熱量を持った仲間が企業の未来を動かす
~BtoB企業が挑むコミュニティの最前線に迫る~
ニーズの多様化や社会課題の複雑化が進む中、BtoB企業の間で「コミュニティ」に注目が集まっている。業種や世代の壁を超えて人々がつながり、ともに価値を生み出す場として、コミュニティはどのような可能性を秘めているのか。このヒントを探るべく、NECが主催する「web3コミュニティ(※1)」では、コミュニティづくりに取り組むメンバーによる、座談会を開催。本イベントでは各社の取り組みが紹介されるとともに、コミュニティがビジネスにもたらすメリットや実践上のポイント、そしてこれからの時代に求められるコミュニティの姿について、活発な意見が交わされた。
-
※1
web3を対象に、さまざまなユースケースや新たなビジネス創出を目指す共創型のコミュニティ
https://jpn.nec.com/nec-community/web3/info.html
三社三様の取り組みに見るコミュニティの可能性
2026年1月に開催された座談会には、コミュニティに注力する事業会社と、この分野に知見を持つプロフェッショナルファームから、総勢8名が参加した。事業会社としては日立建機、川崎重工、NECの3社6名が参加。また、デロイト トーマツからは、財務、デザイン、ブランド戦略の分野で豊富な実績を持つ2名が参加し、座談会のファシリテーターとコメンテーターを務めた。
イベントでは簡単な自己紹介の後、コミュニティに関する各社の取り組みが紹介された。最初に登壇したのは、日立建機の澤田 遊次郎氏と猿山 未華氏だ。同社が創設した「重機ファンダム」についての紹介である。
日立建機はグローバルに事業を展開する建設機械メーカーである。2023年、創業以来初となる社内ビジネスコンテストが開催され、澤田氏は猿山氏と共に「重機ファンコミュニティの立ち上げ」を提案。最終審査の結果、採択された。
まずは展示会でファンクラブ結成を呼びかけ、重機ファンを対象としたオフ会やイベントを実施。1年間の検証を経て、2025年6月に会社として正式に運用することが決まった。検証期間中の2024年11月に100人程でプレオープンしたファンコミュニティサイト「重機ファンダム」の現在の会員数は1280人。会員の6割が重機オペレーターを含む業界関係者で、協力法人は36社に上る。
「『重機が好き』という共通項があるため、コミュニティでは世代や業種を超えて、すぐに親しくなれる。会員の中には、転職して重機オペレーターになった人もいます。また、企業間の連携も進み、『一緒に業界を盛り上げよう』と呼びかければ、競合であっても企業の壁を超えて協力できることがわかりました」と澤田氏は語る。
サステナビリティ推進本部 CSR・環境推進部 ESG推進グループ
部長代理 VEリーダー 車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)
澤田 遊次郎氏
「重機ファンダム」のビジョンは「誰かの『好き』が、誇りに変わり社会を支える」。コミュニティを通じて現場の課題解決を行い、ひいては建設業界全体の魅力向上と人材確保につなげるのが狙いだ。
「この取り組みを通じて、学生などの未来の担い手、部品メーカーなどの調達パートナー、重機回送業などの関連事業者、自治体などの行政関係者など、ステークホルダーとの新たな連携も進んでいます。『重機ファンダム』は、企業と社会の成長に寄与するサステナビリティの取り組み。より幅広い分野の仲間とつながることで、社会の持続的な成長に貢献していきます」と猿山氏は語った。
サステナビリティ推進本部 CSR・環境推進部 ESG推進グループ
主任 車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)
猿山 未華氏
水素を“自分ごと化”してもらうために「水素焙煎コーヒー」とコラボレーション
続いて登壇したのは、川崎重工の藤田 雅和氏だ。同社がエネルギーとしての水素の社会実装に向けて進めている生活者向けの啓発活動について紹介した。
現在、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、クリーンな水素エネルギーの社会実装と2030年度の国際水素サプライチェーンの商用化に向けたさまざまな取り組みが進められている。こうした中、同社でもさまざまな水素に関連するビジネスが加速しつつある。
「水素にはCO2を排出しないだけでなく、エネルギー安全保障にも役立つなど、さまざまなメリットがあります。当社ではロケットの燃料となる種子島での液化水素タンクの製造から約40年以上にわたり、水素のノウハウを蓄積してきました。この知見を活かし、社内外の技術を組み合わせて水素サプライチェーンを構築し、各社と連携して事業の拡大を進めています」と藤田氏は語る。
