、2025年7月~8月の3日間(授業10コマ)です。ワーキンググループでは各社が役割を分担し、授業をサポートしました。ゲーム制作の企画と技術支援を担当したのは、ロボット・プログラミング教室「プログラボ」を運営するミマモルメ。南海電鉄は地域連携などを担当し、オプテージはeo光テレビのコミュニティチャンネル「eo光チャンネル」での発信と事務局の運営、NECはプロジェクト全体の運営をサポートする形です。

中学生の挑戦を学校と企業が支え共創が新しい地域発信を生み出す

土屋氏:学校や地域としては、今回の地域学習プログラムをどう評価しているのでしょうか。

鳥居氏:生徒たちが活動の中で改めて加太を見つめ直し、「加太っていいところだよね」という言葉が自然と出てきたことが大きな収穫でした。こうした取り組みの積み重ねが、将来の地域を支える人材育成につながっていくという、確かな手応えを感じました。

中村氏:プログラムを通じて、生徒たちにも変化が見られました。当初は戸惑いも見られたが、ゲーム制作が始まると、絵やプログラミングなど、得意分野を活かして助け合う姿も見られました。最初は照れくさそうにしていた子が、いつの間にか、グループの中心になって“ここはこうした方がいいんちゃう?”と動き出す。その姿を見た瞬間、地域の未来って、こういう小さな変化の積み重ねなんだと実感しました。

佐々木氏:正直、10コマの授業でどれほどのことができるのかと半信半疑でしたが、限られた時間の中で皆が努力し、とてもいいものをつくってくれた。ICTスキルの習得という意味でも、加太の魅力を発信するという意味でも、精一杯努力して目標を達成してくれたと思います。また、授業の最初に、我々ワーキンググループのメンバーが生徒に直接会い、「加太の素敵なところを教えてください!」と協力をお願いしました。それが、生徒たちに当事者意識を持って取り組んでもらえた理由の1つだと思います。

鳥居氏:完成した作品から順次ホームページに掲載したところ、保護者の方々から「うちの子の作品はいつ載りますか」とお問い合わせをいただくなど、この取り組みを楽しみにしてくださっている様子が伝わってきました。

 また、地域の方々からも関心を寄せていただき、ホームページの閲覧数が急増したことは、大きな励みとなりました。

ゲーム制作を通じて芽生えた変化が地域へ広がっていく

土屋氏:今回の取り組みを踏まえ、地域との関係性を活かして、今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか。

佐々木氏:加太での取り組みを外に向けて発信すると同時に、和歌山市内で地域再生モデルを展開していくことが自分の役目だと思っています。加太中学校でも、次年度以降も継続していただければと思っています。

中村氏:地域再生モデルは教育だけでなく、さまざまな分野への応用が可能です。例えば、最近は和歌山県でもeスポーツをイベントや教育現場に導入する動きがあります。その分野でも何かお手伝いできることはあるかもしれません。

川島氏:このモデルを横展開するためには、“核となる地元の人材”が不可欠です。課題解決を押し売りするのではなく、本気で地域をよくしたいと思っておられる方と一緒に、地域再生モデルを展開できればと思います。

加太発の地域再生モデルが示す持続可能な未来への道筋

土屋氏:今回、限られた時間の中で、成果を上げることができた理由はどこにあったのでしょうか。

鳥居氏:長年、学校に根付いた教育活動の在り方を大きく変えるのは難しい。それを変える起爆剤となったのが、企業の方たちとの連携だと強く感じています。

佐々木氏:僕は決して特別なことをしたわけじゃないんです。でも、加太を良くしたいと思い続けている人として、生徒たちと一緒に街を考える時間は、何より自分を奮い立たせてくれました。

川島氏:今回はワーキンググループ内に、プログラミング教室を主宰している方がいたため、ゲームづくりのスキルやノウハウを活用することができました。さまざまなスキルや経験を持った集団が力を結集したからこそ、この授業が実現できたんだと感じています。生徒の“やってみたい”という好奇心、地域の思い、企業の技術。それが全部重なって、ようやく形になる。加太でそれを体感できたのは宝物のような経験です。

 仮に1社が単独で地域活性化に取り組むとなると、基本的には自社のアセットを活用して地域の課題を解決することになると思いますが、そもそも地域が何を求めているのかわからない、という状況では難しい。

 しかし、NECの関西地域共創プログラムという枠組み・コミュニティがあったからこそ、新しいビジネスの共創につながる可能性が広がりました。ケイパビリティという点でも、異なる強みを持つメンバーが連携して取り組めたことは大きかったです。

鳥居氏:多くの人の力を結集したからこそ1つの形になった、というのが実感です。マスメディアでも取り組みが紹介され、子どもたちは「自分たちはすごいことをやっているんだ」と自信を持つことができた。私自身にとっても、外部人材の力を借りて、これだけの成果を成し遂げたことは大きな学びでした。

土屋氏:立場を超えた共創が、多様なケイパビリティを結び付け、新たな地域再生の可能性を生み出したわけですね。

佐々木氏:今回の取り組みで目指したのは、自律継続的に地域活性化が回る状態をつくるということです。子どもたちが地域の人から地域の良さを知る。そして、成長した子どもたちは次世代の子どもたちに地域の良さを伝え、加太の良さを発信するエバンジェリストになる。それによって加太に足を運ぶ人が増える――この循環を生み出す仕組みが「地域再生モデル」。他エリアや他分野でも応用が効くモデルだと思いますし、それを実際に回していくことが今後の目標です。

 この小さな港町で始まった関西発の挑戦は、地域や分野の枠を超えて広がる可能性を秘めている。そんな今後への期待を残して、座談会は幕を閉じた。