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欧米の光と影、淘汰が始まる空飛ぶクルマ

 2024年10月、独のLilium社が会社更生法の申請をおこなった。続く12月、独のVolocopter社も会社更生法の申請をおこない、eVTOL(空飛ぶクルマ)業界では「淘汰の時代」に入ったとの観測が広がった。

 一方、米国のJoby Aviation社とArcher Aviation社の両社は追加資金調達に成功し、型式認証の取得や製造工場建設に向かって加速している。2027年就航が期待される米国では、連邦航空局(FAA)が運航ルールの整備を積極的に進めている。2025年は、欧米のeVTOL業界にとって明暗を分ける年となるのだろうか。

小池 良次(こいけ りょうじ)氏

商業無人飛行機システム/情報通信システムを専門とするリサーチャーおよびコンサルタント。在米約30年、現在サンフランシスコ郊外在住。情報通信ネットワーク産業協会にて米国情報通信に関する研究会を主催。

  • 商業無人飛行機システムのコンサルティング会社Aerial Innovation LLC別ウィンドウで開きます最高経営責任者
  • 国際大学グローコム・シニアーフェロー
  • 情報通信総合研究所上席リサーチャー

破綻を乗り越えLilium Jet開発は継続か

 破綻したLilium NV社はオランダに本社を置くが、開発事業を担う子会社(Lilium GmbHおよびLilium eAircraft GmbH)は独のミュンヘン地域で事業を行っており、同社は事実上ドイツ企業と考えられてきた。同子会社は24年10月28日、ドイツ破産法第270条(a)項に基づき、ドイツWeilheim地裁に会社更生法を申請した。

2024年10月、会社更生法を申請したLilium社のLilium Jet(出典:同社プレスリリース)

 きっかけは、ドイツ・バイエルン州政府による5,000万ユーロ(約80億7,000万円)の資金調達に失敗したことだった。同資金調達には、ドイツ連邦議会の担保・保証が条件となっていたが、同議会予算委員会は融資保証を却下した1。破産申請に伴い24年11月6日、米国NASDAQ市場での取引は停止された。

 同社は、小型ダクトファンを前後の翼に多数配置する独特のデザイン(ベクター・スラスト型の亜種)で、黎明期から注目を浴びてきた。米国では、同推進方式の有効性や同社が提唱した大型機体の開発可能性に対する意見が戦わされてきた。また、ベンチャー企業特有の「マネージメントにおける混乱」も取り沙汰され、トップの交代などが話題となった。とはいえ、試験機体を使ってスペインで実証飛行を進めていたこともあり、RAM(Regional Air Mobility:都市間運航)分野での就航が期待されていた。

 同社の破綻は、関係する多くのeVTOL運航プロジェクトに影響がでている。たとえば、24年3月に発表されたVenice市やFrankfurt市など22都市を結ぶCERN(Central European Regional Network:欧州中央ネットワーク)プロジェクトや、イタリアのUrban V社と提携した路線開発(24年5月)、そのほかフランスの大手空港運営会社ACA(Aéroports de la Côte d’Azur)と提携した南フランス路線(Monaco、Nice、Cannes、Golfe de Saint-Tropez、Aix-en-Provence、Marseilleの各都市を結ぶ)などのプロジェクトが停滞を余儀なくされている。

 アジアでは、Philijets社と提携してフィリピンやカンボジアなどでの展開を予定していたほか、中国では、深セン宝安区との提携やCITIC Offshore Helicopter社と提携(粤港澳大湾区での路線開発)がある。中東では、サウジアラビアの国営航空Saudia社、ドバイのArcosJet社、米国ではフロリダ州を狙ったNetJets社との提携やOrlando市を狙う Tavistock Development Companyなどの事業計画にも影響が出るだろう。

 今後、6名乗りのeVTOL機「Lilium Jet」開発を継続するため、同子会社の再建が焦点となる。幸い、2025年1月時点で、欧米の投資家が設立したMobile Uplift Corporation GmbH社が、Lilium社の子会社資産購入契約2を完了している。Mobile Uplift社は解雇された1000名の従業員の再雇用を開始すると発表している。今後、紆余曲折も予想されるが、Lilium Jetの開発は継続しそうだ。

