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空飛ぶクルマの商業化で一歩先んじるのは米国か

 2023年に入り、大手eVTOL(電動垂直離着陸機)メーカーは型式認証を巡る競争を加速している。一方、経済性を重視したパイロットが搭乗しない無操縦者航空機にも関心が高まっている。今回は欧米eVTOL機体メーカーと無操縦者航空機の動向をまとめてみたい。

小池 良次 氏

商業無人飛行機システム/情報通信システムを専門とするリサーチャーおよびコンサルタント。在米約30年、現在サンフランシスコ郊外在住。情報通信ネットワーク産業協会にて米国情報通信に関する研究会を主催。

  • 商業無人飛行機システムのコンサルティング会社Aerial Innovation LLC最高経営責任者
  • 国際大学グローコム・シニアーフェロー
  • 情報通信総合研究所上席リサーチャー

Wisk社が4名乗りeVTOLを発表

 2022年10月初め、米Boeing社とKitty Hawk社の合弁会社Wisk Aero社1は第6世代の自律電動垂直離着陸機(eVTOL:以下Wisk Gen6)を発表した。

 このWisk Gen6は、同社がFAAに型式認証を申請する最初のeVTOL機となる予定だ。リフト&クルーズ型の実証機Coraに比べると、ベクター・スラスト(推力偏向)方式に推進システムが変わっている。

Wisk Aero Gen6
(写真:同社ホームページ)

 12プロペラを主翼上ブームに配置する構成で、翼後方のリフト・ユニットは固定式で、翼前方にのみプロペラの方向を変える可動ユニットがある。これによりエネルギー管理の効率化と機体の制御性向上を目指している。航続距離144km、巡航速度 時速222km、巡航高度 760m~1220m(AGL)、純電動で自動飛行を前提にパイロットは搭乗せず乗客は4名。

 Joby社やArcher社はパイロット搭乗型の機体を開発しているが、Wisk社はパイロットが搭乗しない「無操縦者航空機」に特化している点が大きな特徴だ。

 実現には高度な自律操縦システムが必要となるが、同社は「現行商用飛行における自動化されたパイロット機能の93%以上を実現している」と説明している。実際の運行では、地上の操縦管制システムからパイロットが各機体を監督する。

 なぜ、Wisk社は無操縦者航空機にこだわるのだろうか。

 商業化を数年後に控える第1世代eVTOLは、パイロットを含め搭乗者5名が主流となるだろう。しかし、その経済性には課題が山積している。

  • 1) 数億円という高価な機体にもかかわらず、1回に4名しか運べないこと。
  • 2) パイロットの人件費は、大きなコスト要因。
  • 3) 毎回のように充電する必要があり運行時間が制限されること。
  • 4) 上記1)~3)を考慮すると、1人あたりの運賃は数万円(現状ヘリコプター並)となる。高額な運賃は利用者から敬遠される可能性がある。

 もちろん、将来は量産により機体価格も下がり、バッテリー性能の向上から8名や10名乗りの機体も開発されるだろうが、そうした第2世代や第3世代eVTOLの実現は2030年代となりそうだ。

 Wisk社は経済性を最初から重視し、最大のコスト要因であるパイロットの人件費に着目した。複数の機体を地上から監督することで、乗客1人あたり3ドル/マイルという高い経済性を目指している。

 Wisk Gen6はアクセシビリティにも力を入れ、身障者でも簡単に搭乗できる設計や聴覚や視覚が不自由な人にも安心して乗れるインタフェースを整備している。

  • 1 カリフォルニア州Mountain View市に本社があるWisk社は、航空機製造大手Boeing CompanyとeVTOLベンチャーのKitty Hawk Corporationによる合弁事業。

高まるパイロットレスの制度設計

 Wisk Gen6のようにパイロットが搭乗操縦しない「無操縦者航空機」に関する地上設備や空域管理ルールは、欧米で議論が始まったところだ。

 たとえば、NASA(米連邦航空宇宙局)は22年10月、新しい飛行操縦モードであるDFR(デジタル・フライト・ルール)を提案するホワイトペーパーを発表し、そのなかで無操縦者航空機を含めた新しい飛行ルールを検討している。

DFRにおける機体セパレーションの概念図
(出典:NASA Digital Flight)

