「変わらない使命」と「変わり続ける未来」
電力業界の次世代メンバーが描く「新たな一歩」とは
電力の安定供給という変わらない使命を担いながらも、労働人口の減少やテクノロジーの進化など、電力業界を取り巻く環境は大きく変わりつつある。こうした不確実性の高い時代において、求められているのが「自ら未来を描き、行動できる次世代人財」の育成だ。こうした課題意識のもと、2025年10月から2026年6月にかけて、東京で送配電網協議会による「次世代メンバーが描く将来ビジョンワークショップ(全4回)」が開催された。送配電網協議会とNECが共創で実施した本ワークショップには、送配電事業者とその関係組織、およびNECの次世代メンバーが参加。将来ビジョンの創造をテーマに議論を重ねた。ここで参加者は何を感じ、どのような気付きを得たのか。事務局である送配電網協議会、ワークショップの参加メンバーに話を聞いた。
SPEAKER 話し手
一般社団法人送配電網協議会

安藤 憲治氏
ネットワーク企画部 副部長
※肩書はインタビュー時点の役職です
東北電力ネットワーク株式会社

村上 隆一氏
情報通信部 通信ネットワーク 主査
中部電力パワーグリッド株式会社

峯田 大暉氏
電子通信部 総括グループ 主任
※肩書はインタビュー時点の役職です
NEC

高橋 佳佑
コンサルティングサービス事業部門
AXデザイン室 プロフェッショナル
NEC

長島 慶汰
ライフラインソリューション統括部
ライフラインDXグループ プロフェッショナル
変化する時代に問われる「安定」と「変革」を両立できる人財
──今回のワークショップは、どのような背景から実施されることになったのでしょうか。
安藤氏:送配電事業者の使命とは、大規模災害にも負けない電力の安定供給です。一方で、私たちは2つの大きな環境変化にさらされています。1つが「要員体制の変化」です。
労働人口が減少し、豊富な経験を持つ先輩社員の引退も進む中、若い世代が主体的に将来を考え、自ら道を切り拓く力を身に付ける必要があります。もう1つはテクノロジーの進化です。電気を安定的に届けるという使命は変わりませんが、電源の分散化や通信技術の進展により、送配電のあり方・やり方も変化していきます。こうした未来を見据え、若い世代が協力しながら将来像を考える場をつくりたいと考えたことが、ワークショップ実施のきっかけです。
ネットワーク企画部 副部長
安藤 憲治氏
※肩書はインタビュー時点の役職です
──こうした環境変化が進む中で、今後どのような人財が求められているのでしょうか。
安藤氏:電力業界では安定的に仕事を進めることが大前提ですが、環境変化に応じて変えるべきところは変えていかなければなりません。日本全国に整備され長期間使われるインフラを維持しながらも、新しい技術やサービスを取り入れていく視点が求められるため、安定供給を支える力と、新しいことに挑戦するマインドの両方が必要と考えています。
また、環境変化への対応は1社だけでの完結は難しいはずで、同じ公益的使命を担う全国の送配電事業者との協力はもちろんのこと、メーカーや協力会社を含むさまざまなステークホルダーと連携しながら課題を解決できる人財が、ますます重要になると考えています。
──1社だけではなく業界全体として、人財確保・育成を考える必要があるということですね。その意味で、「横との連携」もワークショップの目的の1つだと伺っています。今回の取り組みにあたり、NECをパートナーに選ばれた背景について教えてください。
安藤氏:NECさんは電力会社と一緒に仕事をしてきたパートナーです。また、他業界で培った知見も豊富で、より広い視野から議論できる点に大きな価値を感じました。
多様な未来の可能性を描くために、異なる視点を持ち寄る
──今回のワークショップでは、さまざまな工夫をされたと聞いています。具体的にどのような考え方で設計されたのでしょうか。
高橋:事前にいただいたご要望は2つありました。1つは「将来のビジョンを自ら考え、不確実な環境でも“次の姿”を見立てられるようにすること」、もう1つは「これまで考えたことのない視点や、新しい気付きを得られる場にすること」です。
コンサルティングサービス事業部門
AXデザイン室 プロフェッショナル
高橋 佳佑
高橋:そこで活用したのが、シナリオプランニングです。これは、不確実な未来に対して複数のシナリオを描き、その変化に備えるための手法です。これをベースとして、Day1とDay2では、「皆で同じ未来を描く」、Day3では「個人のアクションプランを考える」という流れで設計を行いました。
Day1では外部環境調査をもとに重要因子を整理しベースシナリオを作成。Day2では複数の未来シナリオを描き議論を深め、Day3ではそこから機会と脅威を整理して自らのアクションプランへと落とし込みました。
