空飛ぶクルマの開発競争は第2世代に突入
Text:小池 良次
空飛ぶクルマ最新動向ホワイトペーパー
「空飛ぶクルマのエコシステム3」と題し、次世代空モビリティを開拓するAerial Innovation社 小池良次氏に空飛ぶクルマの開発、ビジネスの最新動向をまとめていただきました。ぜひご確認ください。
2024年4月22日、空飛ぶクルマのコンセプト・デザイン(概念設計)がついに1,000件に達した。世界各地から情報を収集しているVFS(垂直離着陸学会)が報告した。世界各地で空飛ぶクルマのブームが続く中、Joby Aviation社やArcher Aviation社は型式証明取得の最終段階に入り、就航への準備に余念がない。また、第1世代の機体開発が終盤に入り、トップ・グループは第2世代開発を目指し、水素燃料電池や無操縦者技術などに注目している。
小池 良次(こいけ りょうじ)氏
商業無人飛行機システム/情報通信システムを専門とするリサーチャーおよびコンサルタント。在米約30年、現在サンフランシスコ郊外在住。情報通信ネットワーク産業協会にて米国情報通信に関する研究会を主催。
- 商業無人飛行機システムのコンサルティング会社Aerial Innovation LLC最高経営責任者
- 国際大学グローコム・シニアーフェロー
- 情報通信総合研究所上席リサーチャー
就航準備へと進むJoby社
VFSが空飛ぶクルマのディレクトリーを開始した2017年当時、リストにはAurora Flight Sciences社(Boring社が買収)や Bell社(現在のTextron eAviation社)、Carter Jaunt Aviation Technologies社(現在のJaunt Air Mobility社)、Detroit Aircraft社(現在のASX社)、EHang社、e-volo社(現在のVolocopter)など約20社ほどが名前を連ねていた。
過去7年間で発表されたコンセプト・デザインや機体が1,000件に達したことは、同分野が一過性のブームではないと言えるだろう。一方で、VFSの空飛ぶクルマに関する1,000件のデータは、その大部分がコンセプト段階で終わったり、開発を断念したりした機体となっている。
それほど空飛ぶクルマの製造は狭き門であり、商業化に至るには、高い技術力と多数の専門人材、数千億円規模の資金が必要だ。
現在、そうした開発競争の頂点にいるのが米Joby Aviation社だろう。24年3月8日、Joby社はJAS4-1の型式証明審査要領(Airworthiness Criteria)で米連邦航空局(FAA)と合意し、官報に掲載(4月8日)された1。
この意味は大きい。審査要領で合意した内容を実際に試験や飛行で証明すれば、FAAは型式証明を発行するという確約にあたる。本格的な商業飛行には型式証明が欠かせないが、同社はそのゴールが見えた。
同社は既に審査要領で定められた製造手法で実証用機体を製造し、それを使って試験飛行を繰り返してゆく。この実証飛行(conforming flight)は一般的に数年2かかると言われているが、Joby社は2025年秋ぐらいの型式証明取得を目指している。
既に、運航事業者免許(Part 135)などの取得を終わっており、投資家向け説明によれば、ニューヨーク市とロサンゼルス市で最初の運航を開始する。
Joby社はデルタ航空からの委託運航を念頭に、それに必要な運航アプリケーション「Elevate Operating Software:ElevateOS」も24年6月に発表した。同OSは「離着陸帯へのアクセスや定期メンテナンスなどを管理するコア・オペレーション・システム」「パイロット・アプリ」「モバイル・ファーストの搭乗者向けアプリ」という3つの主要なアプリケーションで構成されている。
また、定期運航に向けてパイロットの養成も準備しており、パイロット候補がパイロットスクール証明書(Part 141)や、CAE社(カナダの大手航空シミュレーション事業者)が開発するフル・フライトシミュレータ3による訓練飛行時間の認定などを計画4している。
FAAは空飛ぶクルマの運航とパイロット訓練に関する特別連邦航空規則(SFAR)の策定に取り組んでおり、Joby社の訓練プログラムは、このSFARに沿ったものになる。FAAにせよ、Joby社にせよ、できれば2028年のロサンゼルス・オリンピック頃に定期運航を実現したいだろう。
- 1 なお、Archer Aviation社のMidnightも、約1ヶ月遅れでFAAと型式証明審査要領で合意している。米国では多くのメーカーが型式証取得を目指しているが、執筆現在、審査要領で合意しているのはJoby社とArcher社の2社のみ。