 近い将来、地上で自動運転車が求められるように、かねてからNASAは無操縦者航空機の重要性を認めていた。同ホワイトペーパーでも「前世紀に計器飛行(IFR)が、目視飛行 (VFR) だけでは対応できなかった『空域利用と航空サービスの拡大に貢献した』ようにDFRを導入することは、最新の公共ニーズに対応することになる」と主張している。

DFRによる5つの促進要素:

  • 1) 航空サービスへの新規参入が増える中、十分なトラフィック・スケーラビリティーを満たすこと
  • 2) パイロットが搭乗していない無操縦者航空機と既存航空機の操縦互換性確保
  • 3) 飛行エネルギーが限られた電気航空機の緊急運用を予測可能とする
  • 4) 様々な気象条件、空域クラスで高度で機動的な運用の確保
  • 5) 滑走路に依存しない運用と非タワー型空港での運用

 また、航空通信分野の民間標準化団体RTCAでもDigital Flightに関するシンポジウムを開催し、CONOPS(concept of operation)の検討を始めている。

 この分野では、欧州の航空コミュニティーがやや先行しているとはいえ、欧米ともにまだ研究段階2といえる。ルールが決まり、商業化できるのは2030年頃だろう。

  • 2 Wisk社は、FAA、NASA、Aurora Flight Sciences、Skyports社などの業界パートナーと協力して、UAM(Urban Air Mobility)ロードマップを開発に力を入れている。たとえば、英国Skyports社と共同して22年4月に自律型eVTOL機の運用コンセプトを発表している。

Beta社にみる充電網ビジネス

 貨物用eVTOLを開発しているBeta Technologies社はチャージ・ステーション・ネットワーク(Charge Station Network:CSN)にも注力している。

 Beta社のCSNはクライアント3の離発着施設や空港に充電設備を独自に整備する計画で、自社の機体だけでなく他社の電動航空機や、駐車場のEV(電動自動車)の充電もサポートする予定だ。

 22年秋、全米に整備予定のチャージ・ステーション・ネットワーク向けモバイル・アプリを公開した。同モバイル・アプリを使用すると、オペレーターはルート上の最寄りの充電ステーションを見つけ、その場で充電を開始できる。

Springfield-Beckley Municipal Airportに設置されたBeta社のチャージステーション
(写真:筆者撮影)

 決済機能は、取引詳細や各機体の充電履歴を保存できるほか、プロモーション用のバウチャー発行もできる。複数の中継地で充電する場合、できるだけ電力料金が安いエリアで集中的に充電することで、コストを安くすることもできる。

 同社は2022年5月、整備済みの充電ステーション(10か所)を使用して、ニューヨーク州北部のプラッツバーグ空港(Plattsburgh Airport)からアーカンソー州ベントンビル市(Bentonville)までの1,400マイルを飛行した。同飛行では、オハイオ州、インディアナ州、イリノイ州、ミズーリ州を経由するルートで、7か所で駐機/充電を実施した。

 既存航空業界でも、燃料の安い空港で給油を多くすることでコストダウンをはかることは行われている。しかし、eVTOLのCSNは、EVのパイオニア、テスラー社のCSNも近いだろう。テスラー社の場合、車体セールスと連動としてCSN料金を変動させることで、販売促進を柔軟に行っている。

 Beta社と同様に、Eve社、Lilium社、Eviation社などの空飛ぶクルマのメーカーも利便性の向上とコストカット、収入の多角化やプロモーションを狙ってCSNに関心を示している。

  • 3 2022年8月、ヘリコプター・オペレーター大手のBristow社がBeta社のAlia 250を仮発注している。Alia 250は、パイロットと最大5人の乗客あるいは、貨物(1400pound)を運べる。航続距離は460kmで、Beta社は2025年に機体認証を取得し、商用サービスの開始を狙っている。

FAA、相次ぎ型式認証審査基準を公開

 2022年末、FAA(米連邦航空局)はJoby Aviation社とArcher Aviation社の型式認証審査基準を相次いで官報で公開した。

 型式認定とは、各国の航空局が安全な運行ができることを確認するための活動で、同認定がなければ、その国での商業運行はできない。商業化の鍵を握るのが型式認定だ。

 2022年11月に公開されたJoby Aviation社のJAS4-1 eVTOLプロダクション・モデルの型式認証審査基準は、米国における最初の公開ケースとなった。

型式証明を進めるoby社のJAS4-1
(写真:Joby Aviaton)