安藤氏:ワークショップを見ていて印象的だったのは、参加した若い世代のメンバーが、回を追うごとに積極的に議論するようになったことです。
一般送配電事業は公益性が高く、業務内容も共通しているので、各社間の協業を進める意味でも、若い世代同士が腹を割って発言し、議論できる関係をつくりたいという思いがありました。今回は初対面同士ということもあり、当初は緊張した雰囲気でしたが、回を重ねるにつれ積極的に発言し、肯定的な意見を交わす姿が見られるようになりました。その変化には大きな手応えを感じました。
高橋:おそらく、自由な意思表示や表現が否定されない「デザイン思考」を取り入れたことも、議論を深める上で効果があったのではないかと思います。
また、デザイン思考は「共感」を重視する手法でもあります。技術系の会社の方は技術目線になりがちなので、「ユーザの視点に立つ」意識を持っていただけるよう、働きかけました。
今回はファシリテーターとしての参加でしたが、特に印象的だったのが、皆さんがつくられたシナリオの内容です。シナリオは極端に振れることなく、現実と向き合ったバランスの取れた内容であった点が印象的でした。
不確実な未来に向き合う中で、どう「一歩」を踏み出すか
──今回のワークショップはこれまでにない取り組みだったかと思いますが、参加前はどのような印象をお持ちでしたか。
村上氏:事前資料を見て、「ワクワクする通信部門をどうやって考えるか」というコンセプトに惹かれました。改正電気事業法による法的分離(分社化)以降、社内にはどこか漠然とした不安感が漂っているように感じていたからです。東北地方では人財確保も年々厳しくなってきており、「ワクワクする通信部門を目指す」ことが、会社を変えるチャンスになるのではないかと考えました。
情報通信部 通信ネットワーク 主査
村上 隆一氏
峯田氏:私は、「不確実な未来に対して、どんなアクションができるかを考える」というテーマにワクワク感を覚えました。不確実な要素がほぼ無限にある中で、いかに最初の一歩を決めて、踏み出していくのか。「本当にアクションを決定できるのだろうか」という不安と、「自分たちで決められるんだ」という期待が半々でした。また業務領域の異なる、初対面の方々と幅広い視点で議論ができることも楽しみでした。
電力会社において、「電力の安定供給」が業務の根幹です。「安定」と「変革」のバランスを取る難しさを感じつつ、これからの時代を見据えると、これまで以上にマインドを変革寄りに変えていかなければならない。そんな不安と期待が入り混じる思いを抱きながら、ワークショップに参加しました。
電子通信部 総括グループ 主任
峯田 大暉氏
※肩書はインタビュー時点の役職です
──グループワークではさまざまな視点で議論が交わされたと思いますが、その中でどのような気付きや発見がありましたか。
村上氏:まず驚いたのが、人財像に対する考え方です。当社では「ジェネラリストを育てる」のが基本的なスタンスですが、今回のワークショップでは、「プロフェッショナルや専門性の高い人財が必要だ」という意見が多数派でした。専門性の高い人財は今後重要な要素になると感じ、その点に力を入れていきたいと思うきっかけになりました。
峯田氏:Day2の議論の中で、「電力会社は、このまま電力業界にとどまるのか、それとも電力業界の枠を超えていくのか」という論点がありました。私は「電力業界の中だけにとどまることはなく、外の領域へと広げていくのが確実な未来だ」と感じていました。しかし、多くの参加者は「どちらもありうる不確実な未来」ととらえていました。その議論を通じて改めて感じたのは、「自分にとっての当たり前は、決して他人にとっての当たり前ではない」ということです。異なるバックグラウンドや価値観を持つ人と対話することで、自分の思考の前提に気付かされ、視野が大きく広がる貴重な経験となりました。
「同世代とのつながり」が、業界を超えた視野を広げた
──他社の参加メンバーとの交流も今回の特徴の1つだったと思いますが、そこからどのようなものを得られたと感じていますか。
峯田氏:今回は各関係組織から1人ずつの参加でしたが、参加者の多くが35歳前後の同世代だったこともあり、組織の垣根を越えて腹を割って話すことができました。また、このつながりをきっかけに、ワークショップ終了後に個別に情報交換会を開催するなど、交流が続いています。同世代のチャネルを築くことができたことは、人脈形成という意味でも大きな収穫でした。
村上氏:私も同じように感じています。社外に人脈を広げることができたので、社内で何か新しいことを始めるとき、「他社の動向を調べてほしい」と言われることが増えました。