  • 1 ドイツ連邦議会予算委員会では、Lilium社への担保・保証で意見が対立した。FDP(自由民主党)の予算担当者など一部のメンバーはeVTOL開発はリスクが高すぎるとして反対運動を行った。一方、連邦交通相(FDP)は、Lilium社の技術をドイツ国内に留めるため、連邦保証を支持した。却下の背景には、ドイツ政府の財政状況が厳しく民間資金主導での開発を求める声や政府/自治体融資に関する複雑な承認プロセスが長期化を招き、柔軟な資金調達を阻害していることなどがあるようだ。
  • 2 ドイツの破産法に従い、親会社であるLilium NV社はいかなる資金も受け取ることができない。

Volocopter社、ビジネスモデルの再構築が再建の鍵

 Lilium社につづいて、Volocopter GmbH社が24年12月26日にドイツのKarlsruhe地裁に会社更生法の申請を行った。同社は空飛ぶクルマVoloCityの実用化を目指し、EASA(欧州航空安全機関)で型式証明審査を進めていた。同社はJoby Aviation社と「型式証明をどちらが先に取るか」で業界から注目されていた。同12月13日には「EASA審査の75%が完了した」と発表した矢先、同社は資金枯渇を理由に破綻した。

Volocopter社が開発しているVoloCity (出典:Volocopter社)

 同地裁は、Tobias Wahl 氏3を管財人に任命し暫定破産管財手続きを開始している。24年12月29日のプレスリリースによれば、暫定破産管財人はスタッフ会議を開催し、従業員に現状と今後の手続きについて説明したほか、債権者や投資家との交渉も進めている。2025年2月末までに再建案を策定し、交渉に望む予定だ。

 同社は、2011年10月にマルチコプターVC1で有人飛行を成功させ、黎明期のeVTOL業界で花形をなったが、再建プランではVoloCityの型式証明取得の目処だけでなく、具体的な商業化の道筋を明確にすることが求められるだろう。

 Volocopter社の開発したVoloCityは、18個のプロペラによる分散推進を特徴とする次世代電動ヘリコプターを基本コンセプトにしている。しかし、型式証明を狙う第4世代VoloCity4は、パイロット1名が搭乗し、乗客1名とその荷物を運ぶ仕様で旅客輸送には向かない。

 また、飛行時間が短く、積載能力も低いことから、業務用ヘリコプターを使う送電線検査や物資吊り下げ輸送などにも使えない。趣味として空を楽しむプライベート・プレーン市場を狙うにしては、機体価格が高すぎることやパイロット技能要件がきびしい。そのため型式証明が取れたとしても「VoloCityの具体的な利用シーンが見えない」という課題を抱えている。

 同社は、こうした課題を意識していた。VoloCity開発と並行して、空飛ぶクルマの交通管理を狙う「VoloIQ」や貨物輸送を狙う「VoloDrone」、有翼4名乗りの「VoloRegion5」など、より市場性を意識したサービスや機体開発を検討してきた。しかし、こうした取り組みでは具体的な成果があがらず、逆に資金の枯渇を早めた。

Volocopter社が開発していたVoloRegion(出典:Volocopter社)

 Volocopter社の再建では、市場ニーズに適合する機体あるいはサービス開発とその実現性を提示して、投資家が納得できるかがポイントとなるだろう。

  • 3 Tobias Wahl氏は、ドイツの大手弁護士事務所Anchor Rechtsanwältsgesellschaft mbH のパートナー兼弁護士。
  • 4 将来的にVoloCityは、自動操縦(無操縦者航空機)を目指している。
  • 5 当初、この機体は VoloConnectと呼ばれていたが、2022年10月にVoloRegionに改名された。

英国Vertical社の復活

 欧州eVTOL業界に淘汰の波が押し寄せるなか、英国のVertical Aerospace社や欧州Airbus Helicopters社のCityAirbus NextGenの動向も気になる。