- 2 大型航空機の場合、実証飛行に2000回以上を費やし、複数機体で最低1年半から2年程度はかかると言われている。ただ過去、米国ではライト・スポーツのカテゴリーにおいて2年ほどで型式証明を取得した例もある。新しいコンセプトのJAS4-1が、なんの問題もなくすべてクリアすれば、同社の目指す2025年就航は可能かもしれない。一般的には、すべてが順調にゆくとは考えにくい。試験結果により設計変更が繰り返されれば、2年以上の時間が必要になるだろう。
- 3 FAAの規制ルールPart 60(FLIGHT SIMULATION TRAINING DEVICE INITIAL AND CONTINUING QUALIFICATION AND USE)で規定するFFS(Full Flight Simulators)にはLevel AからLevel Cまでがある。Level Cは6自由度すべてのモーションプラットフォームが必要で、AやBよりも遅延が少ない。FFSは基本的に機種別になっているため、パイロットは実際の航空機を操縦することなく、FFS を使用してタイプ・ レーティングを取得できる。
- 4 米Vertical誌によれば、Joby社はパイロット養成のための訓練教材やマニュアル、習熟飛行、など約6週間の訓練コースを準備しているようだ。これは既に商業航空機免許を取得しているパイロットを対象にしている。
無操縦者航空機のXwing社を買収
第1世代(パイロット + 4人乗り電動垂直離着陸機)の開発がほぼ終了段階に入ったJoby社は、既に第2世代の機体開発に乗り出している。そのポイントはRPAS(Remotely Piloted Aircraft System、遠隔操縦航空システム)と水素燃料の導入だ。
24年6月にJoby社は自動飛行制御システムを開発するXwing社を買収した。2016年に創業したXwing社は、小型固定翼機をパイロットを搭乗させず、自動で飛行させる最先端技術を持っており、無人航空貨物輸送の市場を狙っていた。
国土が広い米国では、大手物流業者が僻地向け貨物輸送にセスナ・キャラバンのような小型機を利用するが、コストカットが大きな課題となっている。Xwing社は、RPAS技術を使って、パイロット・コストを押さえる航空貨物運航を実現5した。
やや大雑把だが、RPAS6は映画などによく登場するGeneral Atomics社のMQ-9のような軍事用大型無人航空機システム(UAS)で実用化されてきた。オートパイロット(自動操縦)と遠隔監視、遠隔操縦の3要素を統合して無操縦者航空機の高度な自動運航を実現する。
Xwingは2020年から実験的に自動飛行を開始し、2021年4月にセスナ・キャラバン試験機で初の完全自動飛行によるゲート・ツー・ゲート・ミッション7を達成した。同社は少なくとも250回の完全自動飛行と500回の自動着陸を達成している。
Xwing社は各種センサーや通信システムと「Superpilot」と名付けられた独自開発の自律飛行制御システムを搭載したセスナ208Bキャラバン(N101XW)で、FAAの型式認証を取ろうとしていた8。
Joby社がXwing社を買収した目的は、米国防総省(DoD)向けにRPAS型Joby S4を納入することだ。Joby社とXwing社は、それぞれDoDと開発支援の契約を結んでいる。
Joby社は最近、1億3,100万ドルの米空軍Agility Prime契約に基づき、最大9機のJoby S4を米空軍に納入することになっている。一方、Xwing社も米空軍のAgility Flag 24-1合同演習に参加しており、NASシステムにおける無操縦者航空機の安全な統合9を実証するために飛行した。
ちなみに、Joby社は2021年12月に高性能レーダー技術を持つ独のInras社を買収している。Xwing社のSuperpilotは、機体の測位情報をになうADS-Bデータを補足するために、レーダーや光学カメラなど複数のセンサーを使用する。これらは空中での衝突を回避するDAA機能10に不可欠だ。今回のXwing社の買収は、Inras社と同様、次世代機に欠かせない無操縦者技術を補完するものだ。
- 5 現在、Xwing社は物流大手のUPS社と提携し、僻地向け航空貨物の無人運航を行なっている。Joby社の買収発表資料には「the autonomy division of Xwing Inc.」と記載されている。おそらく、自動運転技術の開発部門だけをJoby社は買収し、Xwing社がUPS社などにサービスを提供している部門は、そのまま残って事業を継続するのだろう。
