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北米ドローン・コンサルタント 小池良次

商業化ゴールが見えてきた第一世代の空飛ぶクルマ

 韓国Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)傘下のSupernal社が24年1月に開催されたCES2024(Consumer Electronics Show)で、最新のプロトタイプを発表した。一方、開発で先頭を走るJoby Aviation社のJAS4-1 eVTOLプロダクション・モデルは推進系の型式認証を終え、25年のゴールに向かって突き進んでいる。今回は23年後半からの欧米主要各社の動向や規制の動きなどを追ってみたい。

小池 良次(こいけ りょうじ)氏

商業無人飛行機システム/情報通信システムを専門とするリサーチャーおよびコンサルタント。在米約30年、現在サンフランシスコ郊外在住。情報通信ネットワーク産業協会にて米国情報通信に関する研究会を主催。

  • 商業無人飛行機システムのコンサルティング会社Aerial Innovation LLC別ウィンドウで開きます最高経営責任者
  • 国際大学グローコム・シニアーフェロー
  • 情報通信総合研究所上席リサーチャー

Supernal S-A2の詳細を見る

 2024年1月9日、Supernal社(本社Washington, DC)は、Las Vegas市で開催したCES(Consumer Electronics Show)で最新モデル「Supernal S-A2コンセプト・デザイン」を発表した。

 同機は、旅客だけでなく航空貨物にも配慮したデザインで、内装は2人乗り、4人乗り、航空貨物へと簡単に変更できる。旅客モードでは荷物スペースもある。サイズは翼長が15m、機体の長さが10m。

 パイロット1名と乗客4名を基本形とする純電動方式で、平均巡航速度は120mph(時速193km)、航続距離が25~40mile(39~64km)、巡航高度が457m(above ground level)となっている。

CES2024でSupernal S-A2発表風景(写真:筆者撮影)

 機体タイプはJoby社JAS4-1やArcher社Midnightと同じティルト・プロペラによるベクター・スラスト型で、主翼に取り付けられた4本のブームに前方4つ、後方4つのティルト(方向可変型)プロペラを配置している。尾翼はV字でメイン・キャビンは大きなウィンドウで広い視野を確保している。

 同社によれば、離着陸時のホバリングでの騒音が65dBAi以下、巡航時は45dBA以下で、緊急用に射出大型パラシュートを搭載している。ランディング・ギアーは固定式3輪で、Beta Technologies社製Aliaのように滑走路を使った離着陸に対応するかどうかは不明だ。

 S-A2はArcher Aviation社のMidnightと見分けがつかないほどデザインが似通っている。しかし、細部を見ると両社の違いは大きい。

Archer Aviation社のMidnight(写真:同社プレスリリース)

 Archer社Midnightは主翼に6本のブームを配し前後で12プロペラを配置していること。後方のプロペラ群は方向(上向き)が変わらず、離着陸時にのみ利用する。巡航時は前の6プロペラだけが水平方向になって運行する。

 一方、Supernal社S-A2は主翼に4本のブームを配し、前後8プロペラすべてが上下に動く。そのため巡航時も前後8つのプロペラが水平方向を向いて飛行する。より詳しく見ると、S-A2は離着陸時に前方のプロペラ群は上向きに90度、後方のプロペラ群は90度下向きに動かす。つまり、前後のプロペラ群で段差と方向差を作る。

 小型商業ドローンなどでは、乱流低減を狙って前後段差を作る例がある。しかし、同社は乱流対策には触れず、前方プロペラ群が機体を引き上げ(Pull)、後方が機体を押し上げる(Push)ことによる「機体応答性(離着陸時)やエネルギー効率の向上を狙っている」と話している。Supernal社はS-A2を使った実証試験飛行を2024年中に開始する予定だ。

急激に追い上げるSupernal社

 急速に欧米メーカーを追い上げているSupernal社は、大きな注目を浴びている。見方を変えれば、eVTOL開発競争でSkydrive社やHonda Aircraft社などに代表される日本勢がアジアで中国に続く2位の位置にいる。しかし、Supernal社のおかげで韓国が、中国に続く2位の位置に上り詰めそうだ。

 Supernal社の歴史は2020年1月6日iiにHyundai Motor Group(HMG)が米Uber社のeVTOL事業部Uber Elevateとのパートナー契約を発表し、最初のコンセプト・モデル(モックアップ)S-A1を紹介ところから始まる。

