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2022年02月28日

織田 浩一 北米トレンド

CES2022に見るモビリティの驚くべき進化
~EV、自動運転だけではない移動体の可能性、メタバースへの展開も~

 毎年数々の新しいテクノロジーやそれらを利用した家電・デジタル製品が発表されるデジタル見本市、CES(Consumer Electronic Show)。2022年1月初頭、もはや家電や電子機器の領域を大きく超えた先進イベントとして米ラスベガスで開催されたCES2022では、モビリティ分野での変革にも注目が集まった。コロナ禍以降で初めてリアルで開催された会場に足を運び、何が起こっているのかを取材した。

コロナ禍後で最大規模、2年ぶりのリアル開催に沸く

 CESは2019年、18万人以上の参加者数を記録。2021年はコロナ禍にあって他のイベントと同様にバーチャルのみの実施となったが、今回はリアルとバーチャルのハイブリッド開催で参加者を集めた。Intel、Amazon、Google、Metaなどリアル会場での出展を見送った企業はあったものの、2300以上の企業が展示ブースを並べ、4万5000人がリアルで参加した。コロナ禍後、アメリカ最大規模のカンファレンスとなった。

 今回はモビリティ分野をメインテーマとして注目し、急激に変わりつつある同分野で果たして何が起きているのかを知るために、広い会場内を歩いて回った。

eVTOL(電動垂直離着陸航空機)の展示も数多く見られた。出典:Consumer Technology Association
eVTOL(電動垂直離着陸航空機)の展示も数多く見られた。出典:Consumer Technology Association

対照的な戦略を示した自動車メーカー2社

 CESでは自動車メーカーが多くの新規発表をするのが定番になっている。今回は2つの自動車メーカーが全く違った将来戦略を見せていた。簡単に言えば、B2B向けの短期売上アップを目指す戦略と、モビリティの技術やサービスをより広い領域に展開してそれぞれの変革を目指す戦略の2つである。

 前者の戦略を取るのがGeneral Motors(GM)である。会長兼CEOのMary Barra氏がCES初日のキーノート講演にGMの各部門担当VPと共に登壇し、同社のEV(電気自動車)戦略を中心に語った。

General Motors会長兼CEOのMary Barra氏がバーチャルステージに立った。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
General Motors会長兼CEOのMary Barra氏がバーチャルステージに立った。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 今回のEV分野での発表で主なニュースは、同社Chevroletブランドの人気トラックであるSilveradoのEV版「2024 Silverado EV」の発売だ。すでに予約受付を始めており、2023年の春から納品が開始されるという。Silveradoはもともと建設、土木、農業、不動産などの産業界で根強い人気を誇るパワフルな業務用トラックである。そのEVは1回の充電で400マイル(約644km)、10分の充電で100マイル(約161km)の走行距離を稼ぐ。そのため、業務用EVとして非常に魅力的な商品に仕上がっており、利用企業には二酸化炭素排出量を減らすメリットもある。

Chevolet の人気トラックのEV版「2024 Silverado EV」。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
Chevolet の人気トラックのEV版「2024 Silverado EV」。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 さらに同社傘下のBrightDropが、流通業界の有力企業であるFedexやWalmartにバン、および配送・充電システムを提供し、それぞれの企業の業務効率化と二酸化炭素排出量を抑えることに役立っていると説明した。両社は現在保有する車両に加えて、追加購買することも発表している。

Walmartが配送に利用するBrightdropのバン。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
Walmartが配送に利用するBrightdropのバン。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
BrightDropの配送センターと路上向けの配送システム。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
BrightDropの配送センターと路上向けの配送システム。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 さらにGMは自動運転システムCruiseを搭載した車両を使い、Walmartと共に自動宅配に向けたテストを続けていること報告した。サンフランシスコではロボットタクシーのテストも行っているという。

 この他にも2025年までに30種類のEVを販売すること公表。また、2040年までに同社のアメリカ国内全施設をすべて再生エネルギーで運営し、会社としてカーボンニュートラル(二酸化炭素排出量から除去量を差し引いた値がゼロ)を達成すると発表した。ただ、GMの主なメッセージの多くは、同社の産業・業務向けEVの短期的なB2B販売を促すものに割かれていた。

Cruiseが提供する自動運転車両を使って、WalmartはEコマース購買商品の配送業務のテストを行っている。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
Cruiseが提供する自動運転車両を使って、WalmartはEコマース購買商品の配送業務のテストを行っている。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

