レゴ®ブロックワークショップ体験レポート(スマートワーク編)
~ポストコロナ時代、「働き方のこれから」を探る~
ポストコロナ時代を迎え、新しい「働き方」を模索している企業・組織は少なくない。どうすれば、一人ひとりの働く幸せを実現しながら、理想のチームを実現し、企業の成長に結びつけることができるのか――。このヒントを探るべく開催されたのが、wisdom主催の「レゴ®ブロックワークショップ」の「スマートワーク編」だ。これはレゴ®ブロックを使ったワークとレクチャーを手掛かりに、考えを深めていくワークショップ。ここでは、その内容について紹介したい。
スマートワークの目的は「生産性の最大化」
スマートワークとは、ICTの活用により現在のワークスタイルを改善し、社員が業務の生産性を高め、効率よく仕事ができる環境づくりを支援する仕組みだ。
「スマートワークが目指すのは、『時間と場所を選ばない多様な働き方を実現し、それによって、組織と個人の生産性を最大化する』こと。多様な働き方を実現する目的とは、単に“皆が自由に働くこと”ではなく、“生産性の最大化”にあります。そのことを、改めてきちんと定義することが重要です」とワークショップでファシリテーターを務める井澤 友郭氏は解説する。
それでは、今、なぜスマートワークが注目されているのか。井澤氏はこう続ける。
「コロナ禍の3年間で、これまでの当たり前が、未来の当たり前とはいえない状況になった。まさに、たった1つの正解が存在しない時代になったわけです。しかも、日本はほかの先進国に先んじて、1990年代から人口オーナス期(人口構成が経済にとってマイナスに作用すること)に突入しました。この人口減少を乗り越えるためには、多様な人にとって働きやすい環境を実現しなければなりません。従来の新卒一括採用、終身雇用では、もはや人材確保や生産性向上は難しい。誰もが働きやすい職場環境をつくり、一人ひとりの生産性を高めていくことが不可欠なのです」。
この人口減少と密接にかかわっているのが、ジェンダー不平等の問題だ。日本における経済と政治の領域の男女格差は依然として大きく、世界経済フォーラムが発表した2023年の「ジェンダーギャップ指数」では、日本は146ヵ国中125位と過去最低を記録した。
「進学や就職で地元を離れた若者のうち、ある地域では男性は過半数が地元に帰るのに、女性は4分の1しか地元に戻らない。女性が働きたいと思える職場が、地元にないからです。2040年代には、900箇所近い市町村で、20代・30代の女性人口が現在の半数以下になるといわれています。今やジェンダー平等は、地域や組織のサステナビリティに不可欠な要素となりつつある。SDGsを単なる社会貢献としかとらえていない会社は、2030年以降は生き残れないかもしれません」(井澤氏)。
多様な人材を、いかにチームとして機能させるか
国籍・ジェンダーも含めて多様な人材が集まる職場では、イノベーションにつながる新しいアイデアが生まれ、リスク管理能力も磨かれる。とはいえ、多様な人材を集めただけで、何の打ち手も講じなければ、必ずしも生産性は上がらない。「集めた人材が単なる集団(グループ)で終わるのか、それとも目的を共有し、役割を分担するチームに成長するのか。そこが大きな分かれ目になります」と井澤氏。ここで、受講者は3~4人の班に分かれ、「グループとチームの差とは何か」を話し合うワークが行われた。
班ごとに意見交換が行われた後、レクチャーを再開。井澤氏は、チームに必要な要素について、さらに解説を加えた。「グループからチームに成長するためには、2つの要素が必要です。1つは共通の目的や目標を持つこと。そしてもう1つが役割分担を互いに認識していることです。ただし、スマートワークで難しいのは、メンバーが同じ場所で働いているとは限らない状況で、互いの役割を理解しなければならない点です」。
こう前置きした上で、井澤氏は、グループがチームに成長していくプロセスをまとめた「タックマンモデル」を紹介した。タックマンモデルとは、心理学者のタックマンが「チームの成長段階」についてモデル化したもの。グループは①形成、②混乱、③統一、④機能といった段階を経て、チームに成長していくと説いている(図)。