水素戦略本部 PR戦略室 室長
藤田 雅和氏
現在はBtoBの取り組みが中心だが、ビジネスを拡大するには「いかに消費者の身近に水素を感じていただけるか」が課題。そこで同社は、UCC上島珈琲と連携し、水素を熱源として焙煎するCO2排出ゼロの「水素焙煎コーヒー」を活用した体験型の啓発活動を展開している。「水素による焙煎により、燃焼コントロールがさらにきめ細やかになることで、これまでのガス焙煎とは違う、新たな味わいを感じられます。こうしたことなどを伝えることで、消費者の方々に水素をより身近に感じてもらうことができると考えています。」(藤田氏)
2025年には小学生向けのトライアルセミナーも実施。水素焙煎コーヒーの試飲や水素の実験も交えて、水素を体感してもらう試みを行った。「他社と連携することで化学反応が起こり、仮説していた以上に、一般の方に水素をもっと身近に感じていただけることがわかりました。今後も連携を進めながら、さまざまな取り組みを展開していきたいと思います」と藤田氏は語った。
パーパスドリブンでZ世代の心をつかむ
最後に、NECの四方 作刀志が「未来の『社会価値創造の仲間』づくり」の取り組みを紹介した。
ここでいう「未来の仲間」とは「数年先の顧客・パートナー・従業員」であり、「NECブランドの将来価値に貢献する関係人口」を指す。この取り組みを通じて、「これからの社会を担っていく、若年層の関係人口を増やしていきたい」と四方は語る。
経営企画・サステナビリティ推進部門
ブランドエクイティマネジメント室
プロフェッショナル
四方 作刀志
なぜこうした取り組みを行うことにしたのか。それがNECは若年層の間で認知度が低く、競合と比べても関係人口の基盤が弱いのが課題だったからだ。そこで、「社会価値創造型企業」というNECのコンセプトに立ち返り、さまざまな社会課題に取り組む教育機関やZ世代のコミュニティに出向いてイベントを開催し、「社会価値創造」に感度の高い若年層との関係づくりに注力。さらに、活動を単発で終わらせないための仕組みとして、デジタル証明書(Verifiable Credentials)の発行を始めた。
「イベントでは社内外のコミュニティと連携し、ビジネスリーダーによる講演や、キャリア支援のためのスキル評価プログラムの提供などを行ってきました。さらに、こうした課外イベントへの参加履歴やスキル評価の記録をデジタル証明書として発行するなど、NECならではの施策も取り入れながら、参加者の体験価値向上に取り組んでいます」(四方)。
若年層と共に課題解決に取り組みながら、テクノロジーを活用してキャリア形成を支援する。この取り組みに対する学生の反応も上々で、関係人口の基盤づくりに手応えを感じているという。「今後は、こうした取り組みの“型”を社外にも応用し、地域の学生の学びを底上げしつつ、成長の証をデータ化し、地域企業の人材課題解決につながるようなプラットフォームをつくりたい」と四方は先を見据えている。
BtoB企業が「コミュニティ」を運営する意義とは
イベント後半では、デロイト トーマツの額田 康利氏がファシリテーターを務め、参加者全員によるディスカッションが行われた。この日のテーマは、「なぜコミュニティ(生活者視点)をBtoB企業が持とうとしているのか?」である。この問いを軸に、活発な意見交換が行われた。
額田氏(デロイト トーマツ):皆さんは仕事や私生活を通じて、さまざまな形でコミュニティ活動を体験されていると思います。では、今、なぜBtoB企業がコミュニティ活動を重視しているのでしょうか。その背景にはどんな課題があるとお考えですか。
ディレクター
額田 康利氏
武井氏(川崎重工):かつては消費者との接点を持たなくとも、消費者ニーズが見えやすい時代でした。しかし今は社会が多様化し、BtoBビジネスでも「一人ひとり」を見ていくことが重要になっています。それが、コミュニティが注目されている理由の1つだと思います。
特に私たちは「水素」という新しい商材を扱っているため、まずは自社の取り組みを知っていただかないことには先に進めません。その意味では、コミュニティ活動で“ベースを耕す”ことも必要だと考えています。
企画本部 経営企画部 戦略課 主事
武井 啓氏
猿山氏(日立建機):私たちが「重機ファンダム」を立ち上げた当初、重機ファンに対する社内のイメージは必ずしもポジティブなものだけではありませんでした。「自分は重機が大好きだけど、恥ずかしくて誰にも言えない」という声もあったほどです。しかし、ファンコミュニティを立ち上げたことで、「世の中にはこんなに多くの重機ファンがいる」という事実が可視化された。すると社内でも「実は自分も重機が好きで」とカミングアウトする人が増え、重機に対する見方を変えるきっかけになったと感じています。
