ここから本文です。

2022年06月17日

世界の耳目を集める「東京」へ返り咲くには
~東京クリエイティブサロンに見えた、近未来のイベントやまちづくりのヒント~

 2022年3月15日~3月31日、「東京クリエイティブサロン2022」が開催された。この催しは、都内各所で同時多発的にファッション中心のイベントを行い、“東京のクリエイティビティ”を世界に向けて発信することを狙ったもの。3回目となる今年は、銀座・日本橋・丸の内・渋谷・原宿の5エリアでイベントが開催された。本イベントが目指すものとは何か。そこで得た知見を、今後のイベントやまちづくりにどう生かしていくのか。プロデューサーの齋藤 精一氏に話を聞いた。

世界における東京のプレゼンスが低下している

 「東京を世界有数のファッション都市にする」ことを目指し、2020年に産声を上げた「東京クリエイティブサロン」(以下、TCS)。東京都の支援と経済産業省の後援のもと、表現の力で「東京」のブランドイメージを高めようと、民間企業と地域が連携し、年1回、都内各所でイベントが行われている。

 このイベントが生まれた背景には、世界における東京のプレゼンスの低下という危機感がある。例えば、東京モーターショーはその一例だ。日本経済の低迷とほかのアジア各国の台頭により、近年は出展を見送る海外メーカーが続出している。ファッション業界における東京の存在感も徐々に低下しており、東京ファッション・ウィークも、影響力という点では、ミラノ・パリ・ニューヨーク・ロンドンの世界4大コレクションに遠く及ばないのが実情だ。

 そこで、日本のクリエイティブの発信力を高めるため、2020年にTCSがスタート。3回目となる今年は、2020年ドバイ万博日本館のクリエイティブアドバイザーも務めた齋藤 精一氏をプロデューサーに迎え、さらなる飛躍を目指すこととなった。

 自らも東京の都市開発にかかわり、行政と民間、文化と経済をつなぐ仕事をしてきた齋藤氏。2002年に都市再生特別措置法が成立して以降、民間による都市再開発が加速し、都内各所に似たようなまちが出現する“金太郎飴現象”が進んだことに懸念を抱いていたという。

 「自由競争の結果、自分の敷地内にすべての機能を揃えた“食住遊”近接型のまちづくりが一世を風靡したわけです。それによって、どのまちにも違いがなくなり、金太郎飴のように同じ顔つきをしたまちが量産されてしまった。東京を再び魅力的な都市にするためには、都市開発のやり方を体系化していく必要がある。エンタテインメントや文化を入口にすれば、都市開発やエリアマネジメントを体系化できるのではないか――そんなことを考えていた矢先にいただいたのが、今回のお話でした。そのとき、『ミラノサローネ(毎年ミラノで開かれる世界最大級の家具見本市)のようなことを東京でもやりたい』というお話がありまして。これは一生をかけてつくり上げていくプロジェクトかもしれないと思い、2つ返事でお受けしたのです」

パノラマティクス主宰
齋藤 精一氏

都内5エリアでファッションショーとアートイベントを開催

 今回、「東京クリエイティブサロン2022」に参加したのは、銀座・日本橋・丸の内・渋谷・原宿の5エリア。だがプロジェクトの当初は、各エリアの動きはバラバラで、統一感に欠けていたという。

 「日本橋や丸の内、渋谷のように、デベロッパー主導で取り組んでいるエリアもあれば、地元の連合会や民間企業が主導する銀座や原宿のようなケースもある。エリアによって特性も予算規模も違うので、共通のものをどう入れ込み、1つのイベントとしてどう体系化するかが僕の大きなミッションでした」

 そこで、齋藤氏はイベント自体に統一感を持たせるため、5エリアに共通する取り組みを実施。グラフィックデザインを統一し、箱型のインスタレーション「A_BOX」を全エリアに設置した。また、来場者が各エリア間を気軽に移動できるよう、相互送客を実施。全エリア共通のコンセプトのもと、各エリアが連携しながら独自の表現を競う、イベントの新たな形をつくり上げていった。