 当初から資金不足に悩んできたVertical社は2024年9月、株価(ニューヨーク証券取引所)が1ドル6を切る状況に追い込まれ破綻の噂も流れた。しかし、24年11月25日にMudrick Capital社との資金調達ラウンドを成功させて当面の危機を乗り越えた。同ラウンドでは5,000万ドルの追加資金調達を確保したほか、約1億3,000万ドルの負債を株式に転換することも含まれている7。同社は、新規投資家から6,000万ドル以上を、Mudrick Capital社からの2,500万ドルを含む総額9,000万ドル8の調達を完了したと1月27日に発表している。

Vertical Aerospace社のVX4プロトタイプ2号機 (出典:Vertical社)

 資金確保に成功した同社は、機体開発も活発化させている。23年8月、試験飛行中に墜落事故9をおこし試験飛行を中断していたが、24年7月には同社のVX4プロトタイプ2号機10が完成し、25年1月8日には英国南部Cotswold空港で有人によるホバリングから水平飛行へのPhase 2試験飛行を成功させた。

Vertical社VX4プロトタイプ試験飛行
Phase1 係留飛行(地面にゆるくワイヤーで係留した状態)でのホバリング試験(完了)
Phase2 スラストボーン飛行。垂直に離着陸し、低速での遷移飛行で制御特性などを確認。
Phase3 ウィングボーン飛行。翼揚力による飛行性能(離陸、飛行、着陸)を確認。高度なスラストボーン飛行での性能確認。
Phase4 スラストボーン・モードとウィングボーン・モード間の安定した遷移飛行性能の確認。

 このPhase2の目的は低速スラストボーン(thrust borne)飛行による機体の安定性やバッテリー効率(VX4のピークは1.4MW)、制御特性や空力、構造的/動的負荷、速度別性能の評価にある。

 今後、VX4プロトタイプ2号機は英国民間航空局(CAA)の飛行許可を延長し、Phase3として飛行場敷地を超えた有翼飛行に移るだろう。Phase3では、ウィングボーン(wing borne)と呼ぶ、翼揚力での離陸、飛行、着陸も実施する。

 また、安全かつ長時間のスラストボーン遷移飛行性能も確認する11。たとえば、低高度で加速するスラストボーンの方が、高々度で速度を下げるスラストボーンより安全性が高い。もちろん、いずれの場合でも安全性を確保できなければならない。

 Phase4では、スラストボーン・モードとウィングボーン・モード間の確実な遷移飛行という実際的な商業飛行モードに挑戦する。

 Vertical社は24年11月13日に発表した「Flightpath2030」計画で、就航時期を2026年から28年に延期した。同計画では28年に型式証明を取得後、2030年末に製造能力を年間200機、中期的には同年間700機を目指している。同社は潤沢な資金を確保したとは言えないが、少なくとも2025年の開発は継続できるだろう。

  • 6 Vertical社は、数か月間株価が1ドルを下回ったため、ニューヨーク証券取引所から警告を受けていた。株式分割や創業者の会社から2,500万ドルの資金投入などを余儀なくされた。
  • 7 Mudrick Capital社からの資金には、2,500万ドルの前払い金と、第3者からの資金不足を補う最大2,500万ドルの追加「バックストップ」が含まれている。また、Vertical社の創業者(Stephen Fitzpatrick)が、追加投資オプション(同じ条件でさらに2,500万ドル)を保持している。
  • 8 同9000万ドルはbefore deducting underwriting discounts and commissions and other offering expensesの数字。
  • 9 その後の調査で、原因はプロペラブレードの接着剤接合部の破損であることが判明した。
  • 10 Vertical社のVX4は、Joby Aviation社のS4と同じように推進システム(プロペラ)の方向を変えながら遷移飛行を行うベクター・スラスト方式を採用している。
  • 11 Vertical社は、VX4プロトタイプの3号機を25年夏に完成させる予定で、Phase3やPhase4で3号機も投入されることになるだろう。

開発を棚上げとするCityAirbus NextGen

 Airbus社傘下のAirbus Helicopters社が開発するCityAirbus NextGenは、24年11月にフルサイズの実証機の試験飛行を開始した。しかし、2025年1月27日、同社はCityAirbus NextGenの開発を2025年末で中断すると発表した12

Airbus Helicopters社が開発棚上げにしたCityAirbus NextGen(出典:Airbus Helicopters社)

