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2021年12月10日

先進事例から読みとくMaaSの未来
〜モビリティ革命で暮らし方・働き方はどう変わる?〜

 電車・バス・タクシー・シェアサイクルなど、複数の移動手段を最適に組み合わせ、サービスとして提供するMaaS(Mobility as a Service)。近年、多くの自治体や企業が取り組むことで注目を集めているが、その可能性は移動のサービス化にとどまらない。さまざまなサービスと組み合わせることができれば、新しい暮らし方・働き方を実現し、地域全体の活性化につなげていくことも可能だという。ここでは先進的な事例をひも解きながら、次世代モビリティ社会の実現に向けたMaaSの役割と勘所を考察していきたい。

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チェンジメーカーの台頭でクルマの価値が大きく変わる

 これまでの移動の概念を覆すモビリティ革命が進行している。MaaSはそのモビリティ革命をけん引する重要な手段の1つだ。しかしMaaSが持つ可能性は、移動のサービス化だけにとどまらない。

 「人を中心に考えて社会課題の解決を図り、誰もがウェルビーイングな暮らしを実現する。これこそがMaaSに求められていることだと考えています」。こう話すのは、企業と共にいくつかのMaaSプロジェクトを推進する一般社団法人うごく街 代表理事の今井 武氏だ。今井氏は本田技研工業(以下、ホンダ)で通信型カーナビ「インターナビ」の立ち上げに携わった経歴を持つ。渋滞予測や最適なルート探索のほか、豪雨や路面凍結、地震・津波警報など災害リスク情報をタイムリーに配信する世界初のサービスも次々と実用化した。

一般社団法人うごく街 代表理事
自動車技術会フェロー 筑波大学非常勤講師
今井 武氏

 今井氏から見ても、様々な局面で急速な地殻変動が起きつつあるという。MaaSの実現に欠かせないプロダクトの進化はその一例だ。すでに海外では自動車産業を破壊的に変革する「チェンジメーカー」の台頭も著しい。中国の上汽通用五菱汽車は、車両価格50万円程度の低価格EV(電気自動車)を2020年7月に発売し、50万台を超える売れ行きをみせている。

 台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は車体と高速通信機能を規格化し、EV開発用のオープンプラットフォームの提供を開始した。iPhoneの生産で培った受託生産モデルをEVに転用したかたちだ。これにより、新興企業でもEVの開発が可能になり、付加価値の提供という差別化戦略に注力できるようになる。またホンハイ自身もEV市場への参入を模索しており、SUV、セダン、バスのEV3車種を発表し、2023年に市場投入する計画だ。

 クルマのスマートフォン化も進み、クルマはサービス提供機器の一部になりつつある。「クルマを提供するのではなく、クルマで何をするかが重要になっているのです。新しい価値を提供するモビリティサービサーが次世代自動車のピラミッド構造の頂点に立つ可能性があるでしょう」と今井氏は指摘する(図1)。

図1 次世代自動車がもたらすインパクト
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図1 次世代自動車がもたらすインパクト
乗り物としての自動車はモジュール化し、新たなサプライヤーを生む。同時に自動車の付加価値を高めるサービスがより重要度を増していく。そのサービサーが新たな頂点に立つチェンジメーカーになる

地域課題の解決と新しいまちづくりが各地で進行中

 技術が進化し、新たな移動手段を手に入れることで、社会は大きく変わっていく。例えば、フランス・パリ市では「15分のまちづくり」が進められている。クルマの乗り入れを禁止し、公共交通機関や徒歩、自転車を使って、誰もが15分で仕事や学校、買い物などまちの主要機能にアクセスできるようにするという。MaaSはこの構想を実現する重要な手段の1つだ。

 日本でもMaaSを地域課題の解決に活用する取り組みが進んでいる。無印良品を展開する良品計画は、2020年から新潟県と山形県で移動販売バスの運営を開始した。同社が取り扱う雑貨を山間部の集落などで販売する。商いを通じて人と人とのつながりを創出し、暮らしやすく、住みやすい持続可能な地域づくりを目指している。

 長野県伊那市や三重6町などでは”医療MaaS”の実証実験が行われている。交通手段が限られたり、移動が困難な人のもとへ移動診療車を派遣したりし、テレビ電話によるオンライン診療なども行う。

 埼玉県入間市と自動車部品メーカー大手のアイシンは、地域一体となって高齢者の健康増進を支援する取り組みを開始した。市が提供するアプリで地域のイベントやお得な買い物情報などを配信し、オンデマンド交通を活用して移動を促進する試みだ。「高齢者に外出や適度な運動を促し、体力の低下や病気を予防・抑制する社会システムの構築を目指しています」と今井氏は述べる。