 前回のレポート(2022年7月)で紹介したように、FAAは22年5月にeVTOL航空機に関する「耐空証明(Airworthiness)および型式証明(Type Certificate)」ルールを大きく変更した。実際の審査が進んでいるにも関わらず、こうした方針転換をすることは「異例」で、Joby社の商業化が数年遅れになると懸念された。

 結論から言えば、今回公開された同社JAS4-1審査基準は、これまで合意した内容を維持するもので、方針転換による影響を最小限にしようとするFAAの意図が見えた。

 Joby社も22年第3四半期決算に関する株主向けのメモランダムで、商業化スケジュールが2024年から2025年に「1年程度遅れる」と述べ、影響が小さかったことに言及している。なお、米国防総省によるJAS4-1 運用開始は、2024年開始のままとなっている。

 Joby S4-1型式認証審査基準を説明する前に、航空機の型式認証活動について簡単に触れておこう。

 同活動は4つの段階に分かれ、以下の表のようになる。型式認証に詳しくない方は、この表を読んで頂き、既にご存知の方は飛ばしてほしい。

航空機における型式認証活動のながれ

審査段階 機体の証明活動 製造体制の証明活動 安全性維持活動
第1段階
(型式証明申請)
  • メーカーが作りたい機体のコンセプトを固め、型式証明申請に必要な内容を航空局と相談し、合意する。
  • この段階で目標とする機体の性能(何人乗りで、どんな推進方式を使うなど)と狙う運行方法(都市間近距離の旅客輸送など)、開発期間などの基本が固まる。
  • これをコノップス(CONOPS:Concept of Operation)と呼び、航空局と合意ができれば型式証明申請をおこない受理される。
  • この段階で、メーカーは将来必要な製造体制に関する調査検討を実施する。
  • この段階で製造体制に関する航空局との協議は基本的にもとめられない。
  • 安全性維持活動とは、機体が安全に運行できるよう継続的に行う活動のこと。
  • たとえば、同じ方式を利用する他社製航空機が事故を起こした場合、その情報を素早く取得し、自社の機体で同様の問題がないかを検証し、必要であれば設計変更などの適切な処置をする必要がある。
  • この段階で、メーカーは将来必要な安全性維持活動に関する調査検討を実施する。
第2段階
(適用基準の設定と証明計画)
  • 第2段階は、適合性証明活動となる。これは開発する機体の安全性について証明手法をメーカーが作成し、航空局と協議を重ねながら合意してゆく。
  • この証明方法は、過去に型式認証で採用された証明手法(適用基準の設定)を利用しながら、証明計画を練り上げる。
  • 過去の基準が適用できない場合は、新たに証明方法をメーカーが提案し、航空局と合意する。
  • メーカーは、型式認証活動と並行して、製造過程/体制の構築と検証について航空局と協議し合意しなければならない。
  • これは、型式認証で証明した安全性を確保できる機体を、確実に製造(量産)できることを証明する作業となる。
  • メーカーは安全性を確保する体制の構築についても航空局と協議しなければならない。
  • これは型式認証を取ったあとも継続的に続けることになる。
第3段階
(型式認証飛行試験)
  • 合意した証明手法により実際の試験(地上試験および飛行試験)を行い、検証する。なお、実際の飛行試験では試験を行う試験用航空機(供試体)が必要となる。
  • そのため第2段階の証明計画と並行して、メーカーは、製造モデルと呼ばれる段階まで設計試作を進め、試験飛行ができるように供試体の耐空証明を取得する必要がある。
  • なお、試験飛行で十分な検証ができなかった場合はコノップス(第1段階)や証明計画(第2段階)の変更やアップデートをおこない、承認が得られるまで繰り返す。
  • 航空局との合意内容に従い、製造設備や製造スタッフ、責任体制などの審査を受ける必要がある。
  • 同審査は文書および現場における検査が行われる。
  • 航空局との合意内容に従い、安全性維持活動の検査を受ける必要がある。
  • 情報収集や責任体制、対応手順書などの検査に通る必要がある。
第4段階
(型式認証の交付と公表)
  • 最終審査会で試験飛行、製造体制、安全性維持活動のすべてで適合と判断されると、航空局は型式認証をメーカーに発行するとともに、その承認を公表する。
  • メーカーは機体製造を開始するとともに、安全性維持活動を継続的に実施する。