- 6 2024年4月5日、ICAO(国際民間航空機関)は、Remote Piloted Aircraft(遠隔操縦航空機)を既存国際空域管理に統合するための新基準および推奨勧告(SARPs:standards and recommended practices)を採択した。これはRPAS導入を促す大幅な改定で、国際民間航空条約の附属書19のうち15の附属書におよぶ改定だった。情報管理に関する新しい航空航法業務手順(PANS)の承認も含んでいる。
- 7 ゲート・ツー・ゲート・ミッションとは、駐機場から誘導路を経て滑走路で離着陸するすべてのプロセスを自力で行なったという意味。これには地上の障害物などを避ける能力も含まれている。
- 8 Xwing社は個別プロジェクトに限定した認定書(Project Specific Certification Plan)をFAAから受けているが、より汎用性の高い型式認証を受ける前に買収された。
- 9 Xwing社は、米連邦航空宇宙局(NASA)とRPAS運航に関する共同開発契約を2022年に結んでいる。同契約でXwing社はRPAS運航に関するデータをNASAに提供し、NASAはそれを使って既存の航空管制システム(NAS:National Air Space)に、RPAS航空機を安全に統合するシステムの研究開発を進める。
- 10 RPASでは、飛行中に障害物を識別して回避活動をおこなうDAA(detect and avoid)機能が重要な役割をになう。Inras社の高性能レーダーはDAAの重要な構成要素となる。同DAAではACAS Xrスタンダードが含まれる。ACAS Xrは既存民間航空機に搭載されているACAS(空中衝突回避システム)を進化させたもの。現在、RTCA運営委員会SC-147とEUROCAE作業部会WG-75 SG-2が、回転翼機および空飛ぶクルマ(AAM機体)アプリケーション用のACAS Xrの規格確立に取り組んでいる。EUROCAEによれば、同規格の発行は2025年末を予定している。
注目をあびる水素燃料システム
第1世代の空飛ぶクルマは「新市場を創造する」という使命を担っている。しかし、乗客数が少ない、1回の充電による航続距離が短い、機体価格が高いなど、経済性に大きな課題を抱えている。第2世代では、経済性の確保が重要となる。
第1世代が抱える制約はバッテリーで供給できるエネルギーの限界による。世界中で高性能バッテリーの開発が進んでいるものの航空機に利用できる「安価で安全かつ高性能」なレベルに達するのは数年先といえる。
そこでエンジンやターボ・シャフト11を搭載して電力を補うハイブリッド・モデルが研究されてきた。
たとえば、ホンダが研究している空飛ぶクルマは、小型ターボで電力をまかない航続距離を伸ばす。電動固定翼機のVoltAero社が開発しているCassio 330ではカワサキモーターがハイブリッド用エンジンを提供している。
しかし、ここ数年急速に注目を浴びているのが、より環境に優しい水素を使って発電する水素燃料システム12だ。
2024年7月11日、Joby社は水素燃料システムを搭載したS4試験機で523マイル(約840km)の飛行に成功した。同社は2021年に航空機用水素燃料システムで有名なH2FLY社を買収しており、その技術を使っている13。
現在のJoby S4は航続距離が約100マイル(約160km)だが、これに比べると水素燃料システムがいかに長距離/長時間であるかがよく分かる。単純計算だが、たとえば成田空港と東京駅は約35マイル(56km)なので、1回の燃料補給で10往復程度が可能といえる。
最大のメリットは、上空待機飛行が可能になり、運航に余裕がでることだろう。混雑時、一般商業航空機は、空港の上空で旋回飛行しながら滑走路が空くまで待機している。
一方、第1世代空飛ぶクルマ(純電動)は飛行時間が短く、待機飛行をする余裕がない。そのため出発時点で、到着地の離着陸帯や近辺の緊急着陸エリアを予約する運航ルールが求められている。
こうした厳しい運航では、1機の遅延が全体スケジュールに大きな影響を与えてしまう。上空待機の余裕があればバーティポート運営を含む全体運航において柔軟性が高まり、より安定した顧客サービスを実現できる。
Joby社だけでなく、Alaka’i Technologies社やTextron eAviation社も水素燃料システムに積極的に取り組んでいる。マサチューセッツ州Hopkinton市に本拠を構えるAlaka’i社は過去約3年間、2機のテクノロジー・デモンストレーター(技術実証機)「Skai」を使って飛行実験を繰り返している。
同実証機はボックス状のキャビン上部に6本のアームを展開し、先端に6個のモーター/プロペラを搭載しているマルチ・ローター・タイプ。機体のドアはスライドして開閉する。キャビンには2席2列の座席があり、前方にパイロット用の座席が1つある。最大積載重量は1000ポンド(約450kg)で、最高速度は時速115マイル(時速185km)。飛行時間は最高4時間となっている。
