本文へ移動

顔認証で大阪を素敵に活性化!
~H2OリテイリングとNECの共創から生まれる感動体験~

 社会環境や価値観が多様化する中、ビジネスの現場では常に新しいサービスやアイデアの創出が求められている。そのカギを握るのが、異なる人や組織が共に価値を生み出す「共創」だ。NECも業種の垣根を越えた共創を目指すコミュニティを積極的に推進。その1つが「NEC 関西地域共創プログラム」である。今回は関西エリアを中心に百貨店や食品スーパーを核としたさまざまな事業を展開するエイチ・ツー・オー リテイリングとNECが参加した「顔認証で大阪を素敵に活性化!」というワーキンググループの活動について、その内容を紹介したい。

国内外のお客様に、便利で楽しいお買い物体験を提供したい

 2024年以降、市場トレンドに急速な変化が見え始めている。国内では少子高齢化によるマーケットの縮小が進む一方、インフレの進行や金融資産の増加を背景に消費マーケットは「節約志向」と「アッパーマーケット拡大」という2極化が進んでいるのだ。

 また、子育て期の女性を中心に就業率が上昇したことで、夫婦共働きで世帯年収が高い「パワーカップル」が増加しており、タイパ(タイムパフォーマンス)、コト・トキ・イミ消費(※)といった新たな消費行動も活発化してきた。

  • コト消費/体験型の消費 トキ消費/その時しか味わえない体験への消費 イミ消費/社会貢献を重視する消費

 海外に目を向けても、円安の追い風もあり、インバウンドが年間3687万人とアフターコロナで一気に回復。観光ニーズの多様化も相まって、外国人旅行者のニーズに迅速・適切に対応する環境づくりが求められている。

 こうした中、「楽しい」「うれしい」「おいしい」の価値創造を通じ、お客さまの心を豊かにする暮らしの元気パートナーというグループビジョンで事業を展開するのが、「エイチ・ツー・オー リテイリング(以下、H2Oリテイリング)」だ。同社グループは阪急百貨店/阪神百貨店など15の百貨店と約230店舗のスーパーマーケットや商業施設の開発・ 運営・管理に関連する事業などを展開している。

 「2児の母でもある自身の経験から、仕事や子育てなどで忙しい毎日を送っている国内のお客様には、隙間時間をもっと有効活用して便利にお買い物を楽しんでいただきたい。また、年々増加している海外からのお客様には、ストレスフリーなお買い物を楽しんでいただきたいと考えていました」とH2Oリテイリングで経営企画室に所属する工藤 瑠美子氏は語る。

エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社
経営企画室
工藤 瑠美子氏

 そこで大阪・関西万博を契機とした経済活性化と新たなビジネスを共創するためのコミュニティ「NEC 関西地域共創プログラム」に参加している工藤氏は、NECが立ち上げた「顔認証で大阪を素敵に活性化!」というWG(ワーキンググループ)に参加し、国内消費拡大とインバウンドの定着に向けたアプローチの検討を開始した。

 「1回限りのお買い物で終わらせず、お客様のライフタイムバリュー(LTV:顧客への生涯提供価値)を最大化するための手段の1つとして顔認証は有効ではないかと考えました。一人ひとりのお客様をスピーディーに特定できる顔認証を使えば、今までにないスマートなお買い物体験やパーソナルなコミュニケーションが実現でき、新たなサービスや商品の開発につながる可能性があるからです」と同じくH2Oリテイリング 経営企画室の澤 孝弥氏は話す。

エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社
経営企画室
澤 孝弥氏

 H2Oリテイリングの「中期経営計画 2024-2026」では、百貨店事業における海外富裕層顧客・国内富裕層顧客・国内優良顧客のLTV最大化が重点顧客戦略となっている。また顧客データを活用したデジタルとリアルでのコミュニケーションによる接点やコンテンツ開発(価値・商品・サービス)を推進している。

 ターゲット顧客を迅速に特定・分析できる顔認証が、おもてなしの高度化やパーソナライズしたコミュニケーションにつながる効果的なテクノロジーの1つだとWGは考えた。

顔認証のユースケースを共有してもらう体験会を開催

 こうしたアイデアコンセプトを具現化する一環として、2025年2月にH2Oリテイリング本社の共創空間「うめラボ」で開催されたのが顔認証の体験会だ。

 「WGのディスカッションで描いたユースケースにかかわる現場で実際にお客様対応されているH2Oリテイリンググループの方々を中心にお声掛けし、顔認証を実際に体験してもらうことにしました。体験することでより具体的なイメージを掴み、事前の課題抽出などにも役立つと考えたからです」と語るのは、WGでリーダーを務めたNECの瀧澤 絵里子だ。

NEC
Digital ID事業開発統括部
瀧澤 絵里子

 体験会では、顔認証技術と、身体の特徴から人物を照合する技術を用いて同時多人数認証を実現する「NEC Smart ID Express」や「タブレットによる顔認証」、大阪・関西万博の会場で使えるStera端末を活用した「顔認証による決済」、3種類の顔認証を関係部門に体験してもらった。