出典:各種公開資料を元にAerial Innovation社が作成

 表に示したとおり、型式認証活動は「機体の証明活動」「製造体制の証明活動」「安全性維持活動」の3つの作業を並行して進めてゆく。型式証明活動の説明はここまでとして、公開されたJoby S4-1型式審査基準に話を戻そう。

 昨年5月のFAA方針転換は、クラス・カテゴリーを「固定翼機」から「パワーリフト4」と呼ばれる特殊機体に適用される審査基準(Part21b)に変更するものだ。

 変更前、Joby社JAS4-1は上表の第2段階に「固定翼機の審査基準」で入っていた。変更にともない、厳格な運用をFAAが求めれば「ゼロ・リセット」と呼ばれる第1段階から出直すことになる。幸いゼロ・リセットは避けられている。

 つまり、多くの部分で固定翼一般航空航空機の認証基準(Part235)から引用されていたほか、Part33(エンジン)やPart35(プロペラ)なども取り入れていた。しかし、これらの既存方法ではパワード・リフトへの差分をサポートできなかったため、FAAはeVTOL固有の新基準も導入した。

 たとえば、FAAは機体が十分な安全性能を維持できるように、電源喪失時の飛行と着陸を行う新基準を示した。また、eVTOL航空機は既存固定翼機やヘリコプターよりも静かなため、バードストライク(鳥類の機体衝突)回避と保護に関する新規制を検討している。

  • 4 powered-lift(aircraft)transitional flight mode:パワード・リフト遷移飛行モード
  • 5 Part 23は、Normal, Utility, Acrobatic and Commuter Airplanesの耐空基準を定めている。

強気のスケジュールを狙うArcher社

 Joby社の翌月、FAAはArcher Aviation社のModel M001(Midnight)に関する型式認証審査基準も公開(22年12月)した。10年以上の開発期間を経たJoby社のJAS4-1は当然だが、2021年はじめに実証機「Maker」で業界に姿を現したArcher社が「約2年ほどで審査基準公開にたどり着いた」ことは驚きといえる。

 Archer社の創業者兼CEOのAdam Goldstein氏は23年1月に開催された空飛ぶクルマの学会6で「(創業の)初日から型式証明しか考えてこなかった」と述べている。また、同社は22年8月に、FAAの型式証明部門(Policy & Innovation Division, Aircraft Certification Service)のディレクターだったMichael Romanowski氏を同社のGovernment Relations部門のトップに雇用して、型式証明作業の強化を進めていた。

Archer社は2024年までに型式認証取得を狙う
(出典:同社プレゼンテーション)

 スペシャル・クラスという性格から考えれば、Joby社とArcher社の審査基準は違っても構わない。しかし、型式認証審査基準を比較すると、両社は基本的に同様の基準が適用されている。

 たとえば、いずれも「離着陸時はヘリコプターとして機能し、飛行操作の途中部分ではヘリコプターよりも高速で巡航する(固定翼)飛行機として機能するように設計されている」とFAAは規定している。

 もちろん、細かい点では違いがある。たとえば、推進部分の記述については以下のようになっている。

<Archer Aviation: Model M001(Midnight)>

  • 従来の空気と燃料の燃焼の代わりに、搭載されたバッテリーを動力源とする 12 個の電気エンジンを使用して推進する。主翼の前縁には5枚翼の可変ピッチプロペラを備えた6基の電気エンジンが左右に3基ずつ搭載され、垂直推力と前進推力の両方を提供するために傾斜する。
  • ほかの 6 つの電気エンジンは、2 枚羽根の固定ピッチ プロペラを駆動し、主翼の後端にそれぞれ 3 つずつ取り付けられている。それらは垂直推力のみを提供するように固定され、後部に取り付けられたエンジンは、スラスト支持または半スラスト支持飛行中にのみ作動する。
  • 翼搭載の前進飛行では、これらのエンジンはオフになり、プロペラは航空機の胴体に沿ってフェアリングされる。

<Joby Aviation:Joby S4-1>

  • Joby モデル JAS4-1 電動リフトの電気エンジンは、空気と燃料の燃焼の代わりに電力を使用して、航空機を 6 つの 5 ブレード複合可変ピッチ プロペラで推進する。
  • プロペラ・ブレードのピッチは電子的に制御され、ブレードはハブの周りに非対称に配置され、音響ノイズを低減する。

 Joby社は商業化スケジュールを1年延期しているが、Archer社は2024年商業開始という目標を堅持している。Archer社M001(Midnight)は、これから適合飛行試験(conformity flight test)に取り組む。なんの問題もなければ1年半程度で型式認証の発行にたどり着くが、常識的には1年半で終わるとは考えにくい。