複数の水素燃料電池メーカーと交渉しているようだが、具体的な容量や燃料電池の仕様などは公表していない。
一方、航空機メーカーTextron社の電動機部門 eAviation社は、スロベニアの電動航空機メーカーPipistrel社を2022年4月に買収(買収額2億3,500万ドル)している。Pipistrel社は、水素燃料電池の開発で有名で、買収された後も小型電動固定翼機の分野で研究開発を続けている。
2017年の「mahepa」プロジェクト(水素燃料電池モジュラーの開発)から、2019年の「HEAVEN14」プロジェクト(液体水素燃料タンク開発や試験飛行認可)を経て、現在のHEWBORN(メガ・ワット・クラスの水素推進開発)プロジェクトに至るまで、同社は継続的に水素燃料推進の研究を続けている。eAviation社は現在、第1世代の空飛ぶクルマ「NEXUS」を開発中だが、将来的には小型電動固定翼機で開発した水素燃料システムを統合するだろう。
- 11 ターボ・ジェット・エンジンは燃焼エネルギーをジェット排気で出力するが、ターボ・シャフトは軸の回転として出力する。
- 12 水素は、バッテリーの30~80倍、灯油やガソリンの3倍以上のエネルギー密度(質量あたりのエネルギー)をもつ。また、CO2を排出せず、爆発しにくい点も魅力だ。航続距離と飛行時間を狙う航空機開発者にとって魅力的な燃料といえる。
- 13 今回の実証機は、水素燃料電池を搭載したため十分な乗客用コンパートメントを確保できていない。あくまで技術実証レベルであり、実用化には小型軽量化など多くの課題を解決する必要がある。
- 14 Heavenプロジェクトは、世界初の液体水素固定翼機として有名な機体「HY4」の開発に結びついている。同機体はPipistrel社が製造したTaurus G4電動航空機をベースに、DLR Institute(ドイツ航空宇宙センターの熱力学研究部門)が水素推進などを設計し2016年に初飛行に成功した。DLRのスピンオフであるH2Flyが運営するHY4は、2023年9月に液体水素を動力源とする世界初の有人飛行(3時間以上)を完了した。H2Fly社はその後Joby社に買収され、Pipistrel社はTextron社に買収された。
Archer社もFBO提携を拡大
ここで少し、ほかの空飛ぶクルマ・メーカーの動向も押さえてみよう。Joby社に続いて、型式証明を取得すると予想されるArcher Aviation社も、就航に向かって動いている。
3月のJoby社に続いて、FAA はArcher社のMidnightについて型式証明審査要領(Airworthiness Criteria)で合意し、5月24日の官報に掲載された。両社は実証飛行を開始しているが、Archer社は実証飛行の期間短縮を狙って複数の実証機体を同時に飛ばす15ようだ。
一方、Archer社は24年6月17日、FBO(運航支援事業者16)大手のSignature Aviation社と事業協力の覚書を締結した。これによりArcher社は200以上の民間空港へのアクセスが可能になる一方、Signature社は電動化設備やサービス分野に進出する。
同協定により、Archer社はNew York市、Los Angeles市、San Francisco Bay Area(サンフランシスコ湾岸地域)、Texas州など、米国内主要都市圏の離着陸場アクセスが可能になる。特にArcher社は、主要パートナーであるUnited Airline(UA)社のハブ空港であるNewark空港(EWR)とChicago O‘Hare空港(ORD)での就航を確実にした。
また、San Francisco湾岸地域では、不動産大手のKilroy Realty社と提携した。Kilroy社が南San Franciscoで開発中のKilroy Oyster Point waterfront campusをベイエリアのバーティ・ハブする予定だ。そのほかFBOのAtlantic Aviation社と提携しNapa空港やSan Jose空港へのアクセスも確保している。
その他、航空機製造大手Boeing社の傘下でRPASベースの無操縦者航空機開発を続けるWisk Aero社は24年6月、航空ソフトウェア事業者Verocel社を買収した。Verocel社はマサチューセッツ州Westford市とポーランドのPoznan市に拠点とする50名以上の専門的なソフトウェア・エンジニア会社だが、Wisk社は同社のセーフティー・アプリケーションの認証サポートを活用してRPASにおける型式認証の加速を狙っている。
