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レゴ®ブロックワークショップ体験レポート(DAO編)~ビジネスや組織運営にDAOを活用した新しい価値づくりを考える~

 wisdomが主催する「レゴ®ブロックワークショップ」が開催された。これは、レゴブロックを使って、一人ひとりが見ているものを可視化・共有しながら、新たな角度からの気付きや学びを深めるもの。今回テーマとなったのはDAO(分散型自律組織)だ。DAOをどう活用すれば、事業活動や組織運営にある課題を解決し、未来に向けて新しい価値を生み出すことができるのか――。当日は多くの受講者が集まり、熱心に作品制作や意見交換を行っていた。ここではその様子をレポートしたい。

事業や社内プロジェクトの課題をレゴブロックで可視化する

 web3が実装フェーズを迎え、その中核概念の1つであるDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)への注目も高まりつつある。「今日のワークショップはweb3とDAOがテーマ。ブロックを活用したワークを通じて皆さんと一緒に、『DAOを使って何ができるのか』を考えていきたいと思います」と、ファシリテーターを務める井澤 友郭氏は口火を切った。

株式会社アエルデザイン
井澤 友郭氏

 冒頭、ブロックを使ってストーリーを語るワークを体験。続いて「受講者がかかわる事業や社内プロジェクトにおける課題」をブロックで表現する実習が行われた。受講者は「①外に開かれていない 不透明であることによる課題」(クローズド系)と「②フラットではない共創的でないことによる課題」(ヒエラルキー系)のどちらか1つを選択し、自分自身が組織で課題と感じていることをレゴブロックで表現。作品についてのプレゼンと質疑応答が行われた。

 受講者のAさんは、ブロックを使ってヒエラルキー系の課題を可視化(写真A)。作品について次のように解説した。

 「台座の上では偉い人たちがお宝を見つけて喜んでいますが、下の方では喜んでいない人たちがたくさんいる。プロジェクトでお宝を見つけた=よいものをつくったと思っても、実は見落としがあったり、『私のやり方は違う』『こんなものはいらない』と異論が出たりして、結局は使われないことも多い。『皆に喜ばれるものをつくるのは難しい』ということを表現した作品です」。

 「手前の台座を高くしたのは、なぜですか」とBさんが質問すると、Aさんは「さまざまな障害が立ちはだかる“険しさ”を表したかったからです。ただ、障害を乗り越えたつもりでも、もっとほかに見るべきものがあったのではないか。台座にもたれかかっているのは、偉い人たちがお宝を見つけるために、陰で尽力した人たち。あちこち奔走させられて、疲れきっている様子を表現してみました」とこう答えた。

 一方、受講者のCさんは、クローズド系の課題をブロックで表現した(写真B)。グレー系のブロックは旧世代を、カラフルなブロックは新世代を表し、新世代と旧世代の対立を表現した作品だという。

 「グレーの側は旧世代で、お金や権力は持っていますが、SDGs的な新しい動きや課題をないがしろにして、お金も人も出そうとしない。一方で、自分たちの既得権益だけは死守しようとしている。新世代と旧世代の間に大きな壁があり、対立している様子を表現してみました」(Cさん)。

 「旧世代のグループの方がパーツも多いし、重厚な感じですね。旧世代の後ろにいる白い人は何ですか」とDさんが質問すると、Cさんは、「旧世代の後ろにいる白い人は、実働していない人などを表しています」と回答。さまざまな質問が飛び交った。

DAOは誰でも参加できるオープンでフラットな組織

 前半のワークが終わると、ゲスト講師である株式会社Unyte(以下、Unyte)の井澤 修司氏が登壇。DAOの概要や旧来のコミュニティとの違い、「DAOだからこそ効果的に解決できる課題・方法」について解説した。

 「DAOとは、メンバーが自分の意思で活動し、ブロックチェーンに記載されたルールに沿って報酬を受け取る組織のことです。①経営層や管理職が存在せず、一人ひとりが役割を分担するフラットな組織であること。②組織内のルールに従って、メンバーにより自律的な組織運営が行われること。③ブロックチェーンに記載されたルールに従ってガバナンスが行われること。これらがDAOの大きな特徴です」

