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2022年04月27日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

中国のEV(電気自動車)は「市場化」できるか
~補助金終了後の「新エネルギー車」のゆくえ

 EV(電気自動車)を中心とした中国の「新エネルギー車(新能源汽車)」の市場が大きく変わりつつある。

 長く市場の拡大を引っ張ってきた政府の補助金は2022年度を最後に終了になることが決まった。加えて、補助金と並んで中国自動車業界のEV化を強力に促してきた「ダブルクレジット」政策(後述)も、その見直しが議論されている。

 確かに中国のEV関連の裾野は広がり、技術力は高まった。生産台数は圧倒的な世界一になった。しかし、ここまでの成長の背後に政府の強引なまでの後押しがあったことは事実で、これからさらに成長できるかは、これからクルマを買う「普通の人々」が、「便利だ」「お買い得だ」と感じてお金を払うかにかかっている。

 実際、中国のユーザーのEVに対する不満は少なくない。現実のニーズに合っていない部分もある。EVを中核とした中国の新エネルギー車は今後、市場の求める方向に大きく変わっていくだろう。今回は、こんな視点から話をしてみたい。

補助金で「新エネルギー車」の普及を促進

 中国の2021年の自動車販売台数は約2600万台で、世界一。そのうち新エネルギー車は352万台、対前年比69%増えた。同年の自動車販売量に占める割合は13.4%に達し、累計台数は784万台になった。しかし、すでに3億台に達した中国の自動車保有台数からみると、その比率は2.6%にとどまる。

※資料画像。本文の内容とは関係ありません

 中国政府が認定する「新エネルギー車」とは、以下の3種類の車を指す。

  1. ① 電気自動車(EV =Electric Vehicle)。100%電気でモーターを回して走るもの。
  2. ② プラグインハイブリッド車(PHV =Plug-in Hybrid Vehicle)。バッテリー駆動のモーターとガソリンエンジンの両方を搭載し、どちらでも走れる車。中国での一般的な理解は「モーターが主で、補助的なエンジンを積んで走行可能距離を伸ばした車」。そのため「“増程式”電気自動車」とも呼ばれる。
  3. ③ 燃料電池車(FCV =Fuel Cell Vehicle)。 水素と酸素の化学反応で発電した電気エネルギーでモーターを回して走る車。市販車ではまだほとんど存在感はない。

 日本企業のお家芸であるハイブリッド車(HV =Hybrid Vehicle)は、新エネルギー車には含まれていない。この点は後述する。

 これら対象車種の普及を促進するため、中国政府は2010年から補助金を支給している。金額は車種や性能によって異なり、当初は1台あたり60~70万円の例もあったが、普及度の高まりにつれ、現在は15~30万円の水準になっている。補助金は政府から自動車メーカーに支給され、購入者はそのぶん安い価格で購入できる仕組みだ。

EVの技術で世界の主導権を握る

 中国が「新エネルギー車」の普及を、いわば国策として強力に進める背景には、主に3つの理由がある。

 ひとつは表看板としての地球環境問題だ。習近平国家主席が2020年9月、国連総会で「2030年までにCO2排出量をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現する」との決意を表明したことに象徴されるように、これは「21世紀の責任ある超大国」たる中国の国際公約である。

 第2の理由は、エネルギー安全保障上の視点だ。石油資源の多くを輸入に依存する中国はエネルギー資源の輸入を可能な限り減らしたい。そのためよりエネルギー効率の高い車を普及させたい思惑がある。

 第3の理由は、産業的な競争優位の奪取である。中国はすでに世界最大の自動車市場だが、既存のガソリンやディーゼルエンジン車の領域では、技術力の蓄積が違いすぎ、中国の自動車産業は先進国に対抗できない。そこで新エネルギー車の技術開発に集中的に投資し、世界の自動車メーカーを一気に飛び越して「一発逆転」を狙う。そのために「中国市場の大きさ」という魅力を最大限に使う。「ここで商売したいなら、新しい技術開発をしなさいよ」というわけだ。

