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2020年03月30日

織田 浩一 北米トレンド

進展するロジスティクス業界のデジタル変革
~注目される物流業界のスタートアップ企業4社~

 ロジスティクス業界は、デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)が遅れていると考えられてきた。しかし今、数々のスタートアップによって、リアルタイムデータを提供するサービスや、自動運転を利用したトラックの隊列走行システムなどのテクノロジーが登場し、デジタルトランスフォーメーションが進展しつつある。今回は北米におけるロジスティクス業界で、どのようなイノベーションが起こっているのかを解説したい。

遅れをとってきたロジスティクス業界

 2年半ほど前のコラムで、様々な業界におけるテクノロジー進化とその時差、「xTech(クロステック)」について解説した。ボストンコンサルティンググループも、そのコラムと同様に、メディア、小売、金融業界に比べて、運輸・ロジスティクス業界に関わるテクノロジーへのベンチャーキャピタルの投資が少なく、デジタルトランスフォーメーションが進展していないとレポートしている。

 また、運輸・ロジスティクス業界は、資産を有効活用しておらず、古く非効率な手作業によるプロセスが多く、顧客向けのインターフェースが古いため、対応に遅れが生じているとしている。

メディア、小売、金融業界にはベンチャーキャピタルが活発に投資しているが、ロジスティクス業界へは少ないという指摘
出典:Boston Consulting Group
https://www.bcg.com/industries/transportation-travel-tourism/center-digital-transportation/logistics.aspx
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 だが、そのような業界にもデジタルトランスフォーメーションの波は、これからやってくるようだ。米ダラスに本社を持つ調査・コンサルティング会社「Adroit Market Research」がロジスティクス市場でのデジタルトランスフォーメーション投資のトレンドを「Global Digital Transformation in Transportation and Logistics Market Size By Region and Forecast 2018 to 2025」で予測している。

 これによると2018年に549億ドル(約5.75兆円)をかけた業界のデジタルトランスフォーメーション予算は、2025年には1453億ドル(15.22兆円)に、毎年13%の成長率で伸びていくという。ここでいうデジタルトランスフォーメーションは、IoTを活用した貨物トラッキングシステム、自動運転車両、自動運転車トラック隊列走行(プラトゥーニング:先行車両に後続車両が追従する形で、一群となって走行すること)システム、リアルタイムデータトラッキングシステムなどで、業界を大きく変革するテクノロジーであるという。

業界のスタートアップ投資環境

 ではロジスティクス業界でどのようにデジタルテクノロジーへの投資が動いているかを見てみよう。

 下図は、ベンチャーキャピタルのスタートアップ企業向けの投資状況を調査するTracxnの、世界のロジスティクス業界の投資状況をまとめた「Tracxn Sector Report: Logistincs Tech」から抜粋した、2012年から2019年までの投資金額と投資案件数を示した図である(2019年2月までの集計)。

 これによると2012年から2018年までの6年間で、投資金額が年率64%、投資案件数が24%増加していることが分かる。特に投資案件数は2015年まではさらに高い率で成長しており、この3年間にこの分野で多数のスタートアップ企業が生まれていることが推測できる。2015年から2018年の3年間では投資金額が3倍近く上がりながら、投資案件数は5%とわずかではあるが落ちているので、スタートアップ企業が成長し、投資段階が上がってきたため、一社あたりにより大きな金額の投資が必要となったことがうかがえる。

グローバルでのロジスティクステクノロジーへの投資状況を、投資金額と投資案件数の推移によって示している
出典:Tracxn 2019年2月
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 このレポートでは、ロジスティクスのスタートアップ企業の分野を5つに分けて定義している。レストランやスーパーマーケットからの食品・食材配達やオンデマンドB2B宅配サービスなどを含む「ハイパーローカル配達」、トラックのマーケットプレイスやオンライン運送会社、その種のソフトウェアソリューションを含む「貨物輸送」、マーケットプレイス、ロボティクス・オートメーションを含む「倉庫保管」、EC配達サービス、発注フルフィルメント、ラストマイル配達ソリューション(商品が最寄りの配送センターから顧客まで届けられる物流サービスのこと)、再利用などのリバースロジスティクス、出荷API、荷物預りロッカーなどを含む「Eコマース関連サービス」、そして、予約プラットフォーム、ソフトウェアソリューションを含む「転勤・異動ソリューション」となっている。

5つのロジスティクススタートアップ分野
出典:Tracxn 2019年2月
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 Tracxnではロジスティクス分野で6769社のスタートアップをトラッキングしている。それによると、上記で最も多い分野が「貨物輸送」で3171社があり、45億ドル(約4700億円)の投資が行われている。この分野ではかなりの投資を受け、ユニコーンと呼ばれる10億ドル以上の企業価値があるスタートアップも多い。

