UberEatsだけじゃない、激化するオンライン食料品配達
~10分、15分のインスタント配送でも火花を散らす~
Text:織田浩一
私たちが毎日のように購入するものと言えば食料品である。コロナ禍による様々な商品のEコマース利用の増加とともに、北米ではここ数年、食料品Eコマースも広く普及してきた。どのようなサービスモデルがあるのかを俯瞰してみたい。
織田 浩一 氏
米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。
コロナ禍で加速した食料品Eコマース
コロナ禍の最盛期。レストランで食事ができなくなり、スーパーで食料品を買うこともままならない状況が続いた。そこで大きく伸びたのが食料品のEコマースによる販売である。オンライン食品販売プラットフォームを提供するMercatusがアメリカ人6万人に対して調査した結果がある。それによると、BOPIS(Buy Online Pickup In Store:オンラインで購入した商品を店頭で受け取る)や駐車場ピックアップ、宅配を含むオンラインによる食料品購入の利用者比率が、コロナ前には全体の24%だったのに対して、2020年には43%までに伸びた。この購買行動はコロナ禍が落ち着いても続くと予想。その結果、下図のようにアメリカにおける食料品売上全体に対するEコマースのシェアが2019年の3.4%から2020年には10.2%に跳ね上がり、2025年までに21.5%まで上がると見ている(青い折れ線)。紫の折れ線はコロナ禍がなかった場合の伸びを推定したもので、コロナ禍の影響でEコマースのシェアがほぼ倍増したことになる。
大型店舗チェーンや大手スーパーが続々、配送サービス外販も
食料品Eコマース市場の拡大を受けて、大型店舗小売チェーンや大手スーパーも食料品Eコマースを大きく展開している。米食品販売企業のトップであるWalmartでは2014年から試験的に始めていたBOPISを2022年には米全店舗4700中、3700店舗にまで展開した。またAmazonの「Prime」に対抗する「Walmart+」を2022年にローンチしている。Eコマース無料配達、近い店舗からの食料品の無料配送、モバイルアプリによる商品スキャンで支払いができる「Scan&Go」、ガソリンの割引、パラマウント社のストリーミングサービスなどを年間98ドルで利用できる。この施策は同社のEコマースビジネス、特に食料品のオンライン販売の拡大に貢献している。
Walmartに続き、Amazonは傘下の高級スーパーWhole Foods Marketにおいて、オンライン販売の同日配達やBOPISを充実させようとしている。またPrimeメンバーシップのメリットが使える「Amazon Fresh」ブランドでも、宅配やBOPISの形で食料品Eコマースを提供する。食品販売小売業界4位であり、またスーパーマーケットグループで全米トップのKrogerも同様のサービスを展開している。
だが、小さな小売店舗チェーンなどは、Eコマース販売、配達能力の自社開発が難しい。そのため、大手小売チェーンが代行に動いている。食料品販売チェーン6位のTargetは2017年に、フルフィルメントサービス(受注から梱包や発送、代金請求までの一連の業務を提供するサービス)企業Shiptを買収することで、TargetのEコマース配達を1時間で達成することを可能にした。ほかにも、食料品販売も行うドラッグストアCVSや7-Eleven、生協チェーンPCC Community Marketsなどの配達を代行している。
Walmartも同様に「GoLocal」という配達サービスの外販を開始した。DIY小売のThe Home Depotがその最初の利用企業となった。また、店舗内でスタッフがEコマース注文商品をピックアップすることを容易にするモバイルアプリ「Store Assist」を外販しており、まずは同社の元イギリス子会社であるスーパーマーケットチェーンASDAが利用している。
スーパー、コンビニも即日配達サービスを活用
米食品販売企業で第3位のCostcoや中規模スーパーマーケットチェーン、コンビニ、ワイン・アルコール飲料販売チェーンなどを含む800の小売チェーンパートナーを取り込んでいるのが、食料品の即日配達サービスを手がけるInstacartである。オンライン食料品販売などを2012年から展開し、競合が多数ある中で、2021年に960万のユーザー数と売上18億ドル(約2470億円)を誇る。60万の「ショッパー」がユーザーに指定された店舗内で商品をピックアップして、それを宅配するのである。2022年に株式上場を検討していたが、コロナ禍の終わりに差し掛かり、デジタルサービスへのニーズの揺り戻しがあったためか、上場を延期している。
配達スピードと品揃えのトレードオフ
上記の大手小売チェーン、大手スーパーなどは注文から2日または同日、最速で1-2時間後の配達を実現している。配達スピードについては、Instacartもスーパーマーケットからであれば45分から1時間で配達し、さらに顧客のニーズに合わせてスピードアップ競争が加熱しつつある。