 Bruno Even氏(CEO、Airbus Helicopters)は「 バッテリー性能の進歩が、就航に必要な最低レベルを満たしていない」と説明した。現在進めている試験飛行は、年末で終了予定で、その間は機体データの蓄積を進める。

 Airbus社の事業部として潤沢な資金と経験、顧客を持つAirbus Helicopters社はeVTOLの商業化を急いでいない。これはBoeing社傘下のWisk社が2030年の就航をめざして無操縦者航空機を開発している姿勢とよく似ている。

 とはいえ、8年目13にして開発を一時中断するということは異例だ。再開の目処について、Even氏は「新しいプログラムの立ち上げは、ビジネスモデルの成熟度、テクノロジーの成熟度など多くの要因に左右される。(再開は)近い将来ではない」と言葉を濁した。これは事実上の開発中止とも受け取れる。

 CityAirbus NextGenは、翼長40feet(12m)、航続距離50mile(80km)、航行速度時速120kmで、主翼の前後に6つおよび、Vシェープの尾翼に2つのプロペラを実装するマルチ・ローター型のデザインを採用している。ノイズ・レベルは離着陸時70dBA以下、巡航時65dBA以下を目指していた。

操舵翼をなくした独創的なCityAirbus NextGen (出典:Airbus Helicopters社)

 最大の特徴は、固定翼がありながら主翼にも尾翼にも操舵翼(方向蛇、昇降舵、補助翼)がないことだ。プロペラ以外に可動部分がない非常にシンプルなデザインはeVTOLとして異色であり、水平巡航で翼揚力を得ながらも、姿勢制御は小型ドローンなどと同じように各プロペラの差分に依存することになる。このデザインは、複葉機スタイルの小型商業ドローンに散見されるが、航空機としては稀だろう。

 メリットとしては、操舵翼がない単純構造で、機体重量も減らせること。また、プロペラの回転数だけで制御するため操縦システムは単純化できるだろう。しかし、このデザインでは、水平巡航時も操縦のためにプロペラ推力を維持する必要がある。つまり、リフト・アンド・クルーズやベクター・スラスト型有翼eVTOLのように水平巡航時の電力消費を押さえることが出来ず、電力消耗が大きい。

 また、単純に考えれば固定翼的な飛行(操舵翼を使って空力特性を変化させる)が難しく、旋回性能や巡航時の最高速度、航続距離が限定されるだろう。低速・短距離移動を中心とするUAM(都市内航空移動システム)向けとは言え、課題は多い。

 また、同社はドイツ、イタリア、日本、サウジアラビア、エストニアなどでパートナーシップを展開していたが、これらのプロジェクトは停滞に追い込まれる。

  • 12 Airbus Helicopters社は2024年の業績が好調だったことから、開発中断は資金的な話というより、ビジネスモデルや技術的な課題が中心だったと考えられる。
  • 13 Airbusグループは、シリコンバレーの研究施設(ACube)で、2016年から単座完全自律型eVTOLのVahanaの開発に着手している。これを起点とすると開発期間は8年目となる。

就航の期待感が高まる米国市場

 停滞感が広がる欧州勢を横目に、米国勢は活気に満ちている。

 2027年、New York市、Los Angeles市での就航を目指している米国Joby Aviation社は24年10月にトヨタ社から5億ドルの追加出資を受けたほか、普通株式で市場から合計3億ドルを調達しようとしている14

カリフォルニア州Santa Cruzで24年12月に実施されたmajor aerostructure tests風景 (出典:Joby Aviation)

 米国だけでなく、今年はDubai市とAbu Dhabi市でも就航が予定15されているほか、オーストラリアでも型式証明申請(24年8月)を行った。米国防総省向けの納品契約(1億3100万ドル)もあり、複数の製造工場を建設するなど同社の資金需要は拡大している。

 Joby社はDubai市に建設するバーティポートでSkyports社と協力するだけでなく、中東地域でエグゼクティブ向け航空サービスを提供するJetex社とも提携した。Jetex社は、Joby社の独自充電システムGlobal Electric Aviation Charging System(GEACS)16を同地域で普及させてゆく。