「チームとして結果を出すためには、多様な人材を確保しつつ、意見を言い合える関係性を築くことが大切です。アフリカには、『早く行きたいなら、1人で行きなさい。遠くに行きたいなら、皆で行きなさい』ということわざがあります。より大きな成果を上げたいのであれば、性別や国籍が異なる人材を集めた方がいい。一方で、『多様な人材をチームとして機能させる取り組みをしないと、生産性はむしろ下がる』というリスクも指摘されています」と井澤氏は説明する。
ダイバーシティの実現には目標の数値化が重要
それでは、働き方の多様化が進む中、スマートワークで生産性を上げるためのポイントはどこにあるのか。
ダイバーシティの大きなメリットとしては、前述したように、「リスクに強くなる」「新しいアイデアが生まれる」という2点が挙げられる。人は誰でも、無意識の差別感情や思い込みを持っているため、時として消費者ニーズを見誤ったり、失言によって炎上したりといったことが起こりがちだ。似たような属性の人が集まっていると、こうした無意識のバイアスに気付かないため、ダイバーシティがない状態は常に大きなリスクをともなう。
「実効性のあるダイバーシティ採用や人事を行うためには、クリティカルマスの考えを取り入れ“数字で目標を設定する”ことが大変重要です」と井澤氏。「女性の採用比率を〇%以上にする」「外国人を〇%採用する」と数値目標を立てることが、結果を出すチームづくりの第一歩だという。
ここで、再びワークが行われた。「チームメンバーの特徴や価値観を理解した“妥協じゃない役割分担”を実現するためには、一人ひとりが何を大切にし、何を得意としているのかを言語化する必要があります。今日はレゴ®ブロックを使いながら、ウェルビーイングというキーワードで、 一人ひとりの働く幸せ、働く価値を言語化していきたいと思います」(井澤氏)。約3分で各人がブロックを組み立て、自分の作品について説明し、質疑応答という流れだ。
その後、いくつかのワークを行い、この日の集大成として最後のワークが行われた。テーマは、「一人ひとりの働く幸せが実現できる理想のチームとはどんな姿だとあなたは感じていますか?」である。理想のチームに必要なことは何か、不足していることは何で、自分にできることは何か。レゴ®ブロックで可視化する作業を行った。
ブロックを使って作品を制作し、自分の内面を可視化
受講者のAさんは、さまざまなブロックを使って、仕事で直面するハードルや課題を表現。少し離れた場所から、それを見ている人形を置いた。
「多様な価値観を持つ人たちが、困難に直面しながら成長していく様子を、リーダーが俯瞰しながら見ている。リーダーは、俺についてこい、と上から指示するのではなく、『よく見てごらん、ここに扉があるよ』とヒントを出したり、アシストしたりして導いてくれる。そんなリーダーが欲しいという気持ちと、それを受けて課題を乗り越えていく自分たちを表現してみました」(Aさん)。
受講者のBさんは、さまざまな色や形状のブロックを椅子に見立てて、人形が椅子に座っている様子を表現。「働く職場に机がない」という状況をシンプルに表現した。「自分の会社は地元密着型で、暗黙知の部分がとても多い会社です。最近は社員の属性も多様化してきましたが、コロナ禍でオンラインミーティングが増え、同じフロアにいるのにヘッドフォンを付けてミーティングしたりしている。もっと対話や言語化して共有することが必要だと感じているので、あえて机がない環境をつくってみました」(Bさん)。
一方、受講者のCさんは、円柱の両脇に歯車とアーム状にしたブロックを取り付け、ダイナミックに回転する仕掛けを制作。アームの先端に2体、円柱上部に3体の人形を取り付けた。「両脇のブロックをグルグル回すことで、“良い時もあれば悪い時もある”という状況を表現してみました。円柱の天辺にいる骸骨がリーダーで、チームでゴールを目指すのですが、アームの先端にいるメンバーはゴールより上に行ってもいいし、全員が全員、ゴールまで行かなくてもいい。皆で支え合い、チームで役割分担しながら進む様子を表現したいと思いました」(Cさん)。