 その後、Uber社はUber Elevate事業部をJoby社に売却し、パートナー契約も解消となったが、HMGのUrban Air Mobility事業部は開発を継続した。21年11月、同部門の社名をSupernalに改名している。

 現在、従業員は600名を超え、Washington, DCの本社のほかカリフォルニア州Fremont市に研究センター(バッテリーや各種システムを開発)を、カリフォルニア州Irvine市にエンジニアリング部門(機体組み立て、飛行シミュレーションなど)をおいている。

 この躍進の原動力は、同社CEOを務めるJaiwon Shin氏の活躍があると言われている。Shin氏は長年NASA(米連邦航空宇宙局)で働き、最後はAssociate Administrator for the Aeronautics Research Mission Directorateまで上り詰めている。つまり、NASAにおける次世代航空研究のトップにいた。

Suerna社のJaiwon Shin氏CEO(写真:筆者撮影)

 HMGは彼をSupernal社のトップに抜擢し、Shin氏はNASAを含む広範な人脈と知識、パートナーを駆使してeVTOL開発を進めてきた。Supernal社は本社をWashington, DCにおく米国企業として研究と開発を進めてきたのも、技術が豊かで大きな潜在市場である米国にターゲットをおいているからだろう。この点では、Honda Aviation社も同じ戦略を取っている。

AAMでドミナント・デザインは出現するか

 現在、有翼eVTOL(電動垂直離着陸機)では、リフト・アンド・クルーズ方式とベクター・スラスト方式が主流になっている。ベクター・スラスト方式を選択したメーカー(Archer Aviation社、Wisk社、Vertical Aviation社など)では、主翼の前後にプロペラを配置する方式が多数採用されているiii。多くの会社が採用する特定のデザインをドミナント・デザインと呼ぶ。

 過去、商業固定翼機では、こうしたドミナント・デザインが顕著だった。コストや運用性、安全性(過去の事故率が低い設計技術)、各国の規制環境などを考慮するため、Boeing社やAirbus社を筆頭に似たような機体デザインとなる。

 一方、eVTOLは各社によって多種多様なデザインを採用する傾向が多く、ドミナント・デザインとは程遠い世界と言われてきた。そのため、米FAA(連邦航空局)は、eVTOLを特殊デザイン・カテゴリー(Part21のパワードリフト分類)に仕分けするなど、多種多様なデザインを予想して複雑な耐空証明/型式審査に対応する体制が取られてきた。

 ベクター・スラスト方式で、多くのメーカーが似たような傾向を示したことから、やはりeVTOLでもドミナント・デザインが出現する可能性も否定できない。そうなれば将来状況が変わり、多くのメーカーが、より短期間で耐空証明や型式証明が取得できるメリットを狙ってドミナント・デザインを採用ようになるかもしれない。

ゴールが見えてきた第一世代機体

 耐空証明や型式認証のコンサルティングを手掛けるSMG Consulting社のSergio Cecutta氏(Partner)は2024年を俯瞰して2つの流れがあると指摘する。

 ひとつはトップ・グループ(第一世代機体群)が実証飛行を重ねて型式取得が見えてきたこと。もうひとつは、セカンド・グループ(第二世代機体群)がフル・スケール・モデルによる技術デモンストレーション期へと入り、活動を活発化させていることだ。

 第一世代は、Joby社のJAS4-1、Archer社のMidnight、Volocopter社のVolocity、Beta社のALIA-CX300ivと言った機体で、2025年頃までに型式証明の取得を表明している。

ニューヨーク市でデモ飛行するJoby JAS4-1(出典:同社プレスリリース)

 たとえば、Volocopter社のVolocityvは「24年第4四半期に型式申請を完了し欧米初の商用AAM機体viになる」とCecutta氏は予想している。それを追って、Joby JAS4-1とArcher Midnightが2025年第1四半期頃に型式証明を取得するだろう。

 Joby JAS4-1は長年、無操縦者モードで試験飛行を続けてきたが、23年10月からはパイロットによるテスト飛行を開始し、24年2月に型式証明における推進システムの審査を終了した。既にストラクチャー、メカニカル、エレクトリカル・システムの審査を済ませ、全審査過程の80%以上を終了している。

 同社は事業化への動きも活発化させている。23年9月18日、Joby社はオハイオ州Dayton市に製造工場(140エーカー、約566平方km)を建設すると発表した。既にトヨタ社の協力を得ながらカリフォルニア州Marina Municipal 空港に最初のパイロット工場を置いて製造技術を磨いてきたが、本格生産工場は、近代航空機の父「ライト兄弟ゆかりの地」を選んだ。