 「今回の共通テーマは『リ・クリエイション』。コロナ禍によって従来の方程式が崩れた今、新しい方程式をつくろうという思いを込めて『リ・〇〇』としたのですが、『リ・ファッション』ではなく『リ・クリエイション』にしたのは、単にファッションショーをやるだけのイベントにはしたくなかったから。クリエイションは人間の肌に密着した洋服にはじまり、音楽、まち、と少しずつ距離を広げて、最終的には宇宙に至る。そこまで定義を広げたいという思いもありましたし、今はマクロとミクロを往復しながら、全体最適と個別最適を考える時代。その再定義をもう一度行いたいと考え、『リ・クリエイション』という共通テーマのもと、エリアごとに『リ・○○』というテーマを立てていったのです

 渋谷は「RE: RELATION(リ・リレイション)」、原宿は「RE: MIND(リ・マインド)」、銀座は「RE: LOOK(リ・ルック)」、丸の内は「RE: DESIGN(リ・デザイン)」、日本橋は「RE: VIEW(リ・ビュー)」と、エリアごとに独自のテーマを設定。共通フォーマットである「A_BOX」の内部でも、それぞれに趣向を凝らした展示が行われた。

本イベントの共通フォーマットによるインスタレーション「A_BOX」を各エリアに展開。エリアごとにさまざまな趣向を凝らした展示が行われ、本イベントを象徴するランドマークとなった

 また、各エリアでは独自のコンセプトでファッションショーを開催。一流モデルを起用したハイファッション系のショーあり(渋谷・原宿)、ベビー・子供服ブランドとのコラボ企画や服飾専門学校の学生によるファッションショーあり(丸の内)と、その内容は多彩を極めた。

イベント開催期間中、各エリアでファッションショーが行われた。丸の内エリアのオープニングセレモニーでは、全国の服飾専門学生たちがランウェイに登場。趣向を凝らした作品の数々が披露された

 「今回、各エリアが同じ視点から考える機会を持ち、最後の反省会では皆さんが同じ意識を共有できた。それは、とても大きな収穫だったと感じています。この経験を踏まえて、来年は参加エリアを増やしたいし、モチベーションの度合いに応じて仕分けもしたい。大事なことは、同じ哲学を持って取り組めるかどうか。この経験を、何らかの形で、各エリアのまちづくりに昇華してもらえればと思っています

カオスこそが、絶対的な強みを持たない東京の最大の強み

 世界における「東京」のプレゼンス低下は、ファッションやアート、イベントに限った話ではない。それは、「東京という都市のありようにも深くかかわっている」と齋藤氏は言う。「東京開催の国際イベントが、世界のジャーナリストのカレンダーに入っているかといえば、実態は厳しい。芸術しかりエンタテインメントしかりで、東京は何か1つ、絶対的に強いものを持っているわけではない。むしろ、東京の強みはカオス(混沌)にあります。
 ただ、絶対的な強みを持たない東京は、耳目を集めるための目的地になりにくい。それを何らかの形で解決することが必要だと思いますが、1つの強みをつくる必要があるのか、それとも、全体を何かの言葉や定義で括ることによって強みをつくっていくのか。それは、これから考えていかなければいけない問題です」

 東京の強みがカオスにあるとするなら、その強みをどう活かせば、東京という都市の魅力を高めることができるのか。大事なことは、各エリアが、その土地ならではの独自性や強みを鮮明にすることだ、と齋藤氏は指摘する。

 ケビン・ケリーは2008年に発表したエッセイの中で、「クリエイターとして成功するためには、数百万ドルも、数百万人の顧客、数百万人のファンも必要ない。1000人の真のファンがいればいい」と書いた。今は、大量消費時代のようにマスの心をとらえる必要はなく、ロイヤリティの高いコアなファンを獲得することが成功につながる。