 そのほか、24年12月には、Joby社のJoby Aviation Academy(飛行訓練所)がFAAからPart 141認証を受けた。これにより同アカデミーは、Joby S4の運航に必要なパイロット養成(プライベート・パイロット教習、計器飛行証明、事業用パイロット教習、認定飛行インストラクター)を行う。

  • 14 3億ドルの公募とは別に、24年10月に引受会社から2億2200万ドルを調達している。合計すると最大調達額は5億2200万ドルとなる。
  • 15 公式な声明はないが、Joby社は25年か26年にはDubai市で運航を開始すると予想され、米国より先になりそうだ。
  • 16 GEACSは、FAA(連邦航空局)の安全要件(サイバーセキュリティを含む)が求める「バッテリー状況監視充電」「データオフロード」「複数独立バッテリーパックの同充電」を満たす設計。

Archer社とBeta社がJoby社を猛追

 一方、Archer Aviation社も24年8月にPIPE(Private Investment in Public Equity:プライベート・エクイティ投資)により既存投資家(United Airline社、Stellantis社)から2億3,000万ドルの資金調達を行った。同12月にはArcher Defense Programを立ち上げ、4億3,000万ドルの追加資金調達を行ったほか、軍需大手のAnduril社と独占パートナーシップを締結して、防衛用ハイブリットeVTOLの開発を進める。

 Archer社も2027年の就航を目指し、Stellantis社の支援を受けながらジョージア州に大型製造工場を整備している。投資額約6,500万ドルの同工場はCovington Municipal Airportに隣接する敷地で、建屋は完成し、現在ラインでの製造設備を整備している。同社は2030年に年間650機の製造体制を目指している。

Archer社がジョージア州に建設中の大型製造工場 (出典:同社プレスリリース)

 また、日本航空と住友商事の新合弁会社であるソラクル社は、最大100機のArcher Midnightを注文する暫定販売契約を締結したことも話題となった。2024年末、Archer社の受注総額(確定と意向書を含む)60億ドルを超えたようだ。

 このほか、米国勢ではBeta Technologies社が24年10月にAliaの旅客バージョンを発表した。同社は、貨物輸送や医療支援ミッション用に設計された航空機バージョンで、2025年に商業運航を目指している。今回発表したのは、開発中の固定翼機CX300とeVTOL機Alia 250の両モデルに対応したパイロット+乗客5名のバージョン。同社はFAAの型式証明が取れれば2026年にも旅客分野に参入する予定だ。

 CX300及びeVTOL Alia 250は大型機体を特徴とするため機内の手荷物スペースが広く、ほかのeVTOL機に比べるとゆったりとしている。両モデルとも計器飛行システムを装備し、着氷対応も装備している17

Beta Technologies社が開発するeVTOL Alia 250のホバリング風景 (出典:Beta Technologies)

 同社は24年10月末にシリーズCで3億1,800万ドルの資金調達18を完了し、調達総額は10億ドルを超えた。すでにUPS社、Blade Urban Air Mobility社、Bristow社、 Helijet社、LCI社(リース会社)などがBetaによる就航を目指しているほか、24年12月11日にはAir New Zealand社が2026年の貨物運航を目指してCX300を最大23機発注した。

 Beta社もバーモント州に大型製造施設を2023年に開設しており、貨物用機体の製造準備を進めている。同社は2年後に年間300機体制を目指している。

 Beta社は商業化を急ぐため、固定翼のALIA CS300 CTOLで型式証明を先に取得し、その後垂直離発着ができるALIA A250 VTOLの型式を取得する。両者はエアーフレームも翼なども同じ(約75%)デザインとなっている。

  • 17 FAAは24年12月に、Beta社の「H500A Electric Engines」に関するSpecial Conditionで承認した旨を官報に掲載している。
  • 18 同シリーズCの投資家は、Qatar Investment Authority (QIA) 、 Fidelity Management & Research Company、 TPG Rise Climate、United Technologies社など。