 会場にはH2Oリテイリングのロイヤルカスタマー部門、海外顧客部門、ファッションコンサルティング部門、アプリ開発部門など、新しいテクノロジーの活用に関心を寄せる関係者が多く参加した。

 まず最初にNECの生体認証に関する説明、そのあとにWGメンバーで考えた3つのユースケースとそれぞれの顔認証ソリューションの関係性を説明した上で、体験会を行った。

着実に積み上げてきたWGの成果が成功の要因に

 体験会の終了後、参加者からは熱量を持ったさまざまな質問が飛んだという。

 「スムースな顧客体験やパーソナライズされたサービス、認証スピードや精度について、高い評価が得られました。こんなサービスにも使えるのではないか、こんなユースケースには適用できないかといった新しいアイデアがいくつも挙げられたのも嬉しかったですね。やはり実際に体験することによって新たな発想や疑問が出てくるので、体験会は非常に効果的だったと思います」と、工藤氏は喜ぶ。

 「共創」が注目される中、その成果や進捗がなかなか見られないケースも少なくない。なぜH2OリテイリングとNECのWGでは、体験会を成功裏に終えることができたのか。それはこれまでの活動を通じて、綿密なストーリーを立てていたからだ。

 「体験会を開催するまでの約半年、H2Oリテイリング様とは何度もディスカッションや成果発表会を重ねてきました。そこでは課題やニーズの整理に始まり、ターゲット層の明確化、カスタマージャーニーから見えた課題と具体的な解決策となる顔認証を使ったユースケースの検討、その検証実施に向けた社内調整など、着実にステップを踏んだ工程がありました」と瀧澤は振り返る。

 ユースケースについては、H2Oリテイリングの中期経営計画や現場の課題から落とし込んだビジョンをメンバー全員で共有しながら、国内外それぞれの優良顧客のペルソナやカスタマージャーニーを作成。それらの顧客が利用するサービスに当てはめることで、どのようなメリットと収益性につながるのか、現場担当者とも事前調整を行うことで最終的に腹落ちするストーリーへ持っていくようにしたという。メンバー全員の合意形成のもと、あらかじめ最終的なゴールを定め、大きなロードマップを描きながら進めてきたことが何よりも重要なポイントとなる。

 そこで大きな役割を果たしたのが、NECのデザイン思考を体系化した「Future Creation Design」アプローチだ。顧客の課題抽出から解決策の立案、製品やサービスのデザイン具現化まで、さまざまな領域の専門性を持つ人材がプロジェクトのテーマに合わせてチームを組成し、顧客と共に事業変革のメンバーとしてプロジェクトに参画する。今回もNECの専門人材がWGメンバーと共にビジョンやペルソナ、ユースケースを一緒に考案していった。

今回のWGではNECのFuture Creation Designアプローチが適用された

さらなる価値検証とソリューションの実装を目指す

 これに加え、深い関係性づくりを心掛けてきたことも成功のポイントとなった。議論は大阪・東京の2拠点にいるメンバーで進められていたのでオンラインの定例会だけではなく、時にはランチミーティングや懇親会などで気兼ねなく意見を交換したり、東京で勤務する瀧澤が大阪に行けない際も、大阪にいる澤井などのメンバーがリアルな場での意見の共有を図ったりと、幾度もの話し合いを通じて参加者は深い人間関係を構築してきた。

NEC
Digital ID事業開発統括部
澤井 宏嘉

 「今回のWGでは前半から両社の共通言語のすり合わせや、本音を出し合った意見交換ができたことが大きな成功要因の1つだったと思います。NECの方々に納得のいくビジョンやペルソナづくりを一緒にやっていただけたおかげで、ゴールに向けて常に目線の合った共創ができたのではないかと感謝しています」と澤氏は振り返る。

 もちろんここに至るまでは、さまざまなハードルもあったという。

 「ようやくユースケースができた際、じゃあこれをどのように実証すればいいのか、正直、行き詰まった時がありました。実際にお客様と接する現場の方々が納得できる形で実証する方法がすぐには思いつかなかったのです。そんな時に実際に顔認証を体験した澤さんの『みんなが顔認証を体験できたらいいのだけど』という発言から、一挙に体験会の開催と社内理解の浸透につながっていきました。その後のお互いの関係部門の取りまとめやすり合わせも含めて大変でしたが、想いを1つにすることで乗り越えることができました」と、本プロジェクトのメンバーである、NECの桑原美生は語る。

NEC
第二リテールソリューション統括部
桑原 美生

 今後、WGは顔認証ソリューションのさらなる価値検証とソリューションの実装に向けて進んでいく計画だ。

 「社員には体験してもらえたので、次はお客様を巻き込んだ体験の場を創れたらと考えています。その上で集客力のあるイベントなどでテスト導入を行い、その反応を見ながらスモールスタートで効果検証を積み重ねていきたいと考えています。関西全体の経済圏を盛り上げ、お客様や訪日客の方々に、このエリアならではの魅力や楽しさの提供を目指して、今後もNECの皆さんと一緒に新たな価値創出を目指していきたいですね」と工藤氏は語る。

 その夢の実現に向かい、これからもNECはH2Oリテイリングをはじめとする関西圏の企業・自治体との共創を進めていく。