 例えば、Fourkitesは2013年に設立した、GPSを使った貨物輸送トラッキングシステムを提供しているスタートアップである。すでに2019年2月の5000万ドルのシリーズC投資を含め、総計1億150万ドルの投資を集めて急成長している。スリーエム、コカ・コーラ、ブリヂストン、Diageo、ネスレなどのメーカーとPetsmart、Michael'sなどの小売チェーンをクライアントにしている。

 同社は運送会社に無料で貨物配送データ分析を提供している。その代わり、トラック・海運・航空・鉄道での貨物配送において、400万のGPSまたはELDデバイスからデータをリアルタイムに受け取り、それをメーカーや小売企業にサブスクリプション形式で提供している。

 同社のメーカー顧客は小売チェーンにいつ配送した荷物が届くのか、あるいは何か問題があった場合はサプライチェーンのデータから予測分析で知らせることができる。データ分析からどのようにサプライチェーンを管理したり、集荷や配送に関しての施策をレコメンドしたりする。それも何をすべきかのオプションを用意する処方的(Prescriptive)レコメンデーションで、利用ユーザーが素早く判断できる形で提供している。

Fourkitesの企業サイト
出典:Fourkites
https://www.fourkites.com/

様々なサービスを提供するスタートアップ企業

 Fourkites以外にも様々なスタートアップ企業がこの業界を変革すべく誕生している。3社紹介しよう。

Aquifi

 3D画像認識技術を使い、サプライチェーンの各段階で、商品や梱包のサイズ、内容、形、色を確認したり、3Dスキャンしたりするプラットフォームを提供しているのがAquifiである。 2011年にシリコンバレーで立ち上がった同社は、2017年までに3680万ドルの投資を受けている。ディープラーニングを使い、ベルトコンベアを流れる商品や、倉庫の製品の検品、在庫確認、サイズ測定などをリアルタイムで行うAquifi Fluid Vision Solutionsというサービスを提供している。

同社の3Dセンサーとハンドヘルド3Dスキャナー
出典:Aquifi
https://www.aquifi.com/
Aquifiのサイト
出典:Aquifi
https://www.aquifi.com/

Datch Systems

 ロジスティクス・製造業界向けにAI音声アシスタントを提供しているのがDatch Systemsである。Amazon Alexa、Google Home、Microsoft CortenaなどAI音声アシスタントの普及で消費者向けには音声検索が一般的になってきているが、それをB2B環境に持ち込んだものだ。

      

 2018年に立ち上がった同社は、今までにシード投資で50万ドルを得て、少人数で業界向けのAI音声アシスタントアプリを提供している。

 倉庫や工場など、両手が塞がることが多い環境にモバイルアプリを提供。業界向けに特化した言語ライブラリを用意し、メンテナンス管理や状況監視を監視制御システム(SCADA)と統合してデータを受けることを音声で行える。在庫管理ツールと統合して在庫や納品確認なども可能である。同社によると、Datchの導入で作業を70%早めることが可能であるという。

Datchの企業サイト。倉庫などでAIアシスタントと音声で在庫数などの情報を得られる
出典:Datch
https://www.datch.io/
iOSモバイルアプリ
出典:Datch
https://www.datch.io/
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Peloton Technology

 最後にトラックの完全自動運転に行き着く前の段階として、トラックを隊列で走らせるためのプラトゥーニング・テクノロジーを提供している企業がPeloton Technologyである。2011年設立の同社は、UPSや日本のデンソー、三井物産などから総計7840万ドルの投資を受け、2台のトラックをつなげて走るV2Vコミュニケーションシステムを開発している。

 加速・減速、ブレーキなどを前のトラックから後ろのトラックに連動させるセンサーなどのハードウェア、トラック間をつなげるV2Vワイヤレスリンク、そしてセキュリティシステムを兼ねた同社のクラウドなどを含めたPlatoonProが一つめの製品である。

 下図の同社サイトで見られるように、トラックを2台続けて走らせると、燃料を1台目は4.5%、2台目は10%、合計7.25%削減できるメリットがある。

Peloton Technologyのサイト。2台のトラックを部隊にして走ると、一台目で4.5%、二台目で10%、合計で7%経費が下がるという
出典:Peloton Technology
https://peloton-tech.com/

 さらに同社は2台目を自動運転にするAutofollowというテクノロジーも提供している。下図に見られるように1台目の運転手の運行にしたがって2台目が自動運転でついていくことを可能にするものだ。トラック運転手が不足していて採用が難しく、既存の運転手が高齢化していく今の人材環境に対してのソリューションと謳っている。

同社のAutoFollowの図
出典:Peloton Technology
https://peloton-tech.com/

 xTechのコラムでも見られるように金融、広告、旅行、HRテックなどへ同じ概念のデータやテクノロジーサービスが移っていっているが、その最終的な受け皿がロジスティクス業界であるようだ。新しいテクノロジーの普及が業界を変え、エンジニアや起業家が参入することで、この業界のイメージを変革することにもつながる。業界としては人材獲得のためにもデジタルトランスフォーメーションを推し進めていかなければならない段階にきているのではないだろうか。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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