自動車メーカーに対する巧妙な評価制度

 この戦略を実現する手段は前述の補助金支給に加え、もうひとつある。それは「ダブルクレジット(双積分)」と呼ばれる、自動車メーカーに対する一種の評価制度だ。米国のカリフォルニア州で実施されている「ZEV(Zero Emission Vehicle)規制」をモデルに作られ、2017年に実施された。

 中国国内で自動車を生産するメーカーや外国車を輸入販売する企業に対して、①ガソリン車の燃費向上の到達指標、②新エネルギー車の生産台数指標――という2つのノルマを与え、それをクリアすればプラス、未達だとマイナスのクレジットが課される。トータルのクレジットがマイナスになった企業は、翌年のガソリン車の生産を削減するか、相応の課徴金を支払わなければならない。

 この制度下では、これまでガソリン車を多く生産、販売してきた既存の自動車会社は、クレジットがマイナスになる可能性が高い。それをリカバーする方法は2つある。ひとつはガソリン車を造るのと同時に新エネルギー車も開発し、そこでプラスのクレジットを稼ぐ。もうひとつは新エネルギー車の生産が多い企業からクレジットを購入する方法である。中国にはEVだけを開発、生産している専業メーカーも数多くある。それらの企業はクレジットが貯まるので、そこから買う。価格は需給によって変動する。

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 つまり、この仕組みでは、ガソリン車のメーカーは自分で新エネルギー車を生産するか、さもなければ競争相手にお金を払うしかない。そうやってガソリン車陣営から新エネルギー車を開発する企業に資金が回る仕組みになっている。まさに政府の指導力を象徴する巧妙な政策である。

ナンバーの入札不要の特権も

 加えて大都市では、さらに強力な優遇措置がある。それは登録ナンバーの取得が優遇されることだ。中国の大都市では、渋滞緩和や環境保全などのため、月ごとに取得可能な自動車のナンバーの数を厳格に制限している。

 仕組みは都市によって違うが、上海市の場合、取得は入札制で、例えば2022年3月の登録可能台数1913台に対し、取得希望者は3548人、平均落札価格は13万3741元、日本円で250万円以上である。つまりクルマを新たに所有する場合、購入費用以外に1台250万円のお金がいる。これでもコロナの影響で前月より90万円以上「暴落」した価格である。

 新エネルギー車の場合、この制限が免除され、新エネルギー車専用の「グリーンナンバー」が即座に手に入る。この差は大きい。加えて、このナンバーがあると、都市によって混雑時間帯に設けられている中心区域や都市高速への乗り入れ制限も適用除外になるメリットもある。

クレジットの販売で稼ぐEV企業

 このような強力な政策もあって、中国の新エネルギー車は急速に販売台数を伸ばした。この連載の「中国版軽自動車「宏光mini」テスラをもしのぐ電気自動車とは?」(2020年10月29日)で紹介した、上汽通用五菱が開発した超低価格の小型EV「宏光mini」はその代表格である。2021年、年間42万台を販売する大ヒットとなった。「50万円EV」として日本でも話題になったので、ご記憶の方もあると思う。

中国で人気の小型電気自動車「宏光MINI EV」 (※上汽通用五菱汽車Webサイトより)

 「宏光mini」がこのような低価格で販売できた大きな理由が、上述のダブルクレジット制度にある。1台あたりの利幅は極めて薄いが、この車の生産で同社は多くのクレジットを獲得できる。それをガソリン車メーカーに販売すれば、多額の収入が見込める。クルマを安く造って、クルマ以外で儲けるというビジネスモデルである。

 それは大成功したのだが、2022年に入ると、業界全体の新エネルギー車の生産量が増え、発行されるプラスのクレジットが増加、売り手が急増してクレジットの価格は急落した。そのため同社はクレジット販売収入が激減、クルマは自体は売れても利益は急減という状況になっている。自動車の実需に依拠していない経営の不安定さが露呈した形だ。こうした事態を受けて、ダブルレジット制度そのものが役割を終えたとの議論も出てきている。

 このように、新エネルギー車の普及に政府の促進策は強い影響を及ぼしている。その意味で中国の新エネルギー車は、現時点では完全に市場で実力を認められたとは言い難い。いわば酸素マスクの助けを借りて山に登っているような状態にある。マスクを外しても大丈夫かどうかは、やってみないとわからない。

EVへの不満は「ないものねだり」?