 工場はDayton International 空港に隣接し、年間500機の生産を目指し、雇用効果は最大2000名と予想されている。また、24年2月には航空機整備事業免許(Part 145)も取得した。

 そのほかJoby社は23年11月にNew York市で初のデモ飛行をおこなっている。同市は既存ヘリポートの電化プランを発表しており、デルタ航空およびAtlantic Aviation社(大手空港管理事業者)と提携してNew York市での事業展開を準備している。マンハッタンからJFK(John F. Kennedy International Airport)空港まではクルマで1時間だが、空飛ぶクルマを使えば7分で済む。既に、ヘリコプターによる送迎サービスが盛んで、大きな潜在需要がある。

 Joby社を追い上げるArcher社は、23年10月にフル・サイズ・プロトタイプのMidnightがホバリングに成功した後、24年1月には飛行試験プログラムのPhase1を完了し、スピードテストなどのPhase2に入った。

 同社は24年2月初めに、商用実証機体(conforming aircraft)3機の製造開始を発表したほか、航空機整備事業免許(Part 145)も同月に取得した。同社の開発・認証プログラムは、ますます加速している。

 なお同社は最近、Midnightのバッテリー・システム(高電圧バッテリー・パックも含む)をアップグレードしたが、NASAは24年1月にArcher社と「高性能バッテリー・セル技術と安全性」に関する共同研究を開始している。

 同共同研究では、バッテリー・セルの安全性、エネルギー、電力性能の試験に重点を置く。試験は、世界で最先端のX線解析ができる欧州放射光施設(European Synchrotron Radiation Facility:ESRF)を使用し、極端に厳しい使用環境下におけるバッテリー・セルの挙動を解析する。

 第一世代は2025年に型式証明取得を相次いで発表するだろう。ただ、それですぐに商業運航ができるわけではない。その後、空港利用に欠かせないEIS(環境影響評価書)の準備や本工場での製造事業者認可作業などに追われる。とはいえ、すべてが順調に進めば25年中には数社が商業運航に到達しそうだ。

多種多様な第二世代機体群

 第二世代を構成しているのは、Overair社のButterfly、Vertical Aerospace社のVX4、Eve Air Mobility(Embraer社傘下)のEve、Airbus社のCityAirbus、Wisk Aero社のGeneration 6、Supernal社のS-A2などだろうvii。各社は、フル・スケールを飛ばし、投資家からの出資やエアラインからの受注促進を狙っている。

低コストの開発を進める英Vertical社のVX4(出典:同社プレスリリース)

 23年7月からフル・スケール試作1号機でホバリング試験を開始していた英Vertical社のVX4は8月9日、英国のCotswold Airport空港で飛行試験中に墜落した。同社が英国航空事故調査局に提出した報告書によれば、電気推進系の遮断テスト中で「プロペラの接合部の強度不足が根本的な原因viii」だった。同社は試験前に該当部分を再設計していたようで、ある程度トラブルを予見していたと思われる。

 同トラブルのデーターを含め、同社は再設計した試作2号機の製造を進めており、24年7月に開催されるファンボロー国際航空ショー(Farnborough International Airshow)で公開飛行デモを予定している。また、ロンドンのHeathrow空港でのデモフライトも計画している。

 試作2号機は、パートナーのHoneywell Aerospace社、Leonardo社、Hanwha社、GKN社、Molicel社のシステムや技術が組み込まれるix。同社は、2026年末に英国およびEASAの型式証明を取得する予定だ。

 ちなみに、同トラブル後、ニューヨーク証券市場の株価は下落し、上場廃止の危機にあったが、24年1月に同社の設立者Stephen Fitzpatrick氏(CEO)が5,000万ドルの投資を発表して、25年第1四半期までの資金繰りを確保xした。

 Overair社は、23年12月にフル・サイズ・プロトタイプButterfly XPを発表した。今年から開始する初期試験は、推進システム、飛行制御システム、安全機能、運用効率の検証に重点を置く。また、騒音目標55dBAの検証と多様な飛行条件や気象条件における性能評価もおこなう。

Overair社は・サイズ・プロトタイプButterfly XPを発表(出典:同社プレスリリース)

 Butterflyは、オプティマム・スピード・ティルト・ローター(OSTR)とインディビジュアル・ブレード・コントロール(IBC)の技術を搭載したユニークなeVTOL機だ。