ミレニアル世代(1981-1996年生まれ)、Z世代(1997-2012年生まれ)は「デジタルネイティブ」とも呼ばれ、デジタル環境に囲まれて育ち、オンデマンドサービスが当たり前と感じている層である。デジタルビデオを手元ですぐに視聴できるのと同じように、ビールやアイスクリームも欲しいときにすぐに手に入れたいと感じる傾向がある。オンライン食料品販売でも、その感覚に対応するサービスを提供しようというムードが盛り上がるのは必然だろう。その状況を表すのが下図である。
縦軸は「配達スピード」、横軸は「品揃え商品数」を示し、各サービスをマッピングしている。例えば、ロボットで自動化した大型配送センターを持つKrogerは、数万の商品数の組み合わせに対応できるが、配送は翌日になる。
それに対して、注文された商品をスーパーマーケットなどの店舗でピックアップして配達するのであれば、商品数は2-3万種類程度になるが、注文から1-2時間程度で配達できる。上記のInstacartのサービスはここに含まれる。この配達スピード、商品数は、どちらからというと一般家族のための週1、2回の買いものを想定している。
しかし、前述したミレニアル世代、Z世代の多くは独身や子供がいない夫婦である。そのような層にとっては、さらに少ない品揃えで構わない。それよりも仕事から帰宅後、あるいはリモートワーク終了後30分以内、あるいは15分以内に希望の商品を届けて欲しいと考える。そうした彼らのニーズに対応し、毎日使うことを想定したサービスが生まれている。ただし、商品数は一般家族向けの10分の1となる2000〜3000程度にとどまる。
UberEatsなどフードデリバリーも30分以内配達に参入
DoordashやUberEatsも、飲食店の食事を30分から1時間程度で配達する従来のサービスに加えて、コンビニ程度の品揃えの中から食料品を30分程度で届けるサービスを始めている。Doordashの「DashMart」サービスは、地域にマイクロフルフィルメントセンターと呼ばれる2000程度の商品を集めた配送センターを作り、そこから素早く商品をピックアップして配達するサービスである。
UberEatsも全米250のマイクロフルフィルメントセンターを持つパートナー企業GoPuffと協力して、全米100都市で毎日必要とする商品を20-40分で配達するサービスを始めている。
10-15分インスタント配達が新たな戦場に
2021年ごろから見られるようになったのが、大都市において食料品を10〜15分でインスタント宅配するスタートアップ企業群である。スタートアップ企業調査を手掛けるPitchBookによると、2021年に96億ドル(約1.3兆円)の投資が世界36社に対して行われた。 2022年には半分程度の金額に下がったものの急成長した分野であることに変わりはない。
上述のUberEatsのパートナーGoPuffは、アメリカの650都市をカバーし、260万人のユーザーを集め、2021年には10億ドル(約1370億円)の売上を上げたという。同社は通常30分以内に配達するとしている。ただし、下図の同社のサイトで(現地から)確認できるが、ニューヨーク市内なら14分という非常に早い配達も可能にしている。
ヨーロッパを中心に40都市でインスタント配達サービスを展開しているのが、2020年に設立されたGorillasである。2022年にトルコに本社を構える競合のGetirに買収され、両社でこの分野におけるヨーロッパ最大手となった。Gorillasは2021年時点で80万人のユーザーを持ち、売上は8億ドル(約1098億円)であったが、設立から2年間で13億ドル(約1784億円)の投資を集めた上で買収されている。
2022年5月に同社はアメリカ進出を果たし、ニューヨークで事業を始めた。配達対応の様子は下図のようなものだ。マンハッタン周辺の地域を18のセクションに分け、それぞれに商品数2000〜3000程度のマイクロフルフィルメントセンターを設置する。そこから配達することで15分配達を達成している。
競合各社は、15分配達を達成するために配達スタッフを社員として雇い、給与や福利厚生に加えてチップなども提供している。また既存の1〜2時間、30分配送企業に対抗するために商品価格の大幅な割引や友達紹介で30ドルを提供するキャンペーンなどを展開している。顧客獲得に非常にコストのかかるビジネスであり、競合のいくつかは投資停滞期に入って廃業したり、Gorillasのように統合が進んだりしているのが現状である。
もちろん食料品販売には実店舗もある。そこでもデジタル化が進み、チェックアウトフリー(商品を取ってそのまま店舗を出ると自動的に決済される)の店舗の普及が進んでいる。顧客層に対応した品揃え以外の面でもサービスのパーソナル化傾向が鮮明であり、顧客にとって時間、手間、価格などのうち何が重要かによって、商品を届ける方法やサービス、配達スピードなどが多様化しつつある。コロナ禍でオンラインによる食料品購買に慣れた消費者が増え、その市場が拡大し、様々なサービスモデルが実験されている。想定通りに進まないサービスモデルも出てくるだろう。だが、従来のスーパーも巻き込んで新たな形で競合が次々と参入してくる中で、誰もが新たな試みを繰り返さざるを得ない状況はしばらく続いていくはずである。
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