株式会社Unyte
COO
井澤 修司氏

 DAOでは、報酬は貨幣ではなく、ブロックチェーン上に生成された「トークン」で支払われる。これは、特定のコミュニティでしか使えない“通貨”のようなもの。このトークンを使ってさまざまな価値を交換するのが、技術面におけるDAOの大きな特徴といえる。

 なぜDAOが大きな注目を集めているのか。それは多くの効果が期待できるからだ。例えば、組織管理面で「ガバナンスの透明性と健全性」が担保できることはその1つ。また所属するメンバーにとっても「自分が好きなコミュニティに参加できて、かつコミュニティに貢献すると報酬がもらえる」「退室・参加の自由が確保される」といった効果が見込める。

DAOでは、ユーザ、企業、社会それぞれにおいて多くの効果が見込める

 「なかでも我々が注目しているのが、『匿名でも人から信頼してもらえる』という点です。これは社会に大きなパラダイムシフトをもたらす可能性があると考えています。ブロックチェーンには、DAOのメンバーの貢献活動や評価についての情報が刻まれています。こうした情報は匿名性を保ったままウォレット(デジタル資産を保管できる場所)に蓄積され、かつ、誰もがそれを参照することができる。要は、DAOに参加していれば、ブロックチェーン上で、半永久的に自分の活動履歴を証明できるわけです。それは非常に大きな価値をもたらす可能性があります」(井澤 修司氏)。

 従来、企業は社内に閉じたクローズドな組織を持ち、上意下達の中央集権的な意思決定を行っていた。一方、DAOは誰でも参加できるオープンな組織であり、情報も透明性を持ってフラットに共有され、意思決定や決議は投票によって行われる。その意味で、DAOは従来のヒエラルキー型の組織とは一線を画した、全く新しいコンセプトの組織形態だといえる。

DAOではコミュニティの“評価”でその人の価値が決まる

 それでは、企業にとってDAOの価値とは何だろうか。それは、「コミュニティのメンバーが自社の代わりに生産活動を行ってくれるという点です」と井澤 修司氏。その具体例として、大手保険会社と大手シェアハウス会社の事例を紹介した。

 大手保険会社は、新卒採用プロセスにDAOを活用。インターンシップに参加した学生同士が、互いの貢献度を評価し合い、トークンを送り合う。獲得したトークン数が多ければ多いほど、採用選考で優遇される仕組みだ。「この仕組みを導入したところ、情報の透明性や採用結果に対する納得度が高まり、学生の満足度が大きく向上しました」と井澤 修司氏は話す。

 一方、物件管理をDAO化して大きな成果を上げたのが、大手シェアハウス会社だ。同社は、物件の掃除や内見対応など、管理運用業務の一部を入居者に委ね、その見返りとして報酬トークンを付与。トークンが貯まれば、大手シェアハウス会社が運営するほかのシェアハウスに1週間滞在できるという特典を設けた。開業から1年で売上は1.7倍に増え、月15~20万円かかっていた維持管理コストも半減。DAO導入により利益率38%という驚異的な数字を叩き出すことができた。

 現在、UnyteではNFTや地域創生、企業内コミュニティなど、さまざまな切り口からDAOコミュニティの支援を行っている。

 その1つは、ある大手企業が行ったDAO研究会の事例だ。これは、DAOの学習と web3関連の新規事業の企画を目的としたもので、学習に役立つ情報を共有した人や、社内シンポジウムへの出展準備に貢献したメンバーにトークンが付与される。トークンを獲得したメンバーは、 DAO 内の新規事業プログラム担当者にメンタリングを依頼できる仕組みだ。「新規事業の立案を前提にしたDAOなので、価値の割り振りや使い道がすべて新規事業につながっている。目的に対してトークンやタスク、報酬の一貫性が取れていることは、DAOを成功させる重要なポイントです」(井澤 修司氏)。

 講義の終盤では、Unyteで代表取締役を務める上泉 雄暉氏も登場。「DAOでどんな社会が実現できるのか」について持論を述べた。

 上泉氏によれば、従来の社会のベースは法定通貨であり、それを得るためには労働や投資をしなければならない。この法定通貨を“評価”という価値尺度に書き換えると、「コミュニティに対してどんな貢献をしているか」「“評価”を表すトークンをどれだけ持っているか」が、その人の価値を測る物差しとなる。そうなれば、組織の分散化に応じて、統一規格の法定通貨から、「Unyteトークン」のような“コミュニティ通貨”への分散が起こるという。