 OSTRは、大型プロペラの毎分回転数(RPM)を変化させ、IBCはピッチを変えることで、垂直離着陸、遷移飛行(垂直飛行と水平飛行への変化)、水平巡航の各フェーズで効率を高め、ホバリング時の電力需要を60%削減することをめざす。

 機体デザインは、前翼および尾翼(V字+垂直尾翼)の端に大きなティルト・プロペラを1機ずつ配している(合計4機)。パイロット1名と乗客5名(荷物スペース含む)で、巡航速度は200mph(時速322km)、航続距離100mile(161km)となっている。

 Wisk社(Boeing社傘下)のGeneration 6も今年からフル・スケールの試験飛行に入る。同機体は、地上コントロールセンターから遠隔で監視する無操縦者航空機xiを目指す。同社はこれを監視付の高度な自動操縦(autonomous flight with human oversight)と呼ぶ。映画などに登場する軍事ドローンのように、地上から遠隔でパイロットが操縦するわけではない。

 Generation 6は乗客4名で、翼長約15m、巡航速度は138mph(時速222km)、航続距離90mile(144km)、巡航高度2,500から4,000ft(762m~1,219m)。主翼に6本のブームを配し、ブーム前方はティルト型プロペラ、後方は固定プロペラ(上向き)となっている。

 ちなみに、Wisk社はArcher社と過去2年に渡って知財裁判で争っていたが23年8月に和解した。その合意にはArcher社が将来開発する自律飛行(autonomy)xiiモードのMidnightで、Wisk社が自律飛行技術の独占的プロバイダーになるというものだった。

 Wisk社は自律飛行研究をGeneration 6の機体開発とは別におこなっている。自律飛行に関する運航ルールや認証審査基準などは検討段階にあり、同社はシュミレーションを中心に研究を進めConOps(concept of operation:基本運用概念書)を発展させることと自律飛行をおこなうFCSトレーニングなどに注力している。

Wisk社ConOps2.0(出典:Wisk)

自家用空飛ぶクルマを切り開くMOSAIC

 FAA(米連邦航空局)は23年7月19日、待望のMOSAIC(モザイク)ルール案を公表し、パブリックコメントxiiiを求めた。同規制が成立すれば、「自家用」空飛ぶクルマの開発が促進されるため、米国では大きな波紋を広げている。

 MOSAICとは、LSA(Light Sport Aircraftxiv)分類を対象にした「Modernization of Special Airworthiness Certification(近代化特別耐空証明規則改正)」の略称だ。MOSAICを説明する前に、規制緩和対象のLSAについて触れてみよう。

 米国におけるRecreational pilot certificationxv(レクリエーション・パイロット免許)は、短期間の講習と実地の飛行訓練で取得できるため、スポーツやレクリエーション、飛行訓練などに広く利用されている。また、Private pilot certification(自家用操縦士免許)あるいはそれ以上の免許と健康診断書(3級以上)を所持していれば、夜間でも飛行でき、通勤や旅行も可能だ。こうしたプライベート用途に利用される機体がLSAだ。

(出典:FAA、各種ニュース、Aerial Innovation)

 MOSAICは、LSAの設計や運用に関連する新しいルールを導入し、Recreational pilot certificationで操縦できる航空機の選択肢を広げようとしている。その選択肢として有力と目されているのが「小型電動航空機」、つまり自家用の空飛ぶクルマだ。

 そもそもLSAは失速速度に基づいて重量制限が置かれている。MOSAICでは、失速速度を62mphに高めることで、既存制限(1,320lbs)の2倍以上にあたる重量3,000lbpまでLSAの規制枠内に入れる。こうした規制緩和はLSAの安全性を高めるだけでなく、製造メーカーの開発コストや認証コストを大幅に削減できるため、Jump Aero社など複数のメーカーがMOSAIC市場xviへの参入を狙っている。

 AAM(Advanced Air Mobility:次世代航空交通システム)を「空飛ぶクルマ」と命名した日本では、多くの人が自家用機で通勤ができる印象をもっているだろう。しかし、日本も含め世界の主要国は、商用運航に集中して開発や制度整備を進めている。米国でMOSAICによる規制緩和が行われれば、こうした状況は大きく変わってゆくに違いない。