FAA、パイロット訓練要件と運航規則を決定

 今年の就航を実現させるため、連邦航空局(FAA)も活発に制度整備を進めてきた。

 2024年8月に、eVTOL離着陸場(バーティポート)の設計ガイドライン Engineering Brief (EB) 105Aを更新した。

Engineering Brief (EB) 105Aの更新概要
Adjustments to Geometry Sizing:現在開発中の各種機体サイズを考慮して、離着陸帯などのサイズを微調整した。
Addition of Aircraft Parking Specifications:EB 105Aにおけるもう一つの重要な更新は、バーティポートにおける駐機場の仕様を標準化したこと。AAMのエコシステムが拡大するにつれ、現在運用されていない様々なeVTOLを収容できる駐機スペースとして、機体間隔、耐荷重、アクセス性に関する詳細な基準を定めた。充電とメンテナンスのための指定区域も義務付けられている。
Creation of Downwash and Outwash Protection Areas:ガイドラインではダウンウォッシュおよびアウトウォッシュ保護区域の概念が導入された。これらの区域は、eVTOLの運用によって発生する高速で有害な気流の影響から人員、設備、構造物を保護することを目的としている。

 FAAは2025年末まで、機体各社と協力してテストを継続し、必要な情報を集めると述べている。

 この改定に、業界は好感を持つ一方、既存ヘリポート基準との整合性を求める声も出始めた。EB105AはeVTOL専用の離着陸場ガイドラインだが、米国では当面、既存ヘリポートを利用することが推奨されている。既存のFAAヘリポート基準(単一ローター、タンデムローター、デュアルローターのすべてのヘリコプター、およびまだ認証されていないレオナルド社のAW609、従来型民間ティルトローター機)とeVTOL用ガイドラインを別々に設けることは、インフラ設計が複雑になるとの意見だ。

 FAAはこれに対し、Vertiport基準がヘリポート基準(Heliport AC 150/5390-2D)のサプリメントに位置づけるとして、両者の整合性を確保すると説明している。

 EB105Aに続いて、FAAは2024年10月22日に空飛ぶクルマ(Powered Lift)パイロット訓練要件と運航規則SFAR19を発表した。携行燃料や訓練基準などの課題が解決され、これにより有翼eVTOL(電動垂直離着陸航空機)が商業運航を開始するために必要なルールが整った。つまり、同規則によりJoby社やArcher社、Beta社などはパイロット養成などの準備に入ることができる。

 SFAR(エスファー)の発効を受け、Joby社は前述のようにPart 141認証のもと、Joby Aviation Academyを開設した。同アカデミーでは固定翼免許を持つパイロットを募り、Joby S4のパイロット養成を開始する。プライベート・パイロット免許の場合、技能訓練は大きく基礎トレーニング(Competency-based Training)、S4機体適応訓練(Joby S4-specific training)に分かれる。

 基礎では練習用の固定翼機(Joby S4ではない)で、Instrument RatingからCommercial Pilot資格、そしてCFI(Certified Flight Instructor)から実地飛行(200時間から500時間以上)を実施する。

 実際にJoby S4のシミュレーション訓練や実機飛行訓練は、後半のみとなる。また、シミュレーション訓練でも、一般商業航空機のトレーニングに使う高価で高機能なレベルを使用することなく、全体の訓練コストを下げる工夫も行っている。

 Ryan Naru氏(Aviation Policy & Regulatory Affairs Lead, Joby Aviation)は、SFARが柔軟な対応も可能で、FAAと協議しながら色々な工夫ができる点を高く評価している。

 なお、今回の規則は有翼eVTOLに限定している。Volocopterなどのマルチコプター型eVTOLをどのように取り扱うのか、特にパイロット技能をどのように認定するのかがわからない。なお、24年7月にFAAはマルチコプター型も有翼eVTOLと同じカテゴリー(Part21.17(b))で取り扱う意向を示している。

 今回は欧州と米国を比較しながら解説した。欧州の空飛ぶクルマ開発は、資金面から軒並み停滞や撤退に直面しており、その状況はすぐには改善しそうにない。一方、米国では空飛ぶクルマ就航を目指して、連邦政府だけでなく、州や市レベルで既存ヘリポートのバーティポート化を開始するなど熱気に包まれている。

  • 19 正式名:Integration of Powered-Lift: Pilot Certification and Operations; Miscellaneous Amendments Related to Rotorcraft and Airplanes - Final Rule。Part 91およびPart165規則のもとでの運航であり、有効期限は10年間で、その後見直しを行う。