 それは、エリアマネジメントも同様だ。今後は、いかにエリアの解像度を高め、世界に発信できるかがカギを握ると齋藤氏は述べる。

 「そのためには、各エリアが持つハードやソフトの評価を再定義することが必要です。東京全体で1本の大きな旗を立てるというよりは、それぞれのエリアが、独自の小さな旗を個別に立てていくイメージです。今回のイベントに参加した5エリアにしても、日本橋は商人の町、丸の内は金融の町、原宿はファッションの町で、それぞれが本来持っている特性は異なる。各エリアの強みを際立たせ、各エリアが『ここは〇〇の町』という小さな旗を高々と掲げ、東京全体で体系化していく必要があると考えています」

 イベント参加がきっかけとなって、来場者は土地の歴史や文化に触れ、まちの魅力を発見する。その意味で、「文化や表現、エンタテインメントは、まちづくりや都市開発への入口の1つになる。今回のイベントが一過性のお祭りにとどまらず、各エリアや東京の再構築につながるといいなと思っています」。

まちづくりは「床」ではなく「ブランド」で儲ける時代

 そうした考えは齋藤氏だけでなく、徐々に広がりつつある。例えば、大丸有地区(大手町・丸の内・有楽町を合わせたエリア)では、アートによる創造的なまちづくりを目指す「アートアーバニズム」が始動。大手デベロッパーの間でも、「何かしら突出した強みを持たなければ、魅力あるまちづくりにはつながらない」との危機感が高まっているという。

 「あれもこれも揃えようとすると、どれも同じようなまちになる。それを防ぐためには、行政が介入してエリアマネジメントを行い、『このまちをどのようなまちにしていくのか』という方針を打ち出す必要がある。最近は、行政が再開発を主導し、行政と民間が連携してまちづくりを行う手法も定着しつつあります」と、齋藤氏は語る。

 とはいうものの、その実践に向けては課題もある。その1つが、再開発にあたって、土地の歴史や文化とどう向き合うかという問題だ。再開発で古い建物が撤去されれば、土地の記憶は薄められ、デベロッパーがつくったビル群のイメージによって上書きされてしまう。JR原宿駅では、ハーフティンバー様式の木造駅舎が解体され、歴史ある皇室専用ホームや、初詣のときだけ使われる明治神宮側の臨時ホームも姿を消した。そのまちを象徴する存在であった建造物が、再開発によって姿を消し、土地の記憶も失われていく。

 「まちの新陳代謝をどう考えるのかというのは難しい問題です。例えば、築地から市場がなくなって、跡地に碑が建てられた瞬間に、その土地のコンテクストは失われていくわけです。土地の歴史を知ることは、まちづくりには欠かせないポイントだということを、僕らは真摯に学ばなければいけない。その意味では、TCSのようなイベントも、土地のコンテクストを知るよい機会になる。こうした機会に、土地の坪単価や損益分岐点から一旦離れて、『ここはどんな土地柄なのか。どんな人たちが生活しているのか。その中で何をつくっていくべきなのか』を考えていただきたい。まちづくりは『床で儲ける』時代から、『まちのブランドで儲ける』時代に移行しつつあります。今回のイベントが、それを考えるきっかけになればと思います」

 今後はTCSの対象範囲を、ファッションだけでなくクリエイティブ全般に広げていきたい、と齋藤氏。現在は2025年の大阪・関西万博に向け、キーパーソンの1人として全国を飛び回る毎日を送っているという。

 「おそらく25年先には、大都市圏1人勝ちの時代は終わり、もっと分散的な社会に移行するでしょう。さまざまな地域が小さな旗を立てて、『うちはこれが強い』とアピールする。そして、地域が提供できるものを、熱狂的なファンに届けていく。こうした変化を加速させるための装置が“万博”であればよいなと考えています」

齋藤 精一(さいとう せいいち)氏

パノラマティクス(旧 ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰
1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。
03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。
フリーランスとして活動後、06年株式会社ライゾマティクスを設立。
16年から社内の3部門のひとつ「アーキテクチャー部門」を率い、2020年社内組織変更では「パノラマティクス」へと改める。
2018-2022年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。

関連キーワードで検索

さらに読む

この記事の評価


コメント


  • コメントへの返信は差し上げておりません。また、いただいたコメントはプロモーション等で活用させていただく場合がありますので、ご了承ください。
本文ここまで。
ページトップ