会社間を跨いだ既存のワーキンググループでも聞こうと思えば聞けるのですが、やはり同世代の方が聞きやすい。ワークショップの3日間で、腹を割って話せる関係を築けたことで、人脈という素晴らしい財産が築けたと感じています。
──今回のワークショップを経て、仕事やご自身の考え方に変化はありましたか。
村上氏:教育によって人財レベルを底上げしていくことの大切さを、改めて認識することができました。その実現に向けて、教育カリキュラムや仕組み、組織のあり方を整えていくことが必要だと考えるようになったのは、大きな変化だと思います。
峯田氏:同世代である程度似たバックグラウンドを持つメンバー同士であっても、考え方は十人十色です。まして、会社全体で見れば、年齢や経験、育ってきた環境も異なる多様な人たちの集まりですから、さまざまな意見があって当然なのだと改めて実感しました。
現在、私は部門の戦略策定に携わっていますが、「自分(自部署)はこう考えるのだから、ほかの人(部署)も同じように考えるはずだ」という考えでは物事はうまく進まない。施策を形にしていくためには、情報収集や聞き取りを丁寧に行い、多様な意見を踏まえながら、施策の土台を固めていくことが重要である。今回の経験を通じて、その大切さを改めて認識しました。
──NECで参加した方の感想も伺いたいと思います。長島さんは、NECの立場でメンバーの一員としてグループワークに参加されていましたが、どんな印象を持たれましたか。
長島:私はNECで電力事業者向けの事業開発や営業を担当しているのですが、今回は「情報通信の知見を活かして、参加者の皆さんと共にシナリオを精緻なものにする」という役割で参加しました。
ワークショップで特に印象的だったことは2つあります。1つは、労働力不足という課題に対して、「外国人人財をどう活用するか」「デジタルをどう掛け合わせるか」という議論が交わされていたことです。
言葉や文化の壁を乗り越える上でデジタル活用は不可欠ですが、送配電事業は公益性が高く、安保上の制約などもあります。そうした制約の中でも、数十年先の舵取りまで見据えて議論されていたのが印象的でした。
もう1つは、「電気を止めてはならない」「失敗できない」という文化がある中で、皆さんが前向きにトライ&エラーの必要性を語っていたことです。「この業界で変化を起こすのは難しい。では、どうしたら変化を起こせるのか」「リスクをゼロにできない中で、どんなリスクなら許容できるのか」「どう小さく始めるか」など。
現状を踏まえながら建設的な議論が展開されていて、その様子がとても印象的でした。
普段から業務を通じて、電力業界のお客様の課題をリサーチしていますが、ワークショップでは日常のコミュニケーションではなかなか得られない最前線での課題感やお困りごと、思考プロセスを追体験できました。この経験を通じて、お客様が抱える課題やその背景への理解を深める貴重な機会となりました。
ライフラインソリューション統括部
ライフラインDXグループ プロフェッショナル
長島 慶汰
人と人のつながりを起点に、電力業界の変革へつなげたい
──今回のワークショップで生まれた将来ビジョンや次世代人財のつながりを、今後どのように発展させていきたいとお考えですか。
安藤氏:まずは、今回の議論から見えてきたアクションプランを掘り下げ、解決すべき共通課題の有無・解像度を上げて、しっかりと対処していきたいと考えています。
さらに、この取り組みを一過性で終わらせることなく、定期的に人脈形成の場をつくっていく計画です。開催を重ね、ワークショップ体験者を増やしていくことで、各社における世代や役職を超えたリーダー層の広がりを生む「縦のつながり」と、企業・組織の枠を超えて交流する「横のつながり」を深めながら、個人の考え・活動をスケールアップさせていければと考えています。
また、こうした活動が広がることで、更に若い世代が電力業界に面白み・興味を持つきっかけにもなれば、ステークホルダーと協力して新しい技術をどう導入していくのかの業界課題解決の一助にもなればと考えています。
高橋:私はコンサルタントの立場から、上流の検討段階での課題整理や視点の整理にかかわらせていただく機会も多くあります。今回のように業界や各社が抱える課題について考える取り組みにおいては、ファシリテーションやデザインリサーチを通じて、議論の整理や新たな気付きにつなげる役割を担えればと考えています。
長島:私は、電力事業者向けの担当者として、電力各社の皆さんに伴走しながら変革を支えていきたいと考えています。そのためには、NECが持つグローバルに蓄積された標準的なノウハウを活用しながら、現場のスモールスタートによる業務変革やAI活用を推進し、変革を後押ししていきたいと考えています。
──本日はありがとうございました。