四方(NEC):コミュニティが課題解決の手段として有効だと思う理由の1つは、「圧倒的に話が早い」ことです。共通の目的があるため、すぐに話が噛み合い、「では、やってみましょう」ということになる。
以前は、コミュニティが課題解決の手段として顕在化していませんでしたが、SNSの発達によって情報発信や人集めが容易になった。“熱量の塊”が可視化されたことで、コラボレーションが生まれやすくなったというのが実感です。
額田氏(デロイト トーマツ):デジタル化の影響も大きいということですね。売り手と買い手の間にあった情報の非対称性が崩れ、機能性や属性価値だけでは差別化できなくなった。既存のマーケティング手法が限界を迎える中で、コミュニティに期待が集まっています。ただし、コミュニティをマーケティングの手段の1つととらえ過ぎると、コミュニティが一気に崩壊しかねない。その点は常に意識する必要があると思います。
栗原氏(デロイト トーマツ):「一億総中流」から「十人十色」の時代を経て、今は「一人十色」の時代です。1人が複数の顔を持ち、幸せの定義も変わりつつあります。かつて日本企業が強いといわれた時代には、BtoB企業が顧客をリードしていましたが、その後は企業にも社会課題への取り組みが求められるようになりました。さらに今は、企業同士が連携して、生活者も含めたエコシステムを構築し、共創によって課題解決に取り組む時代に移行しつつあります。
パートナー
栗原 隆人氏
熱量のある仲間がいれば“爆速で解決”できる
額田氏(デロイト トーマツ):それでは、「コミュニティだからこそできること」とは何だとお考えですか。
関根(NEC):今は、1社だけでは解決できない課題が増えています。そういった課題を解決しやすいことだと考えています。私たちのweb3コミュニティでも、「こういう課題を一緒に解決しましょう」という具体的な呼びかけを起点に、各社が持つ技術やデータ、ユースケースを持ち寄り、賛同して参加してくださる企業が増えています。単発の情報交換にとどめず、PoCや検証までを前提に設計しているため、合意形成から着手までのリードタイムが短くなりました。
デジタルプラットフォームビジネスユニット
バイオメトリクス・ビジョンAI統括部
Decentralized ID事業開発グループ マネージャー
関根 宏
四方(NEC):これまでの取り組みから、共通の「課題」や「関心事」を中心に立てることが重要だと思います。教育機関や若年層とコラボレーションする際にも、この点は強く意識しました。「NECの都合」だけでは、求心力に乏しく、人はなかなか集まりませんし、熱量も高まりにくい。皆が心から共感できるテーマでなければ、コミュニティの力は十分に発揮されません。そこで私たちは「社会価値創造」「社会課題解決」をテーマに掲げ、NECを主語にしないよう意識してきました。
栗原氏(デロイト トーマツ):先ほど、四方さんから「熱量の塊を可視化する」というお話がありました。日立建機さんは重機ファンにそれを見出したわけですが、水素ではどこに熱量の塊があるとお考えですか。
武井氏(川崎重工):カギを握るのは、熱量というより好奇心ではないでしょうか。「水素もある生活」という未来をワクワクしながら思い描くことができれば、社会実装も自然に受け入れられると思います。
関根(NEC):水素の場合は、個人的な熱量や好奇心だけではなく、社会課題解決のような社会に向けた熱量や好奇心がある気がしました。誰かのためという視点や姿勢がモチベーションになるのではないでしょうか。
猿山氏(日立建機):要は、共感のポイントを過去に置くか、未来に置くかだと思います。重機では「子どものころ、重機に憧れた」という原体験、水素では「未来の姿」に共感が生まれやすいのではないかと思います。
額田氏(デロイト トーマツ):コミュニティには交流や共感など様々な体験価値がありますが、ともすれば我々は「コミュニティの価値を短期的なROIで測ろう」としがちです。それ以外の価値をどう説明すべきでしょうか。
四方(NEC):やはり、人と人とが直接つながることだと思います。コミュニティでは本音の付き合いができますし、そこで知り合った人と別の取り組みに発展することもある。その先には大きなオポチュニティが広がっていると感じます。
澤田氏(日立建機):重機ファンの中には、業界外の方も多く、ITエンジニアや不動産業者、行政書士など、さまざまなバックグラウンドの方がいます。「好き」でつながった方々のさまざまな知見を持ち寄れば、新たなソリューションが生まれる可能性もあると思います。