 「その足がかりの1つがDAOであり、銀行に似た役回りをする『評価の銀行』をつくっていくことが、我々のゴールです。『誰がどれだけ貨幣を持っているか』は、銀行口座の残高を見ればわかりますが、これからはブロックチェーン上のウォレットが銀行口座にとって代わり、ウォレットに保存された活動履歴とトークンの数を見れば、『その人はどんな価値観を持ち、どんな活動をしているか』がすぐにわかる。こうした取り組みによって新しい価値基準を社会に実装したいと考えています」(上泉氏)。

株式会社Unyte
代表取締役社長
上泉 雄暉氏

グループごとに課題の全体像を可視化

 ワークショップの後半では、「DAO化することでの変化と価値の創出」をテーマに、いくつかのワークが行われた。

 まず後半最初のワークでは、前半でそれぞれが考えた課題につながりを見出し、全体が1つの流れとして説明できるように、作品を並べ替えて模造紙上に配置。各作品が表している課題や意味、どんなステークホルダーがいるのか、具体的に誰が困っているのかなどをペンで書き出し、メンバーが抱える課題の全体像をグループごとに可視化していく。

 模造紙の上に作品が再配置され、「現場感覚を持つ人と意思決定者との認識ギャップ」「新世代vs旧世代の対立」「経済的・社会的格差」「組織間の対立」など、課題を表すキーワードが書き込まれた。ここで、グループごとに作品全体を俯瞰して、「それぞれの作品をDAO的にすると、どんな変化が生まれるか」を考え、ポストイットに書き込んで作品の周りに次々と貼っていく。

 次のワークでは、「ステークホルダーの期待やニーズ」を可視化する実習が行われた。受講者の作品に登場する人物は、何を期待し、どんなニーズを感じているのか、受講者は1ニーズごとに1ブロックを使い、模造紙に配置して「期待やニーズ」をペンで書き込んでいく。

DAO化が有効な部分を絞り込みインセンティブ設計を行う

 最後に集大成として、「DAO×価値創出」が行われた。まずは受講者が制作した作品の中で、最もDAO化が有効な部分を洗い出し、課題テーマを絞り込む。その上で、ステークホルダーのニーズや期待に対応し、モチベーションの向上と維持を図るための「インセンティブ設計」を行う。その結果はグループごとにまとめられ、2分間のプレゼンが行われた。

 「私たちがまず着目したのは、この歯車で表現している部分です。これは、『前に進めたい』『もっと働きたい』『もっと新しいことをしたい』という思いを表しています。この歯車をDAOの中でうまく動かし、光るパーツで表現された『評価』につなげようというのが、この作品の基本コンセプトです。

 このコンセプトに基づき、このグループでは、複数企業からなるDAOを考えてみました。一人ひとりの専門領域を明らかにすることで、今いる企業ではうまくフィットしなかったプロフェッショナルたちが、ほかでは活躍できるのではないかと考えたのです。複数企業からなるDAOの中で取引が生まれれば、歯車に込めた思いも満たされるのではないか。それが収益増につながって、旧世代やヒエラルキーの上層部も潤い、皆が評価されて、全体の満足度が向上する。それをこの作品で表現してみました」(Aさん)。

 ワーク終了後は、Unyteの井澤 修司氏による講評も行われた。「DAOという概念はややこしく、誤解されて伝わっていることも多いので、『DAOで何を解決するか』を考えるのは難しかったかもしれません。今日の学びを意義あるものにするためにも、ワークで出てきた貴重なアイデアを、常に頭の片隅に置いていただきたいと思います」。

 DAOの活用は、まだ緒についたばかり。しかし、今回のワークショップでは、多くの参加者たちが今後の課題やアクションに向けた新たな気付きや手応えを感じた様子だった。

当日はグラフィック カタリスト 成田 富男氏による、グラフィックレコーディングも行われた。その日のワークショップの内容を1枚の絵にまとめたもので、内容の整理と理解、記憶の定着に役立つ