 実際、中国でEVの販売台数は急増しているが、一方で購入者の不満の声は小さくない。EVユーザーが集まるSNSなどからまとめると、問題は以下の3点に集約できる。

  1. ① 充電に時間がかかりすぎる(ガソリンの給油は5分で済むのに……)
  2. ② 走行可能距離が短い(特に暖房の使用や高速走行に弱い)
  3. ③ 資産価値の低下が早い(買い替え時のリセール価格が低い)

 これらの不満は、もっともではあるが、いずれも従来のガソリン車との比較であることに注意が必要だ。ガソリン車とEVは、まったく異なる原理で動くもので、それぞれに独自の長所短所がある。そのことを前提に、用途に応じてそれぞれの良いところを活用するのが合理的なやり方のはずである。

 にもかかわらず、ガソリン車の感覚をそのままEVで置き換えようとすると、そこに「不満」や「問題」が発生する。両方のメリットを同時に享受できるのが理想ではあるが、それは現状では「ないものねだり」ではなかろうか。

EVの最大の強みは低コスト

 もともとEVの強みは、環境面の要素のほかに、車の機構がシンプルで、誰でも造れて、運転も容易、ガソリン車に比べて1㎞あたりの走行コスト(電気代)が格段に低く、メンテナンスも楽で維持費が安いという点にある。

 例えば、あるメディアの試算によると、中国の小型EVの場合、自宅の充電設備を使って夜間に充電した場合、1㎞の走行コストは0.05元、日本円でわずか1円ほどである。小型のガソリン車と比べても10分の1にすぎない(レギュラーガソリン1㍑8元、燃費20㎞/㍑で計算)。

 EVは本来、これらのEV本来の強みを最大限に活用し、庶民や企業の「日常の足」として、誰でも、どこでも、簡単に使える道具の用に供するのが最も特徴が生きる使い方であるはずだ。

 例えば、上述した不満の①「充電に時間がかかりすぎる」点は、確かにその通りではある。しかし、これは「バッテリーとはそういうもの」なのだから、それに合った使い方をするほうが合理的だ。自宅やオフィスなどクルマの使用本拠に充電機器を置き、夜間など空き時間に充電しておいて、バッテリーの走行可能距離内で本拠に戻る――という使い方であれば、充電時間の長さはほとんど問題にはならない。

※資料画像。本文の内容とは関係ありません

 例えば、一家で2台目、3台目のクルマとして朝晩の通勤や日常の買い物に使うようなケースは、EVは非常に適した道具である。また、集配センターを拠点にした宅配便の配達、営業拠点の外回り用の車といった使用法も最適だろう。日本の軽自動車と較べても、生産コストも運行コストもより低い、理想的な移動の道具になる可能性がある。

5年、走行5万㎞で90%減価

 ②の「走行可能距離が短い」という不満も同じである。確かに充電1回の走行距離は長いほうが便利だが、現状、それを実現しようとすれば、バッテリーは大きく、重くなり、値段は高くなる。昨今のニッケル、リチウムなどの資源価格高騰は激しく、今後も長期化の可能性が高い。高性能なバッテリーを低価格で大量に生産するのは難しくなる一方だろう。

 長距離の移動や高速走行、寒冷地での使用はガソリン車の優位性が高いことは明らかだ。EVの高性能化を図るのは当然としても、用途に応じてEVとガソリン車を使い分けるほうがユーザーの満足度は間違いなく高いはずだ。

 不満の③のリセール価格が安い現象は、バッテリーの劣化に対する不安感から、中古車市場でEVの人気が低いことの反映だ。近年、バッテリーの性能向上で、「毎日充電を繰り返しても10年以上は問題ない」などとメーカーは呼びかけているが、現状、中国のリセール市場でEVの評価は非常に低い。