ロボットとメタバースによる未来ビジョン

 一方、GMと対照的な戦略を示したのがHyundai(現代自動車)である。同社はロボット企業Boston Dynamicsの買収と、メタバースと組み合わせた同社のモビリティ分野におけるビジョンついて、プレスカンファレンスを開いて説明した。

 同社はBoston Dynamics買収前から自動運転、モビリティサービスを多数の分野に展開するビジョンを示していた。一例として、都市を走り回る移動体だけではなく、オフィス内や家庭内での家具や備品、座席などを移動体と捉え、それらの配置を自動的にアレンジするような応用例を説明した。

Hyundaiの移動体やモビリティに使われる電動車輪の応用例。オフィスや家庭を必要に応じて再構成するビジョンを提示した。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
Hyundaiの移動体やモビリティに使われる電動車輪の応用例。オフィスや家庭を必要に応じて再構成するビジョンを提示した。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 Boston Dynamicsは1992年に設立された自律型ロボットを開発する会社である。犬型ロボットSpotが走り回ったり、人型ロボットAtlasがバク転したりする映像を見たことのある読者の方々もいるだろう。2013年に当時Google傘下の新規事業開発部門Google Xが買収し、その後2017年にはソフトバンクが、そして2020年にHyundaiが買収し、現在に至っている。

Boston Dynamicsの創始者兼会長Marc Raibert氏(左)がHyundaiとのシナジーを説明する。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
Boston Dynamicsの創始者兼会長Marc Raibert氏(左)がHyundaiとのシナジーを説明する。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 すでにBoston Dynamicsのロボットは、工場や発電所といった施設において監視目的などで利用されている。そのロボットをリアル世界における自分のアバターと考え、メタバースの自分のバーチャルアバターと組み合わせて、モビリティの「距離の問題」を解決しようというのが同社のビジョンである。下図では製造業での想定事例が提示されている。左側に「リアルのオフィスにいる自分」、真ん中に「工場などリアルの世界でのリアルアバター(ロボットを意味する)」、そしてそれらのロボットが収集するデータなどからデジタルツイン(実世界の物やプロセスをバーチャル世界で表現したもの)の形でメタバースを構成し、右側の「メタバース内の自分」をつなぎ合わせる。こうして、自分は実際に工場に出向くことなく、メタバース内でデータ収集や分析、プロセスの修正などといった工場業務を行えることになる。

「リアルのオフィスにいる自分」(左)、「工場などリアルの世界でのリアルアバター」(中央)、それに「メタバース内の自分」(右)をつなぎ合わせて、距離の問題をなくして業務を可能にするという「メタモビリティ」のビジョン。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
「リアルのオフィスにいる自分」(左)、「工場などリアルの世界でのリアルアバター」(中央)、それに「メタバース内の自分」(右)をつなぎ合わせて、距離の問題をなくして業務を可能にするという「メタモビリティ」のビジョン。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 このビジョンはリアルの実世界にあるロボットなどのスマートデバイスとメタバースプラットフォームを掛け合わせたもので、同社は「メタモビリティ(Metamobility)」と呼んでいる。

メタモビリティの工場での利用を想定したイメージ画像。工場を訪れなくても、業務が可能になる未来を目指している。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
メタモビリティの工場での利用を想定したイメージ画像。工場を訪れなくても、業務が可能になる未来を目指している。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 同社のプレスカンファレンスでは最後に、犬型ロボットSpotを火星に送り、火星から送られてきた画像・ビデオデータなどでメタバースを構築し、その中で自宅にいる親子が楽しむというビデオでまとめられた。まさにメタモビリティを体現するビジョンを示すものであったと思う。

ロボットを火星に送り、自宅から親子が楽しむというビデオ。筆者がバーチャルプレゼンを撮影
ロボットを火星に送り、自宅から親子が楽しむというビデオ。筆者がバーチャルプレゼンを撮影

 CES2022の会場では、Hyundaiはグループ企業ごとの複数の展示ブースを展開していた。その中で同社のモビリティ事業を推し進める子会社Hyundai Mobisのブースでは、同社の水素燃料電池を利用した自動運転車両の展示が見られた。CES参加者がメタバース「Joytown」に登録することで、CES閉幕後も車両のバーチャル体験が可能になるものだ。