働き方改革にはチームマネジメントの視点も重要
その後、ワークショップ後半では、NECカルチャー変革統括部の柴田 篤志が登壇。「働く×ウェルビーイング実現に向けたNECの挑戦」と題して、NECにおける働き方改革の取り組みを紹介した。
NECはかつて国内有数の総合電機メーカーであったが、2000年代に入って、社会ソリューション事業に大きく軸足を移した。とはいえ、ビジネスモデルの転換は容易ではなく、中計を撤回することもみられる“苦闘の20年”を経験。「ビジネスモデルを変えようと思ったら、人や組織、文化も変わっていかないといけない。その気付きが、NECのカルチャー変革や働き方改革の取り組みにつながっています」と柴田は語る。
NECは企業風土の変革を目指して、トップの大号令のもと、「NECグループ社員1万人との対話」を敢行。さらに、グローバルにベンチマークが可能なサーベイも行い、「どうすればNECは変われるか」というキードライバーを抽出して、経営・現場・ハード・ソフトなど、さまざまな切り口から変革に乗り出した。
「その1つが、スマートワーク、働き方改革です。社員の成長と幸せを追求していくと、それが会社の成長につながり、そこで得たものを社員の成長と幸せに還元できる。その循環を回していくことを、大きなコンセプトとして掲げました」(柴田)。
具体的な取り組みとしては、「テレワーク」を推進し、「ドレスコードフリー」や「スーパーフレックス制度」を導入。また、「オフィス改革」の一環として、本社ビル3階にコワーキングスペースの「BASE」をオープンした。さらに、いつでもどこでも働ける「デジタルワークプレイス」の環境づくりを推進。社員が自ら働き方についての検討を重ね、コラボレーションを大切にするクラウドツールの導入も進めた。
こうした取り組みは一定の成果を挙げ、2020年に緊急事態宣言が発出した後は、最大で約85%の社員がリモートワークをしながら事業を継続。コロナ禍でも中計を達成し、株価も大きく上昇した。また、2021年度のサーベイでは、社員のエンゲージメントスコアが10ポイントも上昇。スマートワークによる働き方改革の取り組みが、社内でも高い評価を得る結果となった。
「NECでは、“社員と会社の対等な関係のもと、社員が働き方を自律的にデザインする”ことを基本的な考え方にしています。その一環として、社員の選択肢を広げるため、遠隔地・遠距離勤務制度を導入。ハイブリッドワークを標準として、出社率を40%と想定する形で、オフィス面積は最終的に約50%ほど削減する予定です。オフィスは“集う場所”と再定義し、皆がコミュニケーションできる場所を増やしていこうという基本的な考え方のもと不動産の最適化も進めています」(柴田)。
とはいえ、課題がないわけではない。従業員サーベイにおけるワークライフバランスの指標は向上しているものの、社員の生産性実感などに関する肯定回答は増加していない、と柴田は打ち明ける。
「働き方が単純に変わるだけでは、生産性は上がりません。働く場所や時間の議論を超えて多様な働き方、多様な価値観を持ったメンバーが同じゴールに向かうためのチームマネジメントを、これまで以上に重視していく必要があります。それをしない限り、一人ひとりのウェルビーイングの実現や、それを会社の成長につなげていくことは難しい。そこで今後の働き方改革では、チームマネジメントという視点を加えることも検討しています」(柴田)。
その後、受講者はグループに分かれてレクチャーの感想を共有。最後に、井澤氏がクロージングを行った。
「今日のキーワードは見える化です。皆さんの内面にあるものを見える化するため、今日はレゴ®ブロックを使いましたが、ICTの力で見える化することも可能です。学びは掛け算ですから、せっかく気付きや知識を得ても、何も行動しなければゼロで終わってしまいます。何か1つでも行動することで、今日のプログラムを、ぜひ皆さんの現場で活かしていただきたいと思います」。
新しい働き方の実践は、一朝一夕にはいかない。問題意識を持つとともに、何らかのアクションを起こしていくことが重要といえるだろう。