 もちろん課題は、パワーリフトへの変更にともなう追加証明にどの程度かかるかと、安全基準をどの程度に設定するかだろう。

 FAAが商用航空機に求める最高安全基準(壊滅的故障の発生確率10のマイナス9乗)ではなく、小型機などに適用される安全レベル(Part 23:10マイナス7乗または10のマイナス8乗)で認定するかどうかが、次の注目点7といえる。

  • 6 同学会の正式名称は10th Biennial Autonomous VTOL Technical Meeting & 10th Annual Electric VTOL Symposium。アリゾナ州フェニックス市で開催された。
  • 7 EASA(欧州航空安全機関)の審査では、より高い民間航空機レベルに直面する可能性が高い。

救急医療サービス(EMS)に関心を高める欧州メーカー

 22年7月、イギリスのファーンボロー航空ショーで、英国のVertical Aerospace社は、開発中のeVTOL「V4X」を公開するとともに、Babcock Internationalと救急医療サービス (EMS) や貨物輸送面での提携を発表した。

 また、Airbus社は、2022年12月1日に開催したAirbus Summitで、同社が開発するeVTOL「CityAirbus NextGen」の利用例として、救急医療サービス(EMS)重視を示唆した。欧州では、黎明期のeVTOL活用事例としてEMSを重視する動きが広がっている。

係留によるホバリング飛行をするVertcal Aerospace社のV4X
(出典:同社プレスリリース)

 航空ショーでデビューしたVX4は、2022 年 9 月 22 日に英国の民間航空局から飛行許可を受け、9 月 24 日にホバーリング(係留)に成功した。22年11月現在、フルスケールのテストは、約167項目のテストをこなしており、これから低速飛行テストへと準備が進んでいる。

 VX4 はパイロットと乗客4 人で、巡航速度は時速240km、航続距離は160kmの純電動タイプ。主翼ビームに8つのプロペラをつけ、翼後方は固定式、翼前方のプロペラは角度を変える可変タイプとなっている。

2024年オリンピックで商業飛行は可能か?

 2024年パリ・オリンピックにおけるeVTOLの飛行をめざす動きも活発化している。22年11月、ポントワーズ・コルメイユ飛行場にeVTOL専用テストベッド「Re.Invent Air Mobility」がオープンした。旅客運行に必要な業務設備(セキュリティおよび乗客計量システムなど)を備える。

 Groupe ADP社、RATP Group社、Choose Paris Region社が運営する同施設では、Volocopter社がGroupe ADP社やSkyports社と共同して実証実験を進める。

Re.Invent Air Mobilityで実証飛行をするVolocopter社のVolocopter 2X
(写真:同社プレスリリース)

 運行ルートは、Saint Cyr(サン シール)と Issy-le-Moulineax(イシ-ル-ムリナックス)を結ぶ21kmルートと、Austerlitz(オステルリッツ)とle Bourget(ル ブルジェ)間の22kmのルートが検討されている。ルートの中間点には、追加着陸施設を置き、航空安全性を確保する検討も進んでいる。

 現在のところ、オリンピックまでに商業運行に必要な型式証明が取得できそうな機体は、Volocopter社のVoloCity(パイロットと乗客1名)しかなく、乗客1名(含む手荷物)を運ぶこと8になる。とはいえ、1名しか運べない機体で商業運行を本当に実施するかは、予断できない状況だ。

 近年、欧州のVolocopter社、Vertical社、Lilium社などと、米国のJoby社、Archer社、Beta社などが「2025年の商業サービス開始」に向かって激しい開発競争を進めてきた。2023年に入り、型式認証活動から見るとドイツVolocopter社のVoloCity、Joby社のS4-1、Archer社のM001 Midnightがトップに並んでいる。

 ただ、VoloCityは乗客1名しか飛べないことや航続距離が短いことを考えると、商用旅客輸送としては不十分だろう。2025年になると予想されるものの、最初の商用飛行は米国勢のJoby社とArcher社の一騎打ちとなりそうだ。

  • 8 現在のところVoloCityは、高頻度運行を計画しており、バーティポート(折り返し地点)で地上スタッフは1回に9個のバッテリーを交換する。パイロットは到着した乗客をターミナルに案内し、新しい乗客を迎える。