Hyundai Mobisの展示ブースでは、同社の水素燃料電池を利用した自動運転車両とメタバース「Joytown」を見せた。筆者撮影
Hyundai Mobisの展示ブースでは、同社の水素燃料電池を利用した自動運転車両とメタバース「Joytown」を見せた。筆者撮影

アリゾナからフロリダへ延びる自動運転ネットワーク

 自動運転トラックで大きな実績を上げているのが、2015年に設立し、昨年4月に米NASDAQに上場したTuSimpleである。下図のように車両の周り360°や1km先までを検知することができるセンサー群を搭載し、自動運転レベル4の機能を持つ、15トン以上の大型トラックを開発している。レベル4とは限定地域や特定条件下で完全自動運転が可能になるものだ。同社は主にハイウェイを使った運輸業務に特化したサービスを提供し、米郵便局、UPS、DHL、Union Pacificなどの運輸企業と提携している。

LiDAR、ミリ波レーダーなどセンサーを多用し、自動運転レベル4段階のトラックを提供。筆者撮影
LiDAR、ミリ波レーダーなどセンサーを多用し、自動運転レベル4段階のトラックを提供。筆者撮影

 同社は各都市のハイウェイ近くに自社ターミナルを設置して、AIによる分析が困難な市街地のルートは避ける。同社のプラットフォームを用いた運行管理やアラート確認、リモートドライバーによる監視、対応などを活用しながら無人の自動運転を達成している。24時間体制で休日もなく業務ができ、運輸業務コストの40%に当たる運転手の費用を削減できることを売りにしている。

各都市のハイウェイ近く設置されたターミナル間を無人自動運転のトラックが行き来する。同社の説明ビデオより
各都市のハイウェイ近く設置されたターミナル間を無人自動運転のトラックが行き来する。同社の説明ビデオより

 TuSimpleは2021年12月、米アリゾナ州で80マイル(約129km)にわたる初の無人自動運転を達成。CES2022開催の1月上旬までにアリゾナ州フェニックスから東海岸のフロリダ州までの無人自動運転を行い、さらに2月初頭には無人自動運転の航続距離を550マイル(約885km)まで伸ばしたという。同社は輸送業界へ自動運転による運輸サービスを提供し、Autonomous Freight Network(自動運転運輸ネットワーク)と呼ぶサービスを全米で構築することを狙う。

TuSimpleはCES2020開催時までに米アリゾナ州フェニックスから東海岸のフロリダ州までの無人自動運転運輸ネットワークを構築していた。筆者撮影
TuSimpleはCES2020開催時までに米アリゾナ州フェニックスから東海岸のフロリダ州までの無人自動運転運輸ネットワークを構築していた。筆者撮影

空飛ぶタクシーは2024~2025年にも登場

 空飛ぶクルマ、eVTOL(電動垂直離着陸航空機)に関するパネルディスカッションもあった。その中で、米連邦航空局は安全性に関する規制について必要性を考えているものの、実現には非常に前向きであり、eVTOL参画企業も既存の航空機規制に抵触しないように開発を進めているため、関連業界は比較的円滑に動いていくだろうという意見が聞かれた。ただ、空飛ぶタクシーはモビリティの選択肢としてシャトルサービスのように利用されるため、地域の規制に対応する必要があると考えられている。このため、多数の地域や都市の規制にそれぞれ対応しなければならないことへの懸念も示された。しかし、空飛ぶタクシーの営業開始は一般の人々が考えているよりもずっと早くなりそうだ。その時期は2024〜2025年になるだろうと、eVTOLやヘリコプターの技術的スタンダードを設定する団体Vertical Flight Societyの担当者は語っている。

eVTOL(電動垂直離着陸航空機)のパネルディスカッションには6人乗りの空飛ぶタクシーの開発を進めるドイツのLiliumも参加。同社のサイトより
eVTOL(電動垂直離着陸航空機)のパネルディスカッションには6人乗りの空飛ぶタクシーの開発を進めるドイツのLiliumも参加。同社のサイトより

 大手企業やスタートアップの自動車メーカー、eVTOLメーカーなどからモビリティに関するいくつものビジョンが示された。この業界の進展は想像以上に速く、夢だと思われていた無人自動運転やエアタクシーも現実のものになりつつあることがわかった。となると、次はそれらを使ってどのような便利で面白いサービスが展開されるのか、ますます我々の身近なところに視点が移っていくのではないだろうか。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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