“組み合わせ”による事業性を考えることが大切

 こうした取り組みを推進していく上で重要になるのが、交通手段以外の価値と“組み合わせる”ことだという。「さまざまな施設やサービスを組み合わせれば、利用者の利用価値が高まり、持続可能な事業性が高まっていきます。マネタイズはこの組み合わせで考えていくことが大切です」と今井氏は主張する。

 この考えに基づき、今井氏自身もいくつかのMaaSプロジェクトに携わり、ウェルビーイングなまちづくりをサポートしている。そのうちの1つ、大日本印刷が開発した、地域周遊の“交通結節点”をつくる「DNP MaaSモビリティポート」(以下、モビリティポート)はその好例だ(図2)。

図2 「DNP MaaSモビリティポート」の実現イメージ
図2 「DNP MaaSモビリティポート」の実現イメージ
まちのゲートとしての機能を配置した施設が、都市と郊外を結ぶ交通結節点となる。ストレスフリーな交通サービスで渋滞・混雑、交通難民を解消し、地域内の周遊を促すことで、地域の活性化に貢献する

 モビリティポートに設置したデジタルサイネージで周辺エリアの交通情報や地域情報を配信するほか、オンデマンド型のタクシーやバスの呼び出しができ、電動キックボードやシェアサイクルなどの小型モビリティの貸し出し状況なども確認できる。2020年から2021年にかけて三重県や静岡県、東京・渋谷で実証実験を行っており、2022年度から本格稼働するという。

 「近隣住民が気軽に利用できる移動サービスを提供し、同時に交通集中を回避し、域外からの往来も促す。地域のパートナー企業と一緒になって『行きたくなる』『居たくなる』『周遊したくなる』活気あふれるまちづくりを支援しています」と今井氏は話す。

南アルプス市で産声を上げた「うごく街プロジェクト」

 2020年8月には「新しい働き方や暮らし方」の実現を目指す有志とともに、一般社団法人「うごく街」を設立。豊かな自然に恵まれた魅力溢れる地方都市とモビリティを掛け合わせ、地域住民と共創することで、内と外から地域が「動いていく」。うごく街というネーミングには、そんな思いが込められているという。

 その第一弾の取り組みが、山梨県南アルプス市で始まった。国内屈指の豊かな自然を有する南アルプス市は、東京から車でおよそ2時間と交通アクセスの利便性が高い。リニア新幹線開業後は品川から新駅まで25分で来訪が可能になる。「休眠農地や空き家・空き地といった不活性資産を価値化し、都市部から地域へ仕事や生活を持ち運べる『携住』型コミュニティスペースづくりを進めています」と今井氏は説明する。

 「携住」とは、定住でも移住でもない、これまでの暮らしを携えるように二拠点目で暮らす、新しい暮らし方を指す。携住するユーザーは、自分の暮らしのペースは保ったまま、多様なライフスタイルを楽しめる。140年の歴史と文化を持つ風光明媚な石積みの棚田での農業体験などで汗を流す。あるいは、オフィスと同様にWi-Fiなどのインフラを完備したグランピングテントでの“ワーケーション”で、楽しみながら仕事にも打ち込むといったことはその一例だ。

 地元工務店と連携し、このプロジェクトに最適なモビリティも企画している。普段は農作業用として地域で愛用されている「ケットラ」(軽トラック)を活用したもの。荷台にキッチンやBAR施設、音響設備などを実装し、音楽ライブやナイトクルーズなどのイベントを実施する。災害発生時は設備を組み替え生活支援車としても活用できるという。「都心部と地域の人々が交流することで、ノウハウやアイデアの交換・双発を刺激し、新しいサービスを創造する人材を増やしていきたい」と今井氏は展望を語る(図3)。

図3 「うごく街のフィールドとオリジナルモビリティイメージ」
図3 「うごく街のフィールドとオリジナルモビリティイメージ」

 一人ひとりのニーズにきめ細かく対応し、誰もが安心して暮らし、豊かさ・快適さを享受する。この実現に欠かせないピースの1つがMaaSだ。そのときに重要なのは、“人中心”で技術開発とデータ活用を進め、新しいサービスをデザインすること。この考えを常に念頭に置くことが、地域課題の解決や地方創生を促し、より良い社会の実現につながっていくポイントといえそうだ。

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