Beta Technologies社は24年4月、Alia-250のトランジションに成功した。離陸や着陸時に垂直から水平飛行へと移行するトランジションは、空飛ぶクルマの開発において非常に重要なポイントとなる。パイロット操縦でAlia-250がトランジションに成功したことは大きな前進といえる。
また、RAM(Regional Air Mobility)のLilium Jet社は、24年5月に米国 のUrbanLink社と提携した。同社はLilium Jet20機を予約し、フロリダ地域でLiliumベースの地域航空事業を展開する。
- 15 審査当局が耐空証明審査要領(airworthiness criteria)に合意すると、合意内容に準拠した製造ラインで実証機を製造する。その機体を使って試験飛行(conforming flight)を繰り返しながら審査要領の各項目を証明する。証明項目によっては複数の機体に分けて飛行することで証明期間を短縮ができる。一般的に費用面の制限から実証機の製造数は少ない。conforming flightを同時多数機体で行うのは珍しい。
- 16 運航支援事業者(FBO:fixed base operator)空港内や隣接地を拠点にゼネラル・アビエーション(定期航空路線以外の航空サービスを行う事業者)向け機体および運航関連サービスを提供する事業者のこと。給油や機体固定、駐機などの基本サービスから格納庫の提供や保守、乗客ハンドリングまで様々なサービスを提供する。
バーティポートの電力需要について
最後に、バーティポートの電力需要に関するレポートを紹介しよう。
FAA(米連邦航空局)は昨年3月にバーティポートの整備指針「Engineering Brief No. 105, Vertiport Design」発表したが、そこでは基本的な設計基準を示すのみに留まった。米国は当面、全米約1万3,000か所の空港および約6,000ヶ所ヘリポートを活用して、空飛ぶクルマの定期運航を整備してゆく。
そうした観点から既存空港やヘリポートの電動化対応、特にスケールアップ時の電力需要にどのように対応するかが重要な課題になっている。24年3月、FAAはNREL(National Renewable Energy Laboratory:国立再生可能エネルギー研究所)に委託した「Federal Aviation Administration Vertiport Electrical Infrastructure Study」を発表した。
同レポートでは、空飛ぶクルマの潜在的な充電需要が、送電網インフラと運用に「かなりの」影響を与える可能性があると指摘する一方、解決策として、バーティポートにおける「オンサイト発電(マイクログリッド)」と「蓄電ソリューション」を挙げている。
バーティポートには定格300キロワット以上の複数の充電ステーション、急速充電では1基あたり500kW以上必要になるとNRELは予測している。つまり、標準的なバーティポートは、1.5メガワットから2メガワットの電力17を必要となる。
空飛ぶクルマの充電は断続的でかつピークが大きいので、バーティポートが増えれば、電圧降下のような電力品質の問題を引き起こす可能性があり、近隣地域への配電に影響を及ぼすだろう。
そこで充電のピーク時に補助電源としてバッテリー・バンクを利用し、充電需要全体を平準化することが重要となる。また、バーティポートにオンサイト蓄電とオンサイト発電の両方がなければ、電力会社がインフラのアップグレードを求められるだろう。
ちなみに、日本の空港数は97ヶ所(拠点28ヶ所,地方54ヶ所、その他7ヶ所)、公共ヘリポート数は12ヶ所(場外離着陸場は不明)に過ぎない。単純計算すれば、米国の空港密度は日本の約5倍、ヘリポート密度は日本の50~60倍と言える。(筆者概算)
日本でも、空港送迎などが空飛ぶクルマの用途として期待されているが、米国のように空港やヘリポートを活用した空飛ぶクルマの急速な運航拡大は難しい。米国が懸念する電力需要への対応は、当面、日本では求められない18だろう。
- 17 これは米国の一般家庭およそ700〜2,000軒と同じ電力量になる。
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米国は当面、既存のヘリポートや空港施設を活用しながら商業サービスの拡大を進め、街なかに整備する専用ヘリポートは28年以降と考えられる。一方、空港/ヘリポートの密度が低い日本は、既存インフラを使って商業サービスを拡大することは難しく、早い段階から専用離発着場の整備が必要となる。つまり、日本では路線拡大にともないインフラ整備が必要となる。
これは日本の投資規模が欧米より高いことを示す。巨額投資にはリスクがともなうため、日本政府や公共自治体の積極的な支援なしでは、空飛ぶクルマのサービス普及はおぼつかない。
北米ドローン・コンサルタント