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2019年08月27日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

日本ルーツのブランド米、中国で大ヒット
~「食の高級化」の波に乗り、成長する農村

 中国に「稲花香(Dao Hua Xiang)」という品種のお米がある。日本で言えばコシヒカリに相当するであろう、いま一番人気のブランド米である。この品種の誕生の地で、現在も主要な産地なのが中国の最北部、黒龍江省の黒土地帯に位置する五常(ごじょう)というところだ。

五常米「稲花香」を栽培する水田。この一体は見渡す限りの広大な水田が広がる

 黒龍江省をはじめとする東北三省(黒龍江省、吉林省、遼寧省)は、近年、急成長する中国でも、時に「負け組」と称されるほど経済的には停滞が目立つ地域だ。国有大企業中心の古い体質がたたって技術革新の波に追いつけず、南部の大都市などへの人口流出が続き、働き手の減少と高齢化に悩まされている。

 その中にあって、農業以外に目ぼしい産業がない五常は、このブランド米の存在をテコに「コメの町」として一躍、その名を知られる存在になった。地元農民と民営企業が協力して高品質なコメの栽培に力を入れ、南方の大都市を中心に販路を開拓、折からのEコマースの成長にも後押しされてコメづくりが基幹産業として成長している。

 実はこの五常のお米と日本には深い縁がある。上述した「稲花香」は、そのルーツをたどれば日本の東北地方や北海道などで栽培されていた稲種の子孫にあたる。これら日本で寒冷地向けに品種改良された稲種が、かつて日本が統治していた朝鮮半島に広がり、そこから移住した農民たちによって中国に持ちこまれた。中国の消費者の嗜好に合うよう、それをさらに改良したのがこの「稲花香」である。

 所得の上昇にともなって、中国で消費されるコメは急速に高品質化、高付加価値化が進んでいる。その中心的な存在が日本から渡った稲種の子孫というのも不思議な巡り合わせである。この夏、念願だったこの「コメの町」五常に行ってきた。ある意味で、成長する中国の農村の代表例ともいえる。今回はその話をしたい。

世界有数の肥沃な黒土平原

 五常の町は黒龍江省の省都・ハルビンから南に約100㎞、車で2時間ほどのところにある。「世界有数の肥沃な黒土地帯」といわれる黒龍江省の大平原の中にあって、車で走るとヨーロッパか北海道のような広大で、なだらかな穀倉地帯が続く。ハルビンの近郊はトウモロコシ畑が目立つが、五常に近づくにしたがって一面の水田が広がる風景に変わる。

 五常の人口は90万人。緯度的には北緯44~45度の位置にあって、日本で言うと稚内と旭川の間ぐらいになる。年間平均気温は摂氏3~4℃だが、夏には期間は短いものの30℃以上の高温になり、雨が多い。例年9月中~下旬には霜が降り、冬には零下30℃以下も日常茶飯事だ。肥沃な土地、年間の気温差が大きく、降水量が多くて水が豊富なことが水田耕作に適しているとされる。

地元の農民と組み、生産・販売を拡大

 五常でコメの栽培と販売を行っている五常市民楽華米米業有限公司の創業者で董事長(会長に相当)、鐘万華さんを訪ねた。設立は1999年。当時、五常で味の良いコメが採れることは一部では知られていたが、全国レベルの知名度はなかった。後述するが、この地で水田耕作をしているのは中国の少数民族、朝鮮族の人たちが多い。多くは日本統治時代の朝鮮半島から中国に移り住んできた人たちの子孫である。

創業者で董事長(会長)の鐘万華さん。右は筆者

 鐘さんの会社は五常域内の「民楽朝鮮族郷(「郷」は「村」の一級上の行政単位)」という地域にある。鐘さん自身は地元出身ではあるが、漢族である。土地の耕作権を有し、水田耕作に長い経験を持つ朝鮮族の農民たちと手を組み、「五常市金膳道優質水稲種植専業合作社」という一種の組合のような組織を結成。農地や人手は主に朝鮮族の人々が提供、新技術の導入やコメの宣伝、販売、物流などは主に鐘さんらが担当するという体制でコメの商売に乗り出した。

鐘さんの会社。農民と一体となってコメを生産する「合作社」の本部もここにある
民楽朝鮮族郷は中国でも有数のコメの産地

 当初は小面積でのスタートだったが、中国全体の食生活が高級化する波に乗り、大消費地である北京や上海の百貨店や高級スーパーなどに積極的な売り込みを図ったことが奏功し、次第に販売量が拡大。現在では約1300ヘクタールの農地で年間9000トンほどのコメを生産、出荷する、地域を代表するコメの生産・販売企業の一つになった。五常全体では約13万ヘクタールの水田で「稲花香」の生産が行われているという。

鐘さんの会社では年間9000トンの「稲花香」を生産、販売する

 平均すると1㎏あたり6~7元程度の価格で農家から買い付け、脱穀、精米、個別包装などのプロセスを経て、同15~16元ほどの価格で出荷する。後述するように高品質米の市場は拡大しているが、全国各地の産地がこぞって参入していることや、低価格米を混入させたニセのブランド米が横行し、価格は伸び悩んでいるのが悩みと鐘さんは話す。

専門家の品評会ではコシヒカリと同等の評価

 現在、五常で生産されているブラント米のほとんどが前述した「稲花香」という品種だ。「稲花香」の正式名称は「五優稲4号」といい、大粒で食味が良いうえに、炊いた際の芳香が特徴で、この点が中国の消費者に広く支持される理由らしい。

8月中旬の田んぼは稲がたわわに実っていた

 2018年10月、黒龍江省のハルビンで「2018中国第1回国際米フェスティバル」というイベントが開かれ、五常を含む中国国内の主なコメ産地に加え、日本や韓国、マレーシア、タイ、インド、アメリカなどから各国のブランド米が出品された。同時に行われた品評会では、世界各国の150を超える品種の中から予選を通過した20品種のコメが会場に集められ、各国のコメ専門家30人が、産地・品種名を伏せた状態で試食を行い、香りや味、冷めた時の食感、外観などの項目について審査を行った。結果、最優秀の金賞を獲得したのは日本の新潟県産のコシヒカリと黒龍江省五常産の「稲花香」の2品種だった。ちなみに銀賞には日本の山形県産の「ひとめぼれ」および同じく黒龍江省産ながら別の産地の「稲花香」などが選ばれている。

 この品評会の審査委員長を務めた新潟薬科大学教授で農学博士の大坪研一氏は「タイやフィリピン等各国によって好みは違うはずだが、審査員全員がしっかりと審査してくれたおかげで、妥当な結果に落ち着いて良かった。コシヒカリは短粒で艶があり、食感が柔らかく、甘味がある。一方の五常米は長粒で香りと光沢があり、コシヒカリと比べると多少粘りが少ないが、一味違った美味しさがある」と感想を語っている(「新潟県大連レポート」新潟県大連経済事務所発行、2018.10.29 第175 号)。

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