  • iホバリング時の騒音値では、機体からの距離で大きく変わる。メーカーによって違うが離着陸時の数値は一般的に100mから150m程度離れての測定値が多い。S-A2での距離は未発表。
  • ii2020年1月の発表もLas Vegas市で開催されたCESで発表された。
  • iiiMidnightやS-A2などのように、主翼にのみ直線的にティルト型プロペラを配置する形状(リニアー・シェープ)と違い、Joby社のJAS4-1 eVTOLは主翼と尾翼にティルト型プロペラを配置し、上から見るとプロペラ群が丸く配置する形状(ラウンド・シェープ)が採用されている。
  • ivBeta Technologies社は、最初に垂直離着陸機のALIA-250(eVTOL)を発表した。23年3月、同社は従来型の滑走路を使った離着陸をおこなうALIA-CX300(eCTOL)を発表している。CX300は、同250の垂直離着陸用プロペラを外したデザインで、早期事業化を目指す同社はCX300での型式証明を先に取ろうとしている。
  • vVolocityはほぼ、モーターの審査を残すのみとなっている。
  • vi世界初という点では、2023年冬に中国EHang社のEH216が中国民間航空局(CAAC)から正式な型式証明を取得している。しかし、同EH216は無操縦者航空機で中国の審査基準に準拠していること、最高飛行高度など耐空条件に多くの制限があることなどから「FAA(米連邦航空局)やEASA(欧州航空安全機構)のAAM安全基準には程遠く、娯楽用途の簡易機体」という見解を述べる欧米の専門家がおおい。
  • viiHONDAやSkydrive社、Textron社(Nexus)なども、24年中に実機モデルを発表する可能性がある。
  • viiiこれは、一方のプロペラを意図的に止めたため、過大なアンバランスを他の推進系が補い、パイロンに大きな負荷がかかり、パイロン構造部分のひとつが破損した。同社のエンジニアリング・チームは、高電圧システムとバッテリー・システムを含む独自の技術が、このインシデントでもうまく機能したと報告している。電圧、電流、電力はすべて許容範囲内にとどまり、セルの温度はトラブル中もトラブル後も正常と見なされたと報告書は述べている。
  • ix試作1号機は、パートナーの部品や技術を使わず、Vertical社内で製造したものを主体に組み立てられていた。そのため多くの不具合が予想されたと同社は説明している。
  • x2023年末(未監査)決算によれば、Vertical社は、活発な開発を進めているにも関わらず経営経費を9,500万ドルで賄っている。米国のJoby社やArcher社に比べると、超圧縮経営と言える。この軽量資産、低資本のアプローチは成功すれば注目に値する。
  • xiパイロットが搭乗せずに飛行する航空機を無操縦者航空機と呼ぶ。パイロットが搭乗する場合は有操縦者航空機。なお、小型商業ドローンなど、人が乗ることができない構造の航空機は無人機と呼ぶ。
  • xii自律飛行と自動操縦は違う。Wisk社が標榜するautonomous flightは高度な自動操縦であり、機体に搭載されたFCS(flight control system)が機体を操作して決められた航路を飛ぶ。つまり、Generation 6では、地上から監視しながら、衝突などが起きないように適時経路の変更をおこなうたり不時着の指示をだす。
    一方、自律飛行(autonomy flight)では、FCS自身が管制とデーター通信をおこなったり、機体に搭載したDAA(detect and avoid)機能を使って接近する機体や障害物を認識したりしながら安全な航路を判断して運航する。
  • xiiiMOSAICのパブリック・コメントは2024年1月22日で締め切られた。
  • xivLSAは固定翼機およびジャイロプレーンは含む。ヘリコプターの操縦は含まない。
  • xv米パイロット免許は、大きくStudent pilot certificate(学生パイロット免許)、Recreational pilot certification(レクリエーショナル・パイロット免許)、Private pilot certificate(自家用パイロット免許)、Commercial pilot certificate(事業用パイロット免許)、Airline transport pilot certificate(航空運送事業用パイロット免許)の5つに分かれる。Student pilot certificateは、飛行の初期訓練期間のための免許。Recreational pilot certificationは、特定のカテゴリーやクラスの航空機、搭乗可能な乗客数、出発地点からの飛行距離、管制空港への飛行、その他の制限がある。同免許にはSport pilot certificateや Recreational pilot certificateなどがある。Commercial pilotは、パイロットが報酬や雇用のために運航(General Aviation)を行うことを許可する免許。Airline transport pilot certificateは、航空運送事業(定期運航)で機長として飛行するために必要な免許。
  • xvi現在、eVTOLの認証カテゴリーは、認可が必要ないPart103(超軽量航空機)と商業航空機の厳しい基準であるPart21.17bに2極化している。MOSAICは、これら2つの中間領域(市場)を開拓する。