藤田氏(川崎重工):人と人が直接つながるという意味では、リアルなイベントも有効です。来場者と対面で話せば商品や技術への認知度も高まりますし、アンケートで多くの生の声を集めることも可能です。BtoB企業はSNSの活用に慎重な傾向があるため、リアルなコミュニティで可視化するのは1つの方法だと思います。
武井氏(川崎重工):最近は、展示会でも双方向性を重視しています。「水素が身近にあったら何をしてみたいですか」と問いかけ、来場者のコメントをその場で絵に描き起こす試みもしています。一方的に情報を押し付けるのではなく、水素のある未来を自分事として考えてもらう。それができるのがコミュニティの良さだと思います。
猿山氏(日立建機):私たちもイベントで、「あなたにとって建設機械とは何ですか」と問いかけたところ、30代の男性が「ヒーローです」と回答してくれたんです。そのようなファンの声を社内で紹介すると、「建設機械がこんなに愛されているなんて。生きがいを感じます」と社員から感動の声が続々と寄せられた。ファンと社員の思いが双方向で伝わっていくのを見て、感慨深いものがありましたね。
栗原氏(デロイト トーマツ):コミュニティでは社会課題にフォーカスすることで、すべてのプレイヤーが対等な関係になります。「自分が主語になって他者(他社)を従える」よりも、熱量のある場で一緒に考えたほうが、より早い課題解決につながるのです。
BtoB企業にとっては「ユーザの生の声が聞ける」ことも、エコシステムを構築するメリットの1つ。これまで企業のコミュニケーションは、テレビや雑誌、オウンドメディアなどを活用したプッシュ型が主流でしたが、コミュニティを活用すれば双方向のコミュニケーションが可能です。誰かが間違った理解をしていたとしても、コミュニティのメンバーが「いやいや、そうじゃない」と訂正してくれる。これは非常に大きな価値だと思います。
コミュニティとは資本でありストックである
額田氏(デロイト トーマツ):コミュニティは交流や情報共有の場であると同時に、人が前に進むためのきっかけづくりと判断の場でもある。その意味では、非常にパワフルなポテンシャルを秘めていると思います。今後、コミュニティはどのように進化していくと思われますか。
澤田氏(日立建機):コミュニティとはフローではなく、つながりが生み出すストックです。共通の関心でつながれば、すぐに親しくなれて、自然発生的にさまざまな価値が生まれる。その認識が世の中に広まるといいですね。
猿山氏(日立建機):ネット上では共通点を持つ人たちの小さな集まりが量産され、分断を生み出しています。大企業の新規事業のインキュベーションも自分の半径5m内の課題が中心で、過酷な現場で働く作業員に思いを寄せる人は少ないのが実情です。分断が進む時代だからこそ、多様で雑多な関係性を受けとめるコミュニティの価値は高まっていると思います。
藤田氏(川崎重工):このKAWARUBA(※2)という場所ができたこと自体、とても意義があると考えています。ただその一方で、ここで生まれる「つながり」や「学習」が、今すぐP/LやB/Sに表れるわけではありません。この“見えにくさ”をどう説明していくかが課題で、いずれはこれを経営資産へと翻訳する必要があると思います。それが直接利益を生み出すわけではないとしても、例えば「もしこの場が無ければ生まれなかった商談・協業の端緒」までを可視化することが重要だと感じています。
-
※2
KAWARUBA(カワルバ):川崎重工が2024年11月に開設した、ソーシャルイノベーション共創拠点。 東京都大田区のHANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ)内に設置されており、当日の座談会はここで行われた
https://kawaruba.com/
栗原氏(デロイト トーマツ):今後のコミュニティの進化は、成功手段の変化によるところが大きいと思います。昔は「所有」や「所属」がアイデンティティの軸でしたが、SNSの登場によって「私はこれが好きです」という自己表示の時代が到来した。ただ、今の推し活はさらに進化していて、自分の興味・関心により多くの時間とエネルギーを注ぐようになっている。「好き」に対する熱量が問われるようになったのです。
先ほど話題になったデジタル証明書も、推し活をテクノロジーの力で加速させ、人間関係をその場だけでなく外へと広げていくでしょう。デジタル証明書が普及すれば、「コミュニティとは資本でありストックである」という意識も一層高まるはずです。その意味で、まさにコミュニティの時代が来ているのではないかと感じます。
額田氏(デロイト トーマツ):今日は、大変意義のあるディスカッションができたと思います。ありがとうございました。