 例えば、5年落ち、走行距離5万㎞、機関、内外装に大きな問題なしのEVで、「保値率」(新車での購入時に比べて、どれだけの価値を保っているか)は10~20%が相場だ。それ以前の年式になると、ほとんど値がつかず、引き取りを断られる例もあるという。一方、「保値率」が高いことで知られる日系メーカーのガソリン車の場合、同じく5年落ち、走行距離5万㎞、で「保値率」は60%を超える。その差は非常に大きい。

 しかし、この点も発想を変えれば、もともと電気自動車は家電製品のようなもので、資産としての価値を期待しない考え方もありうる。安い値段で買って、低いコストで乗り、廃車にするまで使い切る。それがむしろEV本来の特性を活かす道だろう。

「ガソリン車を超えるEV」を生み出す

 現時点の新エネルギー車(事実上はEV)にユーザーの不満が強いことは、政府も承知しているはずだ。そのうえで、あえて強い姿勢で政策を押し進める背景には、冒頭に紹介したように国としての戦略がある。つまり、EVを中心にした新エネルギー車の技術を他国に先駆けて確立し、世界の自動車産業の主導権を握ることである。

 その目的のためには新エネルギー車は、「ガソリン車と役割分担する」ものではなく、「ガソリン車に置き換わる」ものでなければならない。必然的に既存のガソリン車と同等か、それを超える性能が必須になる。EVの広告宣伝は、走行可能距離の長さを競い、消費者もガソリン車と同等の役割を期待してEVを買う。

 昨年10月、国慶節(建国記念日)の連休、帰省や行楽の車で混雑する河南省衡陽のサービスエリアで、EVの充電を待つ車で長蛇の列ができ、ドライバーの大きな不満を呼んだ。充電待ちに4時間、さらに充電そのものに小1時間かかり、運転者1人だとトイレに行くこともできない。ニュースの動画を見ていたら「EVなんか買うんじゃなかった」と怒り出している人もいた。気持ちはわかるが、あえて冷静に言えば、EVとはもともと高速道路向きのクルマではないのである。

「普通の人々」が使いやすいクルマを

 最近、新エネルギー車のなかでも、「ガソリンエンジン付きEV」ともいうべき、プラグインハイブリッド車(PHV)の人気が高まってきている。中国では「“増程式”電気自動車(走行距離を伸ばした電気自動車)」と呼ばれていることは前に触れた。すべての用途にEVで対応するのではなく、目的によって異なるタイプの新エネルギー車を使い分けようという動きのひとつといえる。

 また、これも前述したように、日本企業が得意とするハイブリッド車(HV)は従来、新エネルギー車には含まれていなかったが、2021年1月、中国政府は新たに「低燃費車」という位置付けを別個に設定し、ハイブリッド車に対する優遇政策を導入した。100%電気自動車オンリーでは、やはり市場のニーズに対応するのは難しい。ハイブリッド車に対するこの微妙な姿勢の変化は、市場の現実に対して柔軟な対応を始めたと見えなくもない。

 これから新エネルギー車の性能はますます向上し、より便利になっていくのは間違いない。しかし、バッテリーの進化には時間がかかる。資源的制約もある。EVやPHV、燃料電池車以外にも有望な技術はいくつもある。

 政府の腕力の強さで新エネルギー車の比率を上げることが、必ずしも将来の成長につながるとは限らない。目指すべきは、国民の圧倒的多数を占める「普通の人々」が買いやすく、使いやすいクルマをつくることである。政府の補助金の終了が決まった今、クルマを買うユーザーは何を望んでいるのか、どんなクルマを欲しいと思っているのか、市場の求めるものを改めて考える時期が来ている。

田中 信彦(たなか のぶひこ)氏

ブライトンヒューマン(BRH)パートナー。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師(非常勤)。前リクルート ワークス研究所客員研究員
1983年早稲田大学政治経済学部卒。新聞社を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、ファーストリテイリング中国事業などに参画。上海と東京を拠点に大手企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。近著に「スッキリ中国論 スジの日本、量の中国」(日経BP社)。

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